木更津 友希は何処にでもいる普通の女子高校生。
ある日、空腹で行き倒れになっていた所を、クラスメイトの山城 由香里に拾われ、そこで『遊戯王オフィシャルカードゲーム』をやってみないか、と誘われる。
そこで勧められるがままに手にした『青き眼の光臨』のストラクチャーデッキが、友希の生活を細やかに、しかし確実に変えていくことになる。

これは、白き龍と共に一歩を踏み出す少女の物語。

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『青眼ストラクの販促が書きたい!』と思い立ち、短編の形に纏めてみました。(気づけば発売から1ヶ月経ってしまい、新弾の発売も迫っている事実からは目を背ける)
「ワクワクを思い出すんだ!」(byキモイルカ)というテーマ9割と、その他遊戯王系二次創作へ思う所をひとつまみ、といったお気持ちを目一杯ぶち込んでみました。
リミットレギュレーションは2024年10月度のものを使用しています。
それでは、お楽しみ下されば幸いです。


私にもデュエル、出来ますか?〜白き乙女の遊戯王OCG〜

 

「う〜………お腹空いた……」

 

 5月の翌る日のT県D市の郊外。夕暮れ時の帰り道、腹部を抱え、紺色のブレザーに身を包んだ女子高校生、木更津 友希(きさらづ ゆき)は誰に言うでもなく弱音を漏らした。

 朝寝坊をかまし、大慌てで登校する際に弁当を忘れた自分自身を友希は恨んでいた。購買にダッシュするもパンはあっという間に売り切れ、ただ一つ売り場に残ったツナマヨおにぎりと友人たちが哀れんで分けてくれた惣菜等で糊口を凌いだ。しかし16歳の成長期に、その程度では勿論腹は満ちない。友人たちの前では気丈に振る舞って見せたが、帰路で別れた今、その反動が怒涛のように押し寄せていた。

 

(こ、コンビニ……あそこのセブンまで行けば……)

 

 すっかりガス欠になった身体を引き摺り、表通りの角を曲がる。一歩一歩、脚に鉛が詰まっているかのように重たい。頭をどんよりとした暗雲が覆っているように、朦朧として思考が定まらない。

 

(うう、もう……駄目かも……)

 

 不意につまずき、身体がうつ伏せに地面へと投げ出される。痛覚の訴えは圧倒的な空腹とモヤのかかった脳には効き目が無く、友希の思考回路はそのまま暗闇の中へと直下していった。

 

 

「……き倒れとは、穏やかじゃないね」

「……でこういうことあるんだって、びっくりしましたよ〜〜〜」

 

 遠くから若い女性のものと思しき声が二つ聞こえてくる。

 友希はゆっくりと瞼を開けた。飛び込んでくる光と、天井の蛍光灯。それに顔が2つ。

 

「ん〜、ここは……?」

 

 ゆっくりと上体を起こすと、デスクトップPCの置かれた作業机や、壁の棚にびっしり並べられた黒い紙製の箱が目に飛び込んだ。何処かの店舗のバックヤードのようだ。友希より一回りほど大人の女性と、女子高生がこちらを覗き込んでいる。

 

「――おや、気づいたみたいだ」

「あ!本当だ!行き倒れさん、生きてたんだ!」

 

 片方の女性はやや落ち着いた雰囲気をした大人の女性だ。ややウェーブのかかった黒のミディアムヘアに、リムレスの眼鏡。体型としては痩せ型に入るだろう。

 もう片方の女子高生は、友希と同じ紺色のブレザーを着ていた。ネクタイの青い差し色は、友希と同じ1年生である事を物語っている。栗色のショートヘアに、くりっと丸く愛らしい瞳が印象的だ。胸は友希に勝るとも劣らず、大きい。

 

「あ、あの、ここは……」

 

 友希はおずおずと口を開く。どうやらぶっ倒れた自分をここまで介抱してくれたようだ、という事をようやく脳が実感として理解し始めた。

 

「ここはね、『パインゲームス』っていうカードショップ、言わば『カドショ』だね。学校から近いからよく来るんだ、あたし」

 

 女子高生の方が友希に説明する。カードゲームの専門店、通称カドショというものが存在する事、そして異様な臭いを放つ人がいるらしい、程度のことは友希も聞いたことがあったが、実際に来るのは初の出来事であった。

 

「あたしは山城 由香里(やましろ ゆかり)。君と同じ綾瀬高校の1年。君は、A組の木更津 友希さん……だよね?」

「え?どうして私の事を?」

 

 友希は別のクラス生にも自分の名前を知られている事実に驚きを隠せないが、由香里は露ほども気にせずに続けた。

 

「ウチのクラスでもちょっと話題になったからね、A組に木更津っていう可愛い子が居るって」

「そ、そうなんだ……」

 

 噂になる位なのか、と友希は思った。彼女の流れるような銀色の長髪は、日頃の手入れを一日たりとも怠っていない事を物語っており、日本人では持ち得ないであろう青色の瞳は彼女が外国人との間に産まれた事を示していた。そしてたわわな、よく友人らに持ち上げられる胸部。確かに友達に可愛い・スタイルが良い・モデルに向いてるかも、等褒められたことはあったが、友希はそういった煌めいた舞台にはあまり興味が無かった。

 

「私はここの店主、黒潮 瑛子(くろしお えいこ)。店の前で行き倒れって聞いた時は気が気じゃなかったけど……その様子だと大事なさそうで良かったよ」

「いえ!こちらこそ助けてくださって、ありがとうございました!」

 

 眼鏡の店主が微笑みかけると、友希は深々と2人に頭を下げた。

 

「それにしても、何でこんな街中でぶっ倒れてたの?貧血とか?」

「そ、それは……」

 

 友希が顔を染めて俯くと、腹部がぐるるるる、と急激に自己主張を初めた。何もこんなタイミングで、と友希はますます顔を赤くする。

 それを聞いた由香里と瑛子は2人とも笑いを隠しきれない様子だった。友希はますます縮こまる。

 

「ははははは!お腹空いて倒れるって、漫画じゃないんだから!」

「ふふ、そういう事か……待ってろ、惣菜パンが裏にあったから持ってくるよ」

「うぅ……何から何まですみません……」

 

 まるで所在がない様子で、友希は頬を染めて俯くばかりであった。

 

 

 

「そうだ、山城さんの手元のそれ、何ですか?」

 

 瑛子が手渡してくれた惣菜パンを齧りながら、友希が由香里の手元に置かれたカードの束に視線をやった。

 由香里は『よくぞ聞いてくれた』とばかりに胸を逸らし。

 

「ふっふっふ……これはね、『遊戯王オフィシャルカードゲーム デュエルモンスターズ』なのだ!」

 

 ずいっ、と自分のカードの束をどや顔で見せた。友希はまるで異星に住まう深海生物の名でも聞いたかのように、首を傾げる。

 

「ゆ、ユウギオウ?」

「そう。昔ジャンプに連載されていた漫画『遊☆戯☆王』に出てくるカードゲーム『マジック&ウィザーズ』を再現したカードゲームでね。君たちが産まれる前には凄く流行したゲームなんだ」

 

 興奮気味に語る由香里に瑛子がフォローを入れる。友希はそのカードをまじまじと見つめ。

 

「その『遊戯王』のカード……私、持ってます」

「え?」

 

 きょとんとした顔つきになる由香里の前で、友希は鞄から財布を取り出し、中身を探る。

 友希が取り出した3枚のローダーに包まれたカードを、由香里と瑛子が確認すると。

 

「ええ!?《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》2期レリーフ版!?しかも完美品!?」

「これは驚いたな……これほど状態が良いのも珍しいぞ」

 

 由香里と瑛子は太陽系の爆発でも目の当たりにしたかのように、驚愕の表情を見せた。友希は二人の反応に疑問符を浮かべる。

 

「……えっと、このカード、そんなに珍しいんですか?」

「うん、買おうとすると一枚10万はする」

「10万!?カード一枚に!?」

 

 友希も圧倒的な値段を聞き、ソファから転がり落ちそうになった。そんなに価値のあるものであったとは。

 

「一体どこで手に入れたの?この状態だと50万はするよ?」

「はい、今は海外の大学に行ってる兄が実は遊戯王やってたみたいで、私に預けてくれたんです」

 

 約1年ほど前。友希の兄がアメリカの大学に入学し、本格的に向こうに移住する際、渡してくれたのがこのカードだった。

 友希は兄に随分と可愛がって貰った。勉強で分からないところは親身に教えてくれ、中学時代テニス部に在籍していた時は練習に付き合ってもくれた。兄と別れたときは随分と寂しくなり、3日ほど引きずったものだった。

 

「そっか……つまり実際に使ったことはないと」

「はい。ルールも分からなかったですし、今まで遊ぶ機会がありませんでしたから」

 

 瑛子が頷き、友希は3枚のカードを大事そうに豊かな胸元に抱えた。そんな様子を見た由香里は目を輝かせる。

 

「ほっほーう……じゃあさ、実際に一度そのカードを使って遊んでみるのはどう?」

「え?」

 

 思わぬ展開に面食らう友希に、由香里は瑛子に向かって演技がかった仕草でパチンと指を鳴らし。

 

「ヘイマスター!お嬢さんに例のものを」

「何だそのバーテンみたいな呼び方は。はいはい、只今持ってきますよって」

 

 壁に沿って設えられた棚から、ごそごそと何かを取り出す瑛子を、疑問符を頭に浮かべたまま見ている友希。しばらくして、友希の目の前の机に一つ小ぶりな箱が置かれた。

 表紙には《青眼の白龍》に似た頭を持つ三つ首のドラゴンと、何処となく友希に似た顔の少女が描かれ、その下には『青き眼の光臨』と書かれていた。

 

「これは……?」

「これはストラクチャーデッキ、所謂構築済みデッキというやつでね。中には50枚のカードが入ってるんだ。実際のゲーム――『デュエル』というんだが、最低でもメインのデッキが40枚必要だから、箱から出してすぐ遊べるようになってるって訳だね」

 

 瑛子の解説を受け、その箱をまじまじと見つめる友希。表紙に描かれたモンスターと商品名を見るに、《青眼の白龍》を主体とした商品らしい事は友希にも理解できた。

 

「これも何かの縁だ。これはお客さんにプレゼントしよう。実際に開けてみると良い。中には《青眼の白龍》が3枚入っているから、それと君のカードを取り換えてすぐに遊べるようになる」

「おっとお客さん、これも忘れちゃ困りますぜ?」

 

 由香里がすすっと友希の隣から袋とプラスチック製のクリアな箱を差し出す。ビニール製である袋の透明なパッケージの中には、青一色のこれまた袋が多く詰まっているようだった。

 

「山城さん、これは?」

「これはカードを入れるための袋、『スリーブ』ってやつと、デッキケースだね。これに入れないと、シャッフルしたりしてカードがすぐに傷ついちゃうから必需品かな。これは私からのプレゼントだよ!」

「い、良いんですか!?こんなに貰っちゃって!?」

 

 友希は驚いて両掌をワイパーで雨粒を取るかのように振るが、新規を沼に沈める又と無い好機を前にした瑛子と由香里は関せずに続ける。

 

「良いさ、どうせキャンセル品だし、再販も来週かかるしね」

「ウチの学校でもなかなかやってる人が居なくてねー、同じ話題の相手居なくて困ってたんだー」

 

 にこりと微笑む瑛子に、ころころと笑う由香里を前にして、友希も思わず笑みをこぼす。

 

「あ、ありがとうございます!――私にも、『デュエル』出来ますか?」

 

 

 

「さて、まずは箱を開けて、中身を見てみようか!」

「は、はいっ!よろしくお願いしますっ!」

 

 店内の長机が並ぶデュエルスペース内にて。由香里のテンション高い呼びかけに、むんっと友希は両拳を握った。

 早速ペーパーナイフで箱の上蓋を止めているテープを切り、箱を開けていく。中には透明のブリスターに包まれたカードの束と、一袋のカードパック。

 

「わぁ……」

 

 友希は思わずシュリンクに包まれたカードの束を手に取って、まじまじと見つめる。表のカードには《青眼の究極霊竜(ブルーアイズ・スピリット・アルティメット・ドラゴン)》のカード名と、表紙に描かれていた三つ首を持つドラゴンのイラスト。

 

「格好良いでしょ〜、それがこのデッキの切り札《究極霊竜(スピリット・アルティメット・ドラゴン)》だよ!」

「見るからに強そうです、このカードを軸に戦う感じなんですね!」

 

 まるで我が事のように自慢げな解説する由香里と、目を輝かせる友希。早速シュリンクを開け、中身のカードを手にする。

 白、象牙色、青、橙、緑、紅色……多数の色で枠を塗られたカードがぎっしり詰まっており、どれもが友希にとって未知の領域に居る存在だった。中には友希の持つ《青眼の白龍》のイラストが違うカードや、よく似た絵のカードも見受けられる。一枚一枚の強弱はまるで分からない友希だったが、初めて手にしたカード達は全てが輝いて見えた。

 

「そうそう、あとね……『レアリティ強化パック』っていうのもあるから、それも開けてみようか!」

 

 友希は手元のシュリンクに包まれたカードとは別に、カードの入っているであろう袋の存在に気がついた。『伝説の威光継承パック』と書かれている。

 

「中にはデッキの中に収録されてるカードの光るバージョンが入ってるんだよ!運が良ければ新しくて強いカードが2枚手に入るって訳!」

「なんだかスマホアプリのガチャみたいですね……取り敢えず、開けてみますね」

 

 友希は慎重にパックのヘリにある切り口から開封していく。中には先ほど見た橙色や緑色の光るカード、そして――

 

「これってさっきの《究極霊竜》ってやつですね!」

「う、嘘ぉ!クオシク《究極霊竜》!?どんだけ右手強いの!?」

 

 よく分からないが、最後尾に入っていた白い輝くカードに嬉しそうな笑みを浮かべる友希と、仰天して椅子から転げ落ちそうになる由香里。

 

「これってそんなに凄いやつなんですか?」

「凄いよ!この箱で一番高いレアカード!普通に買うと4万円はするよ!」

「よ、4万円!?」

 

 値段を聞いた友希も危うく椅子から転げ落ちかけた。体制を何とか立て直すと、いそいそとカードを大事にスリーブに仕舞い込む。傷でも付けたら大事だ。

 

「こ、こほん!じゃあスリーブに入れながら軽くカードの種類から説明してくよ。この象牙色のカードと、オレンジ・水色・白・紫・黒・青のカードが――」

 

 カード一枚一枚を大事そうにスリーブへ入れながら、由香里のレクチャーを一字一句聞き漏らすまいと真剣に頷く友希。そんな風景を見た瑛子は微笑んで2人を見つめる。

 

(初心者に手取り足取り教える……こういうシチュエーションも最近減ってきていたからな)

 

 

「――カードの種類はこんな感じかな。次は実戦で試してみよう!あたしはこの構築済みを使うよ。大将、サポートお願い!」

「ウチは寿司屋じゃないぞ……というわけで、私がセコンドを担当しよう」

「はいっ!対戦よろしくお願いします!」

 

 スリーブに友希のカードを詰め終え、友希と由香里は対面でカードを置く。由香里の手元には『TACTIAL TRY-DECK 怪盗コンビEvil⭐︎Twin』と書かれた小ぶりな箱がひとつ。瑛子は友希の隣に座る形だ。

 

「デュエルに勝つ条件は基本的に、相手の持ち点――ライフポイントを0にすること!デッキ切れとか例外はあるけど……それは後々でも大丈夫っ。計算にはこの『遊戯王ニューロン』を使うよ」

「成る程……そういうアプリがあるんですね」

 

 由香里がスマホの画面を友希に見せる。そこには電卓のような画面に、8000の文字が二つ並んでいた。

 

「対戦の前に、お互いのデッキをシャッフルするよ。んで粗方シャッフルし終わったなーと思ったら、対戦相手に渡してカットしてもらおう!」

 

 由香里は慣れた手つきで箱からカードを取り出して、デッキをシャッフルして見せる。友希も倣って見よう見まねでのリフトシャッフルを試みるが……辿々しい手つきでのシャッフルはカード同士を衝突させ、立ち所にカードを机の上に散らばらせてしまった。

 

「わわっ!?」

「最初のうちはみんなミスするよ、私も良く失敗したものさ」

「……よし、これで全部だね」

 

 瑛子がフォローを入れる傍ら、由香里が散ったデッキを集めて手渡す。

 

「ゲーム開始前に、デッキの上からカードを5枚引くんだよ。それが手札だね!」

「は、はいっ!5枚ドローします」

 

 友希の手元に舞い込んだ5枚のカード。各々の使い方こそよく分からなかったが……友希の瞳には全てが頼もしげに映った。

 

「先攻は木更津さんからどうぞ!ターンの初めにカードをデッキから一枚引くんだけど、先攻の一ターン目だけドロー出来ないから、そこだけ気をつけてね!」

「は、はいっ!えーっと……」

「1ターンの流れはね、カードを一枚引く『ドローフェイズ』から一呼吸置く『スタンバイフェイズ』、戦う前準備をする『メインフェイズ1』、モンスターで戦う『バトルフェイズ』、戦闘後の始末や次のターンの準備をする『メインフェイズ2』、ターンを終える『エンドフェイズ』になってるんだけど……要するにフェイズっていうのは、『このタイミングではどんな事が出来る』っていう大まかな括りだよ」

「あまり気張らなくても良いよ。ついさっき来たのがカードを引く『ドローフェイズ』という訳だ」

 

 出来る限り噛み砕いて説明する由香里と瑛子であったが……友希は専門用語が矢継ぎ早に飛び出し困惑する。

 

「わ、分かるような……分からないような……」

「ドローフェイズに何かするカードが無かったら、そのフェイズは終了だね。スタンバイフェイズも、ここで使うカードが無かったら終了して良いよ」

「基本的にドロー及びスタンバイフェイズは、カードの発動タイミングがここに決められていたり、使いたいカードが無かった場合は、する事は特にないんだ」

 

 由香里と瑛子の解説を聞いた友希は、手札にあるカード一枚一枚の効果テキストを読んだが……特に発動できるカードは無かった。

 

「えーっと、発動するカードは無いです」

「じゃ、メインフェイズだね!ここはモンスターを召喚したり魔法・罠を伏せるか使うか、モンスターで戦う前の準備が出来るんだよ。じゃあ早速、モンスターをそのまま前列の場に出す『通常召喚』をしてみようか!――あ!『通常召喚』が出来るモンスターは、レベル……星の数が4個以下でないといけないから、そこだけ気をつけてね!」

「レベル5〜6の上級モンスターを通常召喚するには自分の場のモンスターを1体、レベル7以上のモンスターは2体を『リリース』、つまりコストとして墓地に送らないと通常召喚は出来ないんだ。『アドバンス召喚』というのだが……『レベル4以上を出すにはコストが要る』くらいの認識で良いよ」

「はいっ!では……」

 

 次々と飛び出してくる専門用語を必死に脳に刻み込みつつ、最初に手をかけた《ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン》のカードから指を離し、どれを出そうか迷う友希。瑛子が再び助け舟を出す。

 

「では、このカードを場に縦向きで出してみよう。『通常召喚』は表側で縦向きに出す『攻撃表示』と裏向きで横向きに出す『裏側守備表示』で出せるんだ。表側の守備表示では出せないから、気をつけてくれ」

「え?でも、このカード、攻撃力が……あっ!成る程!だからコウゲキヒョウジで出すんですね!」

「飲み込みが早いね、木更津さん。では、攻撃表示で召喚する時はカード名を宣言して出すんだ」

「は、はいっ!《青き眼の賢士》を攻撃表示で召喚します!」

 

《青き眼の賢士》

⭐︎1/光属性/魔法使い族/ATK 0/DEF 1500

 

 召喚されたのは、青い瞳を持つ優男のモンスター。攻撃力こそ0だが、一新された《ブルーアイズ》デッキの初動ともなるカードだ。

 

「《青き眼の賢士》の効果を発動します!えーっと……光属性で、レベル1の……ちゅー、なー?を手札に加えます!」

「チューナーというのは、『シンクロ召喚』と呼ばれる特殊な召喚方法に必要なモンスターだ。このテキスト自体に効果がある訳ではないから、そういう種類のモンスターが居るとだけ覚えてくれたら良いよ」

「は、はいっ!」

 

 固く頷き、友希はデッキのカードを探る。

 

「では、このカードを手札に加えようか。ここから動き出すのが、このデッキの基本的な動きだからね」

「分かりました。――手札に《白き乙女》を加えます!」

 

 手札に加わったのは、何処か友希に似た銀髪の女性が描かれたカード。ほぅ、と由香里は目を丸くする。

 

「では、先ほど手札に加えた『これ』の効果で、このカードを持ってこようか」

「はいっ!手札から《白き乙女》を捨てて効果を発動します!……デッキから《真の光》を表側で置きます!」

 

 友希は後列の真ん中に赤紫のカードを置いた。白龍の乙女が身を投げて置いた石板。新生《ブルーアイズ》カテゴリのリソースを司る一枚である。

 

「おお!早速ブン回りって訳だね!」

「木更津さんはカードに愛されているようだね。では《真の光》の下段の効果を使ってみよう」

「はいっ、《真の光》の効果を発動します!えーっと……同じ種類が無い、えー……魔法・罠カードを伏せます」

「さっきも説明したけど、一応補足ね。魔法・罠はモンスターやプレイヤーを補助するサポートカードだよ。モンスターの通常召喚と違って、1ターンに何回でも使えるの。緑色の魔法カードは基本的に自分のターンで使うもの、赤色の罠カードは一度セットしないと使えないけど相手のターンで発動するものが多いよ。狩りの時にトラバサミやカゴの罠を置く風にイメージすると分かりやすいかな」

「○ンハンとかでシビレ罠を設置する感じですね、分かりやすいです!」

 

 友希に褒められてテヘヘと頭をかきながら笑う由香里。

 

「よし、ターンを続けよう。今伏せたカードを発動してみようか」

「はい!《青き眼の祈り》発動します!手札の《ブルーアイズ・ジェット・ドラゴン》を捨てます!」

「……手札から出せない《ジェット》を即座に捨てるとは、木更津さんはセンスがあるね。では、このカードと……これを手札に加えようか」

「はい!《青眼龍轟臨》と2枚目の《青き眼の賢士》を手札に加えます!」

「――一応補足しておくと、稲妻のようなアイコンのついた魔法カードは『速攻魔法』と言ってね。伏せさえすれば罠カード同様に相手ターン中にも発動出来る。ただし、伏せた場合そのターン中には使えないから、気をつけてくれ」

 

 瑛子の解説に頷くと、友希は手を泳がせた。次の手に迷っているようだ。

 

「よし、じゃあここから、『エクストラデッキ』からの特殊召喚方法を紹介していこう。まずは一番簡単な『リンク召喚』からだ」

「と、特殊召喚……?」

 

 またも飛び出す専門用語。実物のカードが手元に無かったら、友希の脳はとっくにパンクしていただろう。

 

「特殊召喚は、1ターンに1度だけの通常召喚とは別の召喚でね。特殊召喚は1ターンに何回でも出来るんだよ」

「『遊戯王』は主にこの特殊召喚を使って、いかに素早く強力なモンスターを場に出せるかが鍵になっている。その内の一つが先程言った『リンク召喚』だ」

 

 瑛子は友希のエクストラデッキを手に取り、カードをまさぐる。友希もカードを覗き込んだ。

 

「『リンク召喚』は、決められた数と条件のモンスターを墓地に送って、エクストラデッキから特殊召喚する方法だ。リンク召喚に使う場合、右下の『LINK』の数値分のモンスターとしても扱える。この場合は――場の《青き眼の賢士》を素材に、これをこの『エクストラモンスターゾーン』に出してみよう」

「はい!《青き眼の賢士》を素材として《青き眼の精霊》をリンク召喚します!」

 

 エクストラデッキから友希から見て左側のEXモンスターゾーンに現れたのは、《青眼の白龍》を幼くしたような見た目の小さなドラゴン。攻撃力こそ300と貧弱だが、このカードの真価は別にある。

 

「ここで《青き眼の精霊》の効果を発動しよう、テキストに書いてあるカードを、手札に持ってくるんだ」

「はい、《青き眼の精霊》の①効果を発動します!えーと、光の……霊堂?を手札に加えます!」

 

 友希はデッキから一枚の魔法カードを手札に加える。描かれているのは、祈りを捧げる青き眼の信徒たち。

 

「フィールド魔法《光の霊堂》発動します!……えーっと置き場所は……『フィールドゾーン』で良かったですよね?」

「その通り。フィールド魔法カードはフィールド魔法ゾーンに置かれて、張り替えるか除去されるまでは残り続ける魔法だ。自分の戦うための舞台のようなものかな?」

 

 友希は先程由香里から教わった通りに、カードを本人から見て左上に置いた。肯定するように親指をぐっと立てる瑛子。

 

「ではそのまま《光の霊堂》の効果を使用しよう。《青き眼の精霊》を対象に効果を発動してみようか」

「はい!《光の霊堂》の効果を発動します!対象は《青き眼の精霊》!えー、デッキから通常モンスターを墓地に送って、そのレベル分……800ポイント攻撃力を上げます!」

 

 兄から預かったカードを墓場に置くのはやや忍びなかったが、カードの通りに処理を進める友希。これで《精霊》の真価を発揮する条件は整った。

 

「よし、では《精霊》の効果を発動しよう。そのカードをリリース――つまりは墓地に送って、墓地の《青眼の白龍》を特殊召喚するんだ」

「は、はいっ!《青き眼の精霊》をリリースして、効果を発動します!墓地から《青眼の白龍》を特殊召喚します!」

 

《青眼の白龍》

星8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500

 

 原作漫画に登場する立体映像化技術があれば、その美しい姿を現していたであろう白き龍。兄が託してくれたそのカードが、今は自分の為に戦ってくれているという事実が、友希には嬉しかった。

 

「では、《青眼の白龍》が特殊召喚された事で、墓地の《白き乙女》の効果を誘発させようか」

「はい!墓地の《白き乙女》の効果を発動し、このカードを特殊召喚します!」

「OK、対応なーし。どうぞ」

 

 友希も段々と手つきが慣れてきたようで、カードを操る手に迷いが薄まりつつあった。その様子に由香里と瑛子は満足げに頷く。

 

「では、《青き眼の祈り》を墓地から取り除いて効果を発動しよう。除外というのは、場でも墓地でも無い、再利用が難しい第3の場所……と大まかに覚えれば良い。そしてエクストラデッキから……これを装備するといい」

「わ、分かりました。《青き眼の祈り》で《真青眼の究極竜(ネオ・ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン)》を装備します!」

「そう、では続いて《光の霊堂》の効果で《青き眼の賢士》を通常召喚しようか」

「そうか、こちらの効果は回数制限が無いから、何度でも使えるんですね!」

「その通り。よく気がついたね」

 

 テキストを見て目を輝かせる友希に、軽く驚きを見せる瑛子。友希の頭の回りはそんなに悪く無いようだ。

 

「私は《霊堂》の効果で、《青き眼の賢士》をもう一度召喚します!」

「では《賢士》の効果では――このカードを手札に加えようか」

「わ、分かりました!《賢士》の効果で、《エフェクト・ヴェーラー》を手札に加えます!」

 

 これで友希の手札には追加の妨害が一つ加わる。由香里はだんだん染まってきたな、と言いたげな面つきで頷いた。

 

「続けて魔法カード《青眼龍轟臨》を発動します!えーと……じゃあデッキから《青眼の白龍》を守備表示で特殊召喚します!」

(デッキからの特殊召喚を即座に選ぶ、ゲーム自体が下手では無いみたいだな)

 

 友希の手に段々と迷いがなくなって来たのを見て、瑛子も満更でも無い様子だ。2体目の白いドラゴンが友希を守るように降り立つ。

 

「えーと、これで、『チューナー』が出たから……」

「そう、『シンクロ召喚』の準備が出来たわけだ。シンクロモンスターは、レベルの合計が出したいモンスターのレベルと同じになるように、場のモンスターとチューナーモンスターを条件に従い墓地に落として特殊召喚するんだ。――今回はレベル8の《青眼》が2体とレベル1の《賢士》《乙女》が居るから、レベル9を2体出せる。まずはこのモンスターを出してみようか」

「は、はい!私はレベル8の《青眼の白龍》とレベル1の《白き乙女》で、《青眼の精霊龍(ブルーアイズ・スピリット・ドラゴン)》をシンクロ召喚します!」

 

 現れたのは、《青眼の白龍》に良く似た純白のドラゴン。

 

「ではもう一体のレベル9モンスターをシンクロ召喚する前に、この《精霊龍》の③効果を使っておこうか。妨害を厚くするんだ」

「り、了解です!《青眼の精霊龍》をリリースして、効果を発動します!」

 

 白き龍が天に昇り、現れ出るは真の姿。

 

「《青眼の究極霊竜》を特殊召喚します!」

 

《青眼の究極霊竜》

星12/光属性/ドラゴン族/ATK3500/DEF4000

 

 スタッツ、効果共に《ブルーアイズ》デッキの妨害と制圧を司るエースモンスター。友希にはそのイラスト、数値とテキストが非常に頼もしく思える。

 

「しかし《精霊龍》の効果で特殊召喚したこのカードはエンドフェイズに破壊されてしまう……そこで、場のモンスターを使ってもう一体のレベル9シンクロモンスターを特殊召喚するんだ」

「了解です!場の《青眼の白龍》と《白き乙女》で、《蒼眼の銀龍》を守備表示でシンクロ召喚します!」

 

 場に現れたのは、《青眼の白龍》と良く似た銀のドラゴン。

 

「えーと、《銀龍》の効果を発動します!次のターン終わりまで、ドラゴンが効果の……対象?にならず?破壊されなくなりました」

「そう。『対象に取る』というのは、効果を発動した時に単数、もしくは複数のカードを選択する効果の事だ。『対象として発動』という記述があれば『対象を取る』、それ以外は『対象を取らない』くらいの理解でいい」

「やっぱり分かったような、分からないような……兎に角、エンドフェイズまで。《究極霊竜》の破壊を《銀龍》効果で耐えます!ターンエンドです!」

 

友希

LP:8000

手札:3

場:《青眼の究極霊竜》守《蒼眼の銀龍》守《光の霊堂》《真の光》

 

「よーし!じゃあ私のターンだね!ドロー!」

 

 由香里は楽しげにカードをデッキから一枚引く。同じ趣味の仲間を増やせそうで、嬉しくて仕方がないと言った顔つきだ。

 引いたカードを目にしつつ、由香里は少しの間考え込む。

 

(あんまりガチガチにやり過ぎて、結局止めちゃいましたーってなったら元も子も無いもんね。ここは基礎展開くらいは見せて、良い具合にプロレスしようかな)

 

「んー、スタンバイ、メインまで。手札から《Live⭐︎Twin キスキル》を通常召喚!」

 

《Live⭐︎Twin キスキル》

星2/光属性/サイバース族/攻 500/守 0

 

 由香里の場に出てきたのは、バーチャルYoutuberを意識したであろうコミカルなアバターをした赤髪の美少女モンスター。友希はその未知のカードをまじまじと見る。

 

「テキストが分からなかったら、対戦相手の了承を得て確認させて貰っても良いぞ。特に初めたてのうちは分からないカードしか無いから、フリーで遊ぶうちに少しずつ覚えていくと良い」

「はいっ!あの、効果を確認させて貰っても良いですか?」

「もちろん!このカードはね、場に出たら相方の《リィラ》を呼び出すカードなんだよ!」

 

 助け舟を出す瑛子と、友希の申し出を快諾する由香里。友希はそのカードを手に取ってテキストをじっくりと読む。どうにも《賢士》と同じように、基点になるカードなのであろうことは友希にも理解できた。

 

「テキスト見せてくれて、ありがとうございました!」

「OKOK!じゃあデュエル続行ね!召喚成功時《キスキル》の効果を発動するよ!」

 

 友希は場と手札のカードを見比べて逡巡し、

 

「ではそれに併せて、《究極霊竜》の②効果を使います!『カードの効果がフィールドで発動した時、発動を無効にし、このカードの攻撃力をターン終了時まで1000アップ』します!――これで良かったですか?」

「その通り。この『カードや効果の発動にさらに別のカード・効果の発動を重ねる事』を『チェーン』というんだ」

 

 友希の処理を見て満足げに瑛子が頷いた。幼い子供が自分の脚で立ち歩きを覚えた瞬間を目の当たりにした親のような眼差しである。

 

「なるほどね。りょーかい!対応ないよー。メインフェイズ続行ね」

 

 初動を潰されても露知らず、朗らかにカードを切っていく由香里。

 

「場に《キスキル》がいるので、《Live⭐︎Twin リィラ・トリートを特殊召喚!これに何かある?」

 

 友希は今し方由香里が横向きに置いたカードをまじまじと見た。ハロウィン風の装いをした青髪のアバターキャラを描いたイラストのカードには、よく見ると『フィールド上に《キスキル》モンスターが存在している場合、このカードは手札から特殊召喚できる』と書かれていた。

 

「いえ、発動したいカードは無いです」

「更に、場にレベル2モンスターが存在しているので、《スプライト・キャロット》を特殊召喚!」

 

 続いて場に出てきたカードは、電気エネルギー生命体のようなイラストをしたカードだ。あれよあれよという間に、由香里の場にモンスターが並んでいく。

 

「えーっと、対応ないです」

 

 友希は目をぐるぐる回しながら、ゲームの展開になんとか着いて行くので精一杯だった。

 

「よーし、じゃあ場の《リィラ・トリート》と《スプライト・キャロット》でリンク召喚!《Evil⭐︎Twin リィラ》!」

 

 先ほどまでのコミカルなアバターとは打って変わり、青髪の美少女怪盗キャラクターが描かれたカードが由香里の場に置かれる。

 

「《リィラ》の効果発動!場に《キスキル》が存在するので、君の《真の光》を破壊するよ!」

「そ、その効果にチェーンします!《エフェクト・ヴェーラー》!」

 

 《真の光》は場にある限り恒久的リソースとして機能するが、その代償として墓地に置かれた場合は自分の場のモンスター全てを破壊する。現状《銀龍》の効果でこのターン中のみであれば前面の破壊を免れる事は出来るが、割られるのは避けたほうが良いと友希は初心者ながら判断した。瑛子は友希の判断をじっと見守る。

 

「なるほどね、対応ないよ!ならメイン続行、場の《リィラ》と《キスキル》でリンク召喚!《Evil⭐︎Twin キスキル》!」

 

 青髪の美女怪盗と入れ替わるように現れたのは、対照的な赤い長髪をし、悪戯坊主のようなスマイルを浮かべる絵をした、これまた美少女怪盗のカード。

 

「えーっと、これは対応ないです」

「では《キスキル》効果発動!墓地の《Evil⭐︎Twin リィラ》を特殊召喚するよ!」

 

 再び場に現れるクール担当の青髪少女。目まぐるしく入れ替わるカードに、友希は半分目を回しかけていた。

 

「これは……対応ないです」

「よーし、じゃあ場のリンク2《キスキル》とリンク2《リィラ》で合計リンク値4!リンク召喚!《Evil★Twin's トラブル・サニー》!」

 

《Evil★Twin's トラブル・サニー》

リンク4/光属性/悪魔族/攻3300/リンクマーカー:上/左/右/下

 

 場に置かれたのは、ツインテールの小柄な少女とお目付役と思しき高身長の美少女がペアになったカード、いきなりの大型モンスター登場に、友希は目を丸くした。

 

「よーしそれじゃあ、バトルフェイズに入るよ!《トラブル・サニー》で、《銀龍》を攻撃!」

 

 《銀龍》の耐性効果は、戦闘による破壊は防ぐ事が出来ない。友希にとって頼もしく見えた銀のドラゴンはあっさりと破砕された。

 

「わ、分かりました。銀龍は破壊されます……」

 

 名残惜しげに銀のドラゴンを墓場に送る友希。しかし由香里は攻撃の手を緩めない。

 

「じゃあ、バトルフェイズ続行ね!《トラブル・サニー》効果発動!自身をリリースして《Evil⭐︎Twin キスキル》《Evil⭐︎Twin リィラ》を特殊召喚っ!」

 

 再び場に舞い戻る怪盗コンビに、友希は首を傾げた。

 

「あれ?でも攻撃力は……」

「そそ、このままだと《究極霊竜》を突破出来ないんだけど……墓地の《トラブル・サニー》を除外と、デッキから《Evil★Twins キスキル・リィラ》を墓地に送って効果発動っ!《究極霊竜》を墓地に送るよ!」

「え!?『破壊されない』って『墓地に送る』効果は防げないんですか!?」

 

 カードゲーム固有の用語の違いに、文字通り目を回す友希。瑛子が慌ててフォローを足す。

 

「あー、これがややこしい所なんだが、『墓地へ送る』というのは『破壊』によってカードが墓地に送られる事以外にも、『手札を捨てる』『リリースする』という、カードを墓地に移動させる事の総称なんだ。『破壊する』と書いてあれば破壊、『墓地に送る』と書いてあれば墓地に送る……みたいな、ざっくりとした覚え方で今はいい」

「――やっぱり分かるような、分からないような……とにかく、《究極霊竜》を墓地に置きますね」

 

 今日初めて触ったばかりなので仕方がないとはいえ、友希には違いがよく分からなかったが……友希は半ば言われるがままに処理を進める。

 

「じゃ、バトルフェイズを続けるよ!まずは《Evil⭐︎Twin キスキル》で、ダイレクトアタック!場にモンスターがいなければ、プレイヤーを直接攻撃出来るよ!」

「わわっ!そうだった!」

 

 ガラ空きの場にモンスターが襲い来る事で慌てる友希。瑛子がすかさずセコンドに入る。

 

「木更津さん、《真の光》はまだ使えるよ!」

「そ、そうでした!《真の光》効果発動して、墓地から《青眼の白龍》を特殊召喚します!さらに《白き乙女》の効果が誘発して、そちらも守備表示で出します!」

 

 友希を守るように現れる白き龍と乙女。由香里はしばらく考え、

 

「んー、じゃあ巻き戻しが発生だね。《キスキル》攻撃は中止して……《リィラ》で《乙女》にアタック!」

「そ、そうだ!《乙女》の効果が発動します!墓地にある2体目の《青眼の白龍》を特殊召喚します!」

 

 青髪の怪盗の攻撃は容赦なく白い祈り手を葬ったが……返しのターンで報復せんとする2体目の白き龍が場に現れた。

 

「そして、《乙女》が破壊された事で、《ジェット・ドラゴン》の効果を発動します!このカードを特殊召喚します!」

「成る程ね。よーし、じゃあメイン2!《キスキル》《リィラ》を墓地に送って、《Evil★Twins キスキル・リィラ》を特殊召喚!《キスキル》《リィラ》が墓地に居るので、攻撃力は4400だよ!」

 

 先ほどまでの怪盗コンビがペアになったイラストのカードが由香里の場に現れる。普段の展開ではなかなかお目にかかれないが、絵的に映えるという理由で由香里がチョイスしたのだ。その圧倒的なスタッツに友希は圧倒される。

 

「《キスキル・リィラ》の特殊召喚時効果発動!『相手は自身のフィールドのカードが3枚以上の場合には、2枚になるように墓地へ送らなければならない』!」

 

「これも『墓地に送る』だから『破壊』じゃないんですよね。――《青眼》と《ジェット》を墓地に送ります」

 

 《トロイメア・ユニコーン》で《真の光》を狙おうかと由香里も考えたが、絵的な格好良さとティーチングを重視して敢えて見送った。

 

「私はこれで、ターンエンドだよ!」

 

由香里:LP8000 手札2

場:《Evil★Twins キスキル・リィラ》(攻撃力4400)攻

 

 由香里はにこやかにターンを渡す。友希は手札のカードを見て、次の一手を考えた。

 

(何とかついて行ってるけど、あの強いのを退かせないと、こっちがやられちゃう。今の手札に直接除去するカードは無いし、向こうのモンスターより強いカードを出す手は無いから……)

 

 次のドローが正念場だ。あまりもたついても、さっきのように連続のリンク召喚から畳み掛けられてしまうだろう。

 

「私のターンですね。ドローフェイズ、ドロー!」

 

 友希は引いたカードを見て、少し考える。

 

(あ、でもこのカードを出して、あのカードを直接出して、墓地に落とせば……や、やってみよう!)

 

「あ!あの、店長さん?さっき山城さんが少し教えてくれたんですけど、『エクシーズ召喚』?は、レベルが同じカードを重ねる……で良かったですか?」

「そう。同じレベルのカードを重ね、その上に置くんだ。エクシーズモンスターにはレベルの概念が無いのが特徴だ」

「あ、ありがとうございます!スタンバイからメインフェイズ!《真の光》効果で、《青眼の白龍》を特殊召喚し、《白き乙女》の効果を誘発して、守備表示で出します!」

 

 少年漫画に出てくる主人公のように、何度倒れても現れる白き龍と祈り手の乙女。友希の目にはまるで守護騎士のように映った。

 

「更に手札にある3枚目の《青き眼の賢士》効果を《乙女》対象に発動します!」

「んー、OK。対応ないよ」

「なら《乙女》効果発動し、墓地の《賢士》を特殊召喚、《賢士》の処理で、3枚目の《青眼の白龍》を特殊召喚します!」

 

 友希の場に並び立つ3体のドラゴン。兄と自分を繋げるそのカード、友希は初めてその真価を目の当たりにしたような気がして、湧き上がるものを感じていた。

 

「凄いね木更津さん、海馬瀬人みたいだよー!」

「あ、ありがとうございます?」

 

 由香里の称賛によく分からず返答する友希だったが、まだ手を緩める気配はない。

 

「メインフェイズ1、手札の《ネオ・カイザー・シーホース》効果を発動します!」

「おっけー!対応ないよ!」

「このカードを特殊召喚します!そして、《ネオ・カイザー・シーホース》の効果で、自身のレベルを3にします!そして、《青眼》と《ネオ・カイザー》、《賢士》で、シンクロ召喚!2体目の《青眼の究極霊竜》を攻撃表示でシンクロ召喚します!」

 

 先程引き当てた2()5()t()h()()()()()()()()()()《究極霊竜》を縦向きで場に出す友希。その輝きに由香里も瑛子もおおっ、と圧倒される

 

「おっけー、ここも対応なし!」

「では、《ネオ・カイザー・シーホース》の③効果で、《深淵の青眼龍》をデッキから墓地に送ります!そして、《青眼の白龍》2体で、エクシーズ召喚!《藍眼の銀龍》!」

 

 友希のフィールド左端に現れたのは、先程出した《蒼眼の銀龍》に良く似たモンスターだ。良くイラストを見ると、細部のディテールや筋肉量などが異なっている事が分かる。

 

「そして、《藍眼》の効果発動!相手フィールドの表側表示カードの効果を無効にします!」

「おっけー分かった!《キスキル・リィラ》は攻撃力2200に戻るよ!」

「そして、《藍眼》のエクシーズ素材?を取り除き、墓地の《青眼》を対象にして効果を発動します!そのモンスターを特殊召喚し、攻撃力を1000上げます!――えっと、この処理で間違って無いですか?」

「完璧だね、木更津さん。何処に出しても恥ずかしく無いカードゲーマーぶりだよ」

 

 褒められているのか良く分からない瑛子の太鼓判に、困った笑顔で返す友希。

 

「最後に、墓地の《深淵の青眼龍》を取り除いて効果を使います!場のレベル8以上のドラゴン族モンスターの攻撃力を1000上げます!」

 

《青眼の白龍》ATK:3000→4000→5000

《青眼の究極霊竜》ATK:3500→4500

 

 次々と力を高めていく友希のドラゴン達。これで反撃の布陣は整った。

 

「メインフェイズを終了して、バトルフェイズに入ります!」

「よーし!ばっちこーい!」

「攻撃力4500になった《究極霊竜》で、《キスキル・リィラ》を攻撃します!」

 

 同族が与えた加護で力を増幅させた究極のドラゴンは、瞬く間に怪盗ペアを粉砕してしまった。

 

由香里:LP8000→5700

 

「うーん、ここは墓地の《リィラ・トリート》除外して、《藍眼の銀龍》を対象に効果を発動するよ!」

 

《藍眼の銀龍》ATK4000→1700

 

 ハロウィンのお化けが放つ悪戯は、銀のドラゴンを縛り力を弱める。ブルーアイズ名称でない為、《真青眼の究極竜》の墓地効果でも守れない効果だったが、友希は構わずバトルを続行する。

 

「構いません!バトル続行します!《藍眼の銀龍》で攻撃します!」

「ぐぇーっ!やっぱりそうだよねーっ!」

 

 由香里:LP5700→4000

 

「そして、攻撃力5000の《青眼の白龍》で、プレイヤーを直接攻撃します!」

 

 友希が最後の攻撃命令を放つ。原作『遊⭐︎戯⭐︎王』の『ソリッド・ビジョン・システム』が存在すれば、美麗な白き龍がブレスを放つその様を克明に映し出していただろう。

 

「うわーっ!やーらーれーたー!」

 

 由香里はむしろ『やり切ったぜ』と言わんばかりの(無論、周囲の迷惑にはならないレベルではあるが)オーバーリアクションで両手を上げ、降参の意を示したのだった。

 

由香里:LP4000→0

 

***

 

「――とまぁ、以上が大体のゲームの流れだよ!一戦やってみてどうだった?」

 

 由香里が目を輝かせながら友希の顔を見る。友希も釣られて笑みが溢れた。

 

「最初は良く分からなかったけど……兄さんのカードを沢山使えたし、山城さんも手加減してくれたみたいですし、店長さんも親切に教えてくれて、凄く楽しかったです!」

「うぇ!?さ、サーテナンノコトカナー?」

 

 露骨に動揺する由香里が、友希にはひどく可笑しくて、さらに笑いが込み上げてくる。

 友希にとってカードゲームは未知の存在だったが、こうやって楽しい経験を共に分かち合う事が本質であるのだな、という事は初心者ながらに理解できた。友希は共に戦ってくれたカードの束を胸元に優しく抱きしめる。

 

「すみません、今日はそろそろ帰らないと、なんですけど……あの……良かったらまた対戦してもらっても良いですか?」

「もっちろん!いつでもばっちこーい!だよ!」

「当店としても木更津さんのようなマナーの良いお客様は大歓迎だ。またいつでも遊びにおいで」

「ありがとうございますっ!お疲れ様でした!失礼します!」

 

 友希は由香里と瑛子に深々と頭を下げ、店を後にした。気がつけばもうあたり一面は真っ暗闇になり、街灯の灯りが道を細々と照らしていた。しかし、友希の心は真夏の太陽が差す真昼のように晴れ渡っていた。

 

***

 

「ふぅ……」

 

 日課である髪の手入れを終え、友希は自室のベッドに仰向けで身を投げ出した。

 ふと視線を右に向けると、由香里から貰ったデッキケース。

 

「――あんな風に向き合って友達とゲームするって、最近なかなか無かったなぁ……」

 

 ひとりごちると、デッキケースからスリーブに包まれたカードを取り出し、一枚一枚を眺めていく。自然と友希の顔が綻んでいった。

 ふと一枚のカードに目を止める。兄から預かった《青眼の白龍》のカード。

 兄に預けられ、使い方も良く分からなかったものだが、遊び方を改めて教わると、そこに書かれている数値もフレーバーテキストも、何もかもが違って見える。

 考えてみれば、友希は今まで趣味らしい趣味に打ち込んだ事がなかった。友人に合わせて流行りのスイーツを食べたり、ソーシャルゲームを遊んだりしたことはあるが、こういった趣味で熱中したり、盛り上がったりした事は思い返してみる限りでは無かった。

 

(……明日もあのお店、やってるのかな……?)

 

***

 

「おっす店長!いつものひとーつ!」

「はいはいいらっしゃいいらっしゃい、新弾3パックねー」

 

 翌日の下校時刻。由香里の元気な挨拶に、店長は苦笑いで返答し、奥の棚から由香里曰く『ショバ代がわり』らしいパックを取り出す。“パインゲームス”いつもの光景だ。

 

「昨日はティーチングお疲れさん、加減してくれてたんだろ?」

「本人気づいてたけどね、まぁ最初にカード触る人に誘発ガンガン投げて萎えさせてもちょっとアレかなーと思ってさ」

「そういう配慮が出来ない人材もいるのが、紙しばき界隈だからさ。由香里ちゃんみたいな人は貴重なワケよ」

「いやー、それ程でもないっすよ、でへへへへ」

 

 瑛子の世辞に対して照れ笑いを浮かべる由香里。

 

「今日もあの子、来てくれると良いんだけどなぁ」

「そうだな、若い新規っていうのはどのゲームでも貴重なもんさ」

 

 何処か諦念半分、期待半分のような声を由香里と瑛子が漏らすや否や、表玄関の自動ドアが開く音がした。

 即座にそちらに向き直り、「いらっしゃいませー」という定型句と共に営業用の顔つきを作る瑛子だったが。

 

「おや?私の心配は杞憂だったかな?」

「ほ、ホントだよ店長!来てくれたんだ!」

 

 瑛子と由香里の前には、制服姿の友希の姿。その表情は期待に輝いているように見えた。

 

「あ、あの……今日も来ちゃったんですけど、今日はデッキを強くしたいなーと思って。色々教えてくれないですか?」

「も、勿論だよ木更津さん!店長、青眼ストラクのシングルって置いてるかな!?」

「まだショーケース内に入ってるから、探すと良いよ。デッキを組み終わったら、あそこのデュエルスペースで対戦してみると良い」

 

 友希を興奮を抑えられない表情で案内する由香里と、何処か嬉しそうな瑛子。

 そんな2人を前に友希は満面の笑みで言うのだった。

 

「――私、デュエルがしたいですっ!」

 

 〜完〜


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