メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』 作:いずさわ
「はあ、とうとう俺もこの部屋から卒業かぁ……うっし!待ってろよ日本ダービー、俺とチヨで絶対もぎ取りに……って、その前に引越し引越し!」
ガラガラガラガラ……
「うーす!お疲れ様でー」
「学園内ダートコースの砂の質に一番近いのは……砂の粒子の細さの違いが……ガラス質と岩石質が細かく混ざってて……細かな衝撃を吸収……だとするならば脚のダメージは……待てよ、それなら……うんうんうんうん……」
「……どわぁっ!?な、何してんだお前?てかなんだこの資料の山!?半分埋まってんぞお前!?」
「……ん?何?今忙しいんだけど?」
中央トレセン学園の学内で一番広く、高級感溢れるシックな内装に飾られた一級トレーナー室……の、片隅で。辺り一面に鳴り響いた無駄にけたたましい声に、思わず眉間の皺を濃くする僕。窓の向こう側には、一人侘しく佇む一番星がちらりと映り込んでいた。
「なんだ?またタケさんからエグい仕事頼まれてんのか?お前は知らないだろうが、世の中には『断る』って概念が存在しててだな……」
「違うよ、これは美竹さんとは全然関係なくて……てかお前こそ何しに来たんだ。部外者は立ち入り禁止だぞ」
「だから引越しの為に荷物取りに来たんだよ。ようやく俺も、自分のトレーナー室割り当てられたからな?」
「なに?自慢?悪いけどその手の話は他所でやってくんない?」
「お前が聞いたんだろ!?なんだこいつ!?」
積み重なる資料の隙間から見えた、なんとも殺風景な奴の姿。なんだかんだと荒ぶる声を聞き流して、僕は目の前の資料に視線を戻す。
「てか、何俺の机にまで侵食してきてんだよ!邪魔なんだよ!さっさと退けろ!」
「いいだろ、どうせ明日には僕の机…………」
「…………な、なんだよ?」
「……美竹さんの今までの教え子に、芝からダートに転向した娘。誰かいたっけ?」
「は?いやまあ、タケさんぐらいのキャリアなら、居なくはないだろうが……」
「ま、回顧録を地道に漁ってみるしかないか。よし、僕は直近五年ぐらいのを見てみるから、お前はそれ以前、頼んだぞ」
「おうよ……って!当たり前のように手伝わすな!てか、マジでさっきから何やってんだお前?」
「何って……あー……まあ、『かくかくしかじか』、ってところでさ」
「……なるほど?昨日言ってた『メジロアルダン』ってウマ娘が、ねぇ」
「だから今忙しいんだよ、悪いけど手伝ってくれるかほっといてくれるか、どっちかにしてくれない?」
「いや何訳の分からねえこと言ってんだ。バカだろお前」
「……分かってるよ、大人しく半年後まで待たせればいいって。トレーナーとしては、そっちの方が間違いなく正解なんだろう。けど、僕は」
「は?そっちじゃねえよ、やっぱバカだなお前」
「は?なんだよさっきからバカバカ言いやがって、バカって言う方がバカなんだぞバーカ」
「あのなあ……選抜レースってやつは、すなわち『ウマ娘がトレーナーに見つけてもらう為のレース』だろ?」
「いや知ってるよ、そんなの当たり前……」
「はぁ……だったらよ、お前が─────」
──────────────
「……まず、君の『現在地』を改めて確認しようか、メジロアルダン」
「現在地、ですか?」
昼下がり、時計はそろそろ十五時を指して、人影もじわじわと疎らになってきたカフェテリアの、片隅。眼前に広がるデジャブのような光景に、これまたデジャブのようなコーヒーと紅茶の香り。それでも、昨日よりも輝きを増すばかりのその瞳の輝きに胸をはためかせながら、僕は彼女に……メジロアルダンに向けて、ゆっくりと言葉を投げかける。
「まずもって、君は元来『芝中距離』が適性のウマ娘だ。短距離はまだしも、ダートは今まで一度も走った事がない」
「え、ええ、その通りです」
「そして恐らくだけど……身体が弱くて入退院を繰り返していた君は、既に同時期に本格化した他のウマ娘と比べて、純粋な体力や身体能力にも不安がある。だからこそ君は君自身で、あれ程緻密に負荷対効率を意識してトレーニングを行っていた」
「……それも、間違いありません。けれども、私は」
「大丈夫、これはただの確認だから。その熱はまだ取っておいて、アルダン」
「………………」
彼女の瞳の奥、超新星のように熱く弾けるものを僕は感じ取り、それを瞼の裏に焼き付ける。他人からすれば、やはり無茶で無謀な程の出力過多に見られるかもしれない。けれども、それこそがきっと彼女の、『メジロアルダンの原動力』なのだろう。
「そしてこれも言った通り。昨日見せてくれた君の集めた情報達、あの通りにトレーニングを積み重ねたところで、一ヶ月で君がダートでも勝てるようになるのは、やっぱり難しい。僕は、そう思う」
「そう……ですよね。ふふ、申し訳ございません、こんな無理難題に貴重なお時間をいただいてしまって……」
「そこで、だ」
「……?」
「その、あんまりな見栄えで申し訳ないけど……これを、君に」
懇切丁寧に頭を下げ、話を切り上げようとする彼女。きっとこういう状況は初めてではないのだろう、妙な手慣れ感のあるその動作に……僕は待ったをかける。
「メジロアルダン、専用……えっ?私専用の……トレーニングノート?」
「うん、そうだよ。君専用の、君のためだけのトレーニングノートだ」
両手の震えを必死に抑えつつ、僕は彼女に、一冊のノートを差し出した。有りもののノートで作ったなんとも安っぽい代物だが、とりあえず今はいいだろう。
「もしかして……たった一晩でこんなものを?」
「まあ、そこまで立派なものじゃないけどね?とりあえず、ちょっとめくってみてよ?」
「……ええ、かしこまりました」
紅茶のカップを少し脇に寄せ、差し出されたノートを恐る恐る机の真ん中で広げてみせる彼女。そのまま1ページ目、2ページ目と順繰りに捲っていく彼女の瞳には、僅かばかり当惑の感情が映り込んでいた。
「ええと……『そもそもダートレースとは何か』『ダートレースの特色』『芝との差異』……随分と、初歩的な事から書かれているのですね?」
「まあ、そうだね?」
「それと、このページは……『砂の構成物質』に、『砂の地域差と特色』……?えっ、こ、こんな所から調べ始められたのですか?」
「うん、そうだよ。いやなかなかこれが奥深くってさ?」
「それは……実に興味深くはありますが、しかしこれが、今の私に必要な情報、なのでしょうか?」
「……まあ、これは僕の自論でしかないんだけどね」
もう4、5ページと捲っていくにつれて、じわじわと当惑の表情を強めていく、メジロアルダン。
まあ、それも当然か。このノートの序盤に僕が書いた内容は、あまりに初歩的過ぎて普通に売られている教本などではまず間違いなく省略されている……いや、そもそも載せようとすら検討されなさそうな情報ばかり、だけど。
「君が集めた情報達を、『今の君』が使いこなすのは難しい。でもそれは、ただ単純に『現在地』が違うから。ってだけの話だと思うんだ」
「現在地、が?」
「例えるなら……Aくんが自分の家から近所の公園に行くために、北に100M、東に50M歩いたとする」
「え、ええ」
「じゃあその後、他の家に住んでるBくんが同じ公園に行くとして。BくんがAくんと同じように北に100M、東に50M歩けば、公園に辿り着けるか、というと」
「それは……」
「辿り着ける訳がない。何故って当然、AくんとBくんは、違う場所に住んでいるんだから」
「…………!」
「もしもAくんの家の方が公園に近いのだとしたら、そればかりは『才能』としか言いようがないのかもしれない。産まれてくる場所ばかりは、選べない。けれどもやっぱり『その程度の話』でしかないんだと、僕は、信じてる」
「信じてる、ですか」
「ああ、だからちゃんと『Bくんの家からのルート』と、『それを踏破できるだけの体力』さえあれば、Bくんも絶対に公園に辿り着ける。のと同じように……」
「『そこからのルート』さえ分かっていれば、芝適性のウマ娘も……私も、ダートレースに、勝てる……と?」
「あと、『それを踏破できるだけの体力』もだね。実はこのノート、二冊あってさ」
当惑から、じわじわと表情を変えていく彼女。よかった、少なくとも言いたい事は伝わっているらしい。改めて気を引き締め、僕は二冊目のノートを手元で回し、再び彼女に差し出した。
「一冊目、最初に見てもらったのがダートコースの手引書。元々ダート適性のある娘が当たり前のように『感覚』で出来てしまう事を、『理論』で補う為の情報達……要するに、ひとまず『Aくんの家まで行くための地図』、ってところだね」
「感覚を、理論で……」
「そして、もう一冊。これは数あるトレーニングの中でも、持久力……すなわち基礎的な『スタミナ』を向上させるのに特化したものを抜き出して載せてるんだ」
「ええと、あら?これは……『方法』に『回数』、『セット数』『負荷係数』『テンポ』……私の調べた情報と、フォーマットを合わせて下さったのですか?」
「というより、参考にさせてもらったかな?あんなに分かりやすい資料なかなかないからさ。やっぱり凄いよ、君は」
「いえいえ、それほどでも……」
「こっちのノートは、芝とかダートとか、短距離とか長距離とか関係ない。細かいテクニックも、ない。純粋に君の身体能力を底上げするため『だけ』の情報だ。すなわち『目的地まで踏破するための体力』の方」
説明を受け、彼女はまるで水を得た魚のようにその二冊のノートの中身に目を泳がせる。なるほど、たった一晩であれだけの情報を集めるくらいだ、やはり彼女はそもそもの知識欲自体、そこらのウマ娘達と段違いなのだろう。
……いや、知識欲だけでない。本質的に彼女は『欲張り』なのかもしれないな。自分の身の丈に合わない壮大な夢を抱いて、自分の足元をも顧みず、宙を目指して地を蹴り続ける、ような。
そして、実に烏滸がましい限りだけど……その感覚には、間違いなく覚えがある。
「僕が考える今の君に必要な情報は、ひとまずこの二つ『だけ』。肉体的な部分は、とにかく基礎体力の向上に努める『だけ』。ダート短距離という条件については、コースそのものを外側から観察し、考察し、理解しておく『だけ』。その二つを混ぜ合わせず、それぞれ個別に最低二……いや、三週間は、積み重ねておくんだ」
「い、一ヶ月の内、三週間も、ですか?そんなにギリギリまで、その程度のトレーニングしか行わないなんて、それは、流石に……」
「いいや、そんなにギリギリまでやっていいくらい、大切な事だと僕は思ってる。それに、Aくんの家にまで辿り着いた、その後のルート……その二つを掛け合わせた後、実際にレースで通用する形にする為の情報は、もう既に君が集めてくれてるから。だからたった一週間でも充分間に合う、僕はそう、踏んでるよ」
「……!私の集めた、情報……」
……だから、多分だけど。今の彼女が他の誰かに『言って欲しい言葉』が、僕には、分かるのかも、しれない。
「そうだよ。君は、君の今までの努力は、『間違いじゃない』」
「…………!」
「ただやっぱり、焦りすぎていたとは思う。その情報も、その覚悟も、そしてその『熱』も。放出するタイミングや角度を間違えれば、ただ自分の身を焼くだけだ。大切な選抜レースの直前に、体調を崩してしまったりとか、ね」
「……はい」
例えば、退院して間も無いのに無理やり選抜レースに出ようとしてみたり。
例えば、他のウマ娘の一挙手一投足を無理にトレースしてみたり。
例えば、スーパーヒーローの真似事をしてジャングルジムから飛び出してみたり……
あの日の僕にも、今の彼女にも……そしてあの日の『彼女』にも。必要だったのは、その考えを頭ごなしに否定して矯正することでも、その痛みを無責任に否定して背中を押すことでも、なかった。
「僕は君の、今まで培った努力も成功も、今まで負った傷も失敗も、眼を逸らさずに全て『肯定』する。良かったところは大いに活用して、上手くいかなかったところは、徹底して見つめ直す」
「……『肯定』して、下さるのですか?貴方は、私の事を」
「もちろん。これこそが『メジロアルダン』、君のなりたいウマ娘の姿、でしょ?」
そうだ、僕は僕のやることを『肯定』して欲しかった。仕事を肩代わりして欲しかったわけでも、おもちゃが欲しかった訳でもなく、ただ、僕のやることありのままを、妙な憐憫や憶測の色眼鏡をかけずに視て褒めて、必要とあらば叱って欲しかったのだ。そして……
「そして間違いない。そうやって苦しみ抜いて鍛えられた君の『エンジン』は、紛れもなく一級品だ。近所の公園なんて目じゃない、それこそ純度の高い燃料と正しい航路さえあれば、まるで『スペースシャトル』みたいに、遠い宇宙にすら、飛んでいけるはずなんだ」
「…………っ」
そして、今更気付いたって……なんて思ってる場合なんかじゃない。昔は昔で、今は今。『今の僕』が欲しいものは、あの頃とは、違うんだ。
「……ふふっ」
「?」
「ふふっ……ふふふっ……!ふふふふふっ!」
「えっ!?あ、アルダン?メジロアルダンさん?」
「ご、ごめんなさいっ……!全く、貴方のことを馬鹿にしている訳では、ありませんが……ふふふっ!」
「いやまあうん、バカで変人なのは、言われ慣れてるからいいんだけど……」
「あ、貴方のような熱い人、他に見たことがなくって……つい、ふふっ……」
「それは……君には言われたくないかなぁ……?」
自らの事を棚に上げながら、彼女はくすくすと、なんとも情緒たっぷりに口角を釣り上げる。
そして、何故だかうっすらと涙が浮かんだ、その大きくまん丸な瞳の中。だんだんと見慣れてきた紫色の輝き、だけでない、赤、橙、黄、緑、水、青……光の加減によってフルカラーで拓けていく、新しい世界。まるで青空の元の花畑のように、あるいは夜空に咲き誇る打上花火か、ダンスホールで舞い踊るデートのように……もしくは、無限に回転を続ける万華鏡のように。くるくる、ゆるゆる、ひらひら、きらきらと舞い散るビーズに、またしても僕は瞳を奪われる。世の中にはまだまだ、まだまだまだまだ、こんなに美しいものが、あっただなんて。
「……それで、いただいてよろしいのですか?このノートを、私が?」
「当然だよ。君だけの為に、作ったノートだから」
「………………」
「……あ、えっと!もちろんその、あくまでも使うかどうかは君の勝手だから!僕が今言ったことも別に強制じゃないし、そもそも僕は、君のトレーナーでもなんでも……」
「そう、ですね」
「……!」
「確かに、この情報は私一人では使いこなせる気がしませんね……文体が独特で、一見では読み解けないものばかりで……」
「あ、ははは、まあそうだよね?もちろん必要なければ、捨ててもらっても……」
「で、す、の、で。これはもう、実地でも直接教えていただかないと……ですね♪」
「……えっ?」
──────────────
「ひゃっ!あ……ふふふ……砂とは、このような感触をしているのですね?」
「あら、初めてだった?」
「流石に初めてという訳ではありませんが……他の方々よりも、経験は圧倒的に少ないでしょうね?」
西日射し込む、学園内ターフの隅っこ。ダートコースの端の方にしゃがみこんで、彼女は足元の砂をその手の中にたっぷりと掴み取る。まるで初めて公園の砂場に連れてきてもらえた子供のように、その表情は朗らかに瞬いていた。
「ええと、確か成分は……」
「基本的には岩や石と同じ鉱物片だね。他にも貝殻や生物の骨なんかの化石片を含んでいたり……で、その中で粒経が2ミリメートルから0・0625ミリメートルまでの大きさのものが『砂』と呼ばれるんだ」
「粒経……ああ、たしかに一粒一粒をよく観察してみれば、ほとんど同じくらいの粒が多いように思いますね?しかし……こんなに粒の揃った綺麗な砂なんて、一体どこから調達しているのでしょう?」
「日本にあるダートコースで使われる砂は、ほとんどが青森産なんだって。で、それももちろんただの砂って訳じゃない。厳格な基準を満たしたクッション性の高い砂だけが使われてるらしいよ」
「まあ、そんなに遠くから……!本当に、随分と手間暇がかかっているのですね?しかし『クッション性の高い砂』とは、一体どういうものなのでしょう?そもそも一体どうすれば砂のクッション性を高められるのでしょうか?少し粒を大きくする?それとも小さくする?」
「ちょ、ちょっと待って?そんな話、確か調べてどこかに書いたような……」
「ふふっ、早く早く、教えてくださいよ♪」
自らの知識欲の赴くままに、砂粒達を掴んだり離したり、持ち上げたり落としたり、なんとも自由に『砂』という物質そのものを観察し考察する彼女。その晴れやかな表情は、これまでとほんの少しだけ違っているようで。
「ん、よいしょっ……ふむ?手で掴んだ時はあんなに柔らかく感じたのに、足で踏んでみれば少し固く感じますね?何故でしょうか?」
「えーと、それはどうなんだろう?手で触った時の事は、流石に調べてないからなぁ……」
「あら?では私たちで解き明かしてみますか?解き明かして、それでそのノートの情報をまた更新してしまいましょう♪」
「……ふふっ、確かにそれは面白いかも?それじゃあ、なんだろう……あ、素足じゃなくて靴越しに踏んでるからとか?」
「なるほど、手の方は素手ですものね?で、あれば……」
「え?ちょっと?アルダン?」
「ひゃあっ!?ふ、ふふふっ、素足で触れるのは、ちょっとくすぐったいですね♪」
「……ふふふっ!そんなに、声出ちゃうぐらいくすぐったいの?」
「い、今の声は忘れてください!」
「ふ、ふふふっ!」
おもむろに靴と靴下を脱ぎ、まるで躊躇もせずに、その白樺のような素足を砂上に下ろしてみせる彼女の姿に、僕も思わず、息を漏らしてしまう。
「ふふ、ふふふっ!あー……『面白い』、な……」
……メジロアルダン。
既知のものに囚われず、ひたすら自由に、大きなスケールで、『未知』のものに手を伸ばすことの出来る、ウマ娘。
彼女と触れ合う度に、心の中にいつの間にか巣食っていた『退屈』や『虚無感』がゆっくりと霧散していくのを、確かに僕は感じていた。彼女を通して見えた光景は、実に不安定で、今にも崩れ去ってしまいそうで。
それでも。僕の心が、憧れや夢の形が……何もかも『変わっていく事』を強く強く肯定されているようで。そんな事が僕には酷く、面白く感じてしまったのだった。
そして、どうだろう。もしもこれから先も、ずっと彼女と共にいれるのなら……
『はぁ……だったらよ、お前が─────』
「………………」
「うーむ、これは、どうなのでしょうか……あの、申し訳ございません」
「……んっ!?な、何かな?どうしたの!?」
「素足でこの辺りを少し歩いてみたのですが、靴を履いている時との違いがあまりピンと来なくって……よろしければ、貴方もやってみていただけませんか?」
「えっ?僕も?」
「……ふふっ、硬さはあまり分からなかったのですが、意外と心地よい感触ではありましたよ?」
「……もう、仕方ないなぁ?」
退屈や虚無感の代わりに、心の中ちらりと顔を覗かせた、別の感情。見て見ぬふりをしながら素足で踏み込んだ地面は、まるでぴたりと静止しているかのように、なんだか渇ききっていて、少し、冷たく感じた。