アングラ系ヒーローは逃げられない 作:ピ・ポポ
数時間前。
そしてスーパイトの出現により逃亡から数時間後のこと。
Gは姿を現さないWと共に、迷路のよう深く広く広がった地下水路に身を潜めていた。
ふらふらと歩くGの隣を、黒く蠢く小さな穴がついて回っており、そこから男の声が漏れ出す。
「G、Rは何処に行ったんだい?」
「Aといる〜」
「そりゃまた厄介だね。僕は僕の都合上、ここから出ることができないし……」
Gが壁に寄りかかりながら深い溜息を一つ吐く。
それに呼応するかのように、Wの生み出した穴がほんの一瞬小さくなった。
「おいおい、溜息を吐くときは言ってほしいな」
「無害化してるし、大丈夫〜……多分」
「君のそーいうところはすごく心配だよ」
呆れたようなWの物言いに、Gはそっぽを向いて地下水路の奥を見つめる。
地下水路、と言うだけあって明かりはないに等しい状態だった。
Wが穴から光源を出していなければ、自分がどのような場所に立っているのか視認することも難しかっただろう。
「とにかく、今はRを──」
Wがそう言いかけたとき、ばしゃん、ばしゃんと、水音を踏み抜いて散る音が地下水路に響く。
何事かと二人が警戒を向けるが、その顔が明らかになると警戒は自然と解けていた。
「…………遅く、なった」
「R! なんとかこっちに来たんだね。Aはどうしたんだい?」
「
「なんの話したの〜?」
「……起きてる、ことの、再確、認……」
そうしてその場にいるR,G,Wは現状への再確認を始める。
今、自分たちはどのような状況に置かれているのか、そもそもの目的の再確認、その他諸々詰め込むように。
「Aの手引きをしたのはキミだって話だけど、当初の目的にそんなものはなかったはずだよ?」
「それは……そう、だけど。私の、そもそもの、
「それはわかってるから〜。結局Aを脱獄させたのも、問題はないし〜……でも『X.デー』が関わってたのは、聞いてなかったなぁ〜?」
「……私から、協力は、求めてない……Xが、勝手に言ってきた……」
Rのその言い方にGとWは頭を悩ませる。
X,彼女たちの兄妹のうちの一人であり、一際彼女たちが
正常と異常が同棲していると言っても過言ではないような人物であり、会話することがそもそもの間違いと言われていた。
故に、向こうからの接触は彼女たちにとって頭を悩ませる大きな要素となっていた。
それも敵対関係になった長男のAを助けるような助言を授けるなど。
「で、どんな助言もらったの〜?」
「『お前の兄を救え、母に耳を傾けろ。しかして反逆の牙を研げ』……って、言わ、れた……」
「X……一体、何をさせたいんだ……」
「牙を研げ、かぁ〜……反逆、ねぇ〜」
聞けば聞くほど余計にわけのわからなくなる物言いに、三人は一度考えることをやめて、この場から離脱することを選ぶ。
Rを戦闘に動き出そうとした、その時だった。
──Rの目が大きく見開かれる。
それは恐怖ではなかった。
だが、驚嘆でもない。
違和感。
凄まじく大きな違和感に、二人の気付かぬ間にその右手にナイフを握っていた。
非常に鋭く、研がれた刃を。
「危にゃいにゃあ」
声の聞こえた最初の『あ』に反応して、振り返りと同時に距離を取りながらナイフを振るう。
GとWは何かを見た、という事実のせいで後退り。
と、同時にGは顔につけているガスマスクへと手をつける。
それは全力の合図。
確殺、確滅、自身の能力を持って必ず仕留めるという、合図だった。
「待て、G!! ここで能力を使うなッ!!」
Wの荒い声に一瞬で正常に戻されたGは、ガスマスクから手を離しながらも、周囲への警戒を続ける。
が、それを嘲笑うかのように、二人の耳元で笑い声が響く。
「にゃはははっ、無駄無駄。
GとWを翻弄する声の主に耳を傾けるべく、Rは意識を集中させるのだが、声は何故かありとあらゆる場所から響く。
前、後ろ、横、上、下、何処に耳を傾けようとも、何処からでも聞こえてくる。
まさに異常事態であった。
だが──その事象に覚えのあったRは右手にグレネードのようなものを生み出した。
R,保有する能力は『武装生成』。
Aの武装変換と違い、『モノ』を必要としない武装化能力である。
そこに何もなくても武器を生み出すことができ、どれだけ破壊されようとも、どれだけ奪われようとも、彼女の手の内から幾らでも武器は生まれる。
戦闘においてはまさに最強格。
とは言え、無から有は生まれないわけで。
彼女は常に
「……ペンキグレネード」
「ッ!! キミは創作好きだなッ!」
「げッ、冗談でしょ〜……」
ピンを抜くと、手に握ったグレネードを地面に叩きつける。
その瞬間、グレネードは小さな爆発音を出しながら辺りへと弾け飛ぶ。
と、同時に。
真っ赤なペンキに染まる地下水路。
存在し得ぬ武器を作るのも、また彼女の力の一端であった。
なお、その被害を受けたのは穴の陰に隠れたGを除いた
グレネードを投げた張本人であるR。
穴に身を隠していたが、何でも飲み込むが故に直撃したW。
そして──本来この場にいるはずのない、赤く染まった猫耳のパーカーに身を包んだ一人の少女。
「やはりキミか、チェシャ」
Wの言葉にその少女はゆらゆらと立ち上がると、ぼやけていた一部の景色がはっきりとし始める。
「にゃははははは。バレバレだったかにゃあ」
「あんなことできるのは一人しかいないしねぇ〜」
「何の、用……
「んなことはわかってるにゃあ。ウチは今日、人質取りに来たんだよにゃあ」
「人質だと? キミは一体なにを……──」
その瞬間、チェシャは音もなくWの穴へと接近し、その穴に手を突っ込む。
W。
保有する能力は『ワープホール』。
一定の地点と一定の地点を繋げる穴を生み出す能力であり、『マーカー』をつけた人物の近くにも生み出すことのできる、強力な能力者の一つであった。
が、弱点が一つ。
それは穴の中に体の一部を入れられることである。
誰かが穴を跨いでいる間、彼は能力を閉じることはできないのだ。
「ぅげぇッ!?」
勢いよく穴から引き抜かれる前髪が異様に長い男。
もう既に気絶しており、動き出すことはなさそうだった。
チェシャはその男を投げ出すと、構えを見つめる二人の方向を向く。
Wが気絶したことにより穴は閉じられており、既に逃げ道はない状態だった。
「ッ!! G……逃げて……」
「逃げれるなら逃げたいけどねぇ〜……」
「にゃはははははッ! ──ウチから逃げれる、と?」
猫の如く鋭くなる目つきに、二人は大きく警戒を向けるが、Gが瞬きをした次の瞬間にはもう、Rのナイフとチェシャの爪が鍔迫り合いへと発展していた。
彼女の真横で金属の音とともに火花が飛び散り、勢いのままに押し込まれる。
「悪い、けど……私が、貴方を、逃さないッ……!」
「やってみろよッ!! にゃははははははッッ!!!」
金属の激突する音が数度響き、金属の摩擦により火花が飛び散る。
その最悪の状況下、多少でも覆す可能性を残す方法は一つ。
逃亡のみであった。
故にGは走り出す、地上へと向けて。
そうして数時間後。
Gは再会することとなる、仮面を被っていたヒーローと。