TSロリエルフの稲作事情   作:タヌキ(福岡県産)

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 し、終末編……?




「ダンジョンで稲作をするのは間違っている」

 

 

 

『シャアアアアアッ!!!!』

「うぐ……ッ!?」

 

 火花が散る。

 甲高い金属音と耳障りな咆哮が絶えず響き、致死の刃が群れをなして僕の耳元を掠めていく。

 上級冒険者(レベル3)の動体視力を以てしても見極めるのが困難な()()()を、アイズさんたち一級冒険者に鍛えられた勘と経験でどうにか捌ききった。

 お返しに牽制として蹴りを放つものの、赤緋の鱗に覆われた相手の身体はビクともせず、なんの痛痒(ダメージ)も与えられていないように見える。

 蹴りの反動を利用して距離を取りつつ周囲に視線を走らせた僕は、予想だにしなかった異常事態(イレギュラー)と追い詰められる仲間たちに冷や汗をかいていた。

 肩で息をする僕とは違い、悠々と体勢を立て直す眼の前の怪物(モンスター)──赤緋の鱗に雄黄の眼が特徴の蜥蜴人(リザードマン)が、身体の各所に鎧を纏い、ダンジョンが生成した天然武器(ネイチャーウェポン)ではなく冒険者の遺品らしき直剣(ブロードソード)と曲刀を装備している事もそうだが。

 なによりも問題なのは、僕たちがこの状況に陥った直接の原因が、ギルドからの冒険者依頼(クエスト)で支給された地図に従った結果だということ。

 

 今現在、僕こと冒険者ベル・クラネルが、同じ【ヘスティア・ファミリア】の仲間達と共に()()()()()()()()()()()()と戦っているのは、迷宮都市オラリオの地下に広がる迷宮(ダンジョン)──その第20階層に隠されていた《未開拓領域》だ。

 

 

 

 どうしてこんな状況になってしまったのか説明すると、時間は少し巻き戻る。

 僕のために神様がとんでもない額の借金を背負っていることが判明したり、命さんと春姫さんが食事に使う豆腐の種類で大喧嘩したりと色々な騒動が起こる中、【ヘスティア・ファミリア】の団長となった僕は、団員も増えて本格的になった派閥(ファミリア)運営に四苦八苦する毎日を過ごしていた。

 そんなある日、ダンジョンでの冒険中にひょんな事から人類とは相容れない存在であるはずの怪物(モンスター)──竜女(ヴィーヴル)の少女、ウィーネを身勝手ながら保護してしまった僕は、神様や団員のみんなに多大なる心労を招いてしまう。

 冒険者の端くれとしてモンスターの脅威と危険性は身に沁みて理解している僕だけど、ダンジョンの隅で世界の全てに怯えた瞳で縮こまっていたウィーネは、モンスターだからと一方的に切り捨てるにはあまりにも無垢で()()()()()()()()()()()

 その事をリリやヴェルフたちも理解してくれたのか、最終的には派閥全体でウィーネを保護する事になった。

 

 とはいえ、神様たちが天界から降臨する前から続く人類とモンスターの闘争が生んだ《断絶》というのは深刻だ。

 

 もしウィーネの存在が都市(まち)中に発覚すれば、僕たちが後ろ指を指されオラリオを追い出されるどころか、最悪の場合ウィーネごと《人類の敵》として指名手配される──なんて事も起きかねない。

 という訳で、他の人たちには彼女の存在を知られないように匿っていたはずだけど、何故かギルドはウィーネの事を把握していて。

 ほとんど脅迫のような形で強制任務(ミッション)を下され、支給された地図に従ってダンジョン第20階層にやって来た僕たちを待っていたのは、文字通り前人未到の《未開拓領域》と、無数の《武装したモンスター》だった。

 

 閑話休題。

 

 などと回想していたのが仇となり、その隙を見逃さなかったリザードマンが、雄叫びをあげながら僕へと斬りかかる。

 まるで蛇のように地を這う勢いで低くした姿勢から放たれた一撃を間一髪《神様のナイフ》で受け止めた僕は、火花を散らして拮抗する刀身の()()に内心で舌を巻いた。

 これは得物の大きさどうこうの話ではない。

 単純に()()()()()()()()

 リザードマンではなく、僕が。

 

『シャアッ!! シュ、キシャッ!!』

「ぐっ、このぉッ!?」

 

 1合、2合と剣戟を交わす度に、勝負の天秤が相手に傾いていくのが分かる。

 負けてたまるかと気炎を吐いて地面を蹴りつけ、相手の懐に飛び込んでの白兵戦(インファイト)を挑むが、リザードマンはそれを読んでいたかのような軌道で直剣を振るった。

 はたしてどれだけの血を吸ってきたのか、鈍く光沢を放つ血錆の刀身と《神様のナイフ》がぶつかり合い──今度は拮抗すら許されず、僕の腕が虚しく弾かれた。

 まるで吸い込まれるように、僕の首筋へと刃が迫る。

 

「──お、」

 

 死を目の前に極限まで引き伸ばされた体感時間の中、鼓動を忘れるような緊張感の中で僕が選択したのは、敢えての()()

 

「お、ぉおお──ッ!!」

『シャッ!?』

 

 腕を弾かれた姿勢のまま背中から地面に飛び込み、歯を食いしばって背中の衝撃と痛みに耐える僕の眼前を血錆の刃が通り過ぎていった。

 これには流石のリザードマンも驚いたのか、剣を振り切るまでの一瞬、戸惑った様子で動きを止め──。

 

 僕はようやく生まれたその「隙」へと噛みつくように短剣二刀流(ダブルナイフ)で攻勢へと転じた。

 

 全身の血潮を沸騰させるかの如き怒涛の連撃(ラッシュ)

 全身の悲鳴を黙殺し、挫けそうな気持ちを叱咤して一撃でも敵に有効打を与えんと両の牙を振るう僕だったが、リザードマンはそんな僕を見て獰猛な笑みを浮かべ、グルリと身体を回転させた。

 戦闘開始から初めて見えた背中。

 その意図を理解出来たのは、胸を強かに打ちつけられて吹き飛ばされた後だった。

 

「ぐっ……うッ……!」

 

 尻尾だ。

 鎌首をもたげた蛇のように残心を見せるそれが、第三の腕となって僕を突き飛ばしたのだ。

 そうだ、相手はモンスター。

 人とは異なる体の造りなことくらい、身に沁みて分かっていたはずなのに!! 

 

「まるで、人みたいな……!」

『シァァ……』

 

 言い訳をするのであれば、敵の動き。

 下手すればそこらの冒険者よりも上手い「剣術」を繰り出す格上(あいて)を前に、僕は無意識で攻撃の予測を()()()()に留めてしまっていた。

 幸運にも致命傷は避けられたが、尻尾の攻撃を受けずにあのまま戦い続けていれば、すぐにその穴を突かれて死んでいただろう。

 ……いや。

 死んでいないなら、ここから取り返す。

 ひとつ息を吐き、意識してスイッチを切り替える。

 恐らく相手は同族(モンスター)の魔石を食らった《強化種》。

 能力値(ステイタス)に換算すれば、僕よりも遥かに──。

 

「リリ助、魔剣を使えッ!!」

「で、でも……!」

「構うなっ、やれぇ!!」

 

 彼我の戦力差をはっきりと認識したその時、リザードマンが壁となり分断されてしまった向こう側から、ヴェルフとリリの声が聞こえた。

 ダンジョン探索は言い換えるなら「リソース管理」と同義。

 パーティの司令塔として帰りの消耗も考えなければいけない中、強力だが消耗品でもある魔剣の使用を躊躇うリリの気持ちは痛いほど理解出来るが──そうやって奥の手を使わないまま息絶えるのは愚の骨頂だ。

 一瞬の後、覚悟を決めたリリの「撃ちます!」という宣言を合図(スターター)にして、僕は再びリザードマンへと吶喊した。

 いっそ踏み砕くつもりで地面を蹴り、一瞬で最高速度(トップスピード)へと至る。

 爆発的な加速によって景色が引き伸ばされ、幾筋もの線へと変わり後方へと流れ行く中、視界の中心に据えた赤緋色の姿だけはハッキリと見えていた。

 数秒、この数秒で全てが決まる。

 

「──勝負だッッッ!!!!」

『シイイィィッッッ!!!!』

 

 愚直なまでの突撃に、しかしリザードマンは()()()()()()ような気がした。

 互いの得物が戦場の薄闇を割いて銀光の軌跡を描き、時折火花が瞬いては残像を生む。

 相変わらず僕の攻撃はリザードマンに痛痒を与えることは出来ていない様子だが──()()()()()

 一対一の戦いに注力したい今だけは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()この状況も有利に働いていた。

 ヴェルフたちに襲いかかる他のモンスターは、リリの宣言を聞いた瞬間、まるで魔剣がどういうものか理解しているかのように、驚異的な反射神経で散開する。

 対するリザードマンは誤射(フレンドリーファイア)を狙っているのか、先程とは打って変わって積極的に攻め込んで来た。

 だから。

 

「【ファイアボルト】ォ!!」

『グッ……!?』

 

 僕はこれまで使わなかった手札(まほう)を切って見せる。

 リリが魔剣を振り切るよりも早く、【速攻魔法】の名に恥じぬ詠唱速度(スピード)で放たれた炎雷は、驚愕に目を見開くリザードマンの顔面へと直撃し。

 

『──オッ!!』

「ふざけろっ……!」

 

 だが、分厚い赤緋の鱗に阻まれ、大した有効打とはならなかった。

 真正面から炎雷(まほう)を受け切ってみせた怪物の強靭(タフネス)に心からの賞賛と畏怖を抱くものの、だからといって怖気づく訳にはいかない。

 負けられない! 

 奇襲で崩れた体勢を立て直そうとするリザードマン。

 僕は()の腹へ──頭をかち上げるように魔法を受けたせいでがら空きとなった腹へと、全身全霊の蹴撃を撃ち込んだ。

 

 チャージ3秒。

 

 高速戦闘中の【英雄願望(アルゴノゥト)】の並行使用は初めて。

 ウィーネを、仲間を守りたいという強い意志の下、強引に成立させた一撃が──。

 

「吹き、飛べぇッ!!!!」

『ガッッッ』

 

 直撃。

 白い燐光に包まれた必殺の蹴りに、リザードマンはたまらず後方へと吹き飛ばされる。

 

 リリが振り被った魔剣の射線上まで。

 

 次の瞬間、ヴェルフが魂を込めて打った一振りが、その刀身()に秘めた業火を解放する。

 短剣型の魔剣から生み出されたとは思えない炎の大瀑布が広間(ルーム)を席巻し、暗闇という暗闇を消し去りながらリザードマンへと襲いかかった。

 

『ルォ──やべっ」

『ア! タンボガッ!』

『ウワーッ! リリアニオコラレルッ!?』

 

 抵抗など出来るはずもなく、赤緋の奔流に飲み込まれるリザードマン。

 モンスターたちの悲鳴すら食らい尽くす勢いで炎は奥へ奥へと突き進み、射線上にある全てを焼き尽くし、やがて消えた。

 奥に水場でもあったのか、ジュウジュウと水の蒸発する音が響く中。

 炎の残滓が消え、地面に刻まれた轍の先──全身の所々を黒く焦がしたリザードマンが、爆発で出来上がったクレーターの中心へ、胎児(ヤムチャ)のように丸く倒れ伏す。

 倒せた、のだろうか。

 魔剣の威力に驚いて動きを止める《武装したモンスター》達を警戒しながら、僕はリザードマンを油断なく見据えてナイフを構える。

 まだ彼は魔石になっていない。

 モンスターは死ぬと身体が黒い粒子となって宙に溶けていき、存在の核である魔石を落とす。

 あのリザードマンにその現象が起きていないということは、つまり。

 

『シ、シュルルル……』

「う、まだ……立てるのか……!?」

 

 僕の蹴りとリリの魔剣が直撃したはずなのに、もはや反則(チート)級のタフネスだ。

 ……いや、どうやら彼も満身創痍らしい。

 リザードマンは気合と根性で立ち上がったはいいものの、そこで体力が尽きたのか尻もちをついてへたり込んでしまった。

 対する僕の方も全力での高速戦闘に【英雄願望】を使ったせいで精根尽き果てる直前といった有り様で、その事に気付いたヴェルフが助け起こしに来てくれた。

 

「ベル! 大丈夫か!?」

「な、なんとか……」

「あのリザードマンはもう戦えない、後は俺たちで何とかするから後ろで休んでろ!」

 

 そう言ってヴェルフが大剣を構え、動けないリザードマンの下へ向かい斬りかかろうとしたその時。

 満身創痍のリザードマンは、まるで人間が降参する時のようにゆっくりと両手を挙げて。

 

「──参った、降参だ!!!!」

「なっ」

「えぇ!?」

 

 僕達と同じ、共通語(コイネー)を話し始めたのだった。

 

 

 

 そして、そこからの展開はもう驚天動地の極みというかなんというか。

 ウィーネ以外にも《喋るモンスター》──異端児(ゼノス)と呼ばれる存在がいる事にも驚いたし、そんな彼らがダンジョンの各地に隠れ里を作って暮らしている事も十分驚愕に値することなのだけれど。

 

「ベルっち! (くわ)はもうちょっと腰を入れて振るんだ! 母ちゃん(ダンジョン)が許してくれるギリギリのラインを狙え!」

「はっ、はいぃ……!?」

「……まさか、ダンジョンで田起こしをする羽目になるとは思いませんでした……」

 

 一番の驚きは、彼らがダンジョンの中で《農業》を営んでいたことだろう。

 ついさっきまで剣を交えていたはずの蜥蜴人(リザードマン)──リドさんに指導されながら、何故かダンジョンの中で鍬を振るう僕の心にあるのはただ一言。

 

 どうしてこうなった???? 

 

 いや、不運にも僕たちが魔剣で焼き払った場所がリドさんたちの田んぼだった、という事情と責任を頭では理解してはいるのだけど。

 人間としての感情と、冒険者として培った常識が今の状況を受け入れてくれないというか。

 そもそも、なんでダンジョンに田んぼがあるんだろう? 

 モンスターと一緒に畑仕事をするという、常人であれば死ぬまで達成する事は無い貴重すぎる経験値(エクセリア)が貯まるのを感じながら、僕たちはリドさんに言われるがまま田んぼをせっせと掘り起こす。

 魔剣の炎で焼かれたせいか少し固くなっている土を耕す僕の向かい側では、やたらと立派な馬鍬を装着した海獣馬(ケルピー)が、僕の数倍くらいの早さで田んぼを掘り返していた。

 ……ちゃんと農具使うんだ、ここ。

 神様がこの光景を見たらきっと大爆笑するだろうな、などと現実逃避する僕の隣では、同じように遠い目をしたヴェルフと命さんが鍬を振るっていた。

 

「これは夢、質の悪い夢です……!」

「誠に残念ながら、ミス・リリルカ。これはれっきとした事実でございます」

「嘘だッ!! 喋るモンスターがダンジョンでお米作って暮らしてます〜、なんて風邪を引いた時に見る悪夢以外の何物でもありませんッッッ!!!!」

「そ、そう言われましても……」

 

 僕たちが作業を進める田んぼの外では、他のゼノス達に事情を説明されているリリが頭痛を堪えるように頭を抱えている。

 さもありなん。

 モンスターの中に実は喋ることの出来る個体がいて、彼らはダンジョンの各地で米を作りながら暮らしている──こんな馬鹿げた状況、リリと同じくこれは悪い夢だと信じたい。

 けれど悲しいかな、リドさんと戦った時に負った傷や打ちつけた背中の放つ痛みと熱が「これは現実だ」と残酷な真実を告げているのだった。

 

「──それでねっ、ベルがたすけてくれたんだよ?」

「そうですか、それハ羨ましイ。ベルさんハ本当ニ変わって……ごほン、お優しいのですね」

「うんっ」

「ウィーネ様ぁ……!」

 

 リリと小鬼(ゴブリン)が四苦八苦しながら情報共有を進める隣では、新たな同胞としてゼノスたちの歓待を受けるウィーネが、歌人鳥(セイレーン)のレイさんと楽しげに会話している。

 地上で匿っていた頃は、うっかり騒ぎを起こしてしまった事もあって笑顔が陰り始めていたウィーネ。

 そんな彼女が今、誰かに受け入れられて屈託のない笑みを交わせている──それは喜ばしいのだけれど。

 和やかな空間の直ぐ側では、ガチガチに緊張した春姫さんが一角獣(ユニコーン)黒犬(ヘルハウンド)といった動物系のモンスターに囲まれて匂いを嗅がれ、ウィーネに助けを求めていたのが少し可哀想だった。

 ひえぇ〜、と情けない悲鳴をあげる春姫さんを心の中で応援しながら農作業を進めていると、ついに命さんがリドさんへと問いかけた。

 

「その……り、リド殿、でよろしいのでしょうか」

「ああ、なんなら呼び捨てでいいぜ。命っち」

「命っち……いや、そこは今重要ではなくて。貴方達は何故、ダンジョンで農業を──それも、極東式の稲作を行っているのですか? ダンジョンには食料庫(パントリー)をはじめ、食料がたくさんあるはず。わざわざ農業をして糧を得る必要など無いでしょうに」

 

 それは、僕も不思議に感じていたことだった。

 いや、この場にいる冒険者全員が抱いた疑問だろう。

 元々人間が農業を行うのは、狩猟と同じく腹を満たすための食料を生産するためだ。

 対するモンスターは、ダンジョンの各地に点在するパントリーで食事をする様子が確認されていて、僕もリリ達と一緒にその光景を見に行ったこともある。

 つまり、()()()()()()()()()()

 思わず僕とヴェルフも鍬を振るう手を止め、リドさんをじっと見つめてしまうが、対する彼の解答は実にあっけらかんとしたものだった。

 

「や、俺っち達も()()()()()というか、正確には()()()()()()()というか。そろそろリリアが地上から種籾ってのを持って来てくれるはずなんだけどよ。調子に乗りすぎて、田んぼがご覧の有様に……」

「……リリア? それって──」

 

 知っている名前なのだろうか、命さんが訝しげな表情と共にその名前を呟いた、その時。

 

「は、はわわ……田んぼが……こ、壊れてる……!」

「リリア様っ!? お気を確かに!?」

 

 ずしゃあ、と誰かが背後で崩れ落ちる音が聞こえると同時に、様々な逃走劇を経てすっかり生存本能(トラウマ)に刻み込まれた声が僕の鼓膜を揺らした。

 それはさながら蛇に睨まれた蛙。

 やましい事などひとつもない──いや、冒険者としてはモンスターと友好的な今の状況そのものがやましいのだけれど──はずなのに、体が勝手に「逃走」のための準備を始めてしまう、この声は! 

 

「レフィーヤさんっ!? どうしてここにっ!?」

「……はい? レフィーヤは私の妹ですが……」

 

 意を決して振り返ると、そこにいたのは何故か目の敵にされているレフィーヤさん……ではなかった。

 彼女と同じ山吹色の髪をひとつに纏め、エルフである事を示す尖った耳、見目麗しい容姿は確かに似ているけれど、まとう雰囲気は活発なレフィーヤさんの印象とは正反対と言っても過言ではないくらいに涼やか。

 よく見れば衣装も冒険者として活動的なレフィーヤさんのものとは違う、色味の落ち着いた侍女(メイド)のような服装だ。

 

「リド、この方達は? あとリリア様の田んぼが壊れているようですが」

「り、リフィーリア……! これには山より高くダンジョン(かあちゃん)より深い訳があってだな……!?」

「ほう。沙汰は私ではなくリリア様が決める事ですが、話を聞くだけはしてあげましょう」

 

 リドさんからリフィーリアと呼ばれた彼女は、どうやら僕たちがここにいる事情を知らないようで──何故かその場に正座し始めたリドさんを絶対零度の目で見下ろしながら、腕の中で気絶しているエルフの女の子を丁寧に抱き直していた。

 間違いない、あの身も心も凍えるような気配(さっき)はレフィーヤさんの血族だ。

 思わずリドさんに倣って正座しかけた僕の本能がそう告げていた。

 

 田んぼが広がる未開拓領域に農業を営む異端児(ゼノス)、そして謎のエルフ2人組。

 あまりにもツッコミどころが多すぎるせいで感情の許容範囲(キャパ)を超えてしまった僕たちは、リフィーリアさん達に質問をすることも出来ず、ただ成り行きを見守ることしか出来ない。

 けれど、茫然自失の状態でもたったひとつだけ確かな結論があった。

 

 

 ──ダンジョンで稲作をするのは間違っている! 

 

 

 

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