メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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2025/3
シャンデリア・ワルツ


「それでは!いよいよ今年度のリーニュ・ドロワット、ベストデートの発表です!百名以上の参加者の中から選ばれました、栄えある今年の受賞者は…………」

 

 

「トウカイテイオー・メジロマックイーンペア!どうぞ壇上にお上がりください!」

 

「イェーーーーーーーイ!カイチョーーーー!みーーてるーーーー!?」

「うふふ……身に余る光栄、感謝いたしますわ?」

 

 

「クソ、どう考えてもチヨが一番目立ってたってのに……『他のウマ娘への妨害行為により失格』って……ちくしょう、何も言い返せなかったぜ……」

「あははっ!まあまあ、また来年も再来年もありますからね?今度こそアルダンさんに完勝できるように、今のうちから練習しとかなくちゃ!です!」

「……あれ、そういやメジロアルダン、どこ行った?」

「あれあれ?確かに、アルダンさんのトレーナーさんの姿も見えませんね?」

「まさか……あいつらまた!」

「ふふふっ!ほんと、仕方のない人たちですね?」

 

 

──────────────

 

 

第一体育館から聞こえてくる、湧き上がるような歓声……を、背にして。

学園の中庭に続くレンガ造りの遊歩道を、ワンツーステップで駆け抜ける。普段は生徒たちで賑わうこの道も庭も、まるで作りたての箱庭のように閑散としていて、不思議な心地良ささえ感じてしまう、午後十時。

 

「1、2、3。1、2、3……うん、大丈夫、大丈夫な、はず……!」

 

学園に住み着いた野良猫の声と、春風に揺らされる木々のさざめきを合図に、一回転スピンを決める僕の四肢。着慣れてないタキシードだけど、むしろいつもより身体が軽いのは……僕の普段着よりも上等な生地だからか、それとも先程まで見ていた彼女のダンスに引っ張られているからか。

ま、どちらにしても悪い気分じゃない、勢いと調子に乗って、一歩、また一歩、僕は『彼女』の待つ場所へ向けて歩みを進める。

 

そして……

 

「……!」

 

足取りをピタリと止めて、ただ目の前を見つめる。赤、青、黄色、ピンク、紫……色とりどりに華開いた中庭の花壇、その真ん中にただ一人の人影を見つけて、僕ははたりと息を飲んだ。

新月の中、輝く星々に照らされた純白の衣装。こちらに向けられた背中は、イメージよりもずっと華奢で、線が細くて……それでも、鋭く、凛々しく、まるで大地に突き刺さる一本の剣のように、まっすぐ鈍く、輝いていた。

 

「……アルダン」

 

「……!」

 

無意識に口から零れ落ちた、彼女の名前。ピコリと愛らしく両の耳を立てたその様子をよく観察してから、僕は高鳴る動悸をそのままに、一歩一歩丁寧に足元の芝生を踏みしめる。

 

「お待たせ、アルダン」

「ふふ、お待ちしておりました。もう、振り返っても?」

「うん、いいよ」

 

特に示し合わせた訳でもなく、背を向けたまま僕が近付くのを待っていた彼女……我が最愛のウマ娘、メジロアルダン。そのなんとも神妙な声色に、僕も首元の蝶ネクタイを丁重に正してから声をかけた。

 

「では、失礼して……」

「……っ」

 

風を受け、ふわりとなびく絹糸のような髪と、律儀に胸に手を置くその美しい所作にひどく見蕩れながら。けれども、気を叩き直して僕は彼女が振り向くのを待つ。チャンスは一度きり、完璧に、決めてみせる。

 

「トレーナー、さん」

「アルダン」

 

やがて、太陽と月のようにピッタリと重なり合った僕らの視線。意を決して僕は、今日一日絞り切っていた喉の奥底の言葉を解き放った。丁度一年ぶり、この言葉を再び口にできるという幸運を、深く深く噛み締めながら。

 

 

「──誕生日、おめでとう、アルダン」

 

 

「──ええ、ありがとうござ……ふぇっ!?」

 

「えっ」

「……ふっ……ふふっ……!ごめ、ごめんなさい……!本当にごめんなさい……!」

 

……神妙なムードから一転、顔を真っ赤にしながら、必死に溢れだす笑いを包み隠そうとするアルダンに、目を丸くする僕。原因は……まあ、僕が今まさに両手いっぱいに抱えている、『これ』だろうな……

 

「ええと……もしかしてそれは、『薔薇』ですかね?」

「う、うん、紫の薔薇……たまたまお花屋さんで見かけて、絶対、絶対君に似合うだろうと思ってさ?」

「にしても、ふふっ……お、多すぎませんか?」

「……あー、やっぱり?」

 

二人で目線を落とした、僕の手元……というか、胴体全部を覆い隠すような、紫色の薔薇の花束……

 

「ごめんなさい……笑ってしまうつもりはなかったんです……でもなんだか、お花畑の中からひょっこりトレーナーさんの頭が生えてるみたいに見えて、それが、お、面白くって、つい……ふふっ……」

「そ、それはどちらかと言うと、ホラーな絵面では?」

「っ……ふふふっ!あはははっ!」

 

僕が思わず呟いたゆるいツッコミが何かしら突き刺さったらしく、お腹を抱えて、膝から崩れ落ちる程笑い転げるアルダン。相変わらず、彼女の笑いのツボはよく分からないなぁ……けど。

 

「はぁー……もー、ほんと勘弁してくださいよ?トレーナー、さん……♪」

「……ふふっ、ごめん、ごめんって……大丈夫?立てる?」

 

僕の意図していたものとは、まるで正反対の彼女の反応に、それでもときめく僕の心臓。ほんと、自らの都合の良さに飽き飽きしてしまうことこの上なし……だ、けれども。

そうだな、こんなムードにいつまでも甘えてちゃいけないな。僕の肘に捕まりながらなんとか立ち上がった彼女に対して、軽く咳払いをしてから、僕は口を開く。

 

「……改めてだけど、誕生日おめでとう、アルダン。色々考えたけど、やっぱりどうしても何か形あるものを渡したくってさ。それで、用意したんだ、この薔薇」

「ふふふ、急に『ここで待っててくれ』だなんて言い出すものですから、少し驚きましたよ?ついさっきまで、今日が自分の誕生日であることすら、半分忘れていましたから」

「まさか、ドロワと日程被るとはねぇ……」

「けどおかげで、今までで一番記憶に残るドロワになりましたし、一番記憶に残る誕生日にもなりましたから♪一石二鳥、ですね?」

「一石……まあ、確かにね?」

 

その使い方が正しいのかはよく分からないが、まあ、彼女がそういうのなら、正解なんだろう、多分。グイグイともう一度蝶ネクタイを整えながら次の話題を探していると、今度は彼女の方が、しめやかに口を開く。

 

「……それで、いただいてよろしいのですか?そんな素敵な花束を、私が?」

「当然だよ。君だけの為に、咲いた花だから」

「───ふふ、まったく、貴方はいつもいつも……」

 

そっと差し出した花束を、我が子を抱き寄せるように優しく受け取ってくれた、アルダン。自らの腕の中、一本一本を慈しむように覗き込むその瞳は、まるで広大な庭園に咲く花々を見守る、果てしない星空のようだった。

 

「ほんとうに、凄い……これ、全部で何本あるのですか?」

「……『108本』、かな」

「…………!?」

 

そんな果てしない星空が、今度はキラリと僕の瞳を覗き込んできた。その光線を直視できずに、結局僕は、虚空を向きながらいらないことを呟き始める。

 

「い、いや、元々そこまで沢山にするつもりなかったんだけどね?花屋の店員さんに『大切な人に渡す用』だって伝えたら、なんか店員さん、すごい張り切っちゃって……気が付いたらこんなことになっちゃったんだよ」

「………………」

「にしても、『108本』って。店員さんもなんでそんな中途半端な数にしたんだろう?除夜の鐘じゃないんだか……アルダン?」

「ふ、ふふっ……」

「……?えと、どうかな?もしかして、なんか、微妙、だった?」

「いいえ、いいえ……!とっても嬉しいです。けれども……」

「けれども?」

「……『もう少しだけ、待っていてください。いつか必ず、もっともっと貴方に相応しい私になります』……から」

「……?」

「ふふっ、約束ですよ?」

「…………???」

 

もう少しだけ、待って……?

ダメだ、分からない……彼女の事だから、何かしらウィットに富んだ台詞なのだろうが……くそう、やっぱりさっきから絶妙に決めきれない……

けれども、ああ、本番はここからだ。

 

「そ、それで、さ。君にあげたいものはまだ、他にも、あるんだ」

「あら?他にもあるのですか?わくわく♪」

「っていうか、それこそ約束だったんだけどね?ちゃんと、『二週間』に『プレゼント』しに来たよ」

 

自らの胸元を、二度ほど軽く叩いて気を落ちつける。めいっぱいに空気を吸い込んで、そうして……意を決して、僕は彼女の前で片膝をつき、高らかに声を上げた。

 

 

「僕と、踊ってくれませんか?」

「…………!」

 

 

差し伸べた指先に、これでもかと力を込めて震えを抑える。破裂して口から飛び出しそうな心臓を飲み込んで、僕は彼女の返答を待った。

春の陽気の中、二割ほど残った目が冴えるようなからっ風が僕らの間に吹き付ける。学園に住み着いた黒猫のいびきも、嫌に耳につく。それでも、一ミリも動かずに僕は手を伸ばし続ける。そうして、数秒ほどの長い長い刻が過ぎた後……

 

「……ええ、喜んで……♪」

「っ…………!」

 

指先にちょんと触れた、繊細であたたかな彼女の指先。思わず強引にでも引き寄せてしまいそうになる心を抑えて、僕は出来うる限り優しく、丁寧にそれを握り返す。

 

「じゃ……じゃあ早速……」

「は、はい……よろしくお願い、します……」

「………………」

「………………」

「………………」

「……この花束、どうしましょうね?」

「あっ!そうだよね!?一旦置けるとこ探さないとね!?」

 

 

──────────────

 

 

「1、2、3。1、2、3……」

「アン、ドゥ、トロワ。アン、ドゥ、トロワ……」

 

中庭に生い茂る芝生をダンスホールにして、脇のベンチに腰掛ける108本の観客の前で踊る僕ら。風や鳥が奏でる優雅な生演奏に乗せて、街灯のLEDが灯すシャンデリアに照らされて。スロー、クイック、またスロー……覚えたてのステップを、僕は何度も何度も繰り返した。

 

「……驚き、ました」

「アルダン?」

「とてもとても失礼な事を言ってしまうのですが、トレーナーさんがこんなにきちんと踊れるだなんて、思っていなくて……私が手取り足取り支えるつもりでいたのですが、そんな必要もないとは……」

「ふふ、どうかな、惚れ直した?」

「ええ、とっても惚れ直しました♪」

「えっ、え、そ、そっか?」

 

僅かばかりのイタズラ心で放った言葉を、綺麗に打ち返されてしどろもどろになってしまう僕。リズムだけは崩さないようにと気を張っていたおかげで、持て余していた僕の口はまたもや、照れ隠しにいらない事を呟き始めた。

 

「いや、全然大したもんじゃなくて、一夜漬けみたいなもんだよ。風情も何もなく、何も考えずに無理やり頭に叩き込んだだけっていうかさ」

「……本当に、そうでしょうか?」

「え?何が?」

「何も考えずに、なんてことありませんでしょう?貴方はこの二週間、どのくらい『私』の事を、想ってくれましたか?」

「……そうだね、そうだった。少なくとも君のことはずっとずっと、四六時中考えてたよ」

「ふふふ、それがどれだけ『大したもの』なのか、貴方はもっと自覚するべきです」

「自覚、か。うん、そうだね、間違いない」

 

もちろん、この二週間どころの話ではない。きっとこの丸一年ほどの間、僕以上に彼女の事を考えていた者は恐らく……いや、間違いなく、いないはずだ。そう言い切れるだけの『根拠』も『実績』も、『自信』も、確かに僕の中には、ある。

 

「……むしろ、大したことがないのは私の方です。ここ最近は自分自身のドロワの準備に手一杯で、貴方のことを慮る余裕なんて、ありませんでしたから」

「そんなことはいいんだよ。僕だって、それを望んでいたからね?」

「いいえ、それでもです。貴方はこの忙しい中、やったことも無いダンスをここまで習得して、あんなに素敵な花束まで用意してくれて……ふふっ、踊りたいと言い出したのは、私の方だと言うのに……」

「……アルダン」

 

重ねた彼女の手のひらに、無駄な力がこもったのを感じとる。あんなにスマートで完璧だった彼女のステップにも、不均等なブレが生じてくる。

けれども、そうだ、僕にとっては。

彼女のその『揺らぎ』にこそ、やはりどうしても、『愛おしさ』を感じてしまうのだった。

 

「少なくとも、そうですね。貴方がそんなに素敵なタキシードを着ているのであれば、私もそれに見合った、可愛らしいドレスでも着てくれば良かったな、なんて……ふふ、今更遅いですけどね?」

 

しんなりと顔を俯け、自らの身に纏う純白のパンツスタイルに複雑な視線を向けるアルダン。そうだな、先程のチヨノオーのように、僕だって彼女と言葉もなく、目と目で通じ合える……訳では無い。どうしてそんな表情を今、彼女が浮かべているのかは、やっぱりどうしたって分かりっこない。

けれどもそんなこと、悲しくもなんともない。当然彼女は僕でなく、僕は彼女ではないのだから。

だからこそ僕は、今日も『言葉を尽くす』。彼女がいつも、僕にそうしてくれるように。

 

「いいや、全く、全然、そんなことする必要はないよ。その衣装と、別の可愛らしいドレス。どちらか選べと言われても、絶対に僕は今の君の、その衣装を選ぶさ」

「ふふ、それは……『今の私が、それを望んでいる』から、ですか?」

「昨日まではそうだった。けど、今日は違う」

「……?」

「さっきのダンスホールでさ、見てしまったんだ。その衣装を身に纏う君が、世界の中心で、たった独りで踊る姿を……本当に、本当に美しかった。惚れ直したんだよ、君と、その衣装に」

「……!」

 

ようやく、今度こそ拝むことができた、綺麗に紅く染まった彼女の頬。ふっ、と力が抜けた彼女の手のひらを、今度は僕が力強く握りながら、まだまだ言葉を繋いでいく。

 

「君が誰の何を想ってあのダンスを踊ったのか、本当のところは僕には分からない、わかりっこない。けど……間違いなくあのダンスは、『僕のために踊ってくれたダンス』だ」

「トレーナー、さん……」

「『今の僕が望んでいるもの』を、君は間違いなく選び取って観せてくれた、その衣装も含めてね。君が自覚していようがいまいが、君は心から僕の事を想って、慮って行動してくれていたんだよ。本当にありがとう、アルダン」

 

彼女は僕でなく、僕は彼女ではない。

彼女が纏った衣装が、踊ったダンスが、もしも他の誰かの為のものでも、はたまた彼女自身だけのものだったとしても。それを観て思わず飛び跳ねてしまった僕のこの鼓動だって、間違いなく本物なのだ。だから、悲しくなんてない。どこの誰に『違う』と言われたって、彼女自身に言われたって、これだけは、絶対に譲れない。

 

「……この衣装を、貴方に初めて見せた時のことを、覚えていますか?」

「もちろん、メジロの邸宅だったよね」

「あの日の私は、本当は不安で不安で、怖くって、今にも泣き出してしまいそうなほど、辛かったんです」

「………………」

 

僕の言葉を真摯に受け止めてくれたアルダンが、今度は自らの口を開いた。きっと、露ほども思い出したくなんてないだろう記憶を辿って、今も少しだけ涙を浮かべながら。それでも、今日も彼女は僕に『言葉を尽くす』。

であれば、僕にできるのは。それを一字一句聞き漏らさないように、丁寧に耳を澄ませることのみである。

 

「自分の中ではこれ以上なく最高で、宝物のように思っていた衣装を、沢山の人から否定されて、別のものと比べられて、なかった事にすらされそうになって……もしかしたら、おかしいのは自分の感覚の方なのではないか。なんて、そう思ってしまいそうになるほど……いえ、本当は、今も少し思っているのかも、しれません」

「………………っ」

「でも、その度に貴方がそばにいてくれた。そばにいてくれて、『綺麗だ』と、『似合っている』と、私が不安になるたび何度も何度も、飽きずに繰り返し励ましてくれたのです。いつだって、今だって、『私だけのため』に」

「……そうだったかな?」

「ええ、絶対にそうです。私が今、そう決めましたので♪」

「ふふっ、そうだね?君が言うのなら間違いない、ね?」

 

当然、それだって本当は自分のためでしかない。というより励ましでもなんでもなく、単に我慢できずに、ところ構わず本音か漏れていただけの話なのだが。だがまあ、彼女がそう言うのであれば、それだけは絶対に、そうなのだろうな。

 

「それじゃ、それが分かってるのなら話は早いね?可愛らしいドレスなんて今は必要ない。僕だってその衣装のこと、これ以上なく最高で、宝物のように思っている、から」

「……っ、ほんとにほんと、ですか?」

「ほんとにほんとの、ほんとだよ。もしまた、君のその衣装を悪く言うような輩が現れたのなら、その時は……」

「その時は?」

「『ざまーみろ!』って言ってやるよ。『この良さが分からないなんて、可哀想な奴だ!』ってね!」

 

そうだ、彼女のこの姿は絶対に、醜くも、らしくなくもない。最高に美しくて、凛々しくて、『メジロアルダンらしい』姿なのだ。この丸一年、世界中の誰よりも彼女のことを考え、頭を悩ませ続けたこの僕が言うんだ、間違いなんて、あるわけがない。

 

「っ……ふふふっ!あはははっ!」

 

僕が一段気合いを込めて放った言葉が何かしら突き刺さったらしく、お腹を抱えて、膝から崩れ落ちる程笑い転げるアルダン。俯いても、涙を流したとしても踏み続けていたステップを止めて、彼女はその紅く染まった頬を両手で受け止め、肩を震わせていた。相変わらず、彼女の笑いのツボはよく分からない、分からない……けど。

 

「っ……ふふっ……!あっはっは!」

 

分からなくとも、そうだな、一緒に笑い合うことくらいはいつだってできる。それでいい……いや、それがいいんだ、僕らってやつは。

 

「はぁー……もー、ほんと勘弁してくださいよ?トレーナー、さん……♪」

「……ふふっ、ごめん、ごめんって……大丈夫?立てる?」

「………………」

「アルダン?」

「転げて、起き上がって、また転げて、起き上がって……私たちはこれから先の人生、一体何回これを繰り返していくのでしょうね?」

「さあねえ、でも……そうだなあ」

「トレーナーさん?」

「……今日の僕だってそうだった。カッコつけて、ダサくなって、またカッコつけて、ダサくなって……それでももう一回カッコつけてみたら、ようやく君を、リードすることが出来た」

「……!」

「それってさ、結局何をやったとしても。たとえ、今までの僕と正反対の、遠く逸脱したような事をし始めても……君は絶対に、僕のことを嫌いにはならない。それが分かってるから、できることなんだ。たとえ僕が上手く踊れなくっても、花束なんてなくっても、君は怒ったりしないし、嫌ったりもしない。だから僕は安心して『変化』できる。今までと違う自分にも『挑戦』できる。自分の胸の高鳴る方へ、思いっきり飛び出していける。全て、君のおかげだ」

 

果てしない星空のような、彼女の煌めく瞳。その解き放たれた光線を今度こそ掴み離さず見つめる僕……けれどもその後の、まるで流星群のように降り注ぐ満面の笑みには耐えられず、結局目を逸らしてしまう。

けれども、それでもいい。また今度、今度こそ必ず掴み取れるから。そう言い切れるだけの『根拠』も『実績』も、『自信』も、確かに僕の中には、あるから。

 

「……本当に今日は、最高の夜ですね?最高のドロワで、最高の誕生日で……最高の、貴方との思い出です♪」

「ああ、間違いないね?最高で、宝物みたいな、そんな夜だ……ん、よいしょっと。さて、これからどうする?まだまだ、もっともっと踊りたいなら、絶対に、いつまでも、夜通しになってでも、付き合うよ」

「そうですねぇ……それもいいですが……」

 

再び、僕の肘を伝って立ち上がって、そのまま顎に手を置き考える彼女を、幾度目か蝶ネクタイを整えながら見守る僕。やがて開いた彼女の口から飛び出した言葉に、やっぱり僕の胸は、都合良くときめいてしまうのだった。

 

「……ええ、ダンスはもう、今はおなかいっぱいです♪ので……また、『次の約束』をしましょう?」

「ふふっ、いいね?次は何をしたい?」

「うーむ……あ!そういえば以前、ご一緒に『オーケストラを観にいこう』と話していましたよね?」

「ああー!言ってたね!確かに!」

「ふふふっ、それでは決まりですね?今度は私がとびきりの良い席を用意しておきますので、楽しみにしておいてくださいね♪」

「うん、楽しみにしておくよ。いつでも、いつまでもね?」

 

鳴り止まない、木々と風と鳥と猫からの喝采に、より一層輝く星々と街灯と花々が照らすシャンデリアの中、深々とおじぎをする僕ら二人。

 

これにて、今宵の舞台は終演。

けれども、もうすぐ次の舞台の幕が開く。また次の舞台も、その次も、いつまでも。

次の舞台はもう少し、上手く踊れますように。なんて、少しだけ僕は、僕自身に願いを込めるのだった。

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