一度滅んだ世界の再興が、かつての旧世界にまで近づいてきた頃。
神々は自分達の信仰を取り戻す為、そして旧世界が滅んだ前後で地上に散らばったアイテムを回収する為、まだ見習いである青年──ミオを地上に派遣する事にした。
一方、地上では我欲の為にそのアイテムを使い、神を目指そうとする者達が活動を始めようとしていた。

「──まだ見習いだけど、神として…出来る事を!」

※こちらは読み切り版です、連載版とは多少変動がある事をご了承下さい

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──10年以上前
「お母さん!お母さん!」
雨の降りしきる暗闇の中、頭が潰れ、血の海が広がる()()()()()()()を揺さぶる、紫がかった髪に紫色の目の少女。
少女は気づいていなかったが、その近くには「怨」「殺」「滅」「歪」と彫られた鏡を思わせる材質の珠が4つ転がっていた。
それは少女の方へと転がり、そして──


Faith.0 結ぶ信頼

──現代 神界

かつて人が神のいる世界を目指したように、神にも一定の頂は存在する。

()()()()()()()()()()()()()()この世界ではその神々や、神になり得る存在が力の最も高まる頂として、その信仰を再び取り戻そうとするのは当然だった。

が、過去の件を踏まえ、神々はある規定(ルール)を設けた。

【1つ、今後新たに神になり得る資格のある者は、特定の機関で必ず求める神格に関連する資格と免許を取る事。

1つ、取得していない力の使用は認められない。使用した場合は力の剥奪、及び人間として下界に落とす。

1つ、下界及び地上には余程の事がない限り介入しない。

1つ、特定条件下での憑依や特定の血筋に力を残す場合、神界に戻り、以降は介入を一切行わない。

1つ──万一の為の自衛・他衛システムを所持出来るのは神格覚醒の見込みがある者及び旧世界で一定の信仰を得ていた神に限る】

この5つだった。

が、何事にも急ぎすぎる存在は少なくない。

中性的な雰囲気をした黒髪黒目の青年も、その1人だった。

「同年代で覚醒出来てないのは僕だけ…かぁ」

青年──ミオは神の見習いが通う機関「神門学院(しんもんがくいん)」で殆どの資格と免許を取得しているにも関わらず、未だに神格覚醒の兆しがない学生だった。

同年代で覚醒出来ていないのも、彼のみ。

その事実が余計に彼を焦らせていた。

周囲の声が、目が刺さるような錯覚を覚える。

「…っ、他人の声なんて、他人の事なんて気にしちゃダメ。気にしない気にしない…」

「ミオ様」

「うわぁあ?!?」

突然の声に驚きつつ、其方を振り返る。

そこにいたのは青い髪に水色のインナーカラー、右側が赤く染まり、金色の目をした青い軍服を着た女性だった。

今はしまわれているものの、白い片翼が見える事から、戦乙女(ワルキューレ)の1人だろう。

「…戦乙女(ワルキューレ)がこんなところになんの用?」

「ご明察、感謝します。私は戦乙女の1人、ブリュンヒルデと申します。…神界の最高神の方々からミオ様を連れてくるようにと言われ、此方に馳せ参じた次第です」

「?なんで僕?」

「ともかく、此方に。ご案内します」

「…分かった」

ミオはブリュンヒルデの手を取ると同時に、そこから姿を消した。

 

 

──下界(地上)

寂れた教会で2人の男女が()()()を手に持ちながら、話していた。

「なあ、久衣(くい)姐。本当に()()やるのか?」

「勿論。トリムルティの方から、フェイクエレメントミラーボールは貰えたし。少なくとも承認はされてる」

「……神化(進化)、か」

「とりあえず、幸夜(こうよ)。これ渡しとく」

女性が男性に渡したのは一枚の紙。

それに書かれている存在には()()()()()があった。

「…この条件の奴を久衣姐がやりやすいようにするってわけだな」

「そういうとこは理解が早くて助かるよ」

男性──幸夜の頭を優しく撫でる女性──久衣は弟を可愛がるかのようにそう言った。

久衣の持つ珠にはそれぞれ「蜘蛛」「糸」、幸夜の持つ珠には「蝙蝠」という彫字が見える。

「それじゃ、任せたよ。幸夜」

「…あぁ」

幸夜は珠を体に取り込んで蝙蝠に似た怪物となり、そのまま蝙蝠の群れとなって姿を消した。

「……いらっしゃるんですよね?エキドナ様」

「流石です。下位(ビリーバー)であるにも関わらず私に儀式の申請をする気概があるだけありますわ」

「お褒めの言葉は有り難く頂きます。…早速本題なのですが」

久衣にエキドナと呼ばれた銀髪赤目の女性は少し目尻を下げつつ、歪に笑う。

「もし私の身に、儀式の最中に万一の事があった時は──」

 

 

──神界にある神殿

不定形の黒い渦のような存在、白銀の髪に白銀の目をした和装を着た中性的な存在、人1人入る卵の中から現れた胡座をする赤い髪に青紫の目の男性、赤い髪をひとつ結びにした赤い目に赤い着物を着た男性、紺色の髪に緑色の目の中性的な雰囲気の男性、深緑の髪に紫色の目の男性が、その()()を見つめていた。

「皆様、連れて参りました」

「ご苦労様、ブリュンヒルデ。入り口で待機してて〜」

「承知しました」

ブリュンヒルデを労う言葉をかける、白銀の髪に白銀の目をした和装を着た中性的な存在──アメノミナカヌシ。

『〜_ ̄──?』

「カオス、何を言ってるのか分かんねえわ。ミナカ、翻訳お願いな〜」

不定形の黒い渦のような存在──カオスの発する言葉に苦言を呈する、赤い髪をひとつ結びにした赤い目に赤い着物を着た男性──天帝。

「こらこら、まずは此方が呼んだ()に事情を説明するのが先だろう」

「呼び出しておいて挨拶無しは他の地域でも良くない」

天帝の発言を咎める、深緑の髪に紫色の目の男性──ダグザ。

ダグザの言葉に同意する紺色の髪に緑色の目の中性的な雰囲気の男性──イツァムナー。

そんな面々を呆れた顔で見た後、来客に視線を移す赤い髪に青紫の目の男性──ブラフマー。

来客であるミオは僅かに震えつつ、恐る恐る口を開いた。

「え、えと…最高神なり創造神なりの伝承のある皆さんが僕に何の用…ですか?」

「あー、ごめんね。待たせちゃって」

「で、カオスはなんて言ってんだミナカ」

「天ちゃん、そんな急かさないで。…この子に今回任せる件を本当に任せていいのか?ってさ」

『_ ̄ ̄──』

「え、そこまでは言ってない?…ごめんね?」

「まあまあ。ともかく、本題に入ろう」

「…そうだな」

ダグザの言葉にイツァムナーが小さく頷く。

更に天帝が言葉を続ける。

「簡単に言うと数百年前に下界が滅びた時と前後してあっちに飛び散った神界産(ここ)の物があってだな。文化とかが復興しつつあるから、下界に行って貰って回収するべきなんじゃないかって話になってたんだ。それを君に任せようって話になってる」

「いや、言わんとしてる事は分かりますけど…なんで僕?」

「君はまだ神格未覚醒。それなら地上に残ってる他の神の力を借り受ける事も出来るはず」

ミオの言葉にイツァムナーは当然と言わんばかりに返すが、ミオは少し俯く。

がアメノミナカヌシは気にせず続ける。

「そんな落ち込まないで〜。これは君への特別措置でもあるから」

「特別措置?」

神門学院(しんもんがくいん)…この世界にある、君みたいな()()()()()の為の学校だけど。君はそこでかなり優秀だって連絡が来てる。殆どの資格と免許は取っちゃったんだよね?」

「はい…。でも、神格だけはどうにも……」

「その覚醒を促す為とアイテム回収の為に、君には下界に行って欲しい。…まあ、万一どっちかが満たされなかったら…最悪剥奪だけど」

「イッちゃん、新神(しんじん)怖がらせたらダメだよ?」

天帝の言葉にイツァムナーは少し目を逸らす。

それを見ていたブラフマーはおもむろに指先に光を集め、何かを形作る。

それは黄金のスカラベだった。

ブラフマーはスカラベをミオの方に向けて飛ばすと、スカラベはゆっくりと低空飛行しミオの手の甲に着地する。

『──__ーー』

「一番乗りはブラフマーかあ、だって」

「というか、別にまだやるとも言ってませんけど?!」

「言ってるでしょ?特別措置だって。君もこのまま神格が覚醒しないのは嫌でしょ」

「それはまぁ…はい」

「私達とて、下界に落ちた物が人間に悪用されるのは避けたいからな」

「それも分かりますけど、僕…その規定にあるルールの条件には達してませんよ?」

「そこは気にしなくて大丈夫。俺達が力を与えて、システムの要を用意する。使えるかどうかは君次第ってとこかな」

天帝は指を鳴らし、指先に小さな透明の球を。

アメノミナカヌシは手を球のような形にし、その中に十色が彩る球を。

ダグザは中に小さいものの、様々な武具や楽器が閉じ込められた手のひらサイズの球を。

イツァムナーは中に様々な動物が見える、手のひらサイズの球を。

カオスは自らの目の前に眩く光る巨大な球を。

5つの形は同じだが、異なるそれは勢いを伴ってミオの元へ飛んでいき、腰付近に入ったと同時に光がミオの周囲で弾ける。

「っ!?!」

「うん、これで大丈夫だね」

「…本当です?」

「勿論」

「…というか回収って、どうすれば……」

「人間の中から探せばいいんじゃね?」

「人間しかいませんよ?!?」

『──__!』

「カオスも応援してるみたい」

「…お話は済みましたか?」

入り口から戻ってきたブリュンヒルデがミオとカオス達を見回す。

「あぁ」

「ごめんね、待たせちゃった?」

「お気になさらず。…ミオ様、ご準備の方は?」

「まだ、ちょっと頭が追いついてないけど…。…うん、多分大丈夫」

「そうですか。…では此方を」

ブリュンヒルデがそう言ってミオに1枚の小さな護符(アミュレット)を渡す。

表には「神機/神気」と書かれているが、裏には何も書かれていなかった。

「なにこれ?」

「最高神の方々から与えられた力を下界で使う際、使用する物です。基本的に一点ものですので、無くさないようにご注意を」

「わ、分かった」

「…それと」

「へ?」

ブリュンヒルデはおもむろに複数のルーン文字を空中で描き、それを手の中に吸収した後、ミオの心臓部分を手で軽く叩く。

「痛いっ!?」

「…少し神通力に制限をかけさせて頂きました。今のミオ様の力では簡単に制限が外れる事はないと思いますが」

「えぇ…?」

「なるべく人間と同じようにという最高神の方々からの申しつけですので。…では参りましょうか」

 

「──下界(地上)へ」

 

 

──食堂「たそがれ」

下町の一角にある、十数人程度が入れる大きさをしたその食堂では黒髪に紫色の男性が厨房で仕込みをしながら、食堂内にあるテレビをつけていた。

厨房近くの席では紫がかった髪に紫色の目の女性がそれを見つつ、朝食を食べている。

『相次いで起きている連続殺人の被害者は未成年の女性と見られ、警察は付近の住民に警戒を──』

『被害女性は共通して頭部から沈められて発見されており、警察は調べを──』

「…随分物騒になってきたもんだな」

「お父さん、手止まってる。開店時間近いんでしょ?」

「悪い悪い。…みやびも気をつけるんだぞ?」

黒髪紫目の男性──飛鳥にそう言われた紫がかった髪に紫色の目の女性──みやびは朝食を食べ終えると小さく頷き、皿を流しの中にある水洗い用の器の中に入れる。

「と言っても、通ってるところは公立だから…流石に少しは警備増えると思うけど。…それじゃ行ってくる」

「いってらぁ〜」

飛鳥は表から登校して行ったみやびを見送り、表に出て看板を「準備中」から「営業中」に変える。

「…本当に何もなきゃいいけどなあ」

 

 

「痛ぁ?!」

「すみません。着地が少々失敗しました」

「本当にちょっとかなぁ!?」

ミオはなんとか立ち上がる。

周囲を見回し、建物を見ると()()()()()()()数百年以上前にあった旧世界での発展度合いとさほど大差ないように見えた。

「…教科書と殆ど変わんない気がする」

「それだけ此方の方々が再興に尽力してきたという事なのでしょう。……では私は一度霊体に戻らせて頂きます。安心して下さい、比較的近くにはいますので」

「分かった」

それから少しして、ブリュンヒルデの姿が消える。

力の気配は感じるので、実際言った通りさほど離れた場所にいるのだろう。

暫く適当に歩いているとお腹が鳴る。

「……神銭(しんせん)なんて、まだ持ってないしなぁ…」

神銭。

神界で主に使われる通貨でもあり、信仰の強い神が社などを通して得る金銭。

上手いことやれば地上でも使えるらしいが、そこまでの信仰()を自分はまだ有していない。

「どうしようかな…」

どちらにせよ、俗に言う詰みなのは変わらない。

せめて落ち着いて住めるような場所があればいいのだが。

「ぁ、やば…っ」

ぐらりと視界が揺らぎ、そこで意識を失った。

 

 

──「たそがれ」店内の居住スペース

「近くで倒れてたから思わず助けたけど、起きるか…?」

飛鳥は2階の居住スペースの一室にあるベッドでミオを寝かせていた。

ミオはその事には気づかず、寝息を立てているが。

「でも、何も持たないでふらついてるなんてなぁ…。とりあえず、起きたらなんか食べさせた方が良さそうだ」

ベッドで眠るミオを少しだけ見た後、客の声に気づいた飛鳥は下へと降りていった。

 

 

夕闇の中、蜘蛛のような異形が壁の上部に張りつきながら、人通りの少ない場所で道ゆく一般人(獲物)を見定めていた。

そして、1人の女性が通りがかったと同時に蝙蝠のような異形が女性の首筋に噛みつき、吸血する。

女性は抵抗するものの、即座に蜘蛛のような異形が吐いた糸で拘束される。

そして──

 

 

「う、うーん…?」

「お、起きたか。良かった」

ミオはベッドから起きつつ、自分に声をかけた男性を見る。

「あ、すいません…。その、ご迷惑をおかけしたみたいで……」

「いいんだよ。君、名前は?」

「…ミオ、です」

「ミオか」

「……僕、どっちに見えます?」

「ん?あ〜…女っぽい…かもな。それがどうかしたのか?」

「…いえ、お気になさらず」

「そういやミオ。せっかくだし、なんか食べてくか?」

「いいんですか?」

「もう暗いしな。1泊くらいなら、みやびも気にしないだろ」

「…あっ、名前…」

「ん、東雲飛鳥(しののめあすか)だ。たそがれっていう食堂やってる」

「飛鳥さん…」

結果的とはいえ、本来自分が守るべき存在に助けられていいのだろうか。

けれど、厚意を無下にするのも気が引ける。

「……よろしくお願いします」

「おう、そんじゃちょいと待ってな」

飛鳥は下へと降りていった。

恐らく自分の分の食事を作りに行ったのだろう。

「……変な、感じだな」

そう言いつつ、ミオは今まで動いていなかったスカラベを部屋の中で軽く飛ばした。

 

 

「ただいま〜」

「みやび、おかえり。…上に1人いるから、失礼のないようにしろよ」

「?お父さんが誰か上に上げるなんて珍しい」

「店先の近くで行き倒れてたみたいでな。荷物らしい荷物もなかったし、1泊くらいは泊めようかと思って」

「お父さん、そういうとこ」

みやびはそう言いつつ、指定鞄を適当な場所に置く。

もう閉店が近い時間帯なのもあってか、客足もまばらだ。

みやびは軽く伸びをしてから、ある位置にある写真立てを見る。

幼いみやびと飛鳥、そしてみやびの母が映っている写真。

「…今年でお母さんが亡くなってから、10年とちょっと…か」

「そろそろ墓参り行かないとなあ」

「……直接のお葬式は出来なかったけどね」

「まあ、顔が分からないんじゃあな……」

「荷物片付けたら、いつものランニング軽くしてくる。深夜になる前には帰ってくる」

「上にいる奴には挨拶くらいはしとけよ〜」

「分かってる」

みやびはそう言って鞄を持って2階に向かう。

みやびは母が亡くなって以降、父親以外との関わりを持つ事はどことなく避けるようになっていた。

それが何故なのかは本人も分かっていない。

「…挨拶、一応しとこうかな」

そう呟いて、みやびは鞄を自室に置いたあと、2階にある別室へと向かう。

「……失礼します」

「うわぁ?!」

「っ!?」

一瞬みやびの近くを黄金のスカラベが通り過ぎるも、青年の元にスカラベは戻ってくる。

「…えと、初めまして?」

「そりゃそうでしょ。…お父さんが言ってたの、アンタ?」

「…まあ、はい。ミオって言います」

「……東雲みやび。一応よろしく」

軽く挨拶を済ませ、ミオを少しだけ見やってから、自室に戻る。

「……あの子、なんか変な感じがした」

男とも、女とも取れる雰囲気。

まるで、自分とは違う何かを明確に持っている目。

「…準備しよ」

一旦ミオの事を頭の片隅に置き、みやびはランニングウェアに着替え、ランニングに向かった。

 

 

「随分食うな、ミオ」

「あはは…意外とお腹空いてたみたいです」

ミオは飛鳥が作った食事を食べつつ、飛鳥と談笑していた。

『ミオ様、少しよろしいですか』

「うわっ!?」

「?どうかしたのか?」

「いえ、お気になさらず…」

突然のブリュンヒルデの声に動揺しつつ、耳を傾ける。

『突然すみません。霊体化はしていたのですが、近くで妙な気配を感じたので』

「…気配?

『ええ。恐らく、最高神の方々が懸念していた物と同じかと』

「っ!…すいません、飛鳥さん!ごちそうさまです!」

「ちょ、どこ行くんだ?こんな時間に──」

「急用が出来ました、なるべく早めに戻ってきます!」

「わ、分かった。気をつけてな」

ミオはそういうと、食堂(たそがれ)から走り出すと共に神足通を使用。

そのまま向かいつつ、傍で霊体化していたブリュンヒルデが実体化して片翼で飛行する。

「ブリュンヒルデ!距離はどのくらい?!」

「まださほど離れていません。急げば間に合います」

「方向は?!」

「北に」

「オッケー!」

 

 

──某所

「それで、()()の経過は順調?」

「はい。満月までには間に合うかと」

外が殆ど暗くなり、街灯が点き始めた頃。

久衣とエキドナは近くにある噴水公園で話していた。

「貴女には期待しているの。これが成功すれば、中位(アディアレント)にはなれるでしょう」

「…ですが、幸夜に関しては…」

「あの子はまだ儀式を出来るほど、覚悟が足りてないというのもあります。それに貴女の舎弟ですもの、万一貴女に何かあったとしても、悪いようにはしないと約束しますわ」

「…最高位の貴女様にそこまで言われるとは」

「でも、流石に騒ぎにはなってるみたいね。くれぐれも気をつけるようにするのよ?」

「承知しています」

久衣のその言葉を聞いたエキドナは小さく笑うながら頷き、闇に紛れて姿を消した。

久衣はそれを見送り、周囲を見渡す。

目についたのはちょうどランニング中の紫がかった髪に紫色の目の女性だった。

確か、幸夜に渡したリストに()()()としてリストアップしてあった存在だった筈。

「…好都合」

久衣は呟き、「蜘蛛」「糸」と彫字のされた珠を取り込むと糸が繭のように久衣を包み込み、蜘蛛のような異形へと姿を変える。

そのまま糸を女性に向けて吐こうとするが──

 

 

瞬間、みやびの前に迫った糸を一閃して何かが切った。

「っ…!?」

突然の事態に頭が追いつかない。

見ると天使のような片翼を持った青い軍服を着た女性が、身の丈以上の槍を前へと構えている。

近くには先ほど会ったばかりの青年──ミオもいた。

「ご無事でなによりです。みやび様」

「え、ちょ何で私の名前知って…?!」

「ブリュンヒルデ、今は安全確保を優先して!」

「…ご命令通りに」

ブリュンヒルデと呼ばれた天使のような片翼を持った青い軍服を着た女性は槍を構えたまま、何かを空中に書く。

同時に飛んできた蝙蝠の群れを透明な障壁がいなす。

蝙蝠の群れはやがて形を成し、異形となる。

蝙蝠のような頭部に、その羽根を思わせるような歪な翼。

口元には僅かに赤いものが見える。

蝙蝠の異形の傍には、蜘蛛のような異形が現れる。

2メートル以上はあるのではないかという体格に、それと同じ大きさの4対8本の脚。

胴体があるべき部分には歪に変わり果てた女性の顔のような物が見えた。

共通する体色が銅色という事は街灯のおかげで辛うじて分かった。

「…ひっ…」

「……ミオ様、どちらを相手しますか」

「ブリュンヒルデは蝙蝠の方をお願い。…僕は蜘蛛を相手する」

「……勝算はあると?」

「…正直、自信はないよ。……それでも、やらなきゃ」

「…ご武運を」

ブリュンヒルデはそう言うと蝙蝠の方へと駆け出し、槍で攻撃する。

槍の猛攻で蝙蝠の異形はブリュンヒルデと共に別の場所へと移動していく。

 

 

ミオは蜘蛛の異形を見据え、深呼吸する。

蜘蛛の異形に向けて打撃を食らわせた瞬間、()がそれを襲った。

『ガッ…?!』

「良かった、一応気の類は使えるみたいだね」

そう言って手のひらを開いたり閉じたりするミオ。

本人は神門学院(学校)で武芸の類はさほど極めていなかったものの、気の使い方はある程度習っていた。

といっても、これだけでは正直心許なくもある。

「カオスさん達が与えた力っていうのがまだ何なのかは分かんないけど、やれる事を…!」

蜘蛛が糸を吐き、それを神足通で回避すると共に急接近して8つある脚の一つを折ろうとする。

だが。

「っ、く…!」

明らかにかかる力では彼方の方が強い。

それに気づいた瞬間、蜘蛛が頭の方向を変える。

「まずっ──」

刹那、蜘蛛がミオの方に早歩きしようとするのを縮地(神足通)で回避。

更に複数本の糸をミオに向けて放つが、それもギリギリのラインで回避する。

「みやびさん、今のうちに!」

「でも、そうしたらアンタが…!」

『ぐだぐだ五月蝿い…こうなったらまとめて贄に──』

みやびに向けて吐かれた糸と、ミオに向けて脚による攻撃が同時に展開される。

それをミオが気で形成した真空刃でまとめて斬り裂く。

糸は切れたものの、脚による攻撃は防御が間に合わなかった。

「っ、アンタ…。なんで、そこまで……」

 

「──自分が()()()()()()()()()()()を守って、何が悪いの?!」

 

「…!」

「確かに僕は地上(ここ)に来たばっかりだし、何にも分かってない!知らない!それでも…!」

一進一退。

ミオの中の僅かな神としての力と、蜘蛛の異形の力が拮抗していた。

「こんな、存在に君達の日常が壊されるなんて…おかしいって事くらいは分かる…っ!」

「……信じて、いいの?」

「っ、え?」

「…アンタみたいな、お人好しを」

「それは、君の自由…だよっ!!」

同時にミオが蜘蛛の異形をどうにか投げ飛ばす。

「だったら、なら…私は──アンタを信じる」

「!!」

微かな光と共に2人の間にアンティーク調の1本の鮮やかな赤銅色のキーが現れ、それはミオの元へ。

同時にミオの腰元に4つほどの珠を入れられるようなスロットが見え、1枚の札を差し込めるような差し込み口、そしてスロットの近くにはキーを差し込める場所が見える灰色のドライバーが現れる。

所々に金色の装飾のような物も見えた。

《プログレッシブドライバー》

「っ?!…これ……」

『な、に…!?!』

ミオはブリュンヒルデから渡されていた1枚の護符(アミュレット)を思い出し、取り出す。

「…っ!」

同時に直感的ではあるが、使い方を理解出来た気がした。

そして、ミオは少しだけみやびの方を見つつ、言った。

「……ありがとう」

「…何が?」

「──君のおかげで、戦える!!」

「神機/神気」と書かれた札を札の差し込み口にセットし、差し込む。

《デーヴァ:ローディング》

《シンキ、承認!》

更にスロットの下付近にあるキーの差し込み口にキーを装填。

蜘蛛の異形はミオに攻撃を仕掛けるも、同時にミオはキーを前へと一度半回転させ、その言葉を発した。

 

「──変身っ!!」

 

《シンキ、開帳!》

《──神体解放!》

一瞬ミオを卵のような物が包んだ後、ミオが異形を攻撃する度に装甲が現れる。

黒いアンダースーツを纏い、灰色と金色の装甲が右手、左手、胴体、両脚と伝播し形成されていく。

最後にスカラベのような仮面が展開され、複眼が灰銀に光る。

《シンキ コクーン──顕現!!》

刹那、僅かに雷を纏った攻撃が蜘蛛を襲い、蜘蛛は後退。

更に光を纏った蹴りが蜘蛛の頭に直撃し、蜘蛛は大きく悶える。

一度着地したシンキは自身の姿に気づき、驚いたような反応をする。

「どうやら、無事に変身出来たようですね」

「!ブリュンヒルデ…。さっきの蝙蝠は?」

「逃げられました。…最高神の方々が言っていた意味、ご理解いただけましたか?」

「うん、なんとか。……みやびさんの事、お願い」

「承知しました」

ブリュンヒルデはみやびを抱えると飛行し、別の場所に行った。

恐らく、食堂の方へと向かったのだろう。

『あの子さえ、あの子さえぇぇ…!』

悶え苦しみながら暴れる蜘蛛を見つつ、攻撃を回避してキーを2回前に半回転させる。

《神罰執行!》

僅かな雷と光がシンキの右脚に集中、そのまま助走をつけて駆け出し、蜘蛛に向けて飛び蹴りを食らわせる。

蹴りと同時に紋章のようなものが蜘蛛の顔部分に現れ、僅かな間を置いて、異形は爆発した。

「はぁっ、はぁっ…」

変身が解除され、膝から崩れ落ちたと同時に2つの珠がミオの元へと転がってくる。

1つは「蜘蛛」、もう1つは「糸」。

が、「糸」は少しひび割れたと同時に砂となって跡形もなくなる。

「っ、これ…」

「蜘蛛」と彫字された鏡のような材質の珠をミオはそっと拾い、周囲を確認してから食堂へと戻った。

 

 

──翌朝

「昨日は色々とすいません…。突然いなくなっちゃって……」

「いや、いいんだ。みやびも無事だったからな」

「……」

飛鳥にある程度の謝罪をしつつ、ミオは苦笑する。

「…ところでアンタ、金あるの?」

「……ないです」

「…お父さん?」

「なんだ」

「この人に振る舞った時間帯、何時くらい?」

「あー、多分営業時間ギリギリかもだな…。客足も少なかったし……」

みやびは暫しの沈黙の後、少し声を張って言った。

「…アンタね…。無銭飲食はダメでしょうが幾ら何でも!」

「ホントごめん!持ってない物はしょうがないじゃん?!」

「だからって無銭飲食は論外でしょうが!」

「僕神様なのに?!いや見習いだけど!」

「厨二病も程々にしなさい!警察呼ぶよ!?」

「なんでぇ?!」

「あー、うん。とりあえず2人とも落ち着いてくんねえか。頭に響く…」

飛鳥が2人を嗜めつつ、軽く額に頭を当てる。

「神様っていうなら、何かこう…やってみなさいよ」

「言われましても…」

「?出来ないの?」

「僕、一応まだ()()()でして…。一応免許は持ってるんですけど、神格は覚醒してないのでどっちかというと今のところは人間寄りで…」

「ちょっと待って?免許って何??」

「色々あって…はい」

みやびは暫し考えると、ミオを見ながら言った。

「じゃあ、こっちで1人で暮らせる目処がつくまではここで住み込みで働くっていうのはどう?アンタ、金持ってないんでしょ?」

「あ、あー…」

「お父さんも。これでどう?」

「みやびがちゃんとこっちの事教えられるんなら、俺は全然構わんが」

「……えーっと、じゃあ。お世話になります…」

「…よろしく。ミオ君」

「…うん、よろしく。みやびさん」

 

 

──とある寂れた社の一角

薄紫の髪を一つ結びにした赤い目の男性は、幸夜に蹴りと打撃を食らわながら、彼に対して暴言を浴びせていた。

「てめえ…途中で逃げてくるたぁ、どういう了見だ?まさか、許されるとでも思ってたのか?この蝙蝠野郎」

「がっ、ぐ…ごめん、なさい…ルドラ、さ──」

最下級(ビリーバー)の癖して俺の名前口にするんじゃねえ!!」

「あぐっ?!」

「ルドラ、少し落ち着いて。…別に()()()だけなら、わざわざ折檻する必要もないと思うんだけど」

「…ちっ」

薄紫の髪を一つ結びにした赤い目の男性──ルドラにそう言いつつ、どこからともなく大鎌を取り出し切先を幸夜に向ける水色の髪に赤い目の少年。

「別にボクがキミを罰してもいいんだけど。…寿命ちょっと削る?」

その問いに幸夜は最早口をパクパクと動かす事しか出来なかった。

「モルス、少々自重なさって。彼には別で話が来ていますので」

「……エキドナ。…分かった」

水色の髪に赤い目の少年──モルスはエキドナの言葉を聞き、幸夜から離れる。

エキドナはそれを確認すると、幸夜に近づく。

「彼女──友伎久衣(ともきくい)から、少し前に頼み事がありましたの。万一、自分が亡くなった場合は剥奪を行わずになるべく上の者に保護してほしいと」

「…はー、最期の最期まで舎弟甘やかしてんのか?おん?」

「…言いたい事は分かる、けど」

「という事で特例ではありますが。私の元で働く事を許可しますわ。…今後は行動にお気をつけを」

そう言って幸夜に向けて笑うエキドナは歪な愉悦に満ちた笑みをしていた。

 

 

──郊外の公園

そこで微睡みの中にいた灰色の編み込みハーフアップに灰色の目をした女性はぼんやりと目を開けつつ、近くにあった珠に触れる。

触れているそれは「喜」「怒」「哀」「楽」と彫字のされた鏡のような材質の珠。

近くには「争」「縛」「昂」「妨」と彫字のされた同一の物が転がっている。

「……誰か、知らない子…来た…?」

彼女は小さく欠伸をしてから手元にあった1枚の護符(アミュレット)を見る。

そこには「勇気/優気」と書かれていた。

 

──とある神社

「はぁ、なんだって俺が新神(しんじん)の面倒見なきゃなんねえんだ」

紺色の髪に橙色の目をした和装の男性は「剣」「珠」「勝」「雷」「嵐」「震」と彫字のされた鏡のような材質の珠をくくりつけたチェーンを腰元に着けつつ、そう呟いた。

「…アメノミナカヌシ、任務終わったらしばいてやる」

そういう彼が持つ1枚の護符(アミュレット)には「雷轟(らいごう)」と書かれていた。




零ノ珠 神門学院(しんもんがくいん)
神界にいる「神様見習い」が通う学校。
明確な学年の括りはなく、あくまで同級生・同クラスとして扱われる。
ここで自身が目指す神格や、下界(地上)で能力として使用可能な特殊免許を取得・習得する。
目指す神格が決まっている場合はその系統に近い神門学院で学ぶ。

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