一面の銀世界に、白い息を吐く。
何時かと同じような事柄に、笑いを零しながら空を向いた。
以前、恩師ハイツマン先生に連れられてから、ここに来るのも果たして何度目か……。
今回も同じように、彼に連れられてきた訳だが、最初と同じように無理やり連れてこられたわけではない。
私自身も興味があるのだ。200年前、ここで何があったのか。
旗艦ノクス号を見つけてから、既に3年がたった。1年前には、タナトス号も見つかった。
これは幾つかの日記を繋ぎ合わせてできた推論だが、まとめるとこうなる。
始めは謎の体調不良から始まった。これは鉛中毒だろう。残った缶詰の溶接部から鉛が見つかっている。
その次に、ノクス号が氷によって進めなくなってしまった。この時、船を捨てるまでの判断に半年近くかかっている。その半年のうちに、総指揮官が死亡。それからは、タナトス号の艦長が指揮を執り、ノクスを破棄している。
それからはタナトス号のみでの航海だが、これも数か月のちに氷によって停滞。
ここからが遠征隊の悲劇であろう。
日記によると、食料調達などによって夏まで待つが、その年と翌年は100年に一度クラスの寒冷な夏だったらしい。そのためにその場で2年近くの待機したが、結局のところ雪解けはなく、タナトス号も破棄。
ここまでが私達の調査隊が突き止めた事実である。
他にも、カニバリズムの事実も見られたが、これは語らなくてもよいだろう。胸糞の悪いことである。
「先生、これ以上分かりそうですかね?」
体をぶるりと震わせ、彼に問いかける。
結局のところ、現状の集まった資料ではここまでが限界なのである。
これ以上を確かめるためには、別の資料が必要だ。
少し老けたように見える先生は、顔を横に振った。
これ以上は現実的には不可能なのだろう。
「どうにかなりませんか?」
「無理だろう。たとえ日記があっても、今や海の藻屑だ。どうしようもない。何もかもが遅すぎた」
「そう……ですか」
拳を強く握った。ただただ悔しかった。
私以上に、ハイツマン先生の方が悔しいだろうが、彼以上に悔しそうにする自分がいることにも嫌気が差した。
200年前、ここにいた人々のことを見つけないといけない。
でなければ悲しすぎるだろう。
──────
クリスティーナ合衆国、丁度遠征先の下にある国に調査の帰りに立ち寄った。
そこの骨董屋に訪れた時に、一冊の日記帳が目に映った。
『GMS・タナトス航海日誌』
よく見知った名前に驚愕を隠し切れず、それを手に取る。
急いでそれを開くと、調査通りの航路を辿った様子が書かれている。
最初はタナトス号艦長フランツ・クロージャー氏が、最後の一ページは謎の少女シア・アトウッドの署名がされている。
この日誌の最後には達筆な字で、このように書かれていた。
「大きな欲望というのは、その時点できっと何かしらの罪を生むのだろう。我々人間というのは知恵と理性をもって人間たり得た。しかし、これらは罪によるもので、これらを失ったとき初めて人は原初の人に近づく。思えば、我々は欲望によって生まれ、そして虚栄心によって火をつけられ、人間性を失った。欲望こそが我らの偉大な先祖であり、そして我々の悪しき敵であった。
思うに、あそこに人は誰一人としていなかった。あそこには誰もいない。あそこには誰もいなかった。あそこに我々は生きていなかった。我々に夢などない。我々に明日などない。ただ、我々にあったこと、残ったものは雪ばかりだった」