プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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8話『ボケとツッコミの比率は1:1になるとは限らないが、ならないとも限らない』

 

 

「と、いうことがあったんですよ」

「大変だったね……」

 

 今日もいつもの三人はバディマート(バイト先)にやってきた。そして今はレイタくんから黒づくめの男の人に待ち伏せされた時の話を聞いたところだ。

 

「あ、俺も黒づくめのお兄さんとバトルしたぜ!」

「僕はバトルしてないんだよ、どっちかというと人命救助してたんだよ」

 

 うん、本当に大変だったねレイタくん……きっとこのタツキくんの天然ボケとあの氷の女王みたいな精霊さんの蛮行にツッコミを入れながら頑張ったんだろう。本当に偉い。

 俺の見立てによるとこの三人組と精霊さんたちの計六人はボケの比率が高いから、多分レイタくんが希望だ。

 

「わしも褒めて」

「ありがとねリューちゃん、レイタくん(のことと黒づくめのお兄さんの命)を助けてくれて」

「ふふん」

 

 ほらもうリューちゃんが軽く天然ボケに回ったもん。タツキくんの肩の上から渋い声で褒めさせて渋い声で喜んでるもん。

 まあ褒めるのはタダだから調子に乗らない限りはいくらでも褒めるけど、見た目と言動に対して声が渋すぎる。

 

「シンイチさん、秋の限定さつまいもクリームと生クリームのサンドってもう売り切れちゃいましたか……?」

「あー、そうだね。うちはあんまりお客さんが来ないぶん納品も少ないから、そこになかったら品切れだ。ごめんねユキちゃん」

「大丈夫ですよ!また次の塾帰りに買いますから!」

 

 こっち(お店側)に気をつかって大丈夫と言ってくれたユキちゃんに『同じ時間に来ても結局売り切れてるんじゃない?』とは言えなかった。この子も天然か……?違うよね……?

 

「ユキ、同じ時間に来ても結局完売してるんじゃないか?」

 

 あ、レイタくんが言った。

 

「たしかに……」

「そもそも塾から帰ったら夕飯の時間ですよ、間食は難しいと思います」

「たしかに……」

 

 そしていつも通りユキちゃんの首元にゆるく巻きついてる緑色の蛇、ユグちゃんが続けてユキちゃんに告げた。

 

「まあ、ほら…休みの日に買ったらいいんじゃないかな」

「たしかに……」

 

 ユキちゃんがたしかにbotになっちゃった……

 

 

 

 それにしても、黒ローブ仮面さんの言ってたこと、本当だったんだなあ。

 『最近夜道で怪しいやつを見かけることが増えた』って、間違いなく黒づくめの男たちのことだもんね。

 

 まあ間違いなく狙いは精霊カードだろうけど、あの三人の精霊さんはかなり強いからそこらの雑兵(ぞうひょう)ならバトルすらせずに撃退できるだろう。そして精霊カード絡みならそれを持ってない俺は狙われないということだ。嗚呼(ああ)、なんて身軽なボディ、必要ない相棒(バディ)

 

 これは失礼、狙われないことを確信して気が楽になった弾みで韻を踏んでしまった。

 心なしか冷え込んだ空気に帰路につく足を早めたところで、見覚えのある仮面と黒いローブが目に入って一気に表情が抜け落ちた。

 

「見つけたぞ…真常(しんじょう)シンイチ……」

 

 狙われないって……確信してたんだけどなぁ……

 

「きみはなんの恨みで俺を狙ってるの?」

「恨みなんてない……それより貴様、なんで帰り道を変えた?」

「いやあ、最近怪しいやつに付きまとわれててさ」

「ああ……最近怪しいやつを見かけることが増えたとこの前忠告したばかりなのに、もう付きまとわれてるのか。それなら仕方ないが、せめて私に伝えてから帰り道を変えてくれないか」

 

 いやきみだよきみ。きみに付きまとわれてるから帰り道変えてるんだよ。

 というか伝えるわけないよね?なんで黒ローブ仮面さんに帰り道教える必要があるのさ。そもそも連絡先知らないし。

 

 早く倒して帰ろ……

 

 

 

「《清浄の天使》を召喚!『召喚時』効果で場のアニマ(モンスター)1体を選択して『浄化』する!」

 

 出た。白の固有能力『浄化』だ。

 『浄化』されたアニマは効果を失うし、墓地で発動する効果も白紙になってしまう。基本的には墓地に一度置かれた上で墓地を離れることでようやく『浄化』は解除される。

 

 黒にとっては割としんどい能力……と思うかもしれないけど、そもそもどの色でも基本的に効果無効はしんどい。つまり黒にとってもしんどい。

 

「貴様の《恐怖の幻影》を『浄化』してやる!」

 

 でも、この人運悪いのかな?まあごめんね。

 

「『緊急詠唱』《魂の抽出》発動。自分のアニマが相手のカードの効果で選択されたなら『緊急詠唱』できる。自分の場のアニマ1体を『埋葬』してカードを2枚引く」

「なにぃ!?」

 

 『埋葬』というのは黒の固有能力。アニマを破壊せずに墓地に置く効果だ。カードによってどんなアニマをどこから墓地に置くかは違う。

 場から『埋葬』したり、デッキから『埋葬』したりもするし、相手の場のアニマを『埋葬』して除去ができたりするカードもあるからいい能力だと思う。

 

 そして『緊急詠唱』の割り込みによって『浄化』される前に《恐怖の幻影》を墓地に置けた。

 黒のイメージはやっぱり闇属性、となるとやっぱりあれもあるよね。

 

「《恐怖の幻影》の効果。このアニマが場から墓地に置かれたなら、同名カード以外の自分の墓地のアニマ1体を『蘇生』する」

「くっ……」

 

 『蘇生』も黒の固有能力。まあ説明する必要はないと思うけど、墓地のアニマを召喚する効果だ。まあ『蘇生』って書いてないだけで墓地からアニマを召喚できるカードは他の色にもあるんだけど、やっぱり固有能力にするだけのことはあって黒にはそういうカードが多い。

 

 それにしても一々感情豊かだよねこの人。仮面つけてるのに表情が変わってるんだろうなってわかるくらいだ。

 

「ただし、《恐怖の幻影》で5コスト以上のアニマを『蘇生』したならそのアニマは自分のターン終了時に墓地へ置かれる」

「なんだ、それならまあ……」

「なにを安心してるの?」

「ひょ?」

「きみ、これ止められなかったら詰みだよ。《空亡(そらなき)》を『蘇生』」

 

 当然のことだけど『蘇生』は基本的に本体コストを払わずにアニマを出せる。例えば4コストの《恐怖の幻影》で8コストのアニマを『蘇生』したら単純計算で4コストお得だ。だから強くなりすぎないように《恐怖の幻影》には5コスト以上のアニマを『蘇生』したなら自分のターン終了時に墓地に置くという制約がある。

 

 でも、その制約が意味をなさない組み合わせはあるんだ。

 

 禍々しい太陽が昇って降りてくる。それは場のアニマ全てを踏み潰し、ついでに黒ローブ仮面さんも地面にめり込ませて消えていった。

 

「《空亡(そらなき)》は10コストで戦闘力0のアニマだ。それだけならただの最弱カードだけど、『召喚時』効果がある。それは……」

「な゛…な゛ん゛て゛私゛の゛ラ゛イ゛フ゛か゛0゛に゛……」

「お互いの場のカードを全て破壊し、破壊したカードと同じ数のダメージを相手に与える」

 

 いやあ、悪いね。黒ローブ仮面さんがたくさんアニマを出してガンガン攻撃してたから《空亡(そらなき)》の射程圏内に入っちゃった。

 

 場のアニマ全てを破壊するスペル《大災害》とかもそうだけど、調子に乗って出せるだけカードを出すと大損することもある。

 そもそもこのゲームは毎ターン1枚のドローで手札をマナゾーンに置いてアニマを出してスペルでサポートして……と要求されるリソース自体は結構多い。

 今度からは必要な消費をしっかり見極めてもっと効率のいいカードの使い方を意識するといいと思うよ。俺のデッキ速攻系じゃないし。

 

 ……ごめんやっぱいまのなし。またバトルする前提みたいな言い方しちゃった。早く付きまとうのやめてね。

 

「お゛、お゛ほ゛え゛て゛ろ゛〜!」

 

 うーん、それにしても黒ローブ仮面さんのデッキ、どこかで見たことある気がするんだよな。

 《炎の贈り物》に《清浄の天使》……赤と白をベースに便利な透明のカードを少し混ぜたビートダウン系のデッキ……

 いや、仮に知ってる人だったら嫌だから考えるのはやめよう。あんな不審者スタイルで俺に付きまとう人に心当たりがあったら自分の人生を改めて疑うことになる。

 

 あ、転んだ。黒ローブ仮面さん転んだ。しかも顔からいったぞ。仮面つけてるとはいえ痛そう……

 

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