私の術式があまりにも産廃すぎるんだが?   作:家葉 テイク

48 / 48
 カリヤン直哉……?


第42話 採点

「……現場はどのくらい持ちますか?」

 

 

 滂沱の襲来。

 それを伝えた天使に対して、私は最初にそう問いかけていた。

 

 今の私ならば、あの時に応対した滂沱を祓うくらいは難しいことではない。だが……このタイミングで顔を出した以上、滂沱が「刀津貴」の解放の裏で手を引いている黒幕──おそらく羂索だと思うが──と繋がっているのはほぼ確実だ。つまり十中八九、何らかの策を用意している。

 天使と一緒の部隊の術師は、ぱっと見等級は二級かそこらといったところだ。正直、滂沱との戦闘では物の数にもなるまい。となると、佳子と合流してから戦闘に入りたいが──その間に現場の術師が全滅してしまっては元も子もない。そのあたりのバランスを取る為の確認である。

 

 

「正直、厳しいね。全員生存を前提にするなら一〇分と持たないだろう。あの様子だと、三〇分もする頃には全滅だろうね」

 

「……その程度の連中ならそもそも「刀津貴」にも対応できないでしょう」

 

「彼らは私達「本隊」の弾除けだからね」

 

 

 ぼやいた私に、天使があっさりと言う。その酷薄な響きに、私は内心ぎょっとした。

 

 

「そもそもと言うなら、今回の「刀津貴」への対応は私と尊、佳子の三人が"本命"なんだよ。他の人員は、私達の消耗を避ける為の盾でしかない。これは本人たちも承知のことだよ」

 

「………………なるほど」

 

 

 ……まぁ、「刀津貴」は等級でいえば特級にも匹敵するからな。

 滂沱だの跡切だのといった特級呪霊と一人とか二人とかで相対した経験がノイズになっているが、本来特級呪霊というのは囲んで叩く類の強敵である。それでもかなり消耗するのだ。実際、原作における渋谷事変でも、陀艮相手に一級二人でかなりギリギリだった。伏黒恵と伏黒甚爾がいなければ負けていたのは術師側だっただろう。

 

 

「京の護りの方が重要というわけですか。とすると、晴明様は最初から?」

 

「おそらくね。私も気付いたのは砲撃を受けてからだ」

 

 

 ……やはりか。

 おそらく、敵は何らかの縛りによって「刀津貴」の射程距離を増大させている。晴明翁は、最初からその可能性を考えていたのだろう。だからあくまでも最大戦力は京の護りに注ぎ、私達三人を尖兵として送り出した。

 とはいえ私達を捨て駒にしているわけではなく、むしろ捨て駒をつけることで私達のことは篤く保護しようとしていたわけだが……。

 

 

「晴明様らしくもない。捨て駒を使うくらいなら式神を出すのがあの人のやり方…………いや……」

 

「十中八九、弟殿の意向だろう」

 

 

 ……叔父上の差し金か。

 京に「刀津貴」の魔の手が伸びかねない状況で、帝が晴明翁を手元から離すなどあり得ない選択だ。叔父上が晴明翁はじめ涅漆鎮撫隊の有力者を手元に置くよう指示したのだろう。

 ……実績のなさでいえば、これは本来なら私と佳子と捨て駒連中だけで「刀津貴」への対処に向かわされるところだったんじゃないか? 多分、晴明翁は相当無理をして天使を捻じ込んだものと思われる。

 

 

「晴明様には感謝してもしきれませんね。……分かりました。前線が潰れないうちに現場に急ぎます。天使様は大和国へ?」

 

「ああ。「刀津貴」への対処をしないといけないからね。佳子はもらっていくよ。流石に一人で「大元帥法」を相手にするのは骨が折れる」

 

 

 佳子もか……。まぁ妥当ではあるが。「刀津貴」と滂沱のどちらが厄介かといえば、どう考えても前者の方である。

 前線の連中はいても足手纏いにしかならない上に私の手札を見られるリスクがあるから全員さっさと退場してもらわないといけないし、一人で滂沱の相手か…………厄介だな……。やるしかないがな。

 

 

「なに、事が済めばすぐそちらに帰すよう努力はするよ。佳子は君の相棒だからね」

 

「ただのじゃじゃ馬ですよ。それに、そちらが終わるよりはこちらが終わる方が早いでしょう」

 

 

 そう言い捨てて、私は雷の轟く前線へと走っていく。

 ……実際、終わるのはこちらの方がずっと早いだろう。佳子が一緒じゃ戦闘がコントになる。さっさと滂沱を"処理"して、二人のことを煽ってやらねばなるまい。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

 馬での移動によって体力を温存できた分、前線への移動にかかった時間はほんの数分で済んだ。

 とはいえ──戦場は既に地獄絵図と化していた。

 

 戦場で立っているのは三人。そのうち一人は片腕を失い、もう一人は全身に火傷を負っている。他に、地に伏している術師が二人。……急ぎはしたが、間に合いはしなかったようだ。

 もちろん馬は全滅している。

 

 

「遅れました! 此処は私が引き受けます! 皆さんは後続部隊と合流して大和国へ!」

 

 

 飛び込んで滂沱に蹴りを入れつつ、私は生き残りに指示をする。

 ──動きが鈍い。というより、倒れた二人の術師を気にしているようだ。……甘ちゃんどもめ。

 

 

「何をしている!! 晴明様の指令を忘れたか愚図ども!! 無駄死にするくらいなら私の術式の糧になれ!!」

 

 

 「蟲毒呪法」の術式効果については、どこぞのアホの情報漏洩によって多少知られてしまっている。

 もちろん全容は知られていないが「生物を猛毒の液体に変える」という概要くらいは知られているくらいだ。なのであまり私のことを知らない術師に対しては、こういう呼びかけをするだけでも威圧になりえるのである。

 死んだ身内に後ろ髪引かれた思いの甘ちゃん共も、自分達より年下の少女に叱咤されたことで我に返ったのだろう。表情を引き締めると、さっさと前線を離れた。……さて、これで滂沱とのサシだな。

 

 改めて滂沱を見ると、以前の戦闘で祓われる寸前まで失われていた滂沱の肉体は、殆ど復旧されていた。

 殆ど──と表現したのは、右腕が失われたままだったからだ。……一級そこそこの術師に片腕を持って行かれるほど弱い呪霊でもあるまい。出血(と呼んでいいのかは分からないが)もないし、元々あの腕はなかったと見るべきだろう。

 

 

「さて。待たせたな、滂沱」

 

『あァ。ざっと四年ほど待ったぜ。この時をな』

 

「なら研鑽の成果を見せてもらおう。採点してやるよ」

 

 

 彼我の距離は、二〇メートルほど。

 互いの間には、滂沱の操る雲。……領域展開には使用しなかったらしい。この近くに水場はないし、空には雲も疎らだ。おそらく私やそれに類する実力者との相対を見越して温存していたのだろう。

 開戦までの言葉は、不要だった。左腕で形作る施無畏印。それが意味するところは即ち──。

 

 

 領域展開 

 絶界忉利天(ぜっかいとうりてん)

 

 領域展開

 九竅清浄池(きゅうきょうしょうじょうち)

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 方や無限に広がる蒼穹。

 方や漆黒が渦巻く草原。

 

 二つの領域のぶつかり合いに際して、滂沱は嘲笑う。

 

 

『ハッ! 四年で随分と結界術に自信をつけたようだが……呪霊が成長しないとでも思ったかァ!?』

 

 

滂沱の右腕が消失している原因は、四年前の戦いにおいて首から下の再生をした際の「縛り」にある。

 

消耗した状態で首から下を捨てた滂沱は、右腕の永続的な再生不可を条件にそれ以外の全身の速やかな呪力による再生を成し遂げた。

 

しかし再生の容易な呪霊にとって、永続的な再生不可という「縛り」の重さは滂沱の想定を超えていた。

ゆえに発生した偶発的な成果。

 

 

即ち、結界術の精度向上である。
   

 

 

『テメェがどれほど研鑽を積もうとも!! 雲を媒介とした領域に、「縛り」による出力向上!! 技術の練度でどうにかなる次元なんざ、とうに超えてんだよォ!!』

 

「御託が長いぞクラゲ頭ぁ!!」

 

 

 ドッ!! と。

 

 ()()()()()()()()()()()()、私は片腕のまま悠長に構えている滂沱を蛇腕で殴りつけた。

 領域の展開に集中していた滂沱は、無防備に顔面を殴られた勢いで一〇メートルくらい一気に吹っ飛んでいく。

 

 

『なッ……コイツ!?』

 

「媒介がどうとか「縛り」がどうとか抜かしてくれたな」

 

 

 示すのは右手での与願印。

 掌を天に向ける掌印の意味は、『仏が衆生の願いを聞き届けて叶える』。即ち──寛容、定義の放棄。

 要するに。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 ──新宿において、外殻を設定しない領域と外殻を設定した領域のぶつかり合いがどういう事象を起こすかは説明されている。

 答えは、『必中命令のみが重複しあい無効化されるが、領域の押し合い自体はそもそも発生しない』だ。

 宿儺と五条悟の領域の押し合いの場合、宿儺の方が領域の範囲が広かったために外殻に「御廚子」の術式効果が及び五条悟の領域が破壊された。私の「蟲毒呪法」に生物以外への攻撃能力は存在しないため、同じ方法で結界を壊すことはできないが──必中命令の打ち消しはできる。

 

 

『結界を押し合っている感覚が……ねェ!? 外殻を設定していない!? 馬鹿な……そんなことできるはずがねェ! 紙もなしに絵を描くようなモンだぞ!?』

 

「これが「技術」だ。特異な仕組みの"例外"に頼る非才な凡俗の分際で、よくも私に御高説を垂れてくれたな」

 

 

 吐き捨てて、私は蛇腕で再度滂沱を殴る。

 今度は流石に滂沱も蹴りでガードするが──ほどなくして、グズ……と蛇腕で殴られた部分が少し()()()

 さらに溶け落ちた滂沱の一部は、地面に落ちると同時にどこかへ吸い込まれて消え失せる。

 

 

『こ……れは……「蟲毒呪法」!? 馬鹿な、必中命令は打ち消し合っているはず……!?』

 

「領域展延だよ」

 

 

 狼狽する滂沱に、私はいっそ呆れながら溜息を吐いた。

 

領域展延は、術式と併用することはできない。

ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──

そもそも連続した領域の展開が術式の仕様上可能な尊に、その制限はあたらない。

 

 

 

「忘れたか? 「領域展延・深」。奥行を与えた展延に術式を流し込むことで、領域に付与された術式の中和力を上げる技術だ。四年前にも見せただろう」

 

 

 それを、蛇腕に纏わせただけである。

 その中で滂沱の術式を中和すれば、展延が及ぶ範囲に残るのは私の術式のみ。つまり、蛇腕が打撃した部分は私の必中術式が作動して溶け落ちるというわけである。

 しかも領域中には私の拡張術式「蛇道虎穴」を仕込んであるため、地面に落ちた毒液は自動的に回収されるという寸法である。平安でもSDGsを忘れない現代的な遊び心だ。

 

 

『…………ッ!!』

 

 

 領域展開を続けていても展延による一方的な術式の押し付けは続く。

 

 さりとて展開を解除すれば今度は必中術式によって溶け落ちる末路が待っている。

 

 蛇腕を手に入れた私を相手に、滂沱は領域を展開しながら逃げ切るほどの機動力を持っていない。

 

 ──従来の手札でいえば、手詰まり。

 その盤面を構築してなお、私は笑った。コイツがこの程度で終わるタマではないことは、私が分かっている。むしろそうでなければ、困るというものだ。

 

 

「もったいぶってないでさっさと出せよ、奥の手を。私がじきじきに採点してやろう」

 

 

 笑って言うと、滂沱の呪力がひくりと怒気を帯びたのが分かった。

 面白い。そうこなくっちゃあな。




 陀艮戦のことを思い返している尊が真希さんをカウントしていないのは仕様です。尊は天与呪縛が完成してない状態の真希さんのことを術師として全く評価していません。根っからの術師脳ですね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【旧版】明治生まれの特級呪術師は、泥人形の夢を見るか?(作者:須川ユイ)(原作:呪術廻戦)

▼ こちらは【旧版】となっております。打ち切り状態ですので、新版(https://syosetu.org/novel/409195/)をお読み頂くことを推奨しております。▼ 西暦1900年、明治33年。▼ 日露戦争を目前に控えた日本に、一人の赤子が産み落とされた。▼ 名は、飾代(かざしろ)夜永(やえ)。▼ 新興財閥の妾の子として生まれた彼女には、前世の記憶と…


総合評価:7498/評価:8.88/未完:28話/更新日時:2026年04月14日(火) 19:51 小説情報

やっぱ呪術界ってクソだわ(作者:TE勢残党)(原作:呪術廻戦)

Q.一般人の感性を持った転生者が利権、因習、政治、既得権益、男尊女卑の中を生き延びる方法▼10/5追記:世界一位様に「空閑徹」「舞屋レア」「加茂日和」のファンアートをいただきました。ありがとうございます。▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼拙作の表紙を作成頂いた柴猫侍@ハーメルン様のファンアートはこちら。▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼【挿絵表示】▼重…


総合評価:29847/評価:8.88/連載:62話/更新日時:2025年08月26日(火) 07:03 小説情報

明治生まれの特級呪術師は、泥人形の夢を見るか?(作者:須川ユイ)(原作:呪術廻戦)

▼ 西暦1893年、明治26年。▼ 日露戦争を目前に控えた日本に、一人の赤子が産み落とされた。▼ 名は、飾代かざしろ夜永やえ。▼ 新興財閥の妾の子として生まれた彼女には、前世の記憶と、異質な術式が備わっていた。▼「ここは『呪術廻戦』の世界だ。それも、歴史の教科書でしか知らない明治・大正期」▼ 原作知識という最大の武器は使えない。▼ あるのは、未熟な肉体と、い…


総合評価:2083/評価:8.63/連載:9話/更新日時:2026年05月05日(火) 10:15 小説情報

【本編一旦完結】たすてけ勇者一行がくぁwせdrftgyふじこlp【原作更新待ち】(作者:丹羽にわか)(原作:葬送のフリーレン)

フリーレン世界の魔族にTS転生した。してしまった。人類種の天敵──相互理解なんて不可能な、ヒトを喰らう狡猾な獣に。ヒトのココロを持って。▼(完璧に隠蔽して引きこもってる筈なのになんで勇者一行がくるんだぁぁぁぁ!! 嫌だァァァ!! 死にたくないぃぃぃ!!)▼(他の魔族が絶滅して存在が忘れられてから外に出ようと悠長に構えてたのが悪かったのか!? でも仕方ないじゃ…


総合評価:70920/評価:8.98/完結:46話/更新日時:2025年12月05日(金) 20:44 小説情報

ハリー・ポッターと野望の少女(作者:ウルトラ長男)(原作:ハリー・ポッター)

「世界を支配するのはヴォルデモートではない! この私だ!」▼これは、ハリーポッターの世界に中途半端な原作知識を持って生まれた少女の物語です。▼世界征服を目指し、野望のままに走る。▼そんな主人公ですが、どうか最後まで付き合って頂ければ幸いです。


総合評価:82375/評価:9.25/完結:85話/更新日時:2013年12月28日(土) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>