プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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14話(閑話1/2)『青枝レイタの決定』

 

 

 完敗だった。

 

 持てる力全てを使った。スペルも、『連鎖』も、《乙姫》も、《ニヴルヘイムの女王》までもを使った。その上で取ったのはたったのライフ2点だけ。

 元々『今後のために実戦経験を積み、実力を測る』という理由で出た大会だけど、だからといってあれだけの大敗を流せるほど僕の心は大人じゃない。

 

 あの後はタツキとユキとも合流することなく気づけば家の自室にいて、いつの間にか僕のことを抱きしめていた《ニヴルヘイムの女王》の胸で泣いた。

 そのまま眠ってしまったようで、目を覚ました僕はベッドに寝かされて布団をかけられていた。女王がやってくれたのだろう。

 

 今思い出すとかなり恥ずかしいけど、女王がなにも言わないから気をつかってくれているんだと思う。精霊に気をつかわせるなんて(あるじ)として情けない。

 焦りは禁物だが、なにもしないのも落ち着かない。ひとまず布団から出るともう夜になっていたことに気づく。生活リズムが……まあ次の日も休みだし、今はいいか。

 

 時計は見ていないが、車の音もほとんどしないし両親がもう寝ていたから今は深夜なんだろう。作り置きしてくれていた夕飯を電子レンジで温めてひとりで食べる。

 思えば家に帰った時に両親になにか言った記憶も言われた記憶もない。大会に出るとは言ったから、多分帰ってきた時の様子で察してそっとしておいてくれたんだと思う。

 なんだか色んな人に気をつかわせてしまっている気がする。タツキにユキに女王に両親に……あとで謝らないと。

 

 それから風呂に入って、ようやく携帯端末を見る。今は一時半か。

 

「女王」

 

 今までカードに引っ込んでいた精霊を呼ぶと、どことなく控えめに女王は出てきた。

 

「なにかしら?」

「ごめん。お前を活躍させられなかった上に、気をつかわせた」

「謝らなくていいのよ、私は満足したから」

「あんな試合で満足できたのか……?」

「いいえ?試合の方はダメだったけれど、己の力不足に直面して絶望する美少年を抱きしめて胸の中で眠るまで泣かせるという役得に満足しているのよ」

「お前ブレなさすぎだろ……」

「女王というものは一本芯の通った信念を持つものよ。だから尊大でも慕われるものなの」

「『欲望に忠実』って言葉をよくそこまでカッコよさげに言えたもんだな」

 

 あまりにもこいつが欲望に正直なものだから逆に冷静になってきた。精神的にも冷やすのが得意なのか?

 

「はあ……とりあえず、迷惑かけた詫びになにかほしいものとかあるか?」

「もう役得をもらったからお詫びなんていらないけれど、せっかくだからこれに(かこつ)けてひとつほしいものを要求しようかしら」

「……なんだ?言っておいて悪いけど僕に手に入るものにしてくれよ」

「大丈夫よ、お金はかからないわ。それに、レイタにしか私に与えられないものだから」

「……気が済むまで撫で回すとかは勘弁してくれないか?」

「私のことをなんだと思ってるのかしら」

 

 よくわからない欲望に忠実な面食い。

 

「失礼ね。それに私は面食いじゃなくて小中学生くらいの美少年とそんな子が見せる色々な様子が好きなだけよ。だからせめてショタコンと言いなさい」

「じゃあ欲望に忠実なショタコン。それで、ほしいものってなんだ?」

「名前よ」

 

 ……名前?

 

「私はたしかに《ニヴルヘイムの女王》だけど、ニヴルヘイムというのは国の名前なの。私は存在した瞬間から女王で、誰からも女王と呼ばれていた」

「……つまり、お前自身の名前がほしいってことか?」

「そういうこと。レイタになら私の名前を委ねられる。まあ変な名前を提案したら他の人に委ねて、レイタへの要求は撫で回しに変更するけど」

「それは嫌だから頑張って考える。というか他の人って、誰かお前が興味を持つような人がいるのか?」

 

 こいつが興味を持つなんてどんな少年なんだ、早急(さっきゅう)に警告しないと。

 

「名前は実物を見る前にしか聞いてなかったから忘れたけど、レイタがよく行くコンビニの店員の男よ」

「……え?」

 

 それってシンイチさんのことか……!?

 

「あら、妬いちゃった?」

「お前……シンイチさんは高校生だぞ!?」

「そこなのね」

「そこ以外ないだろ!?お前みたいな男子小中学生()きの変態が……!?」

「落ち着きなさい。今まで会ったレイタ以外の人間の中では唯一、名を委ねるに値すると思っただけ。別に好みというほどではないわ」

「じゃあなんでシンイチさんなんだ……?」

 

そう問いかけると、女王は少しだけ考える素振(そぶ)りを見せて答えた。

 

「なんというか、あの男は珍しいのよ。他の人間とは決定的になにかが違う。それこそレイタとも違うなにかがある」

 

 他の人と違うなにか……?

 

「まあそんなことは今はどうでもいいわ。さあ、撫で回しが嫌なら私に合う名前をつけなさい」

「あ、ああ……少し考えさせてくれ」

 

 それから辞書を引いたり検索したり、色々と考えた。でもやっぱり(ひね)り過ぎるのもよくないし、シンプルな名前を提案することにした。

 

「『ニクス』。ラテン語で雪を意味する言葉なんだけど、どうだ?」

「ニクス……悪くないじゃない。ならこれから私はニクスと名乗るわ。レイタも名前をつけたんだから、そう呼びなさい」

「ああ、わかった……ん?」

 

 女王改めニクスがそう言うと、《ニヴルヘイムの女王》のカードが光を放った。

 

「な、なんだ?」

「心配しなくていいわ、すぐ終わるから」

 

 数秒すると光は収まった。改めてカードを見てみると、そこには《ニヴルヘイムの女王》のカードはなく、《ニヴルヘイムの女王・ニクス》と書かれたカードが1枚置かれていた。

 

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