結城友奈・曲筆【本編完結】   作:おーたまー

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あらすじ

乃木若葉の謎を追う須美、園子、銀の三人。作戦会議の為、地元のショッピングモールであるイネスに立ち入った。フードコートが空くまでゲームセンターで遊んでいたが、とあるハンマー叩きマシーンのハイスコアのプレイヤーネームに、乃木若葉の文字が表示されていたのだった。


第六話 乃木への追走─其弐─

「このマシン、まさか西暦の頃からここに置いてあったりってことは……あるかしら」

「まさか。三百年近く置いてあるにしちゃまだ綺麗だよ。その上本人が……なんて」

 

 思わず黙り込む三人。乃木若葉本人でなくとも、その存在を認知している者が、少なくともこの町の中にいる。住んでいる可能性も高い。しかし誰が、なんのためにこの名前を騙ったのか。

 

 そんな静寂を遮るように、店内放送にて、清掃の終了とともに、フードコートの解放のお知らせが響いた。

 

「よし、とにかくなんか食いながら考えようぜ」

「給食無かったからお腹ぺこぺこだよ〜」

 

 気を取り直しつつ、そう言ってエスカレーターに向かう二人の後を追いながら、須美はふと背後をちらりと見やる。そこには肩でおさげにした、透き通る黒髪の、端正な顔立ちのした同年代くらいの少女がいたのだが、何故か先程のマシンの画面を、何やら真剣な顔で眺めていた。その画面には、まだランキング表示が残っていた。

 

 

「さてと、この辺でいいか」

 

 まだ人の少ない食事処。三人の他に、客は黒服を着た男性一人のみ。特に位置などにこだわりの無い銀が率先して適当にテーブルを取り、園子と須美もそれを囲む椅子を引く。座りながら銀はランドセルを開き、例の本を中心に置いた。

 

「でも……いいのかな、ミノさんはともかく、わっしーは面倒じゃない? うちのご先祖さまのこと調べるの」

 

 乃木若葉についての好奇心から園子とコンタクトを取った銀とは違い、須美は乃木若葉について調べる動機は今のところ無い。自分たちの都合に無理矢理付き合わせてしまっているのではないかと考えていたのか、園子はそう訊ねる。

 

「実は、西暦から神世紀移行期の情報はとても少ないの。ほとんど失われてると言ってもいいくらいに。だからそのっちのご先祖さまのことを調べれば、新しい歴史の世界が拓く足がかりになるかもしれない。それって凄いことだと思うの」

「いやぁ須美は一々いいこと言うなぁ」

「一々は余計よ」

 

 そう言って笑う二人。つられて園子も微笑む。

 

「そっか、なら良かった〜、じゃー、私からご報告させていただいてもよろしーでしょーか!」

「おお、宜しくたのんます!」

 

 それを合図に、どこからとも無く瓶底メガネを取り出した園子。吹き出す銀と苦笑する須美をよそに、しかし結構重たいトーンで話し始める。

 

勇者乃木若葉は、地の神より賜りし力を遺憾なく発揮し、星屑の悉くを切り伏せ、天の遣わした邪神を打ち倒す。遂に生大刀を神樹に捧げ、四国は結界に包まれ、人々はあるべき魂の姿を思い出した。かくして乃木若葉は英雄となり、新たな時代の幕開けを象徴する現人神として

 

「まず、この“星屑”についてだけど……なにかの比喩なんじゃないかと思うんだ。恐らく、乃木若葉は何かと戦っていたわけだから、敵陣営の兵士かなんかの総称かなって。それで、“邪神”っていうのは多分、敵陣営そのものの例えか、その中核をなす機関か人物だと思ってる」

 

 言いながら、検閲を免れた両開きのページ、その左半分を指さす。

 

「えーっと、それじゃあそのっちはこれは神話っていうより実際に起きた争いそのものを非現実的な物語に書き換えたものだと思ってる……ってこと?」

 

 ディベートの司会の如く、総括して確認する須美。

 

「うん……ほんとに字に書いてある通りのことが起こったとは、私自身が信じられないし……結界とかも、多分争いが収まったってことだと思ったんよ」

「アタシはまだその逆の線もあるかもって思ってる」

 

 園子とは反対の立場に立ち、主張を始める銀。小学生ながら、三人でかなりバランスの取れている模範的な会議模様である。

 

「この“生大刀”っていうの、実際に日本の神様が持ってた武器らしいんだ。これを、“神樹”っていうのに乃木若葉が捧げたことで結界が生まれたってことなら、それを目的として戦う乃木若葉と、それを阻止しようとする“邪神”と“星屑”たちっていう構図が見えてくるだろ?」

 

 な? と念押す銀。それはそうなんだけど〜と煮え切らない園子。そんな中、銀は停滞を回避せんと、すかさず須美に話題を振る。

 

「じゃ、須美はどう?なんか調べてきた?」

「うん、そのことは二人が調べてくれると思って、私はこの樹の絵についてなんだけど」

 

 見開きの右半分、版画で描かれた独特な雰囲気を纏うこれは挿絵か、資料か。複雑に枝分かれした、暗闇に輝く真っ白な樹木に注視する。

 

「多分、これは“神樹”だよね」

 

 須美と顔を合わせながら確認をとる園子。

 

「うん、で、これみて」

 

 それに頷き、そのままランドセルから一枚の紙を取り出す。

 

「チラシ?日輪宗?」

「聞いたこと、ある?」

 

 訊ねる須美だったが、二人の反応は、それが自分たちにとって未知なる何かであるということを示していた。

 

「うーん……」

「あるよーなないよーな……あ。このマーク」

 

 何かに気づいた銀が、チラシの一部を見て呟いた。

 

「そう、この絵とそっくりだと思ったの」

 

 チラシに印刷された、黒い樹木と、それを囲む黒縁の円。そして内側は白く塗りつぶされている。これはそっくりというより、もはや色彩を反転させただけの書き写しそのものだった。

 

「日輪宗って、神樹と何か関係があんのかな」

「おや、我々の組織に興味がおありなんですか?」

 

 ぬっと、女子小学生三人の会話に割って入る黒服の男。怪しさ満点の登場だが、貴重な情報提供者が現れた手前邪険にするのも気が引ける各々。とは言え平日の昼間であるし、今のご時世そんな危険な人物そうそう身近に居ないだろう……そんな逡巡と葛藤の末、訊ね返したのは園子。

 

「お兄さんは日輪宗の方なんですか?」

「はは。もうそんな歳じゃないよ。日輪宗っていっても、僕のは末端のこじんまりしたグループだけどね。しかしこんな女の子達が日輪宗に興味を持ってくれるなんて、嬉しいよ」

 

 顔を見合わせる銀と須美。ここは園子に任せようと頷く。

 

「えっと、日輪宗ってどんなことをしてるところなんですか?」

 

 なるべく自然に取り繕う。大丈夫。店員や他の客だっているのだから。

 

「うちの場合は基本は集まってお茶会とかかな。飲食店や小売店とかも経営してるよ。それと、時々集会を行って、“さきわい”っていう、教祖様からの有難い教えを受けるらしいよ。うちはしばらく先になるみたいだけど」

「教祖様……それってどんな教えなんですか? 仏教? キリスト教?」

「うーん。僕も本部の方は詳しくなくて。まあ、割と小さい子たちも多いらしいし、行ってみるのもいいかもね」

 

(おいおいマジか)(どうせ信者の子供のことよ)

 テーブルの下でこっそりスマホのSNSグループを利用し、そうやり取りする二人。

 

「じゃあ日輪宗ってどこに……って」

「おや。こんにちは。そちらは?」

 

 突如現れた二人目の男。オールバックで固めた白髪に、時代錯誤の燕尾服。物腰柔らかでありつつ、硬い意志を感じさせるキリッとした佇まい。長身のバトラー、乃木家専属執事がフードコートに登場した。

 優しさ溢れる垂れた目尻。しかしその瞳の奥で、静かな敵意がギラついている。

 

「アル!どうしてここに!?」

「お久しぶりです須美様。談笑ですか、是非私もご一緒させて頂きたいですね。そちらのあなたも、そう立ちっぱなしでいないで、お座りになっては如何ですか」

 

 捕らえる気だ。頼もしいと思いつつも、銀は見知らぬ執事の殺気を感じ身震いする。何人か痛い目に合わせてるであろうことは容易に想像出来るほど、彼が威嚇慣れしていると分かるのだ。

 

「あ……保護者の方ですか。いえ、まあ、大した話ではないんですよ、はは……で、では、これにて」

 

 捲し立てるように言って男は去っていく。アルフレッドは男の背中が小さくなるまで見届け、また三人の姿を確認した。

 

「帰りましょう。車の方は手配しております」

「え、ちょっとアルルン、どうしたの急に」

「園子様……妙に馴れ馴れしい大人が出てきたらすぐに大声を出してお逃げ下さいと何度も口を酸っぱくしてお教えしてきたのに、ほんとにもう」

「過保護だな〜。多少の危機管理は本人に任せようよ。おたくの園子さん、もう小6なんだしさあ」

「……とにかく、今日のところは帰りましょう。皆さんも一緒に。お家までお送りしますから」

 

 反論できる空気でもなく、銀と須美は顔を見合わせ、頷く。

 

「「は、はい……」」

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