ごく僅かな人間に
それと前後して、不安定な神が人間に憑依し歪な形で欲望を加速させる存在が現れ始める。
そんな中、ドッグタグに書かれた自らの名前のみを当てに各地を旅する青年がいた。
「──とっとと叩き斬ってやる」
※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい。
どうして?どうして、そんな事を言うの?
自分はただ、
「お前が、お前さえ──いなければ、彼女はっ!!」
お父さん?何をしようとしてるの?
やだ、やだ、やだ!
誰か、お父さんを止めて…
自分を助けて…
「泣き叫ぶな、この厄神が……!」
お父さんが何かを振り下ろしたように見えて、それから──
──現代
橙の髪に赤いメッシュ、赤い目の青年のテントの近くにいた鴉はふと辺りを見回すと何処かへと飛んで行った。
「飯取られなかっただけ、多少はマシか」
青年はそういうと胡座をかいて、広げていた朝食に手をつける。
青年の近くに雀が現れ、辺りを小さく飛び回る。
「……食うか?」
青年が雀の方に食べていた途中だったおにぎりを向けると、雀はそれを少し啄んで食べる。
「食ったら行くか」
少しして雀はどこかへと飛んでいき、その後に青年も食べ終わる。
先ほどまで手をつけていた一式を片付け、近くに置いてあるバッグを確認し、それを手に持つと青年はその場から立ち去る。
背中についた鞘から見える剣の柄に、少し触れながら。
*
──とある高層アパートの一室
「どうして、どうしてなのよ…」
部屋の主である女性は順風満帆…だった、先ほどまでは。
約束された将来、決まりきった成功、変わらない普通。
にも関わらず、それは簡単に崩れたのだ。
女性が手元で見ていた携帯にあるメッセージにはこう書かれていた。
『君とはもうやっていけない。双方には話をつけておく。婚約破棄の手続きは此方で済ませておくから、すっぱりこの関係性は終わりにしよう』
「何がダメだったの?」
幾ら自問自答しても、答えは分からない。
女性として人並みの事、婚約者として求められる事は大抵やってきた。
他の女が見つかった?
それともまだ足りない?
「なのに、なのに…」
─ねえ、そこの貴女?
「?!」
自分しかいない部屋に、自分ではない声が響いた気がした。
─貴女、私とそっくり。
自分から惚れて、嫉妬深くて…でも負けず嫌い。
その声が何かを見透かしているような気がして。
「な、何よ!?あんたに私の何が……」
でも、聞き入れてしまいそうな魔性があって。
─捨てられるのが怖いんでしょう?
自分の愛が嘘じゃないって思いたくないんでしょう?
─なら、手伝ってあげる。少しだけね?
私の、とびっきりの、火山さえ噴き上がるような愛と熱で!
「てつ、だう…?」
女性にとって、それは間違いなく魅力的な提案だった。
─嘘じゃないわ。私は貴女に力を与えてあげられる、貴女は望みを叶えられる。
悪くない提案でしょう?
「えぇ、そう…ね」
声の主の目的は分からない。
けれど、その言葉に嘘はないように感じた。
─ありがとう、貴女の体…
「ぇっ…ぁ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!?!」
同時に全身がとんでもなく熱を帯びたように思えた。
マグマのような愛が、昂る怒りの熱が、猛るように暴れる何かが、女性の中で生まれつつあった。
─さぁ、踊りましょう。
あぁ、でも貴女の名前をきちんと聞けなかったのが申し訳ないわね……
その言葉とほぼ同時にその部屋から噴火のような光と熱が一瞬発生すると、女性は部屋から姿を消していた。
*
──県境近くの歩道
橙の髪に赤いメッシュと目の青年は変わらず歩き続けていた。
「…こんな旅を続けたところで、俺に当てなんてあるのか」
道行く人は青年の背中に見える柄には気づきつつも、青年を意識しないように、避けるかのように通り過ぎていった。
彼は旅の中でそんな視線には慣れつつあったのか、周囲を見る事はあっても、一瞥する程度だった。
しかし、何事にも疑問を抱いて問いただす存在は少なくない。
「君、ちょっといいか?」
「…あ?」
青年に声をかけたのは近くの交番にいた警察官だった。
「背中のそれ、何?」
「……あんたには関係ない」
「とりあえず、お名前だけ聞かせて貰っていいかな?」
「…
「職業は?」
「…特に何も。旅はしてるが」
「フリーターさんね。年齢は?」
「…18。多分」
「多分?…親御さんはどうしたの?」
「……親なんて知らない」
「?!」
青年──萩はそう言いつつ、手首近くに着けているドッグタグを見せる。
ドッグタグには「R394 輝夜蒔萩」と書かれていた。
「どこで生まれたのかも、親がいるのかいないのか…俺は何も知らないし、分からない。…だから、これが俺にとっては現状唯一の存在証明」
「なるほどね。それじゃあ、背中のやつ見せて貰ってもいいかい?」
「…ん」
萩は背中の鞘に仕舞われている剣の柄に触れると、それをゆっくりと抜刀する。
が、そこには
「刀身がない…!?」
「……もういいか」
「あっ、あぁ…。すまなかったね、引き止めてしまって。…気をつけるんだよ、1年前に大きな災害が少し落ち着いたとはいえ…」
「言われなくても」
萩は剣を鞘に納刀し、警察官に一瞥してから再び歩き始めた。
警察官はそんな萩を見送りつつ、不安げに呟いた。
「親もいないなんて…そんな事、あるわけないだろうに。それにしても、あの柄…パーティグッズか何かだったのか?」
*
街中で、炎と雷を纏った女神像のような何かが踊るように歩きながら、声を上げていた。
人々はどこかその炎と雷が自分達に振るわれるのではないかと恐れているものの、それを顔に出す事はなかった。
『あぁ、あの人はどこかしら…。早く見つけて、取り消して貰わないと…』
何かは人混みの中に
歌に聴き入って気絶する者、魅力されてその存在の元へと向かう者、不幸中の幸いで歌の影響を受けずに逃げ出す者と様々だった。
だが。
『違う、違う、違う…!』
近づいた者の顔を見ると、何かはそれに向けて雷を落とし、炎で燃やした。
【な、何をして…っ?!私はそこまで──ぁ゛ぐっ゛!?!】
憑依されている女性は別のものに引っ張られるような感覚を覚えた。
力を与えてくれている、その声の主の感情と力に。
溶けて、解けて、融けていく。
『【許さない、許さない】』
あの人を見つけるまで。
『【他の男なんていらないわ!】』
だって、こんなに愛してるんだから。
*
──個人診療所「サルス」
郊外にある小さな診療所の中で、白衣を着た茶色の左肩に結んだルーズサイドテールを垂らした紫色の目の女性が、椅子に座っている子供の診療を終えて、聴診器を首元にかける。
「…これで治療は終わりです。お疲れ様でした」
「今日で定期診療は最後ですか?」
「はい。もし心配な事があれば、頃合いを見てまた来て頂ければ大丈夫です」
「ありがとうございました。……ちひろ〜、帰るよ〜」
「ん、うん。…またね、いさぎお姉ちゃん!」
女性は入り口まで親子を送り、姿が見えなくなるまで見送ると所内に戻ろうとする。
「…おや?」
女性は診療所の入り口近くで倒れている青年に気づくと、担ぎ上げて中へと連れていく。
少し揺れたドッグタグには「R394 輝夜蒔萩」と書かれていた。
*
女性と声の主が混ざり合った存在は変わらず踊るように炎と雷を発生させながら、
これも違う、あれも違う。
どうして?どうして?
早く会いたいのに、愛しているのに。
大好きなのに、まだ見つからない。
自分以外の誰かと一緒になるなんて認めなくないし、なにより──
早くこの
*
──「サルス」の一室
そこで萩はぼんやりと目を覚ました。
近くには白衣を纏い、茶色のルーズサイドテールに紫色の目をした女性がいた。
「…ん、ぅ…?」
「あぁ、良かった。目が覚めたみたいだね」
「……あんたは」
「
「……輝夜蒔萩」
「萩君ね。良かった、これでちゃんとカルテに名前が書ける」
「…
「いや、流石に患者本人からちゃんと聞かないと照合が出来ないし、本人という確証も取れないからね。ともかく良かった」
「…!」
「どうかしたのかな?」
萩は
「…処置したのか」
「あぁ。そこそこの数があったから、どうしたのかと思ったけど…しない方が良かった?」
「……いや、いい。生傷みたく見えるよりかはまだマシだ」
「ところで」
「なんだよ」
「お腹空いてないかな?もう直ぐお昼時だし、せっかくなら食べていっても…」
「流石にそこまで世話になるわけには……」
萩が断ろうとしたのと数刻遅れて、萩のお腹から腹の虫が鳴く。
「っ!!」
「大丈夫大丈夫。この診療所は私しかいないから。…ちょっと待ってて、用意してくるよ」
「…あぁ」
裏手へと姿を消すいさぎを見送り、萩は呟く。
「……妙な奴だ」
萩はドッグタグを見ると、窓の外を遠く見ながら少し溜め息を吐いた。
*
──街中
「はぁ、はぁ…っ」
声の主の声が聞こえなくなったのと前後して、女性は元の姿に戻っていた。
だが、体が思うように動かない。
女性は地面に倒れ込むが、携帯を取り出すほどの力もなかった。
「…だ、れか……」
頭がぼんやりして、何も考えられない。
「貴女、大丈夫?」
声のした方を見ると、茶色の髪に紫色の目をした女性がいた。
「ぁ、わた…し……」
「呼吸が満足に出来ていないみたいだけど…少し横になった方がいいんじゃ?」
──この
「っ?!やっ、ぃや!私から離れないで…!」
「どうしたんだ、一体?」
女性の声が遠くなる。
ぶり返した感情が、意識を現実へと引き戻す。
──だって、貴女…この娘より
「それなら!言ってくれた事はどうなるの?!手伝う、って…」
──それはそれ、これはこれ。
弱い
「うそ、つき…ぃっ!!」
同時に女性の体から炎が猛り、雷が一瞬落ちた瞬間、その姿は変わっていた。
炎と雷を纏った、女神像のような何か。
全身と顔の殆どが炎と雷で覆われている為、その全容は掴めないものの、顔は泣いているようにも、怒っているようにも見える。
「怪物…?!」
ひさぎが炎をどうにか回避したのと同時にそれに気づいた人々が悲鳴を上げていた。
『その体、私にちょうだい。私と一緒に──【私が、私の事を優先してよ!捨てないでっ!!】』
そう言っていさぎに迫る怪物に向けて、突然風の刃のようなものが襲いかかる。
怪物はそれによって後退し、辺りを見回す。
「っ…!?」
いさぎは攻撃のあった方に目を向ける。
そこには。
「萩君…?!?」
僅かに透明な刀身が見える刀を怪物へ向ける、萩の姿があった。
*
「ちっ、飯の前だってのに邪魔しやがって」
「萩君、なんで…此処に」
「嫌な気配を感じたっていうのと、近くで悲鳴が上がってたからな。そしたら、あんたがいた」
「でも、幾ら君だけじゃ──」
「うっせえ。俺がなんとかしてやるから、代わりに後で飯多めに寄越せ。……下がってろ」
「あっ、あぁ……」
いさぎは萩に言われるまま、怪物から離れて萩と少し距離が離れた位置へ。
『邪魔しないで…あの子は強い体の子なの【私の邪魔しないで!!】』
「うるせえ神だ。……燃えそうなもんしかねえな、その上都会ときた」
萩は辺りを見回しながら、刀をしまい、赤いレコード盤のような物を取り出すとそれに向かって言葉を告げる。
「────」
赤いレコード盤から手を離して宙に軽く投げると共に、それは2つの装填スロットが見えるドライバーへと変化し、萩の腰に装着。
《レコードライバー!》
萩は絵馬のような物と筆ペンに似たものを取り出し、絵馬に書き込んでいく。
書き込まれた絵馬は自動的に小型化し、ドライバーに装填。
《カグツチ!》
辺りに炎による冥界のようなフィールドが発生、萩の背後に炎を全身に纏い、顔さえ見えない何かが現れる。
萩は背中の鞘に納刀していた刀を抜刀し、目の前に発生した赤みの橙色をした小さな札を刀で斬ると共にその言葉を告げた。
「
「──変身」
《
同時に背後にいた何かが萩を抱きしめ、萩の全身が炎に包まれる。
炎が消えると黒いアンダースーツを纏い、各部に溶岩が付いて砕けると、浪人のようにも、辻斬りのようにも見える赤黒い装甲が展開され、合着。
萩の顔部分に般若のような仮面が展開され、目の部分が大きく釣り上がって赤く光る。
最後に笠のような物が仮面の上部に装着、その上には小さな鬼の角が現れる。
更に手に持つ刀の刀身が出現し、銘が現れる。
銘は──
《獄炎!
《──神滅
炎を刀で飛ばし、萩は──否、神滅はその姿を現す。
「とっとと叩き斬ってやる、
*
「仮面、ライダー…?」
いさぎはその姿を見た瞬間、そう思ってしまった。
あまりにも、噂になっていた物とそっくりだったから。
神滅は怪物に向けて駆け出し、剣撃を喰らわせる。
『あつい、あつぃ…?!?』
「…お前も俺の炎が効くか」
神滅が刀身をなぞると刀は炎を纏う。
怪物は後退し、木片を複数出現させて神滅へと飛ばす。
が。
「…っ!」
神滅が木片に向けて斬撃を放つと、刀身の炎と木片内部に仕込まれていた爆発物が反応し、連続して空中で大きな爆発が発生。
『どこ、に…ぃ!?』
「──鈍い奴だな、お前」
爆発が落ち着いた後、煙の先にいると思っていた神滅は既に怪物の背後を取っており、更に追撃を喰らわせる。
『人間の癖に、生意気な…!』
「どっちにしても死ぬんだから一緒だろ」
怪物の雷撃を地面に突き刺した刀で吸収、向かってきたタイミングで蹴りを入れ、その瞬間に刀を掴んで炎と雷を纏ったそれで斬る。
『がっ?!』
「……弱いな。とっとと済ますか」
神滅は装填されていた絵馬の近くにある筆ペンで何かを空中に書くと、筆ペンが消える。
《必殺撃・
続いて装填していた絵馬を取り出し、刀の柄にリード。
《リード!迦具土!!》
刀身に炎を纏った何かが現れると共に、怪物を蔓のような物が拘束。
「はぁあああっ!!」
炎が猛る刀の一撃が、怪物を襲う。
刀身に出現した何かが怪物ごと炎に巻き込み、そのまま大きく爆発が発生する。
爆発の後、怪物が先ほどまでいた場所に女性が倒れ込む。
それと前後して神滅の元に1枚の記名された絵馬が飛んでくる。
《ペレー!》
「……また違うか。同じ属性なら多少は使いもんになるだろ」
呟きつつ、萩はいさぎの元へと足を進めた。
*
いさぎは倒れた女性の傍へ向かい、聴診器で確認する。
だが、何度確認しても。
呼吸も、心臓の音も、脈の流れも止まっていた。
「……死んでる」
「並大抵の奴じゃ、神の力に耐えきれない」
「萩君、でも他に手が…っ」
「──俺の力は
「っ?!」
「…いつもこうだ。どう足掻いても、禍威神になった奴は俺の炎じゃ、助けようがない」
「そんな…」
「ともかく。飯買ってから、食いつつ詳しい事は話す。…其奴はどうする」
萩は少しばかり、女性に目をやりつつ言った。
「…ご家族には連絡させて貰う。事情は君の話を聞いてからまとめよう」
「……分かった」
萩は女性を抱えると、一度いさぎと共に診療所へと戻った。
それを見ている2匹の鴉には気づかずに。
*
──それから、少しして
サルスにて、萩といさぎは昼食を食べつつ話していた。
「…つまり、私が遭遇した存在は禍威神と呼ばれる物で、具体的に出現するようになった時期は不明と」
「あぁ。だが、どいつも人間に憑依する奴が殆どだ。
「私の事を
「…あぁ、なるほど。そういう事か」
「だから、何が?」
「俺も詳しい事は知らないが、ごく稀に神の類やらを引きつけやすい体質の奴がいる。そういう存在は彼奴等にとって好都合な器だ」
「なっ…?!」
萩が間に合わなければ、自分もあの女性のようになっていた?
そんな考えが一瞬過ぎったいさぎを気にも留めず、萩は話を続ける。
「…ちょうどいい。お前が近くにいれば、俺としても手掛かりが見つかりやすいかもな」
「……居候する気?」
「別に頼まれれば仕事はやるが。…こんな成りだけどな」
「その態度は多少改善して欲しいけどね。…それなら、此方も条件を出そう」
「んだよ」
互いに昼食を食べ終え、いさぎは萩の方を見つめる。
「君の衣食住と安全は、私が保証する。代わりに此処での仕事を少しでもいいから、手伝って欲しい」
「…さっきも言った通りだ。そんくらいなら出来る範囲で手伝う」
「一応は相互監視も兼ねてるからね?」
「ちゃっかりした奴だな……お前」
「お前じゃなくて、せめて『いさぎさん』か『先生』でお願いね」
「考えてはおく」
「…それじゃ、よろしく。萩君」
「……あぁ」
*
──都内 某所
紫色のひとつ結びに橙のメッシュ、青い目の青年と水色のショートヘアに桃色の目をした女性は紺色の髪に黒目の男性と共にいた。
女性の近くには茶色と白のまだら模様の鳶がいた。
「
「これからアセトちゃんを軽く飛ばそうと思ってたんだけど〜?」
「トバセロ、トバセロ」
「
道摩と呼ばれた紺色の髪に黒目の男性は続ける。
「ヤクソクダゾ、ドウマ」
「ほいで、話って何さ?」
「まあ、ちょっとあの双子に手伝って貰うんだけどね。…フギン、ムニン。よろしく」
水色のショートヘアに桃色の目の女性──嵐は道摩に質問するが、道摩はそれを軽くいなし、傍にいた双子と立ち位置を変わる。
銀髪のミドルツインテールに青い目の少女と金髪のツインテールに赤い目の少女。
2人の姿を見た紫色のひとつ結びに橙のメッシュ、青い目の青年──狼戯は軽くため息を吐きつつ、疑問をぶつける。
「なんだってお前らが?」
「狼戯〜話は聞くもの。私達が優先、今は」
「フギン、今は揶揄う時間じゃない。見てきた事を話す時間」
「ごめんね〜ムニン。簡単に言うと、私達見てたの」
「見てたって何を?」
「炎を使った子。禍威神を君達が来る前に倒してた子」
「はぁっ?!…
「分からない。でも、出鱈目な火力だった。神殺しとか言ってた」
「無茶苦茶、無茶苦茶。禍威神ピンポイントだったから、まだ良かったの。安心安心」
狼戯の問いに金髪のツインテールに赤い目の少女──ムニンがそう返し、ムニンの言葉に銀髪のミドルツインテールに青い目の少女──フギンが続ける。
「でもその子、神と人間を分けるんじゃなくて、ハンプティダンプティみたいにそれごと割っちゃった。近くにいたお姉さんもびっくりしてた」
「相変わらず分かりにくいな、フギンの言い回しは…」
「器になった奴を殺したのか…?でも、オレ達の力じゃ、そこまではいかねえし」
「うん。だから、これは私達ヘイムダルが把握してない
「そもそも今の段階じゃ、有してるのかさえ定かじゃないもんねえ」
嵐が溜め息を吐きつつ、そう言う。
「……まぁ、そういう訳で。君達にはその2人に接触した上で保護して欲しい。出来れば、ここヘイムダルの東京支部にまで連れてきて貰うのがベストだけど。炎の力の彼と接触した彼女は
道摩の言葉に嵐の鳶──アセトがわざとらしく騒ぐ。
「マタハジマリソウ、アラシトロウガノケンカ」
「んだとトンビ野郎!アレは喧嘩でもなんでもねえって言ってるだろうが!」
「トンビじゃなくてトビ、あと女の子だから」
「うるせ〜!任務中に酒飲もうとした酒豪に言われたかねえわ!」
「アンタがそれ言うの、肉食好き」
「肉好きなのは因子のせいであって、それとこれとは関係ないだろ!」
「狼だし似たようなもんでしょ。北海道と東北担当の1人だし、あんた」
「オオカミ、オオカミ。オツキサマダイスキ」
「アセトお前まで乗るなぁ!!」
1匹と2人の会話を見つつ、フギンとムニンは呆れたように互いを見る。
「私達には関係ない」
「いつも一緒だもん」
「「ね〜」」
「でも、こうもうるさいと飛びたくなる」
「抜け出しちゃおっか、暁揶揄いに」
「様子を見に行くだけ。悪戯は程々に」
「「じゃあ、行こっか」」
フギンとムニンはそう言うと、どこかへと出て行った。
そんな様子に呆れる道摩の近くを銀髪の2つの三つ編みに茶色の目をした女性と、薄紫の編み込みが見えるロングヘアに薄ピンクの目、赤縁の眼鏡をつけた女性が通りがかる。
「全く……少しは協調性を持って欲しいが」
「あら、道摩さん。部屋の新調が必要です?」
「あー、シルキー。一応仮でいるかも、とだけ言っておくよ」
「道摩、あの2人のシステム周りは?」
「ガニエダ、一応調整を。2人の性分的に炎の子と戦う事になってもおかしくないからね…」
「あぁ、ついさっき見つけたっていう?分かりました、頑張ります。給仕する相手が増えるのは、私にとっては嬉しいので」
「シルキー、貴女は少し休みなさいよ…」
「屡々寝ずに調整してるガニエダさんには言われたくないです。…では失礼しますね」
銀髪の2つの三つ編みに茶色の目をした女性──シルキーはそう言い、奥へと姿を消す。
それを見送った薄紫の編み込みが見えるロングヘアに薄ピンクの目、赤縁の眼鏡をつけた女性──ガニエダは軽く頭を抱える。
「全く彼女は…。道摩さん、此方、サラさんから。極東支部関連の各支部のまとめです」
「ありがとう。…九州・沖縄担当の1人の渚君は?」
「かなり予定が遅れるとの事で。東京支部に着くのは数ヶ月程度遅れるとか」
「分かった。…相変わらず、中国・四国担当の彼女は見つからないまま…か」
「
「あぁ。随分前から行方不明だからね…無事だといいんだが」
「暁ちゃん、派遣します?」
「最近は関西も余裕が出てきてるとはいえ、今呼びつけるのはね…あの双子は相変わらず揶揄いに行ったけど」
「難儀な子ですよね、魔眼にゼウスそっくりな気質…。後見人は道摩さんでしたっけ」
「後の2つとも彼女が聞けば確実に凹むから、本人の前では言わないように」
「分かってます。…じゃ、またサラさんに連絡入れてきますよ」
「頼んだ」
道摩はガニエダを見送り、未だに口撃を続ける1匹と2人を見ると、懐からある物を取り出す。
「嵐、狼戯。これ以上不毛な争いを続けるなら──私の式神が君達の苦手な物か、嫌いな物になって襲いかかるけど?」
「それは勘弁、マジで」
「…道摩さんの式神は面倒なのでパス」
「ヤダヤダ、コワイノキライキライ」
「フェンリルとイシスの因子持ちの君達がそれを言うのか…。というか、何故アセトまで反応してるんだい?…ともかく、言った事は頼んだよ」
「了解」
「はーい。あたしがまとめるから、いい?」
「いやお前が仕切ろうとするなよ…行くかあ」
「おーっ!」
「ケンカ、キンシ!」
「お前が言うなアセトぉ!!」
2人と1匹を見送り、道摩は式神を一旦懐にしまう。
「因子の影響もあるんだろうけど、どの子達も…ね。それじゃ、私も仕事しようか。素直に応じてくれるかはともかくとして」
道摩が取り出した紙には「ヘイムダル所属戦士 拝名紙」と書かれていた。
伝承記録 零「ヘイムダル」
禍威神を撃破・平定する事を主として作られた組織。
世界各地に支部があり、特に神話やそういった伝承が残る地域には多く設置される傾向にある(日本では地方ごとに支部が置かれており、東京支部が日本/極東支部のとりまとめを行っている)。
人間が神に与える影響と、神が人間に与える影響を鑑みて、感応体質の人間などを保護する面もある。