結城友奈・曲筆【本編完結】   作:おーたまー

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あらすじ
園子は自らの屋敷にて、須美、銀を着せ替え人形にして楽しんでいたが、大社での用事の為離脱。そして大社で鎧の少女達と対面し、隊長である楠芽吹と模擬戦を行うことに。結果は引き分けだったが、芽吹はまだ彼女を認めようとはしなかった。一方須美は、屋敷内で行方をくらました銀を探している内に、敷地内のお社に入り込んでしまい……そこで、乃木若葉の亡霊を目にする。


第九話 乃木への追走─其伍─

「「「……」」」

 

 なんだか、二人の様子がおかしい。間に挟まれた形で通学中の銀は、その認識を既に確信の域に設定している。園子は昨夜大社に赴いていたのだから、恐らくそこでなにかがあったと考えられる。須美の方は、銀が乃木邸で迷子になっていたことが原因なのだろう。

 

 とはいえ、余りにも口数が少なすぎではなかろうか。

 

「お前らさ、なんか……あった?」

「え!? ううん、私はなんにも! わっしーは?」

「あ、うん。ちょっと変な夢見ちゃったみたいで。たぶん昨日の夜中に横のベッドがもぬけの殻になってて、不安で探し回ってたせいだと思うけど」

「……さーせん」

 

 そう言われてしまっては、素直に謝るしかない。だが、銀としては本当にそれだけだろうかと思ってしまうほど、二人の異変は顕著だった。特に園子、彼女は確実に何かあったはずだ。何故隠すのか、言えない理由があるのか、それとも信頼されていないのか……考えれば考えるほど、推測に邪が混じりゆく。しかし、銀自身も、彼女らに言えないことなどいくつもあった手前、深く追求するのも憚られた。

 

「しかし、広い家だったな。兄弟いないんだっけ?」

「いないわ。いるはずない」

「お、おう」

 

 何故か園子に代わり即答する須美。この子は単純に自分に怒っているのだろうか。なんだか圧が強いというか、目つきが鋭いというか。

 

「ごめんな、須美、寂しかったよな?」

「え? 何の話?」

「いや……なんでもないっす……」

 

 尻すぼみに声量が落ちた。園子からも何の突っ込みもなく。なんだか、なんだかなあ。首を傾げずにはいられなかった。

 

 

「銀、ちょっといい?」

 

 授業後、須美が声を掛けてきた。通学時の圧は弱まっていたものの、今度は別種の緊張感が漂っている。使命感に突き動かされている、そんな感じの。

 

「どした須美」

 

 いつも通りに返事をした。

 

「あのね、次歴史の時間でしょ。それで、その……私に代って質問を……ね?」

 

 緊張感は一気に消え去り、弱々しい須美が表面化する。なんだ、いつもの須美じゃないかと苦笑した。

 

「ああ、りょーかい。なんて聞けばいい?」

「いや、ひとつじゃなくてね。出来れば、スマホのメッセージで次々指示していくから、それを読んでいって欲しいの」

「……ん!?」

 

 ぎょっとした。授業中のスマホの使用はれっきとした校則違反だ。いくら質問とはいえ、それを須美が命じてくるとは、どんな風の吹き回しだろう。

 

「え、優等生の須美さんがそんなことをさせるんすか」

「お願い! どうしても聞きたいの」

「……おけおけ、任しとけ」

「ありがとう……くれぐれも気を付けてね」

 

 そう言って自席に帰る須美。親指を立てておいた。

 

「……」

 

 まあ、断れるわけが無かった。最悪バレても大した問題にはならないだろうが。それより、そこまでして何を質問したいのか、それが重要だ。

 

 とりあえず、机の引き出しの手前にスマホをセット。画面の明るさを適量に、スリープ時間を未設定に。須美のトーク画面を開き、準備完了。

 

「あ、あのさ」

 

 ここで、園子が声を掛けてきた。

 

「うん?」

「いや、その、聞いてたんだけどね、ほんとにやるの? やめといた方が〜いい〜かも〜しれ〜ないことはなかったりしないこともないことはないかもじゃない?」

 

 ないが多いが、恐らくやめとけって言いたいんだろう。

 

「……園子、なんか隠してるだろ」

「え!? いやいや、やだなあっはっは〜、あ、授業はじまっちゃうな〜」

 

 妙にいいタイミングでチャイムが鳴った。あのやろー、と横目で自席に戻る園子をじろりと見た。

 

 そしてやって来た歴史の先生は、クラス担任でもある安芸先生。以前のアルフレッドとの電話といい、何かあるとは思っていたが。

 

「……ふっ」

 

 余裕ぶって笑ってみたが、ちょっとこれは良くない予感がした。鉄面皮の鬼教師安芸。度々叱られる遅刻常習犯の銀としては、質問攻めの相手とするには難敵だ。

 

 ちくしょう、断っておくべきだったかと後悔しそうになったが、堪える。友のたっての願いだ。受けてやろうぜ三ノ輪銀。己を鼓舞し、来る指示に備える。

 

 授業が開始され、今か今かとスマホの画面を確認。そうして、約二十分が経過した。

 

「以前の授業では、かつて列島であった日本は、致死性のウイルスの蔓延によって人口の九割以上が減少したこと、四国のみ、そのウイルスの感染が拡大せず、無事であったことを教えました。ではなぜ四国だけがウイルスの魔の手を逃れたのか。それは、瀬戸大橋をはじめとした全ての本州四国連絡道路が……」

 

 チョークで黒板に文字を連ねていく。

 

「利用出来なかったから。です。当時、老朽による部分的な崩壊・崩落や欠陥が連続的に発見されました。当然そのルートは利用出来ず、渡航による本州との間での移動も、安全上の理由でストップされていました。これにより、四国は一時的に閉鎖状態となり、ウイルスの侵入を未然に防ぐことが出来たのです」

 

 ……きた。ここでか、須美。意を決し、銀は手を挙げた。

 

「三ノ輪さん、どうぞ」

「四国の外にはもう人は住んでいないのですか」

 

 述べながら、純粋に銀は思う。

 いい質問をするな、と。

 

「ええ、そう考えられています」

 

 なんてぼーっとしてはいられない。不自然にならないようにちらちら机の中のスマホ(カンペ)を盗み見て、質問を続ける。

 

「えーっと……確認はしていないんですか?」

「調査は過去に一度だけ行われたことはありましたが、船舶が戻らなかったため、調査の遂行は人命的道徳観念から断念すると判断されました」

 

 ここで、銀自身にも疑問が浮び上がる。日本地図から四国以外が消えてから、三百年近くが経過した現在。それなのに、船が戻らなかったからもう行わなかったというのは、いくらなんでも不自然ではないだろうか。

 

「その判断は、ウイルスが残っていたからとの考えからですか?」

「それも一つです」

「でも、えーと? 300年……も生き残るウイルスなんてあるんでしょうか」

「宿主がいれば充分有り得ます」

「……でも、人間はいないんじゃ」

「動物が生き残っているかもしれません」

「えーっと……」

 

 ──チャイムが鳴った。

 

「……今日はここまで。質問があるなら指導室で聞きましょう」

 

 そう言って安芸先生は教室を後にした。それを見るや否や銀は須美の前に移動し、声をかける。

 

「ありゃなんかあるな」

「ええ、おそらくね。行こ、そのっち」

 

 須美はそう言って頷き、即座に立ち上がる。

 

「あ〜ちょっとお花摘みたくなってきたかも〜、結構どっさり」

 

 そう言って目尻を下げながら退く園子。

 これに銀は眉を顰める。この愛想笑い、確実にいつもの誤魔化し園子だ。何かあったことは確定。しかし、安芸先生に話を聞くことさえ拒否されるのは流石に怪しい。先生に会うとまずいことでもあるのか。

 

「じゃあ、後にする?」

 

 銀ほど気に留めず、尋ねる須美。

 

「いやいや、教えてくれればいいから、気にしないで行ってきてよ」

「……しゃーなし、行くか」

「うん」

 

 そうして教室を出る間際、再度銀は園子の方を横目に見やる。空席の横で、なにやら腕を組んでうんうん唸っているらしい。

 便所、行かねーのかよ。銀は無言で呟いた。

 

 

 ‎*

 

 

「そんで、どうするよ? またアタシが聞く?」

 

 一階、職員室に隣接する生徒指導室に向かう二人。普段利用する機会もないため、どことなく緊張している。

 

「ううん、大丈夫。私が……聞く」

「……そっか」

 

 聞いて、何故だろう、と、妙な胸のざわつきを不審がる銀。けれど、深く覗き込んではいけない禁忌のように思えて、ちょっとだけ力任せに蓋をした。

 

 それからはもう思い出すことも無く。生徒指導室のドアノブを捻った。

 

「「失礼します」」

「いらっしゃい。次の授業があるから、手短にね」

 

 安芸先生は何やら書類のようなものに持っていたペンを置き、回転椅子をくるりと回してこちらに向き合う。

 用意された三つの椅子に、どうぞ、という合図を受け取ってから腰掛ける。

 

「今日はやけに三ノ輪さん、質問してくれるなと思ったんだけど、鷲尾さん繋がりだったのね」

「ええ……あはは」

 

 笑いながら、銀はちらりと左横の余った椅子を見る。これはきっと園子の為に用意したものだろう。だからどうという程のことではないのだが、銀は安芸先生の態度がどこか白々しく見えて仕方がなかった。

 

「あの……質問、いいですか?」

 

 切り出す須美。銀は少し気になった。緊張しいの彼女が、先生に対してはそこまで気を張っているようには見えない。銀と園子以外のクラスメートに対して、鷲尾須美という少女はこのように自分から声をかけられた試しがないのだ。

 

 まあ、別にだからなんだって話、なのだが。

 

「ええ、どうぞ鷲尾さん」

「本州四国連絡道路を直さないのは何故ですか?」

「……そうね。まあ……これは私の考えに過ぎないけれど、直す必要が無いからなんじゃないかと思うの」

「直す必要が……ない? 失われた国土を、取り戻すことができると言うのに?」

 

 食ってかかる須美。銀は黙って耳を傾けている。

 

「例えば瀬戸大橋を直したところで、使おうと思う人はどれだけいると思う? みんな、わざわざ四国から出ようとはしないんじゃないかしら。かつての岡山倉敷市まで三七キロ、そしてそこは三百年間放置され続けた未開の地。居心地のいい四国から、わざわざ移住する人は、きっと極わずかよ」

「でも……きっとやれることは増えるはずです。国土を広げることが、国益にならないはずがないです」

「修復には莫大なコストがかかる。人員も、期間も。それなのに、需要が無いんじゃ厳しいわ」

 

 身も蓋もない話だ。かつて日本という国は、四七の都道府県を持つ列島であったという。四国はそのうちの僅か四つに過ぎないのだ。しかし歴史、人類の営み、その殆どが失われたというのに、安芸先生に言わせれば、現代の人々には、その足跡を辿る望みは消え失せているらしい。だが、需要なんてものは創り出すことも出来るはずで、やはり300年も放置する理由にはならないじゃないのか。

 

「じゃあ……乃木大国公社についてなんですが」

 

 乃木──? 

 銀は思わず横目で須美を見てしまう。

 

「調べたんです。あらゆる産業を管理し、経由し、根を張る“世界のインフラ”、乃木大国公社。憲法にも法律にも縛られない、全てに繋がりながら独立する、大社と並ぶ国営組織だと……」

 

 乃木大国公社……銀にはよく分からなかったが、とにかくそれは国の運営を担う最大手の組織で、そして、「乃木」の二文字を冠することから、おそらくその組織は乃木家を主体としたものということであり、同時に乃木家の莫大な資産の裏付けそのものだとも推測できる。

 

 確かに、乃木家が乃木若葉の末裔であるというそれだけでは、三百年もの間その財力を維持し続けられる根拠としては弱い。国営に紐づけられた巨大組織を“乃木”が設立したというのなら、納得がいく。

 

「……それがどうかしたの?」

「そのあらゆる産業のコントロール……それは高性能なAIによるものだと聞き及んでいます。しかし、そこまで高度なAIが存在しながら、民間においては殆ど組み込まれていません……あらゆるリソースをコントロールし、全ての産業を制御出来るほどのシステムなのにも関わらず……」

「……」

 

 銀の頭はパンク寸前だ。それに対し、安芸の表情は一貫して無だ。むしろ、貼り付けられたと思われる程、変化の無い仮面のような。

 

「本当に、AIだけなんですか?」

「どういうこと?」

 

 その声のトーンも、抑揚も、ただ純粋な疑問を投げかけているように聞こえる。銀にも、須美にも、そうとしか聞こえない。それ以外、なんの情報も見出せない。不自然な程に。

 

「乃木大国公社の運営におけるシステム、その構造……そこには、何か、もっと別の……」

「……私も、そこの専門家では無いから、なんとも言えないわ」

 

 コンクリートに厚塗りした、遮音性の高い指導室。ダンボールに詰め込まれた教材や書類の束をまるで積雪と見紛うほど、凍り付いた数秒の沈黙が充満する。

 

「……そろそろ戻んないと、じゃない?」

 

 痺れを切らして銀が音を捻り出す。

 

「……そうですね、すいません、しつこくお聞きしてしまって」

「いいのよ。勉強熱心なのがいい所なんだから。またなにかあったらいつでも聞いてね」

「ありがとうございます。先出てるぞ、須美」

 

 銀は逃げるように部屋を後にした。

 

「あっ……そのくらい待ってよ」

「……ごほん、鷲尾さん」

 

 背中から声がして、振り向く。

 

「あ、はい」

「……仲良くね」

 

 固まっていた教師の顔が、幾分か解れていた。

 

「……はい」

 

 須美も、ぎこちなく笑い返した。

 

 

 *

 

 

「なんかアタシには難しい話だったよ。けど、安芸先生、いつもより怖かったな……」

 

 二人は話しながら、教室へと並んで歩く。

 

「あのね、銀」

 

 随分と神妙な顔をして、こちらの目をじっと見つめてくる須美。告白でもする気かと茶化してやろうかとも思ったが、そんな雰囲気でもなく。

 

「ん? ど、どした」

「そのっちには、内緒ね」

「え? さっきのこと?」

 

 三人が探る乃木関係のこととは言え、須美は今を生きる乃木家の裏事情について、根掘り葉掘り掘りまくっているわけで。その辺を断りもなく調べ上げるのは、確かに余り体裁の良い事ではないし、その気持ちも分かるが、園子なら別段気にしなさそうなものだが。須美なりの気遣いなのだろうか。

 

「あ、それじゃなくてね。いや、それもそうなんだけど……実は昨日……銀を探してる時に、偶然乃木大国公社の制御室に入り込んじゃったの」

「……ん?」

 

 さっきの話から言って、AIがどうたらこうたら関係の精密機器が沢山あるところに入ってしまったってことだろうか。

 

「なんかやばいの? それ?」

 

 勝手に入るのは不味いかもだけど、謝れば大丈夫なんじゃないの、須美だし。そう返すも、当の本人は首をぶんぶん振って否定する。

 

「きっと……だって、そこに、乃木若葉が……」

「ん?」

「……うん、銀、今日家に来て。ちゃんと話す」

 

 凄く決意を胸にって感じの顔で、須美は銀の手を握り、銀は困惑に飲まれたままとりあえず頷いた。

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