結城友奈・曲筆【本編完結】   作:おーたまー

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あらすじ
瀬戸大橋記念公園内のマリンドームにて、ひなたは「根」に触れ、「楔」の資格を手に入れた。同じく「楔」となった久美子と共に、根の世界に二人は入り込む。
一方、若葉達は瀬戸大橋上で二体の巨大な化物の襲撃を受けるも撃退し、遂に四国に足を踏み入れるのだった。


第二十二話 白鞘小百合

「……」

 

 無言で足元の根に触れる久美子。石英のように白く、それでいて力強くしなやか。やはり何もかも、「これまでの現実」とは明らかに違う。非存在が、確かにここに存在している。

 

 ……二十年ぶりか。

 

 久しく懐かしく、追い求めてきたこの感覚。現実を超え、神という幻想に足を踏み入れる背徳。脳裏に焼き付けられてより消えることの無い、退屈という呪いへの反逆の記憶。

 

 ああ、素戔嗚よ。私は今、『生きている』ぞ。

 

 ──立ち上がり、そう胸の内で呟きながら、雄大な自然を眺める。吹き踊る花弁の渦が薄れると共に、いつの間にか目前に開かれた白い“根”の世界。それは一見、雪の振り積もった北の大地のようでもあった。

 

 振り返るとその先には瀬戸内海、そして無惨に破壊された瀬戸大橋が見える。

 

 上空には深海のようにうっすら青みがかった明るい夜空と、どんよりと灰かぶりの雲を浮かばせた真っ暗な夜空が、四国の国土を境界として広がっていた。

 

「久美子さん。若葉ちゃんは既に先に進んでいるようです。行先は恐らくあそこだと」

 

 傍らに佇んでいたひなたの視線の先を見やる。複雑に入り交じる根の森、その遥か先に聳える根の山脈。うちひとつの山頂から、四国全域を照らす規格外の輝きが放たれていた。

 

「全く、少しは浸らせて欲しいんだがな。それで、お前の大切な人──それが若葉、と言ったか」

「はい、乃木若葉。この世で何よりも大切な、私の最愛の」

「ああ、そいつの目的地はあそこで間違いない。あれが“神樹”。土地神の集合体であり、今や四国の本体のようなものだ」

 

 上里ひなたを遮りながら、答える。

 そう。あそこには神がいる。正真正銘、本物の神様が。

 この時をどれほど待ちわびただろう。どれほど待ち望んだだろう。

 ああ、もう立ち止まってなどいられるか。

 

「先に進むぞ。上里ひなた。会いに行こうじゃないか」

「……急ぎましょう」

 

 地に巡る根を、四足のスニーカーが踏みしめる。早まる鼓動が、歩幅を揚々と大きくさせる。もはや人の世の未来など知ったことではない。滅びようと生きながらえようと、私には関係ない。

 

 私はこれから、“神になる”のだから。

 

 

 ────────────────────────

 

 

「タマっち、後ろ!」

 

 切羽詰まった杏の声。

 

「おわっ! こんの!」

 

 振り向き、楯を投げつけ、標的を打ち落とす。黒い化物──殺人器は黒紫の礫とともに消失。

 

「大丈夫か、球子」

「ああ、だけどさ、ちょっと多すぎるぞ、これ」

 

 漂白された樹海、四国。そこに足を踏み入れ先へ進んでいく中、私たちは殺人器の大群による襲撃を受けた。大型の殺人器と異なり、広範囲に渡る攻撃手段が無く、物理的な体当たりと噛み付きしか行わない小型個体は、一体一体は今の私たちの敵ではない。しかし、こうも一気に戦力を集結させられてしまうと、無視することも難しい。厄介なのは、化物が四方から囲むように攻めてくることだ。これでは逃げることも前線を押し上げることもできず、間合いをどんどん詰められていってしまう。

 

「どうしましょう若葉さん、この化物たち、数に限りが無いかもしれませんよ」

「選択肢は二つに一つだ。このまま敵を減らし続けるか、無理矢理突破し、目的地まで駆け抜けるか」

「タマは二つ目を推すぞ。無理矢理ってところが気に入った」

「……よし、やるか」

「それしか、ないですね」

 

 背中を合わせ、うじゃうじゃとした化物の群体を睨みつける。杏は弓に光の矢を番え、限界まで引き絞る。穿った隙間に、私が先陣を切って槍となるのだ。

 

「「「……?」」」

 

 いざ放たんとしたその時、化物は翻って一斉に退却を始める。脇目も降らずに戦場を後にする様は、どこか無機質で兵器然としていたこれまでの奴らの行動と明らかに乖離している。

 

『退却』とは、兵の損失を最小限に抑えるれっきとした戦術であり、ただ闇雲に対象に襲い掛かるのとは訳が違う。おまけに一個体でなく、群れ全体でその流れを踏襲したのだ。

 

「明らかに不自然です。これじゃ、まるで──」

 

 瞬間、呼吸が止まるような衝撃が天から落下する。巨大な何かが目の前に降ってきたらしい。驚きつつも私たちは反射的に武器を構え、巻き上がった土煙のその奥を探って目を凝らし、少しづつ近付いていく。

 

 間もなくして、勢いよくブラインドを突っ切って、凡そ3メートル程の人型の個体が姿を曝け出した。長い二本の足を交互に踏み出し、直立二足走行でこちらに猛スピードで向かってくる。明らかにこれまでの個体と比べ、規格外の俊敏さ。唯一反応できた私は、そのエネルギーを逆手に取り、垂直に飛び上がりながら横なぎに一閃。その首を刎ね落とす。

 

(しまった……っ!)

 

 人型の化物は一体のみではなかった。同種の個体が大回りに展開し、我々の死角から背後に回り込んでいたのだ。一体目はあくまで囮。真の狙いはもう一体の奇襲、それも反応できずにいる球子と杏。

 

「なめんな!」

 

 両手で楯を突き出し、球子は化物の突進攻撃を受け止めていた。少し遅れて反応した杏は右手で光の矢を握り、それを槍のようにして心臓部を抉り刺す。そのまま球子は楯で人型を殴りつけ、転倒したまま敵は礫となって消失した。

 

 その光景を見て、私は瞠目する。どう考えても、球子があの攻撃に反応できるはずが無い。それこそ、迫りくる攻撃を、事前に知ってでもいなければ……

 

「若葉! 避けろォ──ッ!」

「は──」

 

 反応が遅れた。

 

 全身を、何か液体のようなものが覆いつくしたようだ。冷たい。冷水だろうか。

 

 ああ、この感覚、覚えがある気がする。

 

 何か大事なものが喪われた時に、溢れ出る冷や汗の感触だ。

 

 えっと、それって、いつのことだったろう──

 

 

「若葉! 若葉! おい! 若葉!」

「若葉さん、起きて! このままじゃ……!」

 

 タマが何度揺さぶっても、あんずが何度声をかけても、若葉はピクリとも動かない。漆黒の水球に呑まれ、若葉は戦闘不能、意識不明の状態に陥ってしまった。

 

 水球を放ったのは、二体の人型個体とは別の、かなりの大型の敵だった。あの時、二体ではなく、三体の殺人器が同時に落ちてきていた。あんずの矢によってその敵を倒すことはできたものの、若葉は一向に目を覚ましちゃくれない。

 

「小型が来やがった! 担いで逃げるぞあんず!」

「う、うん!」

 

 若葉を背負い、根の森に入り込む。入り組んだ森の中なら、奴らも少しは動きにくいはずだ。

 

「こんな手の込んだやり方で来るなんて……私、敵はロボットか何かだって、どこかで思い込んでいたのかもしれない」

「ああ、タマもだ。あんまり時間かけてたら、どんどんこっちが不利になってくかもな……っ!?」

 

 なんだ、これ。なんか、急に、視界がゆらぎはじめた。どこか湿って、()()()()してる。全身の感覚が、どこか薄くて。若葉を背負う肩も背中も、走って回る両足も、まるで()()()()()()()()みたいだ。

 

「え、どうしたのタマっち!? タマっちまで具合悪くなったの!?」

「いや、なんか……見えるんだ。これは──」

 

 意識が失われる一歩手前。逃げ続ける身体は作動させたままに、タマはまだ知らない精神の海に漕ぎ出せるよう、魂の半分を船に乗せた。腕に備え付けていた楯だけが、少し熱を帯びていた。

 

 

 

 

(! ここは剣道場……か?)

 

「はああああああっ!」

 

 パシーンと道場に響く、面金を竹刀が打ち付ける音。

 

「面あり! 勝負あり!」

 

(つえー……これ若葉か。小学生くらいかな)

 

 竹刀を降ろし、白線に戻る。目の前の少年が、面の奥で歯を食いしばっているのが見えた。見学者連中が、それを見て眉を顰め、「居合だけやってろよ」「おとこおんな」「おかしいだろ」「あいつと試合したくねえよ」だのなんだの言ってるのが聞こえてくる。それに注意する先生。だけど私はこの先生より強い。心の底では、私のことを疎ましく思っていることも知っている。

 

 私は、強かった。誰よりも強かった。居合も剣道も、私より上手いのは祖母だけだ。

 

 “何事にも報いを” 

 

 それが乃木の家訓であり、師匠である祖母の教え。私はこれを、理不尽への抵抗、その免罪符として振りかざしていた。

 

 女が剣道をして男を一方的に打ちのめそうが、それは私が悪いのではない。弱い男たちが悪いのだ。今より強くなろうともせず、僻む奴らに非があるのだ。だから私は手加減などしなかったし、剣友会を辞めることもなかった。

 

 そして私は強いのだから、弱い者を守るべきだと思った。守るべき対象として、私には二人の幼馴染がいた。

 

 一人は上里ひなた。黒髪で赤いリボンを付けた、優しい目をした少女。

 

 もう一人は、白鞘小百合(しらさやさゆり)という名前。声は小さく、いつも縮こまって、人の目を見ることができない。長い黒髪で、一部色素が抜け落ちた前髪で目を隠していた。クラスで一番、身長が小さかった。

 

(なんだ……? ここは、保育園か……? 若葉の……?)

 

「はあっ、はあっ、どうだ、まだやるか!」

「ひぐっ、うっ、パパにいうからなぁ! しねクソわかば!」

「なんだと! おまえがさゆりのおもちゃをとったんだろう! まだなぐられたいのか!」

「うるせえ、ばーか!」

「……いったぞ、さゆり」

「……ありがと、わかばちゃん」

「いいんだ。わたしはつよいからな」

 

 昔からその極端な気弱さにつけこまれ、同い年の少年たちに絡まれることが多かった彼女は、常に私の傍から離れずにいた。小学校に入学した後も、私はひなた・小百合と行動をすることが多かった。私は小百合のあらゆる障壁を取り払ってきた。彼女を揶揄う者を咎め、些細な嫌がらせにも表立って対峙した。そうすることが、彼女にとっても最善であると思っていた。

 

 しかし、私達の、その当たり前は続かなかった。五年生になった辺りで、私にとって、明確な『敵』が現れたのだ。

 

 七夕星(たなばたすてら)。白髪が混じったサイドテール。小学生離れした美貌と、しなやかな手足。紅と紺碧のオッドアイ。人の目を惹きつける才に溢れた少女だった。

 

(……今度は教室か。おわっ、すげー美少女いる。あんずほどじゃねーけど)

 

 五年時、私は小百合とはじめて別のクラスになってしまった。彼女がみんなと溶け込めるか、上手くやっていけるかが心配で、こっそりその教室を覗き見た。そこで見たのは、一人が小百合の白髪を引っ張り、クラス中の人間がそれを見て嘲笑する、胸糞の悪い光景だった。

 

(……なんだよこれ)

 

 それを見て廊下で絶句する私の傍らで、口角を半月のように引き上げて、声も無く笑う少女がいた。それが七夕星だった。彼女は小百合を標的にしたのだ。証拠は無いが、確証はあった。彼女がこの学校にやって来て間もなくの変化。全校生徒の半数以上が小百合を社会的、物理的に叩きのめし始めたのだ。それから、全ての不満、鬱憤、面倒ごとは、何故か全て、「白鞘小百合とかいう五年の女のせい」になっていた。先生に怒られただとか、遅刻しただとか、明らかな八つ当たりであってもおかまいなし。真実かどうかは二の次で、「とりあえず小百合のせいにする」というトレンドが出来上がっていた。そんな流れを作り出した動機も経緯も分からない。そんな状況なのに、私は別クラスで、彼女を守り続けることが出来なかった。

 

(どこだここ。校舎が見える。いや体育館か?)

 

「な、なんだよ乃木。突然話って、こんなところでよ……もしかしてお前、俺に気が──ぶっ!?」

「はは。痛いか? 痛いよなあ。その痛みはな。他者を理解するためにあるんだ。いいか。白鞘小百合に精神、及び肉体に何かしらの危害を加えた人間をお前が知る限り全てここで吐け。できないのなら、お前が他者を骨の髄まで理解できるよう矯正してやる。もっとも、骨が残っているかは私には分からないが……なっ!」

「あぶっ!? ひぃ、は、話す、話すからあ!」

 

(……若葉)

 

 だから私は、可能な限り()()()()()()()を暴力と恐怖で支配することにした。

 

 ……結果的に、それは叶わなかったが。

 

(ここは、体育館倉庫か。!? 若葉!? ひでえ、全身あざだらけじゃねえか。顔まで、こんなに、殴られて……)

 

「若葉ちゃん!?」

「ああ、ひなたにさゆり……どうしたんだこんなところで」

「なに寝ぼけたこと言ってるんですか!? 私が体育倉庫の鍵を借りてここに来るまで、ずっと閉じ込められてたんですか! 若葉ちゃんがこんなにやられるなんて、一体何人にやられたんですか、誰にやられたんですか、先生に報告しないと!」

「油断しただけだ。次は勝つ」

「……若葉ちゃん」

「気にするな小百合。私は強いからな。だろ?」

 

 

 その翌日のことだった。

 丁度昼休み半ば、教室のドアを開けて、一人の男子がこう叫んだ。

 

「4組の白鞘ってやつが屋上で飛び降りようとしてるらしいぞ!」

「なんだと!?」

 

 私は走った。頭も腕も足も、包帯でぐるぐる巻きのミイラ状態だったが、意に介さず、人の群れをなぎ倒して走った。ただがむしゃらに階段を駆け上がり、祈りと焦りと、胸を締め付けるような苦しみと、己への呵責と、この世全てへの恨みと怒り、絡み捻じれた思考回路、それら全てを押さえつけながら、屋上のドアノブを捻った。

 

 小百合は塀の向こう、その縁に靴を脱いで立っていた。息も絶え絶えの私。隣にはステラが瞳をゆがませていて、唾を飲み込む音が聞こえた。

 

「先に行くね。ステラちゃん」

 

 小百合は頬を上気させ、にっこりと笑ってそう言った。風を震わせ放たれたその声は力強く、いつもの彼女とは何もかも異なっていた。十年以上傍らにいた私でさえ、それが白鞘小百合であると信じることが出来なかった。

 

「若葉ちゃん。そこに手紙置いておいたから読んでね。今まで守ってくれてありがとう。私……若葉ちゃんのこと、大大大だーい好き。これからもずっと。だからね。もう私のために、頑張らないでね」

「さゆ──」

 

 あれ。おかしいな。さゆりが消えた。どこに行ったんだ。突然消えるなんて、びっくりするなあ。でも、ほんとはまだそこにいるんだろう。隠れていて、私のことを脅かそうとしているんだろう。あ、靴の下に手紙が置いてある。こんなもの書かなくても、直接言ってくればいいのに。小百合は相変わらずシャイだなあ。でもいじらしくて可愛いよなあ。ああ、だから私は小百合のことを守らないとダメなんだ。か弱くて恥ずかしがり屋で人見知りで、誰よりも心優しくて、気遣い屋で、ホラーが苦手で、花が好きで……手紙を読もう。なになに。『若葉ちゃん、突然こんなことしてごめんね』こんなことってなんだ? あはは。よくわからないなあ。全然わからないけど、小百合が謝ることなんてないんだぞ。『私、今まで若葉ちゃんに何もかも押し付けて、自分で解決しようとしなかった』何言ってるんだ。私は私のやりたいことをしたいようにしているだけで、押し付けられてるなんて、ちょっとネガティブすぎやしないか小百合。『だから、今度ばかりは私が決着付けるから』何をだ? なんのことだ? 『もう私のために痛い思いしなくていいからね』なんの事か分からないよ。『こんなやり方しかできないけれど』だからなんなんだよ。『きっと効果てきめんだと思う』分からないんだよ小百合。『ネットで色々調べたんだ』何を言ってるのか分からないんだ。『でね、若葉ちゃん。こんなに迷惑ばかりかけて』違う。違うよ。『本当にごめんなさい。でもね』頼むよ……頼むから。『若葉ちゃんがいて、今までほんとに心強かった。だから』お願いだよ、お願いだ。『これからも強くて優しい、かっこいい若葉ちゃんで──』

 

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! 行くな!!! 行かないでくれ!!! ああ、さゆり、さゆり──────!!!

 

 ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。ごめん。助けられなくてごめん。救えなくてごめん。力になれなくてごめん。私のせいだ。私が全部悪いんだ。私に、力が無かったから──

 力が、無かったから? 

 

 “何事にも報いを”

 

『若葉。この言葉を胸に刻み込め。これが何を意味するのか、私がお前に教えることは決してない。だが、この言葉は必ずお前を強くする。それだけは保証しよう』

 

 強くする? ばあちゃん。私は強くなったかな。昔よりは強くなったかもしれない。

 

 でもさ。小百合は強くなったのかな。私、小百合を助けて、手を貸してきたけどさ。

 

 それって、もしかして余計なお世話だったかな。

 だってさ、小百合がさ。 

 

『かっこいい若葉ちゃんでいてね。さよなら』  

 

 小百合が、しんじゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしもしのう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなの、許しませんから……!」

「……あ」

 

 血だ。あれ? 私の血じゃない。だって痛くない。 

 

「若葉……ちゃん。これ……ちゃんと読みましたか……?」

 

 ひなたが私の両手から手を放して、ポケットから紙を取り出した。

 手紙だ。小百合の手紙。ぐしょぐしょだ。

 

「優しくて……かっこいい若葉ちゃん……で、いなきゃ……ね?」

「……え?」

 

 私の足元に、ひなたが倒れた。私の両手には、神棚の下に飾られていた真剣が握られていた。その剣先は、なぜか紅く染まっていて、ぽつぽつと雫が垂れている。ひなたの腹のあたりから、紅い血だまりが広がっていた。

 

「……救急車」

 

 何かが折れる音がした。

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