【完結】跡に残るは雪ばかり。   作:朝日橋立

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第九話 不幸の醜い共謀者があります。

 昨夜鉄道に乗り、一夜を明かした私は、呆然と外の景色を見つめました。

 懐郷という気持ちがあったのかも知れません。けれども、それ以上の喪失感を感じていました。

 それが名に由来のものかは、今となっては分かりません。

 たった数日の内に、帝都に愛着が湧いたのでしょうか? それとも、多幸感が薄れたのでしょうか? 全能感を失ったのでしょうか?

 考察をするに、きっと私は幸福の対価を払う準備をしていたのです。

 

 幸福というのは、その先にある物、それの善意の共謀者なのです。

 有限のものをさも無限のように、限りなく一時につぎ込む。であるのならば、その先のある物は果たして何だと言えるでしょうか?

 

 ……さて、そのように思い悩みながら窓を見つめていると、正面から声が掛かります。

「シア君、どうだい新聞でも読むかい?」

 ゆっくりと声の方に向き直り、そこにチャールズ男爵を認め、彼に言います。

「うん」

 

 その喪失感の正体、それを当時の私は暇だと考えたのでしょう。

 なのだから、気を紛らわせようとしているのです。

 

「ありがとう」と、彼から新聞を受取り、その中身を見つめます。

 細かな字に少し酔ったような気分になりながらも、一際大きな見出しを読みます。

 ギャング未だに行方が知れず、と題されています。

 

 おお恐ろしい、とその見出しに思いながらも頑張って読みます。

 多々知らぬ言葉、分からぬ言葉がありましたが何とか意味を理解することが出来ました。

 どうやら私達が向かうミンチェスターで活動していたギャングを、掃討していたらしいのですが、一部が逃亡をしたのが、大体二ヶ月ほど前。

 そして、未だに発見報告も少なく大変危険だそうです。

 

 少しお父様達が心配になりました。

 もしギャングが、故郷の地に潜んでいるのなら、森近くで孤立をしているアトウッド家は恐ろしい事態になるかも知れない、と。

 しかし、私はそう考える内に、あり得ない可能性だと切り捨てました。

 あの田舎町に、そんな都会の人達が訪れるはずがない、と思ったのでした。

 

 ですが、多少不安もあったのでチャールズ男爵に話しかけます。

「ねえ、このギャングの人達は、どうして捕まえることが出来ないの?」

 彼は悩む素振りを見せ、言います。

「詳しくは知らないが、相手が尻尾を見せないんだろう。流石にどれほど優秀な人材でも、この広い国土の内からたった数人を見つけることは、骨が折れるんだろう」

 

「へえ」だのと、私は相槌を打ちながらも安堵をしたのを覚えています。

 この広い国から、ギャングを見つけることは難しいと言うのなら、それは逆説的にアトウッド家が見つかることも殆どありえない、ということに繋がると思われたのです。

 

 私はその不確かな安心に任せ、そのままの思考で再度窓の外を眺めたのを覚えています。

 そこでは凄まじい速度で景色は流れ、混ざり合っているように見えました。

 

 

 

 

 

 さて、それからの鉄道での生活は、特に行きと変わらないものでした。

 多少会話は減ってしまいましたが、起きて食べて寝る、その大まかな要素に変わりはありません。

 しかし、その生活も既に終わり、昨夜をミンチェスターで明かした私は、その身を故郷への馬車に預けていました。

 

 私は心地の悪い揺れを感じながらも、短いようで長い旅を思い出していました。そしてその内から、幾つかの面白い記憶を探します。

 初めて見た帝都ランダインの夜景、溢れるほどの人波、甍を競う建物、そしてチェスの話、思い出せば沢山の良いことがあったように思います。

 しかし、その分多々悪い側面も発見しました。

 

 話すべきことの取捨選択をしていると、前方より声が掛けられました。

「シア君、それで君はどうしたい?」

 それはいつにも増して真剣なチャールズ男爵のものです。

「どういうこと?」と、質問の意図が理解できず、反問をします。

 

 彼は少し微笑みを携えたあと、再度その顔を戻して言います。

「君はランダインに、君の使命を果たしに行きたい、と思ったかい?」と。

 

 さて、その問いを受けて、私はやっとこの旅の主目的を思い出します。

 嗚呼そうだった、私の目的は自身の運命を決めるものであった、と。

 しかし、そうは分かったとしても、判断は付けがたい物があります。この小旅行の結果として、チャールズ男爵の善性には気づけました。彼はきっと私を騙すことはないのでしょう。

 けれども、あの枯れた都、恐ろしい程の先鋭的都市に住むと考えると、多少嫌気が差します。そして、私の人生を縛る使命という存在にも。

 

 私が思い悩んでいるのにも気付いたのか、はたまた補足をしたかったのか彼は言います。

「もし断りたい、やりたくないというのなら、そう言っても構わない。私がどうにしかしよう」

 

 その心強い言葉にありがたく思いつつ、私はその選択を決めました。

 私が言えることとして、私はきっとこの選択を後悔はしていません。後悔をすることはありましたが、結局結末は同じだったのです。それならば、後悔をしても仕方のなかったことでしょう。

 それに、結末とこの選択には何の因果も存在しないのです。それは絶対の結果なのですから。

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