ひっでぇタイトル。
「それでは初日のツアーライブの成功を祝してー……カンパーイ!!」
「乾杯!」
「乾杯」
「か、かんばい……」
乾杯の音頭を取るとそれぞれ温度差がありながらも応えてくれる三人。今日はクリムトの夜のワラビさんをゲストに呼んだツアーライブ一回目が無事に成功したからお祝いと景気付けも兼ねて、ライブの日とは別に結束バンドの三人だけで初めてのライブの打ち上げの時に行った時の居酒屋に打ち上げに来ていた。ここ安いんだよね。
「初日のツアーライブ緊張したねー」
「でも楽しかったですね! お客さんも楽しんでくれてましたし!」
「私のカリスマ性を考えれば当然の結果」
「どこから来るのその自信?」
でも本当に上手くいって良かったな。初日のライブが失敗なんかしたら後のライブまで響きそうだし。とはいえクリムトの夜のワラビさんが場を温めてくれたのもあったし結束バンドの力だけとは言えないけどね。
そうだ、クリムトの夜と言えば。
「ぼっちちゃんが決めた「カメレオン」って曲も良かったね。Ameさんのファンの人もすぐ分かって盛り上がってくれたし」
「あ、へへ。成功してよかったです」
「でもひとりちゃんはどうしてあの曲を選んだの?」
「そんなの決まってる。タイアップから入ったにわかと一緒にされるのが嫌だったからでしょ?」
「え、い、いや……」
お前と一緒にするな。そんな拗らせたファンみたいな思考してるのはリョウだけだよ。
「でもすごく素敵な曲だったわ! 今まで流行りの曲しか聴いてなかったけど本当にファンになっちゃった!」
「本当? ならアルバム今度貸してあげる。おススメは1枚目がベスト」
「まためんどくさいオタクと化してるし……」
喜多ちゃんまで色々物を持ち込まれて部屋が乗っ取られない様に気を付けないとな。まぁ喜多ちゃんは逆に喜びそうではあるけど……。
「そういえばワラビさんも衝撃的だったね。作詞作曲してるのはAmeさんだろうけど歌ってる時とのギャップがすごかったよ」
「あ、ですね。で、でも凄く良い人でしたね」
「ふ、やっぱりクリムトの夜のボーカルはワラビさんでしょ」
「そりゃワラビさんしかいないからね」
てかリョウはワラビさんの陽キャっぷりにショック受けて距離取ろうとしてたでしょうが。このひねくれチョロ陰キャめ。
「私は元々ワラビさんの事はボーカリストとしてよりモデルさんとしての活動の方が印象的だったから違和感なかったんですけどね」
「喜多ちゃんらしいね」
「でも今日のライブでボーカリストとしても尊敬しちゃいました! 結束バンドの為にも私もあれくらいう上手くなれる様に頑張りますね!」
キターン! と輝く喜多ちゃん。眩しすぎて目が潰れそう。
「目が、目がぁ……」
「……何も、見え……ん」
あ、リョウとぼっちちゃんは潰れちゃったか。根っからの陰キャには耐えられなかったようだ。
それからもライブの打ち上げは盛り上がり、美味しい料理を食べながら楽しんでいた。だけどここでぼっちちゃんの白い肌がやけに赤くなっていることに気付いた。
「ぼっちちゃん? 顔赤いけど大丈夫?」
「……らいじょうぶ、れす」
「いやいやいや」
呂律も回ってないし明らかに大丈夫じゃないでしょ。っていうかこれもしかして酔ってる?
「ひとりちゃんもしかしてお酒飲んでる?」
「飲んでないですよぉ? らってこれリョウさんが、美味しいジュースって渡してくれたんれすから……」
ほう?
「リョウ? あれはなんてジュースなの?」
「……と、とっても美味しいオレンジジュース」
「正式名称は?」
「カシスオレンジです……」
やっぱり酒じゃんか!
「何考えてんだお前は!」
「い、いやだって私も酔っ払った時のぼっち見てみたかったからあだだだだ」
リョウの顔面をアイアンクローで掴んで持ち上げる。酔った時のぼっちちゃん大変なんだぞ!
「でも伊地知先輩。ひとりちゃんの様子、前と違いませんか?」
「え?」
「えへへ。ふぇ~……」
……確かに。初詣の時に甘酒を飲んで文字通りお酒と勘違いして酔っ払った時はリョウと一緒に醜態を晒してたけど、今回は何かふわふわぽやぽやしてて、すごく可愛いかも。
「多分なんですけど前はお酒だと思い込んでたから雰囲気で変な酔い方したけど、今回はお酒って認識出来てないから酔い方が違うんだと思います」
なるほど。つまりこれがお酒を飲んでちゃんと酔っ払った時のぼっちちゃんの本来の酔った姿って事か。流石喜多博士だ。
「じゃあこないだ見せた酷い酔い方とは違うって事? なんだつまんないのぐげげげげ」
「お前は反省しろ! ってか高校生にお酒飲ますな!」
多分こいつの無駄に大人びた雰囲気に店員さんが騙されて成人だと思い込んで提供しちゃったんだろうな。まったくまったく。
「あだだ……。顔の形が変わるかと思った」
「んぅ……? リョウさん痛そう……」
「あー大丈夫大丈夫。虹夏の凶暴性には慣れてるから」
「んだとコラ」
もう一度喰らわせてやろうかと身を乗り出す。だけどそれよりも早く、ダメージを受けて伸びていたリョウをぼっちちゃんが抱き起して
「痛いの痛いの飛んでけー♪」
そう言ってリョウの頬にキスをした。
「えへへー。痛いの無くなりましたかー?」
「……は?」
ぼっちちゃんにキスをされてフリーズするリョウと、あまりの事態に同じく固まる私と喜多ちゃん。
「あれぇ? 一回じゃ駄目でしたか? じゃあもっとしますね?」
一回じゃ駄目だと思ったぼっちちゃんがまたリョウの頬にキスをしていく。それも今度はチュッチュと何回も。
流石に状況を理解したリョウがバタバタと顔を真っ赤にして慌てだす。
「ば! ばばばばか! 馬鹿ぼっち! なにしてんの!」
「痛そうだったからちゅーしたら治るかなって。嫌れした?」
「い、嫌ではないけど……!」
「えへへ、良かったー♪」
そしてリョウへのキスを再開するぼっちちゃん。そして私よりも先に正気に戻った喜多ちゃんが何とかぼっちちゃんをリョウから引き剥がした。
「ひとりちゃん駄目よ! そんなうらや、いかがわ、羨ましい!」
「言い直せてないんだけど」
「……? じゃあ喜多ちゃんにもちゅー♪」
「ふええ!?」
リョウから引きはがした喜多ちゃんの腕を器用にスルッと解くと、そのまま抱き着いてリョウにしていたようにチュッチュと喜多ちゃんの頬へ何度もキスするぼっちちゃん。
とんでもないキス魔だ……。ぼっちちゃんがちゃんと酔うとこうなるのか。
「あひゅう……」
ぼっちちゃんにも負けないくらい顔を赤くして倒れる喜多ちゃん。そして今の今までキスをしまくっていたぼっちちゃんが急に動きを止めて虚空を見つめる。
「どうしたのぼっちちゃん? 大丈夫?」
「……暑い」
「え?」
「暑いですー!」
急に叫びだしたぼっちちゃんがジャージの上を脱ぎ捨てて、そのまま下に着ていたシャツも脱ごうとする。馬鹿やめろ後藤!
「ぼっちちゃん駄目だって!」
「あーつーいー!」
ふぅ、ぼっちちゃんの白いお腹が見えた辺りでなんとか止められた。あ、何見てんだサラリーマン! 目を潰してやろうか!
「ああもう収集がつかない! 二人とも起きて! 撤収するよ!」
ぼっちちゃんにやられて倒れていた二人を蹴り起こして、店員さんに謝罪して居酒屋から撤収! とんでもない醜態を晒してしまった。こりゃ暫く行けないな。
そしてリョウと喜多ちゃんはそれぞれ家へと帰り、ぼっちちゃんは流石にこの状態で帰らせる訳にはいかないから私の家へとオンブして連れて帰った。
「はぁ、大変だった……」
あれからぼっちちゃんを私の家まで連れて帰って、何とか私の部屋まで連れていくとそのまま私のベッドにダイブしてそのまま眠りこけてしまった。最初は可愛いと思ったけど、やっぱりぼっちちゃんにお酒は飲ませたら駄目だな。明日改めてキツク言っておこう。
そしてシャワーを済ませて、今日は疲れたから布団は出さずにぼっちちゃんの眠るベッドに私も潜る。
「んぅ……? あ、虹夏ちゃん……」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
私がベッドに入ったせいで起こしちゃったか。悪いことしたな。
「あの、私……。皆に変な事して……」
「あ、覚えてるの?」
「ぼんやりと……。ご、ごめんなさい……」
「うぅん。悪いのはリョウなんだからぼっちちゃんは気にしなくていいよ」
まあリョウも今回の件でぼっちちゃんが酔ったらヤバいのは分かっただろうしもうしないだろう。
「あ、あの、虹夏ちゃん」
「どうしたの?」
「えっと、その、レコ発ライブの時なんですけど。あ、ありがとうございました」
「え?」
レコ発ライブ? 何かお礼言われるような事あったっけ?
「本当はメジャーな曲を選んだ方が良いに決まってるのに私の言葉を信じてくれて、本当に嬉しくて……」
ああ、その事か……。
「私、いつもライブ前になると隠れちゃうから、きっと信用されてないと思ってたから……」
「まぁそこは直してほしいけどね」
「うぐっ」
顔が崩れるぼっちちゃん。正直受付に行ってくるって言ってぼっちちゃんが中々帰ってこなかった時は「またか」とも思ったりしたし。
「でもぼっちちゃんがドタバタ頑張ってる時って大体誰かの為に頑張ってる時だからさ。『ああ、何かあるんだな』って思ったんだよね」
なんせぼっちちゃんに一番助けられてるのは私だからね。信じて当たり前だよ。
「それにぼっちちゃんは逃げようとはするけど最後には逃げないじゃん。それどころかいつも一番のピンチの時には一番に足を踏み出してくれるでしょ? そんなぼっちちゃんの事、信頼してない訳ないじゃん」
「虹夏ちゃん……」
「……へへ、何か恥ずかしいね。でもぼっちちゃんの事、いつだって信じてるから。その事は忘れないでね?」
「……はい!」
笑顔を浮かべるぼっちちゃん。まったく、情けなかったり、カッコよかったり、可愛かったりして、私の頭はもうメチャクチャだよ。
「へ、へへ、じ、じゃあもう寝ましょうか」
「うん。……でもその前にさ」
「はい?」
「私だけ、まだキスされてないんだけどなー、って」
「え、ええ!?」
「リョウも喜多ちゃんもキスしてもらったのに私だけまだされてないんだよね。ズルいと思いまーす」
「あ、う……」
顔を真っ赤にして俯くぼっちちゃん。可愛いなぁ。
まぁ可愛い所も見れたし、この辺で手打ちにしておこうかな? なんて考えているとぼっちちゃんが不意に顔を上げて、その上げた青色の瞳に目を奪われていると。
「むぐっ……」
ぼっちちゃんにキスをされた。頬ではなく、唇に。
「ぷぁっ……。ぼっちちゃん……?」
「……まだ、頭が、ボーっとしてたみたいです」
酔っていた時よりも顔を赤くして熱を孕んで潤んだ瞳でこちらを見るぼっちちゃん。
……ふーん? お酒のせいにするんだ。ふーん?
「ねぇぼっちちゃん」
「あ、は、はい……。って、んぅ」
今度は私からぼっちちゃんへとキスをした。
「あ、ぅ、虹夏ちゃん……?」
「……二人には、いっぱいキスしてたでしょ? だから」
ぼっちちゃんの手を握って指を絡ませる。
「もっといっぱい、しよ?」
「……はい」
今度はお互いに近づいてキスをする。
そしてこの日の夜は何度も何度もキスをした。唇以外にも色んな場所にたくさんキスをしあったけど、どこにしたのかまでは詳しくは言わないでおこう。ただ唯一明言しておくとすると、首筋にキスしたときの跡が残っていたせいで翌日お姉ちゃんからすごく優しい目で見られた。