【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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閑話十三 此処には誰にもいなかった。

 一面の銀世界に、白い息を吐く。

 何時かと同じような事柄に、笑いを零しながら空を向いた。

 以前、恩師ハイツマン先生に連れられてから、ここに来るのも果たして何度目か……。

 

 今回も同じように、彼に連れられてきた訳だが、最初と同じように無理やり連れてこられたわけではない。

 私自身も興味があるのだ。200年前、ここで何があったのか。

 旗艦ノクス号を見つけてから、既に3年がたった。1年前には、タナトス号も見つかった。

 

 これは幾つかの日記を繋ぎ合わせてできた推論だが、まとめるとこうなる。

 

 始めは謎の体調不良から始まった。これは鉛中毒だろう。残った缶詰の溶接部から鉛が見つかっている。

 その次に、ノクス号が氷によって進めなくなってしまった。この時、船を捨てるまでの判断に半年近くかかっている。その半年のうちに、総指揮官が死亡。それからは、タナトス号の艦長が指揮を執り、ノクスを破棄している。

 

 それからはタナトス号のみでの航海だが、これも数か月のちに氷によって停滞。

 ここからが遠征隊の悲劇であろう。

 日記によると、食料調達などによって夏まで待つが、その年と翌年は100年に一度クラスの寒冷な夏だったらしい。そのためにその場で2年近くの待機したが、結局のところ雪解けはなく、タナトス号も破棄。

 

 ここまでが私達の調査隊が突き止めた事実である。

 他にも、カニバリズムの事実も見られたが、これは語らなくてもよいだろう。胸糞の悪いことである。

 

「先生、これ以上分かりそうですかね?」

 体をぶるりと震わせ、彼に問いかける。

 結局のところ、現状の集まった資料ではここまでが限界なのである。

 これ以上を確かめるためには、別の資料が必要だ。

 

 少し老けたように見える先生は、顔を横に振った。

 これ以上は現実的には不可能なのだろう。

 

「どうにかなりませんか?」

「無理だろう。たとえ日記があっても、今や海の藻屑だ。どうしようもない。何もかもが遅すぎた」

「そう……ですか」

 

 拳を強く握った。ただただ悔しかった。

 私以上に、ハイツマン先生の方が悔しいだろうが、彼以上に悔しそうにする自分がいることにも嫌気が差した。

 

 200年前、ここにいた人々のことを見つけないといけない。

 でなければ悲しすぎるだろう。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 クリスティーナ合衆国、丁度遠征先の下にある国に調査の帰りに立ち寄った。

 そこの骨董屋に訪れた時に、一冊の日記帳が目に映った。

『GMS・タナトス航海日誌』

 

 よく見知った名前に驚愕を隠し切れず、それを手に取る。

 急いでそれを開くと、調査通りの航路を辿った様子が書かれている。

 最初はタナトス号艦長フランツ・クロージャー氏が、最後の一ページは謎の少女シア・アトウッドの署名がされている。

 

 この日誌の最後には達筆な字で、このように書かれていた。

 

「大きな欲望というのは、その時点できっと何かしらの罪を生むのだろう。我々人間というのは知恵と理性をもって人間たり得た。しかし、これらは罪によるもので、これらを失ったとき初めて人は原初の人に近づく。思えば、我々は欲望によって生まれ、そして虚栄心によって火をつけられ、人間性を失った。欲望こそが我らの偉大な先祖であり、そして我々の悪しき敵であった。

 思うに、あそこに人は誰一人としていなかった。あそこには誰もいない。あそこには誰もいなかった。あそこに我々は生きていなかった。我々に夢などない。我々に明日などない。ただ、我々にあったこと、残ったものは雪ばかりだった」

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