かつて一度滅びた世界が、ある存在によって再興が始まった頃。
一部の人間達はある程度の地区による区分分けと、それによる貧富の差に苦しんでいた。
そんな中、ある修道院で暮らす修道女の1人であるマリアは未だ地上に残る「罪」を自らの手で浄罪しながらも、自らの生まれを気にしていた。
一方、下位層地区で傭兵をしながら生活しているミストはある貼り紙を見つけ…?

「──懺悔は済みましたか?」

※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい。

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──深夜の路地裏
狼のような頭に鴉の翼を持つ怪物と、真鍮色のアンダースーツに赤い修道服のような装甲、乳白色の翼を模した両肩部分から胸元部分の装甲を覆うような形の装甲の中央部分には満月のようなコア、赤い豹のような仮面に百合を模した銀色の複眼、腰部分には色の異なる宝石のついた羽が見える2本の(ワンド)が装填され、右手側には幾つかの惑星と思しき物が描かれた円形の盤がついている銀色のドライバーをつけた戦士が戦っていた。
怪物は狼へと姿を変えるも、戦士はそれを水流で躱す。
狼が先程と同じ姿の怪物になり、地面に転がったのを見た戦士は女性の声で問いかける。
「貴女には2つ、選択肢があります。先程までやってしまった行いを懺悔するのならば、救いがあるでしょう。懺悔せずにその行いを続けるというのなら…私は貴女を倒すほかにありません。どちらを選びますか?」
『お願い…許して…。私は家族を守りたかっただけ…こんな力が、欲しかった…わけじゃ…』
「……貴女の行く先に、幸が在らん事を」
それを聞いた戦士はドライバーを操作する。
盤を一回転させ、月の絵柄に合わせると2本の杖の上部にある小さな宝石のついた羽を1回ずつ、軽く押す。
《カマエル!》
《ガブリエル!》
胸部装甲に付随する形で覆うような形をしていた翼が展開され、周囲に白い羽と白百合の花弁が舞う。
戦士はそのまま怪物の動きを水球の中に抑える事で閉じ込め、適当な位置にそれを固定すると共に展開された翼で飛び上がり、利き脚に白百合と炎を収束させ、怪物に蹴りを食らわせる。
《ムーンブレイズ:ピュリフィケーション!》
蹴りが突き刺さったと同時に水球が弾け、爆発を相殺。
それが収まると怪物のいた場所に女性が倒れ込みそうになるも、戦士はそれを抱きかかえる。
女性の足元に落ちていた2本の杖も拾って。
「ぁ、えっと…」
恐らく女性の息子なのだろう。
小さいながらに不安そうな表情を堪えようとしているのが分かった。
「大丈夫です、貴方のお母様は生きています。……此方へ」
「う、うん…」
戦士は女性を抱え、彼女と少年をある場所へ案内すると何処かへと姿を消した。

──教会内の懺悔室
「──」
白い修道服を着た金髪の女性は金髪に黒目、四角い黒縁眼鏡の男性の前で何かを暫く呟いたあと、男性の方へと顔を上げる。
「…これで今日の分の懺悔は済みました、か?」
「えぇ」
「……では失礼します、おやすみなさい」
金髪のロングヘアに碧い目の女性が懺悔室から立ち去るのを男性は最後まで見送っていた。


零ノ罪 修道女(シスター)と傭兵

──朝方

ベッドで眠っていた金髪のロングヘアの女性はもぞもぞとベッドの中から出てくると、近くにある時計を確認する。

時刻は午前5時を少し回った頃のようだった。

「…定刻通り、ですね」

まだ多少は寝ぼけているが、それはそれだ。

金髪のロングヘアの女性は碧い目をこすりながらも、同室で寝息を立てている女性を横目に見る。

多少ボサボサの赤いショートヘアが寝返りのせいか、左右を行ったり来たりしている。

金髪碧目の女性は自分のベッドから起き、赤いショートヘアの女性がいるベッドへと向かい、声をかける。

「ルカさん、起きてください。朝の時間です」

「んん…まりあぁ…もうちょっと……」

「毎回のようにそれを聞いていると思うのですが?早く準備しなければ、朝食とお祈りの時間に遅れます」

「マリアは真面目すぎるんだよぉ……」

赤いショートヘアに寝ぼけ気味な桃色の目をした女性──ルカの言葉に、金髪碧目の女性──マリアは少し溜め息を吐くとルカのベッドの掛け布団を一気に剥ぐ。

「うわぁああ?!流石にこの時間は寒いって!……やっぱりもう一睡…」

「ダメです。もう既に他の方々も着替えて食堂か聖堂に向かっているでしょうから。私達だけが遅れるなんて、()()に怒られますよ?」

「うぇっ、ベガさんのお叱りは勘弁勘弁…」

「なら早く準備をして下さい。…全くもう」

そう言うマリアは既に修道服に着替えていた。

最も、彼女にとってはルカが駄々を捏ねている間に一通りの準備を済ませるのはいつもの事なので、今更気にするほどでもないのだが。

「でもさ〜。なんでマリアの服はアタシ達と違うの?言っても色だけだけど」

「……私は、先生に拾われて洗礼を受けた身ですから」

「まあ、外から此処に来てるアタシがとやかく言うのもアレかあ」

言いつつ、ルカも着替え終える。

ルカが言っていたように、ルカ達外から来た者とマリアのような事情があって迎えられた者では修道服に多少違いがある。

ルカは紺に近い黒、マリアはベージュホワイト。

「…では行きましょうか」

「うん。…そういやマリア」

「なんです?」

()()夜中にベッド抜け出してたでしょ。眠くないの?」

「平気です。お気になさらず」

「そう?ならいいんだけど…」

少しの雑談を挟みつつ、2人は食堂へと向かった。

 

 

ある存在が()()()()()()この世界を再興させたとはいえ、その名残は未だに存在している。

例えば、地区による明確な上位・中位・下位の区分分け。

例えば、それによる貧富の大きな差。

例えば、それによって生まれる悪感情と契機の伺察。

例えば、それによって生まれる争い。

そういったものの中で生き、明日生きる為の金を稼ぐ者も、この下位層が主に暮らす地区──バベルではなんら珍しくない。

水色の髪に薄紫のメッシュ、赤い目に同色のイヤリングを耳につけた青年も、その1人だった。

「…前の雇い主、結局元の金額から2回りくらい値切りやがったな。今度会ったら覚えとけっての……」

地区の一角にある、交流所も兼ねたパブ。

そこに青年は入りつつ、空いていた席に着く。

「よぉ、ミスト。今日は何にするんだい?」

「あ〜…安い酒でいい。それとつまみをお任せで」

「あいよ!にしても、この地区じゃ割と稼いでるアンタが値切られるなんて珍しいねえ」

パブの料理人で、店主でもある女性から言われた言葉に青年──ミストは複雑そうな顔をしながらも返す。

「ここ以外の下位層地区や中位層地区には、競合相手が全然いるからな。雇い主は元から別の傭兵に変えるつもりだったらしい…ったく」

「此処の連中は皆して明日生きるのにもやっとなのにねえ。お上の奴らの考えってのはよく分かんないよ。……はい、ビールとお任せおつまみ」

「ん、あんがと」

女性からビールとつまみを受け取ったミストはビールを一口飲んでから、つまみに手をつける。

「それより前の雇い主に支払われた分があるから、暫くはなんとかなりそうだが…どうしたもんか」

「そういやミスト」

「んあ?」

「知ってるかい?地区のランクを問わずに現れる怪物と、戦士の噂」

「なんだよそれ…。商売仇にしかなんねえだろ、そんなん」

「私も此処に来てる連中から小耳に挟んだ程度だがね。次の雇い主が見つかるまでの間の凌ぎにはちょうどいいんじゃないか?」

「まぁ、それもありか──なんだ?今のドデカい音は?」

「…奥の方で騒ぎが起きてるみたいだ。うちの店じゃ乱闘騒ぎはご法度だって言ってるのに」

「…俺が様子見てくる。あんたはいつも通りでいいから」

「……頼もしいねえ」

ミストは一度席から離れ、物音と罵詈雑言が飛び交う奥の方へ向かう。

「──おい、お前ら何やってんだ?」

「あ?お前には関係ねえだろ」

少年の手にはミストと話している男が持っていたらしい小さな財布が見える。

大方、雰囲気と雑踏に紛れてスリでもしようとしたか。

「元々この地区は持ち金が少ない奴が多い。まして、小さな子供を怖がらせるなんざ、出禁にされるぞ」

「此奴が俺の財布をスろうとしたのが悪いんだろ」

「だとしても…先に手を上げたのはお前だろう?」

「っ、てめえ!」

男がミストに殴りかかるも、ミストはそれを回避して男に膝蹴り。

同時に男の肩腕を引っ張り、そのまま地面に叩きつける。

「ぐ、ぅ…」

「話になんねえ、こんな程度で調子に乗ってたのか。…おい、少年」

「は、はい…?」

「此処での金なら、少しくらい出してやる。此奴に財布返してやれ」

「わ、分かりました……」

少年はノびている男の近くに財布を置くと、ミストの傍へ。

「…んじゃ席戻るか。ついてこい」

ミストの言葉に少年は頷き、ミストが先ほどいた席に少年と共に座る。

「いやあ、変わらず流石の手際だねえ。見てて惚れ惚れしちまうよ」

「冗談は程々にしろよ…。まあ、荒事には慣れてるからな。つーわけで少年、なんか頼みたいもんあるか?」

「えーっと…」

少年が悩んでいる間、店主の女性は思い出したようにミストに話を振る。

「そういや、今度下位層地区と中位層地区の間にある教会だかの人達がここら辺を見に来るらしい。変な騒ぎがないといいけど」

「中位層地区…っていうと、ディンギルの辺りか」

「あの人達は私達みたいな存在にも、優しくしてくれるからねえ。そういう教えなのかもしれないが」

「…なあ店主」

「なんだい?」

「偶に見かける白い修道服の奴さんはなんだ?夜中にもここの辺りを出歩いてる奴がちょくちょくいるとはいえ」

「あー、なんでも訳ありのシスターさんなんだと。詳しい事は私もよく知らないけどね」

「……訳あり、ねえ」

そう呟きつつ、ミストはつまみをまた一口食べた。

 

 

「あ゛ぁ゛〜疲れた〜」

「就業が終わったばかりです。そんな声を出さないでください」

昼間の就業を終えたマリアとルカは夕食の為に食堂へと向かっていた。

黒髪に紫色の目をした男性がそれを見て声をかける。

「ルカは相変わらずのようだね」

「…教授」

「あっ、エオスさん。ども」

「……ルカ」

「はいごめんなさい」

マリアに教授と呼ばれた黒髪に紫色の目の男性──エオスはそんな2人を見つつ、少し声を抑えて笑う。

「ちょ、エオスさん笑わないで?!」

「いやあ、ごめん、いつも通りで安心したよ。…そういえばマリア」

「はい?」

「昨夜君が連れてきた親子に関してだが、ベガさんと上の判断で此処には置けないとはいえ、多少の支援が出来る見込みがついた。住居は此方で手配する予定だ」

「…そうですか、良かった」

「うぇっ?えと、何の話???」

「ルカは無理して知る事必要のない件ですから」

「えー、ズルい〜。アタシも知りたいのに〜…」

「それと、メリダが君を呼んでいた。恐らく、昨夜の()()()に関してだろう。夕食が済んだら、すぐ向かうように」

「分かりました」

「えっ、メリダさん今日起きてるの?珍しい…」

「彼女は職が職ですから、どうしても不規則な生活になりがちですしね。…では、私はこれで失礼します」

立ち去るエオスを見送り、マリアは小さくため息を吐く。

「全く…。教授に対して、あんな距離感なのは貴女くらいです」

「いいじゃん、ちょっとぐらい」

「…ベガさんに報告しましょうか」

「待って待ってそれだけは勘弁してホント!」

1人騒ぐルカを多少置いて、マリアは食堂へと向かう。

それを慌ててルカが追いかける。

 

 

「しっかし、雇い主が居ないとこうも暇になるもんなんだな」

あの後、少年を家まで送ったミストは適当に辺りをぶらついていた。

職業柄、無理して定住の地を求める必要はないし、この地区(バベル)に居座っているのも、此処が自分の生まれ育った場所だからでしかない。

職業故、多少武器の調整や整備も必要だが、そういうのは専門に任せれば、早々杜撰な事はされないだろう。

「せっかくだし、なんか専門のサイトでも見て依頼探すか──…?」

ふと目に止まったのは街中の掲示板に貼られている1枚の紙だった。

「“あるアイテムの回収任務 熟練者求む”……。…まあ、偶にはこういうのでもいいか?」

ミストはその紙をカメラで撮ると、紙に書かれている住所へと向かった。

 

 

──修道院内の一室

「ごめんなさいね、散らばってて」

「お気になさらず。貴女の職業なら、しょうがないでしょうし」

「まさかこんなすぐに来るとは思わなかったの。本当に模範的な修道女ね、貴女」

マリアは先ほどエオスが話題に上げていた人物…深緑のミディアムヘアに黒いヘアバンド、黄緑色の目の女性──メリダと話をしつつ、適当なところに座る。

「いえ、そこまででは。…それで話というのは?」

「うん、君が()()の度に少しずつ集めている系統の違う(ワンド)…。アレに関してなんだけど、君が使用出来ていない方を使えるようなシステムの基盤が出来たばっかりなの。君がどこまで使えるのか、それを把握したくて」

「……ですが、私は」

マリアが言いかけて噤んだ言葉をメリダは口にする。

「──堕天使と悪魔の因子があるから、今のシステムを使えている…。その事は分かってるさ、でも何事も仮説と実証、そこからの改良が常だろ?」

「はい。だからこそ、私が新しいシステムの被験者足り得るかは分かりません」

「大丈夫大丈夫、そう難しくないから。とりあえず、やってみて貰える?」

「…分かりました」

マリアはメリダから渡された銀色のドライバーと、色の異なる宝石がついた悪魔の羽が上部に見える(ワンド)を2本受け取る。

そのまま2本の杖をドライバーに装填。

《グリモワールドライバー》

《サタン!》

《ルシファー!》

マリアの足元と頭上に紫色に光る魔法陣(ジゼル)が展開され、メリダはそれを見て小さく頷く。

「ここまでは順調…。だが、ここからが問題だ…」

マリアはドライバーについている円形の盤に触れて操作し、再び2本の杖の上部を押そうとする。

《インフェルノ》

が、同時に大きく電撃が迸り、マリアの腰からドライバーと2本の杖が外れる。

「っ、っ…!」

「マリア、大丈夫?」

「いえ…」

メリダがマリアに駆け寄り、確認する。

目立った外傷は少ない上、ドライバーやアイテムに異変は無い。

「……君では使えない…か」

「…すいません、お役に立てず」

「いいんだ。…ともすると、私の考えている仮説が当たるかもしれない」

「仮説?」

「あぁ」

 

「何かしらの天使の因子を持つ存在なら、恐らく扱える」

 

 

「……随分人気の少ないとこだな」

ミストが辿り着いた場所は下位層地区(バベル)の中でも一際辺鄙な所にあった。

近くには何かしらの工房が見える。

立地的にも此処と見て間違いないだろう。

「…入っていいのか?」

銃のホルスターに手を添えつつ、工房の中を進む。

人気は少ないが、生活感はある。

すると。

「いらっしゃ〜い!!」

「うおわっ?!」

突然聞こえた声に多少驚きつつ、声のした方を向く。

紺色がかった黒髪に少し濃いめの青い目の女性がそこにいた。

「まさか一か八かを賭けて貼った物に来てくれる人がいるなんてねえ。…君は?」

「…ミスト・グラディウス、傭兵やってる」

「おー、なら好都合な条件だ」

「此処にはアンタ1人なのか?」

「いや、もう1人いる。今は買い出し行ってるから、いないけどね。…ま、とりあえず入って入って」

女性に促されるまま、ミストは奥へと案内され、彼女と共に席に座る。

「良かった良かった。私達はあんまりそういうのに慣れてないからさ」

「そういや、名前は?」

「おっと、興奮してて言うのを忘れてた。…私はナオミ、しがない技術者だよ」

「ナオミさんか。…んじゃ、早速本題に入るけどよ、貼り紙のアレってどういう意味だ?」

「とある筋から掴んだ情報なんだけど。ほら、下位層地区(バベル)中位層地区(ディンギル)の間に、教会だか修道院だかがあるでしょ?…あそこで噂になってる怪物とやり合えるだけのアイテムがあるらしくてね」

「……それを()ってこいってか」

「理解が早くて助かる。…どうかな?」

「世話になってるパブでも、その手の別の噂はちょいと耳に挟んだからな。雇い主いなくて暇だし、受ける」

「ありがとう。……くれぐれも、無理はしないように」

「わーってるよ」

 

 

「ナオミさん、私に買い出し押しつけて家帰ったし…。はぁ…」

白銀の髪を1つの三つ編みにし、髪に少し黄緑色のグラデーションが見え、緑色の目をした女性は市場へと歩を進めながら溜め息をついていた。

女性はナオミの同居人でもあり、彼女とは少し事情があって力を借りている。

「……後で一回しばこう、そうしよう。…?」

ふと女性が目にしたのは近くの住居から逃げ出した男の姿だった。

こんな時間帯とはいえ、空き巣に入ったところを見つかりでもしかけたのだろうか。

()()()()()()()が、今は別の用事がある。

「……とりあえず、一旦向かおう」

見かけた空き巣は誰かがどうにかするだろうと頭の片隅で考えながら、市場へと向かった。

 

 

──修道院内

メリダとの話が終わった後、マリアはこの修道院の神父であり、司祭でもある男性に呼ばれていた。

「…()()、何用ですか?もうすぐ就寝の時間なのですが」

「あぁ、マリアさん。今回()君の力を借りる事になってしまって申し訳ありませんね。……端的に言えば、()()がまた生まれそうなのです」

「…!」

マリアに先生と呼ばれた金髪に黒目、四角い黒縁眼鏡の男性──ベガはそう告げる。

罪人。

それは宗教的な意味合いや司法的な意味合いとは少し異なる。

何かの罪と誰かの欲望が混じり合った結果、生まれうる存在。

「昨晩相手して頂いたのにすみません。…構いませんか、マリアさん」

「…はい。それが私の行うべき事ですので」

マリアはそう言うと先ほどとは違う、銀色のドライバーと2本の杖を取り出し、何処かへと駆けて行った。

「…無理はしないでくださいね」

 

 

男は家族を養うのが上手くいかず、それに手を出しざるを得なかった環境にいた。

元々、この世界は治安が悪い。

盗みの1つや2つ、取り締まりが間に合わない事もある。

それで成功体験を得た男は調子に乗り、昼間でも盗みを行うようになった。

なのに、いつの間にか目的はすり替わっていて。

「家族を養う為に盗む」のではなく、「もっと金が欲しいから盗む」になりつつあった。

だからだろうか。

男は罪人に──怪物に、成り果ててしまった。

 

 

『もっと、もっと金を…!』

「──狼藉もそこまでにしなさい。罪を犯した人(クライム)

夜の暗がりで、女性の声が静かに響く。

白い修道服に金髪碧目の女性。

手にはそれぞれ、2本の杖と銀色をメインとし右手側に惑星が幾つか描かれた円形の盤がついたドライバーを持っていた。

『邪魔するな、俺はもっと金が…財宝が欲しいんだ!』

「…彼方側に引っ張られつつあるようですね」

女性──マリアはそう言うとドライバーを腰に装着。

そのまま小さな赤い宝石と羽がついた杖、小さな青い宝石と羽がついた杖をそれぞれドライバーに装填。

《グリモワールドライバー》

《カマエル!》

《ガブリエル!》

更に惑星が幾つかスペースを分けて描かれた円盤を回転させ、月を針のある部分に合わせる。

《ムーン!》

マリアの足元と頭上に白銀の魔法陣(ジゼル)が現れ、マリアは少し祈るようなポーズをした後に装填された2本の杖の上部を軽く押し、その為の言葉を言った。

 

「──変身」

 

《降臨!》

マリアの体を2つの魔法陣が上下にかけて移動すると共に、真鍮色のアンダースーツを装着。

その上に赤い修道服のような装甲が合着し、乳白色の翼を模した両肩部分から胸元部分の装甲を覆うような形の装甲が展開され、中央部分には満月を模したコアが出現。

後ろ腰部分には蠍の尾のような装甲が現れる。

マリアの顔部分には赤い豹のような仮面が装着され、最後に百合を模した複眼が銀色に光る。

《マラーク-ムーンブレイズ!》

変身が完了すると共に周囲で僅かに水しぶきと炎が上がる。

『なんだ、お前は…?!』

「…仮面ライダーマラーク。貴方の罪を断罪し、浄罪する者」

マラークはそう言い、怪物──クライムを見据える。

同時に炎と水がクライムを襲った。

 

 

「ナオミさん、ただいま」

「おかえり、エバ」

「あれ?言ってた人はどうしたの?」

ナオミにエバと呼ばれた白銀の髪を1つの三つ編みにし、髪に少し黄緑色のグラデーションが見え、緑色の目をした女性は多少苦笑しつつ言葉を返す。

「直ぐに向かいたくなったから、準備して行くって」

「は?!例の紙出してから5日と経ってないのに!?」

「まあまあ…。エバの力じゃ限界はあるだろうし」

「…ナオミさん」

「?」

一瞬の間の後、エバはナオミを軽く小突いた。

「痛い」

「こっちは1人で買い出し行ってたのに…。はぁ〜、となると入れ違いか」

「会いたかった?」

「…まあ、一応」

「大丈夫大丈夫。彼ならきっとなんとかしてくれるよ」

「…楽観的…」

 

 

クライムはコインの弾丸を射出するも、炎によってそれらを撃ち落とされる。

マラークはクライムに近づき、そこから蹴りと打撃を食らわせて後退させる。

クライムは延べ棒のような武器を手元に生成しマラークに攻撃しようとするが、マラークは翼を一時的に展開して回避。

更に水の弾丸で武器を遠くに吹き飛ばし、炎がそれを足止めする。

着地しつつ、マラークはクライムに向けて告げた。

「貴女には2つ、選択肢があります。先程までやってしまった行い懺悔するのならば、救いがあるでしょう。懺悔せずにその行いを続けるというのなら…私は貴女を倒すほかにありません。どちらを選びますか?」

『懺悔だの、そんなのはどうでもいい!俺はもっと金が、財宝が欲しいんだ!!』

「……そうですか、残念です」

クライムが宝箱型の爆弾を投擲し、着弾と同時に爆発するも水流でそれを相殺。

マラークはドライバーに装填された2本の杖の上部を軽く2回押す。

《カマエル!》

《ガブリエル!》

胸部装甲に付随する形で覆うような形をしていた翼が展開され、周囲に白い羽と白百合の花弁が舞う。

マラークはそのままクライムの動きを炎の蔓で固定。

展開された翼で飛び上がり、利き脚に白百合と炎を収束させ、クライムに蹴りを食らわせる。

《ムーンブレイズ:パニッシュメント!》

蹴りが突き刺さると同時にクライムと男は分離し、1本の悪魔の羽がついた杖が近くに落ちる。

マリアは変身解除してそれを拾い、男の様子を見る。

起き上がる様子がない事から、亡くなったのだろう。

「……どうか貴方の魂に祝福が在らん事を」

マリアは小さく祈り、辺りを見回す。

それと前後して、持ち歩いている端末が鳴る。

「?」

端末を開いてメッセージを見る。

メッセージには修道院内に侵入者が現れた事、狙いは恐らく出来たばかりの新しいシステムである事が書いてあった。

「…向かいましょうか」

マリアは端末をしまい、修道院へと急いだ。

 

 

──修道院内

「…囮で手榴弾使ったつもりだったんだが、気づかれたか?」

内部にどうにか侵入出来たミストは呼吸を整えつつ呟く。

正直、アイテムのある場所は把握しきれていない。

が、こういう物は存外勘で分かる時もあるものだ。

なるべく音を立てないようにしながら、探索を進める。

「…あ?」

あまり人気の少ない階に、1つだけ半端に扉が開いている部屋があった。

慎重にその部屋へと移動する。

「……ビンゴだ」

内部には話に聞いていた銀色のドライバーと、数本の小さな杖のような物があった。

持ってきていた鞄に入れ、部屋から出ると来た道を戻る。

だが。

「お兄さん、何してんの?」

後ろから聞こえた女性の声。

見ると赤いショートヘアに桃色の目の女性がそこにいた。

来た出口は比較的近いのに、厄介な事になった。

「……貴方が例の侵入者、です?」

別の声に気づくと、其方には金髪のロングヘアに碧目、白い修道服の女性がいた。

腰部分には自分が先ほど回収した物と同じドライバーを着けたまま。

「なるほど、訳ありの修道女っていうのはお前の事か」

「…何故私の事を」

「ちょいと噂にな」

女性の碧い目を見た時、ミストは僅かながらに思った。

彼女には一切の欲望や願いが()()()()と。

「ルカ、そこで待機していなさい。万一の際は私が動きます」

「わ、分かった」

「……なぁ、お前」

「なんです?それを返す気にでもなりましたか?」

「自分の願いとか、あれしたいこれしたいとかねえの?」

「…ありません。恐らく」

「恐らく、ねえ」

「それがなんだと」

複数の足音が聞こえる。

このまま話していても、埒が明かないだろう。

「っ、し…逃げんぞ!」

「は?!何故私の手を掴んで──」

「マリア!?」

碧い目の女性の手を掴み、近くにあった窓へと飛んで外へ逃げる。

一足遅く、ベガ達が到着する。

「ルカさん、どうかしましたか?」

「どうしよう。マリア、連れ去られちゃったかも……」

「!」

「…面倒な事になりましたね」

ベガはそう言いつつ、割れた窓を少し見ていた。

 

 

ミストはその後、ナオミの家に到着したものの、エバに少し詰められていた。

「…なんでシスターさん連れてきちゃったの?」

「その場の勢いってやつというか…あと単純になんか此奴の目が気に入らなかったから」

「…マリアです」

「悪い悪い」

ナオミはマリアを見つつ、疑問を出す。

「君の名前って本名なの?」

「いえ、洗礼名です。本名は知りません」

「は?なんでだよ」

「……孤児、でしたから」

「!」

それを聞いたエバは少し外を見るかのようにマリアから目を逸らした。

「孤児?いやこの世界じゃ少なくないだろうけど…なんで?」

「…親に捨てられたんだと思います。偶々捨てられた場所の近くにあの修道院があったので、それで」

「なんで捨てられた?」

「先生や教授…私が修道院でお世話になっている方々なんですが。その方々によると私が堕天使と悪魔の因子を有していたからだと。…推測にはなりますが」

「ここ最近の怪物と戦士の噂は?」

「恐らく私です。何かと夜に戦う事が多いので…」

それを聞いたナオミは何かを閃いたのか、ミストとマリアにある提案をする。

「じゃあさ、2人ともせっかくだし此処住まない?」

「?!」

「はぁ!?」

「実はね〜私の考えてる事的に君達みたいなのは割と結構助かるんだ。ある程度の衣食住は保証するからさ、どう?」

「ですが、私は…」

「マリアちゃんはもう少し世界を知るべきだと思うよ?多分、ミストもそう思って一緒に連れ出したんじゃない?」

「…まあ、そういう事にしとく」

「どうする?マリアちゃん」

マリアは少し考え、修道院のある方を見てからナオミに向き合った。

「…少しの間ですが、よろしくお願いします」

「うん。よろしく」

「早速ですが、就寝の準備をしても?」

「もうかよ!?早くね!?」

「まだ20時前だよ?」

「生活サイクルですので。…では少し失礼します」

別室へと向かうマリアを少し見たエバは軽く溜め息をついた。

「さーて、それじゃまた色々買い込まないとね」

「…俺、此処にいていいのか?」

「別にいいんじゃない?」

「男女比の問題つーか、色々不安になるんだよ。この割合だと!!」

「その内慣れるよ〜」

 

 

──廃墟

そこには赤い髪を軽く結んだ赤目のスーツの男性が杖のような物を見ていた。

「…調整はこんなところでいいでしょう」

「相変わらず、1人で精査か。精が出る」

「おや、ラーヴァナさん。来ていたんですね」

「人間の真似事をするにも疲れるからな。…まだお前が出る幕ではないようだが?イフリート」

「私が力を使うに値する方はまだ見つかっていませんので。貴方こそ、上位層地区(ジグラット)であれだけの地位にいるのによく言います」

「俺が見たい物を見るには、人間達の不平不満と感情が溜まりに溜まって爆発する必要があるからな」

赤髪赤目の男性──イフリートにそう返す、橙の髪に水色の目の男性──ラーヴァナ。

「…アスラとパズズは?」

「アスラさんに此処を壊されては堪りませんので…別の場所で鍛錬をとお願いしています。パズズさんはいつものようにどこかをふらついているかと」

「相変わらず自由人だな、パズズは」

「要件はそれだけです?」

「いや?…例の修道院にいるシスターが連れ出されたらしい。社員達から得た情報だから間違いない」

「あぁ、なるほど…()()ですか」

「人間なのに2つも魔の因果を持つとは、可哀想に」

「全くそう思っていないでしょう?貴方の事ですから」

「あぁ。俺達は人間達が解析しきれてないあの2つの因子の由来となった堕天使と悪魔を知ってる。…後は、お嬢が外の世界を知ってそれを目覚めさせるか否かだ」

「機は待つものです、何事も」

「分かっている。…少しいい酒を置いて帰る、暇な時にでも飲め」

「そうします」

ラーヴァナはワイン瓶を適当なところに置き、炎に包まれると姿を消した。

イフリートはそれを確認し、ある資料を見ながら小さく呟いた。

「星の名から墜ち、争いを生み、争いに揉まれた貴方が此方でも争いの火種たり得るとは…皮肉な話です」

その資料はマリアの顔写真と共に、名前や経歴の一部が黒塗りになっていた。




零ノ書 グリモワールドライバー/アンゲロスワンド
マリアが「浄罪」及び「断罪」の際に使用するドライバーと小さな杖。
ドライバーを使用するには特定の悪魔/堕天使/天使の因子を有している必要があり、そうでない存在は変身すら不可能。
アンゲロスワンドは名前を持った悪魔/堕天使/天使の力がある程度内包されており、その存在が有する属性があれば宝石部分に属性を示す色がある(カマエルアンゲロスワンドなら炎→赤、ガブリエルアンゲロスなら水→青)。
類似したデーモンワンドという物も存在するが、其方は現時点ではマリアは使えていない。

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