誤字修正まじ感謝です! 多くてすみません!
朝と言うには遅く、昼というには少し早いくらいの時間。
オラリオの真上までは太陽が登っていない中途半端な時間。
朝早くに出ていた冒険者達が一仕事を終えて戻ってきており、これから動く冒険者はバベルへと向かう。そんな頃合いに台車を押した一団が豊穣の女主人の前に到着した。
「ソーマ・ファミリアです! 納品と空き瓶回収に来ました〜」
「あ! リリにゃ!」
「リリルカだにゃ!」
「お久しぶりです。アーニャ様、クロエ様」
「監督! 俺たち作業しとくので終わったら呼びますね!」
団員達が慣れた手つきで台車に乗っていたカゴを店内へと運び、空の瓶が大量に入ったカゴを台車に乗せていく。
「どうですか? 昨日も繁盛してましたか?」
「もちろんにゃ! 昨日も忙しかったし、一昨日はロキ・ファミリアが打ち上げできてたからにゃ」
「そういえばダンジョンで会った時に言ってましたね」
「にしてもリリが来るなんて久しぶりにゃ」
「部屋にこもっていてもしんどいだけですから。一昨日はダンジョンに行きましたし、今日は外回りです」
そっちも大変なんだな。なんて会話に混ざってきたルノア達と世間話をしていた頃、見覚えのある白い髪の少年が、浮かない顔でトボトボとやって来た。
店舗の入り口までやって来た彼は、数度深呼吸をしてから覚悟を決めた赤色の目で店内へと入る。
「今、誰か入りましたよ?」
「にゃ? まだ開店前ってにゃーに困ったお客さんにゃ」
と言いつつ気になるのか店舗内に入るリリ達。
「お客様。当店はまだ準備中です」
「そうそう。まだミャーたちのお店はやってニャいのニャ!」
「す、すいません。僕はお客さんじゃなくて……その、シルさんと女将さんはいらっしゃいますか……」
少年の言葉になんだ? と戸惑った表情を見せるのは、豊穣の女主人の店員の一人であるエルフのリュー。横にいたアーニャも不思議そうな顔をしていたが、何かを思い出したのか急に大声を上げた。
「あん時の食い逃げニャね! シルに貢がせといてポイしたクソ白髪野
貴方は黙っていて下さい」
「ぶニャ!?」
痛そうだな。なんて人並みの感想を持ったが、それなりに彼女達と付き合いのあるリリルカにとっては見慣れた光景。以前会った時はアーニャではなくクロエがリューにちょっかいをかけて殴られていたはず。
「監督。作業が終わりました。伝票の受け渡しも終わったのでここは終わりです」
リューがシルと女将を呼ぶために奥へと変えたタイミングで、リリルカも団員から声をかけられる。
「分かりました。次にいきましょうか」
「ハイっす! 監督は荷台に乗っといて下さい。偶には楽して下さい」
「ふふ。ありがとうございます」
店から出たリリルカが荷台に乗ると、団員の一人が持ち手を握る。
「次はカゴ2つなんで楽っすよ」
「その後にギルドに行かないといけないからトントンだな」
「早く終わらしてご飯にしましょう。午後はデメテル様のところに行く必要もありますし」
「そうっすね! んじゃあ動きます!」
石畳の上を車輪が転がり、振動に揺れた酒瓶がガチャガチャと音を鳴らす。その音を聞いて昔を思い出す。
「最初の方はソーマ様が引っ張って、その時もリリは荷台に乗ってたんです。その頃はカゴ3つとかしかなくて、こんな賑やかな音もなかったんですよ?」
10年くらい昔の記憶、デメテル・ファミリアのお店だけに卸していた頃の話。帰りにはお酒の材料になる麦やとうもろこしなんかを大量に積んで、リリルカが引き、ソーマが後ろから押していた。
「ソーマ様が自分で押し引きしてたんすか?」
「そうです! 他にも色々しましたよ? 例えば
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ソーマ。相談に乗ってもらっても良いかい?」
「仕事中だろ。終わってからだ」
「そんなこと言わないでくれよ! ボクと君の仲じゃないか!」
「雇用主と被雇用者だ」
ソーマ・ファミリアが運営する唯一のバル、
頼むからやめてほしい。酔うから。
「少し前に眷属ができたって言ってただろ? その眷属のことなんだけど」
「知らん。興味もない。仕事をしろ」
「頼むよ。君しか相談できる相手がいないんだ!」
神友のヘファイストスの元でヒモ引き篭もりニートをした挙句追い出され、なぜか成り行きで俺の店で働いているヘスティア。
この店の歴でいうとまさかの古株である。これが未知というやつか。
しょぼくれた顔をしているヘスティアを従業員達は我関せずと無視して忙しなくフロアに散らばる。
「なんだ?」
「ベルくんのスキルのことなんだ」
「眷属のステイタスの話なら尚更するべきじゃない。俺は別に詳しくない」
「それでも良い。頼む。聞いてくれ」
フロアにいる客も従業員も俺たちを見ている。
やめてくれ。
「なんだそれは」
「ドゲザ。タケが何がなんでもお願いする時にしたら良いって」
頼む。本当にやめてくれ。
カランッ。とグラスに注がれていた氷が溶けた。仄かにリンゴの香りが広がる。
「バクティ。アスピエーグル」
「どうぞ」
珍しくフロアでの給仕ではなく、カウンターでバーテンをしていたバクティーに酒瓶を取らせる。
リリルカの発案で作ったシードルを蒸留した酒。カルヴァドスというアップル・ブランデー。昔に比べて大きくなり、ほんの少しだけ少女じゃなくなり始めたリリルカに準えた【
氷が溶けて薄くなったグラスにトクトクと注ぎ、グイッと煽る。
鼻を抜けていく爽やかなリンゴの香りと共に口に残る深いコク。
「聞いてやる」
「本当かいっ!?」
ガバリと顔を上げたヘスティアを見て呆れる。
本当にコイツは。と思うが、まあ良い。
「ここじゃあなんだ、神室に行くぞ」
「わ、分かった」
「相談料だ。このロックの分はお前の給料から引くぞ」
「うぐっ!? わかったよ……、はぁ」
「嫌なら良い」
「あー! 払いたいなぁ! いつも世話になってるソーマに奢りたいなぁ! こんちくしょう!」
幸い今日は客も少ない。少しばかりコイツを裏に連れても困らないだろう。
「それで?」
「うん。ベル君の事なんだ」
「スキルがどうこう言っていたな」
「うん。詳しく言えなくてごめん」
そこは良い。俺たちは同盟者でも協力者でもない。あくまで雇用主と被雇用者。その眷属に対して全てを話せというのは異なる。
神室に入った俺はヘスティアを椅子に座らせ、ベッドに腰掛ける。
「簡単にいうと、成長を促すスキルが発現したんだ」
「成長を促すスキル?」
「そうなんだ。ベル君は嘘がつかない子だからスキルは発現していない事にしているし、よく分からないが成長期だって伝えて誤魔化してる」
「神の力は使ってないな?」
「もちろんだよ!」
口ぶり的に嘘じゃないんだろう。
ただ、成長を促すなんて破格の才能を持つスキル。
「初めて聞くスキルだな」
「君でも聞いた事ないか」
「このファミリアは特殊だからな。そう言ったスキルが発現するとしたら探索部だが、全体の二割しかいない。サンプル数が足りない」
ヘファイストスも鍛治師が集まるファミリア特性上同様だろう。
「ガネーシャ辺りに聞いてみるか?」
「いや、分からないなら良いよ。これはボクとベル君の問題だし」
「その方が良い。レアスキルが出現することは稀にだがある。俺のところで言えばリリルカがそうだ」
「リリ君かい?」
「ああ。お前の眷属のベル? とは方向性が違うがな」
リリルカの持つ【
「俺がアドバイスできることは多くない。強いていうなら、お前がベルとやらの持つスキルに何かを感じたのであればそれを大切にすべきだ」
「スキルをってことをかい?」
「違う。そのベルという子を大切にしろということだ。その子はおそらく、強制的に成長させられるスキルを持つということは、逆説的に今後強制的に成長をしなければならない事象に巻き込まれる可能性があるということだ。少年が成長していく中で思い描く理想通りに成長することはない。酒もそうだ」
水がお湯になるように決まった形で熱が伝わるわけじゃない。体の成長や友人関係。本人を取り囲む環境によって子供の成長は不定形に進んで行く。
「リリルカが俺にとっての酔いであるように炉の神であるお前の火がそのベルとやらなら、その火が消えないように、灯り続けられるようにしろ。火が弱くなれば薪を増やす。風を与える。雨に打たれるのであれば濡れないように屋根を、正しく燃えるよう煙突を。俺自神リリルカにできてるかは悩ましいがな」
「ソーマ……」
「そのベルとやらはどう言った子だ? もし探索部が見かけた時にはそれとなく気にするように伝えよう」
「何から何までありがとう。ソーマ。それじゃあ一応伝えておくよ。ベル君のフルネームはベル・クラネル。今14歳の男の子。ヒューマンだよ」
「リリルカの一つ下か。それで?」
「うん。白い髪の毛と赤色の眼が特徴かな。身長はそんなに高くない。まだ幼い感じの顔かな?」
「そこまで情報があれば十分だな」
すっとヘスティアが椅子から立つと、俺に向かい合い頭を下げた。
「本当にありがとうソーマ。ボクなりにだけど頑張ってみるよ」
「気にするな。ただの気まぐれだ」
自堕落な性格だが、頼まれたことや自分の内側に入った存在に対して守ろうとし、筋を通そうとするヘスティアの神格に関しては素直に尊敬している。
ただ、今したことはあくまでも俺の気まぐれだ。
「今日のシフトは何時までだ?」
「あ、ああ、19時までだからもう直が終わりかな?」
「ネクタルには俺から言っておく。もう上がってそのベルとやらと話してこい」
「なにからなにまで……。本当にありがとう!」
「ソーマ様? 居ますか?」
「リリルカ? 入って良い」
「失礼します」
ゆっくり扉を開けて中に入ってきたリリルカは、中にいたヘスティアに挨拶すると紙の束を出してきた。
「これ以上は邪魔になるし上がらせてもらうよ。リリ君もおやすみ」
「おやすみなさい。ヘスティア様」
パタンと扉が閉められ、部屋には俺とリリルカの二人きりになる。
まさかの沈黙。静かすぎる。
「ソーマ様はアマゾネスが好きなんじゃなくて大きい胸が好きなんですか?」
「なぜそうなった」
「被雇用者と密室で二人きり。何も起きないはずがありません!」
「誰の入れ知恵だ……」
リリルカが、ボソッとロキ様。と答えた。
うん。あいつは当分出禁だ。商業部に通達しよう。
「それより、その束は?」
「はい。トムお爺ちゃんが前から準備していた大麦100%の蒸留酒が試作できたので、そのレポートです」
記された内容は俺が定めた所定の形式。
試作に使った材料とその量。完成までの行程とその際の経緯。完成した試作品の量や酒精。その他にも試作品完成までに検討した行程やらなんやら。
最終的に酒瓶に詰めて売り出した際に内外営班の面々が商品説明をするために必要になる情報となる。
試作者の名前には酒造班の中心人物であるドワーフの団員であるトム・ラヤマキの名前。既に酒造班主導の銘柄達のアートマン・シリーズにて、ジンの銘柄である「ミスター・トム」を開発・販売した実績を持つ人物。
「試飲会はいつする?」
「明日の午後か明後日の昼頃とおっしゃってました。どうしますか?」
「なら早いうちが良い。明日の午後にしよう」
トムが作る酒は美味い。
ソーマ・ファミリアが出している酒の中で一番安い銘柄の「ドライ・ジン」が持つ独特の雑味にキレて砂糖をぶち込み味を整えて俺に無理やり飲ませにきたファンキーな爺だ。
故郷でも酒を作っていた経験があり、繊細な舌と材料の力を引き出す感覚をしっかり持っている。シャシン・アガヴェの制作の時には火酒の知識をだいぶ出してもらった。
「そうだ。リリルカ」
「どうしました?」
「白髪で赤色の目をしたヒューマンの冒険者を見かけたことはあるか? 年は14で、少し幼い顔立ちらしい」
「ありますよ? この前潜った時と今日の納品の時に豊穣の女主人で」
まさか既に会っていたとは……。驚きだ。
「どうやらヘスティアの眷属らしい。別に何かしてあげる必要はないが、見かけたらそれとなく気にかけてやってくれるか?」
「ソーマ様がそう仰るなら……」
どこか浮かない顔をしている。
すでに何が起きた後か?
「何かあったか?」
「……ミノタウロスに襲われてるのを見ました……」
嘘じゃない。ということは、その時に何かあったと考えるべきか。
「助けたりする必要は特にない。話しかけたりもな。ただ、ダンジョンに行った時に危ないことをしたり巻き込まれたりしているのを見かけたら俺かヘスティアに伝えてやってくれ」
「それなら……はい」
まあ、商業部の監督として忙しい身だ。
よっぽどのことがなければ関わることもないだろう。
いや、既に2度出会ってるんだったな。
「とりあえず俺はこの資料を読む。トムにはしっかり休むように伝えてくれ」
「はい。それじゃあ、失礼します」
さて、一体どんな酒か。明日の試飲が楽しみだ。
・トム・ラヤマキ
御歳73のドワーフ。レベルは2。二つ名は【
オラリオに来る前は故郷でドワーフの火酒を作成していた。
非常に繊細な舌を持っており、酒造班の実も質的なリーダー。
晴れやかな酒を作ることにこだわり、調和がない雑味のある酒を嫌う。
普段はのほほんとした爺で、団員からは「お爺ちゃん」や「爺」、「大将」と呼ばれることが多い。
・アートマン・シリーズ【ミスター・トム】
シャシン・ジンの失敗作である雑味のある銘柄【ドライ・ジン】にブチギレて改良した銘柄。
試作時にソーマに無理やり飲ませたことで、以降試作品を作った際は承認制で試飲会を開催することになった。
銘柄の候補として【シニア・テイスト】【オールドマン】【ミスター・トム】の三つが上がったが、ソーマとトム以外の酒造班が、ソーマに無理やり試飲させたことに敬意を表して【ミスター・トム】に決められた。
本人の希望は【スカイ・ジン】だったが、誰一人賛同を得られなかった。
今更ですが、何時更新が良いですか?
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