プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
「あ、
「おい、凍らせるなよ?絶対に凍らせるなよ?フリじゃないからな?」
「『嫌よ嫌よも好きのうち』というわよね」
「嫌とかじゃなくてダメなんだよ、頼むから大人しくしててくれ」
そしてレイタは一瞬で全てを察し、黒づくめの男に返事をするより先に振り返っていつの間にか背後に現れていた精霊を必死に止めた。青い髪と白い肌の氷の女王のような精霊はしっかり黒づくめの男に向けて手をかざしていたが、レイタが爆速で止めたおかげで今回は未遂で済んだ。
「悪いな精霊を止めてもらって……あと前回は本当に助かった」
「いや、こっちこそごめん……うちの精霊が……」
「なんで私が悪人みたいになってるのかしら、私のレイタに手を出す
「まず狙われてたのお前だからな?そして僕はお前のものじゃない、それと問答無用で全身を凍らせる必要はなかっただろ」
おそらくは敵であろう黒づくめの男に申し訳なさを抱き、気まずい思いで対応するレイタは心なしか疲れた顔をしていた。
「あー……とりあえず用件を聞くけど、貴方のためを思って言っておくが僕がそれに従うとは限らないし脅し文句でも使おうものなら次は止められる保証がないからなるべく簡潔に頼む」
「あ、ああ……要件としては、精霊カードを集めているからその精霊のカードを譲ってくれないかという話なんだが……」
「嫌に決まってるじゃない、凍らせるわよ」
「頼むから話し合いで解決してるうちは大人しくしてくれ」
レイタも黒づくめの男も、いつ凍らせてしまうか、いつ凍らされてしまうかと肝を冷やしながら話をしている。このままでは話にすらならないのではないかと思ったが、ここで意外なことに気まぐれが起こった。
「それならバトルをしましょう。あなたがレイタに勝てたら力づくで私のカードを奪いに来ればいいわ」
「え、いいの?」
「レイタに勝てたならね、その代わりレイタが勝ったら二度と私たちに近づかないこと。約束を破れば今度は凍らせた上で粉々にしてあげる」
話が進まなくなっている原因からの唐突な提案に驚いた二人だったが、どの道レイタはカードを譲る気などなく、黒づくめの男にいたってはもはや目の前にいる一切のためらいなく人のことを氷像にしてくる危険な精霊と関わらない口実が欲しいとすら思っていたために大人しくバトルをすることにした。
もう外はそれなりに寒くなって夜になると余計に冷え込む時期だが、今この瞬間の雰囲気に比べれば暖かい方だろう。
言い回しで二人とも察していることだが、精霊は『レイタに勝てたら大人しくカードを譲る』とは言っていない。仮にレイタが負けたとしてもその時は精霊カードを奪おうとする黒づくめの男を凍らせるだけのため、勝敗はともかく結末は凍るか退散するかで確定しており、レイタの手元から精霊カードが離れるルートはなかった。
とりあえず、話を進めるためだけの負けイベントの亜種のようなバトルが始まるのであった。
「「バトル!」」
【
「ドロー!手札を1枚マナゾーンに置く!1コストで《
「早速始まるか……」
モンスターっぽくなった見た目の割に小さな海老だが、その戦闘力は0。しかし、それを見た黒づくめの男は察したようだ。
「青の固有能力『連鎖』を使用する!自身を墓地に置くことで指定されたコストで『連鎖』を持つアニマをデッキから召喚する!《
「めんどくさいな……」
「『連鎖』によって場に出たアニマはそのターン自身の『連鎖』を使用できない。ターン終了だ」
【
「ドロー、手札を1枚マナゾーンに置き、後攻の権利を使用してもう1枚手札をマナゾーンに置く」
「なっ、1ターン目でそれを!?」
「『連鎖』を持つアニマはコストに対して戦闘力が低い、放っておいたら勝手に大きくなっていくのに戦闘力が低くなかったら意味わからんけどな」
「知っていたか……!」
「要は小さいうちに処理しておけばいいのだ。《雇われの兵士》を召喚してターン終了。後攻の権利でマナゾーンに置いたカードは消失する」
【
「ドロー!マナを増やして2コストスペル《氷の息吹》を発動!」
「うわでたよ、もうひとつの青の固有能力」
「相手のアニマ1体を選択して『凍結』させる!『凍結』したアニマは次のターンの終了時まで攻撃と阻止ができない!」
「急いでアニマを召喚したの、やっぱり失敗だったかな……」
「《雇われの兵士》を『凍結』!そして《
眼帯をつけた鯛という謎の絵面がシンプルなピラニアの集団に変わったのを見て、黒づくめの男はつぶやいた。
「一気に国が変わった」
「だって『連鎖』を持っててコストがあってればなんでも出せるし……ターンエンド」
「それはそうだな」
【
「ドロー、うわ、さっき引きたかった……マナを増やして2コスト《特攻隊長》召喚。『突撃』を持っているから《ピラニアの群れ》を攻撃してターン終了」
「《ピラニアの群れ》は自分から攻撃する時は戦闘力が上がるが、相手に攻撃される時は戦闘力が下がる。戦闘力が1になったから一方的に破壊されるか……」
「そして、ターン終了時に《雇われの兵士》の『凍結』は解除される」
【
「ドロー、マナを増やしてオブジェクト《竜宮城》を発動!」
「オブジェクト…アニマと違って戦闘力を持たず、スペルとも違って場に残って効果を発揮し続けるカードか……」
「ああ、《竜宮城》の効果を使用。1ターンに1度、手札を1枚デッキに戻してカードを1枚引く。《砂浜の亀》を召喚してターンエンド」
【
「ドロー、マナを増やして《雇われの兵士》でプレイヤーを攻撃」
「《砂浜の亀》で阻止!」
「倫理的に大丈夫か……?」
「カードゲームだから大丈夫だ。《砂浜の亀》が戦闘で破壊されたなら、このカードを墓地からマナゾーンに置く!」
「《特攻隊長》でプレイヤーを攻撃、それと3コスト《透明人間》を召喚してターン終了」
「くっ……」
【
「ドロー!マナを増やして、《竜宮城》の効果を使用!手札を1枚デッキに戻してカードを1枚引く!スペル《海老で鯛を釣る》を発動!手札を1枚デッキに戻し、カードを3枚引く!」
「手札交換かと思わせておいて手札増えることあるんだ」
「2枚目の《砂浜の亀》を召喚!ターンエンド!」
「えぇ……」
【
「ドロー、マナを増やして4コスト《重装歩兵》を召喚。《雇われの兵士》でプレイヤーを攻撃」
「《砂浜の亀》で阻止!戦闘で破壊され墓地に置かれた《砂浜の亀》はマナゾーンに置かれる!」
「なんか悪いことしてる気分になってきた……」
「安心しろ、あとでちゃんと懲らしめられるから」
「え、俺が悪い判定なのこれ?とりあえず《特攻隊長》と《透明人間》でプレイヤーを攻撃」
「ぐっ……」
【
・青枝レイタ
ライフ14/手札2/マナ6
場:《竜宮城》
・黒づくめ
ライフ19/手札1/マナ4
場:《雇われの兵士》(インアクティブ)
《特攻隊長》(インアクティブ)
《透明人間》(インアクティブ)
《重装歩兵》
備考:後攻のマナ追加の権利使用済み
ライフも場も黒づくめの男が大きく有利を取っている。そんな状況でもまだ余裕ありげなレイタを見て黒づくめは言った。
「押してるはずなんだけど、なんかすごく嫌な予感がするんだよな……」
【
「ドロー!マナを増やして《竜宮城》の効果で手札を1枚デッキに戻して1枚ドロー!7コスト《乙姫》を召喚!」
「あーこれだわ、嫌な予感の正体」
豪華絢爛な《竜宮城》から《乙姫》が姿を現す。その瞬間、武装した半魚人が三人《乙姫》の後を追って現れた。
「《乙姫》の『召喚時』効果!デッキから奇数の『連鎖』を持つ6コスト以下のアニマを好きな数召喚する!」
「……つまり?」
「《竜宮城の兵士》を3体召喚!」
「あ、その半魚人たち演出じゃなかったのか……」
《乙姫》自身の戦闘力は1だが、《竜宮城の兵士》は戦闘力4、《竜宮城》が置いてあるために場に出せるカードの上限が圧迫されながらも手札1枚で合計戦闘力13もの大展開をしたレイタだが、まだ終わりではなかった。
「《竜宮城の兵士》1体の『連鎖』を使用!こいつの『連鎖』は1、デッキから『連鎖』を持つ1コストのアニマである《砂浜の亀》を召喚!これでターンエンドだ!」
「そんなにマナ増やしたいのお前?」
【
「ドロー、マナを増やして……《鼓舞する戦士長》を召喚!効果で自分の他のアニマの戦闘力は1上がる!」
今引いた《鼓舞する戦士長》がちょうど欲しかったため、黒づくめの男のテンションも上がっていた。
「これで《重装歩兵》の戦闘力は4!さらにこいつは相手のアニマに攻撃する時にターン終了まで戦闘力を2上げる効果を持っている!《竜宮城の兵士》を攻撃だ!」
「《砂浜の亀》で阻止!」
「なんか亀に恨みでもあるのか?」
「ない。だが狙いはある!《砂浜の亀》の効果!」
「わかったわかった、マナゾーンに置けよもう」
「いいや、《砂浜の亀》の効果には続きがある!自分のマナゾーンに7枚以上のカードがあるなら代わりに《浦島太郎》を1体デッキから召喚する!」
「なに!?」
そびえ立つ《竜宮城》。輝き続けるその城に、亀の背に乗った《浦島太郎》が到着した。
「《浦島太郎》の『召喚時』効果!相手のアニマを2体まで選択して『凍結』させる!」
「ハァ?」
「《特攻隊長》と《鼓舞する戦士長》を『凍結』!」
「……ちなみに《浦島太郎》の戦闘力は俺の見間違いじゃない?」
「5に見えてるなら見間違いじゃないな」
「いや終わってんな……《乙姫》から出るなよ順番おかしいだろ……ターン終了」
【
・青枝レイタ
ライフ14/手札1/マナ7
場:《竜宮城》(オブジェクト)
《乙姫》(戦闘力1)
《浦島太郎》(戦闘力5)
《竜宮城の兵士》×2(戦闘力4)
・黒づくめ
ライフ19/手札0/マナ5
場:《雇われの兵士》
《特攻隊長》(凍結)
《透明人間》
《重装歩兵》(インアクティブ)
《鼓舞する戦士長》(凍結)
備考:後攻のマナ追加の権利使用済み
【
「ドロー!マナを増やす!《竜宮城の兵士》1体で《雇われの兵士》を攻撃!」
「そうすると、あれか……」
「お前の場には『凍結』したアニマが2体とインアクティブのアニマが1体、あとは『透過』を持つせいで阻止ができない《透明人間》が1体!《乙姫》《浦島太郎》《竜宮城の兵士》でプレイヤーを攻撃!」
「ウオオオオオアアアーーーッ!!」
「ついでに《竜宮城》で手札を入れ替えてターン終了、《特攻隊長》と《鼓舞する戦士長》の『凍結』は解除される」
【
「1ターンに10ダメージも受けたのは生まれて初めてだ……なんとかなってくれ……!!ドロー……!こ、これは……!?」
「なんだ?」
「マナは増やさない!5コストスペル《盛大な落とし穴》発動!相手のインアクティブのアニマを全て破壊する!」
「なんだと!?」
「これで逆転だぁ!!ありがてぇ!!!《特攻隊長》《透明人間》《重装歩兵》《鼓舞する戦士長》でプレイヤーを攻撃!《鼓舞する戦士長》の効果で他の3体の戦闘力が1上がってるから3点、3点、4点、3点で合計13ダメージだぁ!!!」
「ぐあああっっっ……!!!」
「俺より大ダメージ受けたのに俺より叫んでないのは我慢強いと褒めてやりたいところだぁ!!だがこれで勝負はあったようなもんだなぁ!!ターン終了!!!」
【
・青枝レイタ
ライフ1/手札1/マナ8
場:《竜宮城》(オブジェクト)
・黒づくめ
ライフ9/手札0/マナ5
場:《特攻隊長》(インアクティブ)
《透明人間》(インアクティブ)
《重装歩兵》(インアクティブ)
《鼓舞する戦士長》(インアクティブ)
備考:後攻のマナ追加の権利使用済み
【
「くっ…どうする……?ここから逆転できるのか……?」
レイタの脳内にはここから逆転できる算段がどうしてもつかなかった。即座にライフを削りきるのは不可能、だが相手のターンになれば相手のアニマ4体が全てアクティブに戻り、確実にレイタを詰ませるだろう。
うっすらと目に涙を浮かべるレイタだが、それでも諦めずにカードを引く。
二人はバトルに真剣になるあまりに、ある存在を忘れていたことにこの時まで気づかなかった。
「ドロー……ッッ!!このアニマを召喚!」
「な、なんだ……?急に寒気が……」
場を覆い尽くして荒れ狂う吹雪。《竜宮城》すら凍りつき、その上から雪に覆われて新しい城の形に塗り変わる。盤面という世界が海から氷に変わった頃、《竜宮城》だったはずの雪の城から青い髪と白い肌をした気品ある女が歩いて来た。
「《ニヴルヘイムの女王》!!!」
場に躍り出た氷の国の女王は、レイタを見て
「よく頑張ったわね、あとは任せておきなさい」
それだけ言うと女王は寒そうに身体を震わせる相手のアニマ達に向かって手をかざす。すると、一瞬にして彼らは凍りついて動きを止めた。
「《ニヴルヘイムの女王》の『召喚時』効果……!場のアニマを5体まで選択して『凍結』させる!!」
「…………え?」
「ターン終了だ……!言っておくが、《ニヴルヘイムの女王》の戦闘力は9だぞ……!!」
「…………いや、いやいや!大丈夫だ、問題ない!なぜなら俺のターン終了時に『凍結』は解除される!そしたら
【
「《重装歩兵》を召喚!これで俺の場にはアニマが5体!!ここまで固めればもう大丈夫だろう!ターンエンド!そして俺の4体のアニマの『凍結』が解除される!」
【
・青枝レイタ
ライフ1/手札1/マナ8
場:《竜宮城》(オブジェクト)
《ニヴルヘイムの女王》
・黒づくめ
ライフ9/手札0/マナ5
場:《特攻隊長》
《透明人間》
《重装歩兵》×2
《鼓舞する戦士長》
備考:後攻のマナ追加の権利使用済み
【
「ドロー」
「はっ……いいカードは引けたか?」
「いいや、なにを引いても関係ない。お前はもう詰んでいるからだ」
「な、なんだと……?」
《ニヴルヘイムの女王》が相手のアニマ達に向けて手をかざす。
「攻撃したって阻止するぜ!?それでもいいなら来いよ!」
「《ニヴルヘイムの女王》の効果を発動。2コスト払うことで場のアニマ1体を選択して『凍結』させる」
《鼓舞する戦士長》が氷像に変わった。
「は、はは……んなことしても俺の場にはまだ4体のアニマが……」
「もう一度《ニヴルヘイムの女王》の効果を発動。2コスト払って《特攻隊長》を『凍結』させる」
《特攻隊長》が氷像に変わった。
「な、なあ……それ、1ターンに何回使えるんだ?」
「何回?おかしなこと聞くのね。そんな不自由、凍らせる側の私にあるわけないのに」
「ヒッ……」
「もう一度、2コスト払い《重装歩兵》を『凍結』。さらにもう一度2コスト払ってもう1体の《重装歩兵》も『凍結』させる」
2体の《重装歩兵》も氷像と化した。
「だ、だが回数制限がなくてもマナはもうないようだなぁ!まだ《透明人間》が1体残って……残って…………あ」
「残ったんじゃない、残したんだ。『透過』を持つ《透明人間》は相手のアニマに攻撃を阻止されないが、
「う…あぁ……」
「《ニヴルヘイムの女王》でプレイヤーを攻撃……!!!」
黒づくめの男も、氷像と化した。
「はぁ……負けたかと思った……」
「随分と弱気だったわね、私がいるというのに」
「弱気になんてなってない。ただ冷静に事実から考えただけでだな──」
最後まで聞くことなく女王はレイタの青い髪を手で上げ、その裏に隠れた右目も含めてレイタの顔を見つめて微笑みながら言った。
「口では強がってても、目に涙が
「……」
少し悔しそうに黙り込んだレイタを見て、女王は笑みを深めてレイタを撫で回した。
「撫でるな……」
「よしよし、怖かったわね。大丈夫だからね。もしあなたが負けてもお姉さんが守ってあげるからね」
「茶化すな……あの黒づくめが単独犯じゃないなら間違いなく組織の下っ端だ、親玉がいるならお前の力がどこまで通じるかわからないし、そもそもずっとお前に守られるなんて情けないから嫌だ。むしろお前を守れるくらい強くなってやる」
レイタの決意を聞いた女王は少し驚いたような顔をしたあと、満足気に頷いて語った。
「私、やっぱりあなたの所に来てよかったわ」
「なんだよ……少しは認めてくれたってことか?」
「ええ……やっぱり未熟な美少年が強い女に守られながらも、それに甘えることなく自分の力で女を守ろうとするために意地を張って成長しようとする姿は最高ね……!」
「お前は僕のなにを認めたんだ!?」
「私の好みに合致していること」
「なんなんだよほんとに……ん?おい待て、バトルが終わったのに氷像がひとつ残ってるんだが?」
「ああ、あれね。あれはバトルでトドメを刺した時につい凍らせちゃったの」
レイタはそれを聞いた瞬間かつてない速度で携帯端末を取り出して電話をかけた。
「タツキ!今から言う場所にすぐ来てくれ!!このままじゃ凍死する!!違う、雪山で遭難したとかじゃない!お前さっきまで一緒に塾にいたやつが雪山にいるわけないだろ!というか雪山にいたら電波届いてないだろ!いやいいから!!早く火貸してくれ!!!」