「ソーマ。やはり君の作る神酒は素晴らしい」
そう言って置かれた陶器の杯には、先ほどまで注がれていた神酒が無くなっていた。
少し長い金髪を垂らした酒の神。
誇るべき俺の同士。ディオニュソス。
「何を言う、まだまだ完成には程遠い。お前の入れてくれたこの
俺は俺で、グラスを回し香りを楽しんだワインを口に含む。
渋みは必要最低限にとどまり、香り豊かな葡萄の味が鼻腔を満たす。
何度行ったか分からない俺とディオニュソスの二人で行う酒の研究会。
原料の話をしたときは、デメテルの所のどの品種がどういう味を出して、どういう香りが出るのかという話をしたり、製法の話の時は、スピリッツの製法の試行錯誤を伝えたりする。
酒精を高める方法や、香りを強くする方法なんかも議論した。
「今は、下界の子らと同じように一から原料を栽培しながら試している」
「ふむ。それも手段としては良いように思う」
「やはりか」
「大前提、どういう酒を作りたいかだよな」
「それに関しては大きく変わった」
「変わった?」
「ああ」
最初は、神も酔わす酒を作ろうとしていた。
ただ、そうではないと気付いた。
酒本来の性質を考えたとき、俺が作ろうとしていた酒はそこから逸脱していることに気が付いた。
「酒が儀式に使われる道具であることを考えれば、そもそもで俺の考えは間違っていた。いまは、子らと楽しめる美味い酒を作りたい」
俺の理想の酒をそう伝えたとき、ディオニュソスがゆっくりと俯いた。
「どうした?」
「いや……」
下を向いて何かを考えているのだろうか。杯を持った手はそのままで全く動かない。
突然の神友の行動に違和感を覚えるが、一旦は今回の見上げを準備する。
「いつも通り、試作品の神酒で良いんだな?」
問いかけても何も動かないディオニュソス。まさか寝たか? と近づいてみれば、今度はゆっくりと顔を上げ、整った顔を俺に見せる。
「神も酔わす酒は良くなったのか?」
「たしかに、作ることができればそれはそれで嬉しい。ただ、今はそれだけが、酔わすことだけが酒ではないと知っている」
リリルカを始め、ネクタル、ザニス、チャンドラ、その他多くの眷属のおかげで知ることができた。
「それに、リリルカの成長もある」
「【
「どうしたディオニュソス。今日のお前は変だぞ」
リリルカの新しい二つ名をつぶやく彼に、不気味さを感じる。
「変? いいや、私は変わっていないさ。むしろ変わったのはソーマ、君だろう?」
「何を……」
「気にするな。とりあえず今日はここまでとしよう」
パチン、とディオニュソスが指を鳴らすと、扉の外にいたのであろう、【ディオニュソス・ファミリア】の団長であり、彼の付き人であるエルフのフィルヴィスが中に入ってくる。
「ソーマを外に」
「かしこまりました。神ソーマ、こちらへ」
「そうだ……」
促されるように俺は部屋から出ようとしたとき、思い出したかのようにディオニュソスに止められる。
「自信作の試飲だけしてもらおうと思っていたのに、私としたことが忘れていた」
「試飲?」
「ああ、最後にこれだけ飲んでもらっても良いかい?」
そう言って、細長いグラスにワインが注がれた。
深い赤紫の液体が揺れ、ディオニュソスは小さく笑う。
「感想を言えば良いのか?」
「ああ」
受け取ったグラスから、ワインから放たれる香りに驚く。
これまで数多くディオニュソスのワインを飲んできたが、そのどれとも違う香り。
「もしかして……」
「フィルヴィス」
「ッツ!?」
後ろから体を押さえられ、無理やり口にワインが流し込まれる。
「さあソーマ、俺と酔おう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ソーマ様、最近出てこなくなったね」
「せっかく恩恵ももらって、心機一転って感じだったのにさ」
夜。内営班が忙しくなるこの時間になっても、主神であるソーマが現れない。
イシュタルが天界へと送還されたことによって行き場を失ったアマゾネスたち、そのほとんどは、彼女らの希望によって【ソーマ・ファミリア】の団員になった。
取り仕切るのはバクティとラクの二人だが、正直なところこれまでと大差はない。
少し違う点でいうと、より酒のことを覚えなく行けなくなったことと、少しだけ出勤する日数が増えたということ。
「昔はソーマ様って引きこもりだったんだよね?」
「らしいね。あたしが入る前の話だから詳しくは知らないけど、定期的にこもって酒造りに没頭して、ふらっと出てくるってさ」
ソーマが数年単位で引きこもっていたのは10年以上前の話だ。それ以降はリリルカに連れ出されたりすることもあり、数か月レベルの引きこもりはほとんどない。
むしろ神会には足を運ばないだけで、積極的に他の神たちに会いに行き、酒を飲み交わしている。
「そうだ、リリさんとソーマ様ってできてんの?」
「え? できてないの?」
「リリちゃんはもうさ、全力だよね」
「知ってる? イシュタル様が男神と寝てた話聞いて、ソーマ様にも性欲があるはずって気合い入れてたらしいよ」
「だからオフショルダーとか着てたの? やるねリリさん。さすが姐さん」
ワイワイと賑わうバルの中で、女が集まれば姦しくなる。
「それであの戦争遊戯でしょう?」
「あの時のお酒ってさ、わざわざソーマ様がリリちゃんのために作ったお酒らしいよ」
「あの赤いお酒よね。あぁ〜私のためにお酒を作ってくれる男いないかなぁ」
「ネクタルは? このファミリアで一番強いけど」
「うーん、確かに強いわね。良い子供ができそう。手合わせしたことあるけど本当に強かったわ」
「そう言えば、ネクタルもザニスも女の影とかないよね」
確かに〜! とキャイキャイはしゃぐ。
バクティの目が怖いので定期的に給仕に出ては折を見てまた集まっては会話を続ける。
「ザニスはやっぱり根暗っぽいところがダメよね」
「そうそう、エッチしたらおもちゃ使ってきそうよね」
「わかる! なんだろう、あれよね、執拗に乳首弄ってきそう」
「逆にネクタルは紳士風というか、こっちの好きにさせてくれそう」
「本当にいいの? って感じでそれはそれで微妙というか」
「……。何してんだろうね、私たち」
「仕事ほっぽり出して喋ってんだよ」
「げ、ラク」
「もうアタイらはイシュタル様の眷属じゃないんだ。【ソーマ・ファミリア】の一員として仕事をしな」
ぐうの音も出ないほどの正論に、アマゾネス三人衆は大人しくなる。
「別に色恋だろうがなんだろうが良いけどね、アタイらはソーマ様に拾われたし、自分たちからここにいたいって言ったんだ。なら、やれることをやるべきさ」
「……そうね」
「仕事しましょ、仕事」
「そう言えば、アイシャの奴は【ヘルメス・ファミリア】に入ったんだって」
「へぇ、てっきり春姫と一緒に【ヘスティア・ファミリア】に行ったんだと思ってた」
「大体の子達は急にやってきたカーリーのファミリアに入ったらしいけ痛っ!」
バンッ! バンッ! バンッ! と3連続でトレンチが彼女達の頭に当たる。
「あんたら、ラクが注意したんだから大人しく働きなっ! そんなんじゃ給料しょっ引くよ!」
バクティからの雷でようやく動き出した彼女達に、バクティとラクは顔を見合わせて溜め息をついた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めたとき、俺は神室にいた。
特に何もない朝だ。
少し酒を飲みすぎたのかもしれない。
どこかふわふわとした気持ちの中目覚めた俺は、
俺専用に準備した原材料。
ジンの材料となるベリーにウォッカや極東の焼酎の原料となるジャガイモ。ラムの材料となるサトウキビにウィスキーの原材料となる麦を揃える。
はちみつやザクロ、リンゴやトウモロコシといったありとあらゆる材料を取り出し、量を見極め発酵を促す。
最近は理想を求めるだけで手が動いていなかった。
眷属にかまけて自分のことに集中できていなかった。
今はあいつらのことはどうでも良い。
酒を作り、己が満足するいっぱいを注ぐために研究をする。
机の上に置かれていた、ワインボトルを端に避け、特注のフラスコに前もって発酵させていた
徐々に温められた蒸留液がポコポコと音を出し始め、熱せられた蒸気が水を溜めた甕の中で冷やされている管を通り、最後に瓶の中へぽたぽたと落ちていく。
「ははっ……」
香りが部屋に満ちる。
最近嗅いでいなかった香りで鼻腔を満たし、集まる雫をただただ見つめる。
酒は命の水。
この試作品はどうだろうか。
口に含んだ時の香りは豊かだろうか。
舌が感じるのは辛さだろうか、それとも甘さだろうか。
喉元を通るときは洗練されているだろうか。
臓腑を焼くような酒精はあるだろうか。
この酒で、正しく酔えるだろうか。
どこかここにいない感覚を振り払うように、俺はワインボトルに口を付け、一気に煽った。
異端児編およびエニュオ編の確認をしたいので、
今話以降更新ペースがかなり遅くなります。
できる限り早く書けるように頑張りますがお許しを。
みんなどんなお酒が好きですか? 作者はもっぱらラム。ビールと日本酒を少々。
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ジン
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ウォッカ
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ウィスキー
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ラム
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ビール
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日本酒
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焼酎(芋・麦・米問わず)
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果実酒(梅・果物問わず)
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テキーラ
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ワイン(赤・白問わず)
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その他(良ければコメントで教えて)