プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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13話『見た目が地雷系であっても中身まで地雷系であるとは限らない』

 

 

「にゃあ」

 

 スタジアムから出てきた俺を出迎えたのは猫だった。

 

 ……いや、なんで?

 

 にゃあと鳴いた黒猫、その尻尾は二又にわかれてそれぞれ赤と青の炎を先っぽに灯している。要するに黒崎さんの精霊さん《猫又・ルナ》だ。

 ん?じゃあヤバいかこれ、ルナが逃げ出したとかじゃないなら黒崎さんが近くにいるってことだ。さっさと逃げ……ああこら足にすり寄るな、走れない。猫好きってわけではないが、いくらなんでも猫を蹴る趣味はないんだ。

 

 やむを得ん、ルナごと一度スタジアムを離れてから適当な場所で解放しよう。カード自体は黒崎さんが持ってるから次の試合にはルナの帰還も間に合うだろう。そう思ってルナを抱き上げた瞬間──

 

「はぁ…はぁ…間に合った……」

 

 息を切らして走ってきた地雷系に捕まった。

 そういうトラップ?

 

 走って息が上がっている地雷系という非常に珍しい光景と、俺の腕の中で喉をごろごろと鳴らしている猫又(ルナ)という奇怪な絵面が俺の認識内に入ったことで背景に軽めの宇宙を背負っている間に黒崎さんは息を整えたらしい。

 別に精霊の中では猫又くらい普通かもしれないけど、そもそも精霊が来ないように依代を破いたり切ったり燃やしたりするような人に大人しく抱えられて喉鳴らしてるのは納得がいかない。ひっかかれるよりはずっといいけど、精霊界に俺の噂は広まってないんですか?

 

「ルナがアナタにはやたら(なつ)くのよ。アタシ以外に懐くことなんてめったになかったのに。他の人に大人しく抱っこされてるのなんて初めて見たわよ?」

「ああ、そう……」

 

 未だに腕の中でごろごろ鳴ってるルナをどうにか黒崎さんに返却して帰りたいんだけど、そもそも黒崎さんに会わずに帰ることで観客席にいたことを気のせいか白昼夢(はくちゅうむ)だと言い張れるようにしたかったのが目的だから、こうなった時点で詰みなのである。

 ちくしょう、猫に詰まされた……

 

「それより、どうだった?アタシの試合」

「わかりきったことを聞くね」

 

 そんなにわかりやすいドヤ顔しながら聞いてる時点でどんな返答が来るか確信してるようなものだ。その上でなお、黒崎さんの想像する返答をするしかない。

 だって、あの試合をこう評せないほど俺の性根はねじ曲がってないから。

 

「完璧だった」

「ふふん!そうよね!アタシ頑張ったんだから!」

 

 なんかちょっと子供っぽくなってない?いや、この人ツンツンした印象の割に素直なところあるからな……

 ツンデレの地雷系ってこと?属性が渋滞するから勘弁してよ。

 

「《不死鳥の雛》、さっきの試合では見なかったけど《焔摩天(えんまてん)》のために使わなかったんでしょ」

「やっぱりわかってたみたいね、今更小型で場を埋める必要なんてないし、《鬼に金棒》使った《酒呑童子》で《竜宮城の兵士》を2回攻撃して貫通10点与えて残り10点を《焔摩天》で削りきるなんて浦島太郎セットが流行ってた時に死ぬほどやったことよね」

 

 得意げに話す黒崎さんは、わかりやすくて強い浦島太郎セットが流行ってた時の大会を思い出しているのか少し懐かしそうな顔をした。俺も使ってみたことあるからわかるけど、あれはこれからプレスピを始める人には真っ先にオススメできるものだ。

 

 あとそれ死ぬほどやってはないと思うけど。普通の人はレイタくんぐらい粘れないしあんな都合いいタイミングで《ニヴルヘイムの女王》を引けないから、大抵《不死鳥》と《酒呑童子》に殴り潰されて、それで削りきれない時に《十二天神(じゅうにてんじん)焔摩天(えんまてん)》を墓地12枚の5点でトドメに使ってたことが多かったと思う。

 

「《ニヴルヘイムの女王》は知ってたの?」

「相手が入れてるのは知らなかったけど、『凍結』で1ターン稼がれるだけでLO負け(デッキ切れ)するんだから《焔摩天》置く空きは残しておくのがセオリーってもんよね」

 

 その通りでしかない。

 

「それにしても、あの《ニヴルヘイムの女王》精霊だったわね。初めて見たわ」

「あー、そうみたいだね」

「最近の子ってすごいのね」

 

 おばあちゃんみたいなこと言うね、という言葉はなんとか声になる前に飲み込んだ。

 

「アナタ、もう帰るんでしょ?」

「止めないの?」

「本音を言えばまだアタシの試合あるから見ててほしいけど、隣に座ってた子たちのために残ってただけなのはなんとなくわかるわ。レイタくんだっけ?あの対戦相手の子の様子を三人で見に来てたのも」

 

 鋭いなこの人。あの一瞬でそこまで察したか。

 

「子供二人がレイタくんのこと応援してたからね」

「それもそっか」

 

 すると、黒崎さんの携帯端末が鳴った。次の対戦カードが決まったんだろう。

 もうあまり時間がないことを察した黒崎さんは、最後にこれだけは伝えたいと言わんばかりに優しい笑みを浮かべて言った。

 

「アナタになにがあったのかはわからないけど、プレスピのモチベと心が万全じゃないのはわかるわ。だから今回はアタシの一試合を見てくれただけでも十分(じゅうぶん)嬉しいの」

 

 ほんと、鋭いなこの人。

 

「無理しなくてもいいけど、もし少しでも戻ってくる気があるなら……アタシ、待ってるから」

 

 黒崎さんがそう言うと、ルナが俺の腕から降りて地面に着地した。そして俺の方を向いて一度にゃあと鳴くと、イベントホールに向かう黒崎さんの後ろをついていった。

 

 

 あの人、ツンデレの地雷系じゃなくてファッションが地雷系なだけの素直な人だわ。

 

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