プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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16話『取り繕ってもバレる人にはバレるからみっともなくても自然体の方がマシなこともある』

 

 

 塾の時間が来るまでガムシロップを入れたカフェオレを飲んでカフェインを摂取するレイタくんの『プレスピ教えて攻撃』を受け流し、また塾帰りに攻め入ってくるレイタくんをどう言いくるめようかと思っていたんだけど、どうもその頃にはすっかりおねむだったようで先に帰ったらしい。

 いまはタツキくんとユキちゃんの二人がいつものようにやってきたところだ。

 

「シンイチお兄さん、レイタの試合終わったらいなくなっちゃってたから迷子になったのかと思ったぜ!」

「スタジアムは広かったですし、慣れないと迷っちゃいますよね。私も一人で来てたら迷子になってたと思います」

 

 ああよかった、多分レイタくんは俺が大会に出ていたことを話していない。もし話しているなら俺がスタジアムで迷子になったなんて発想にいたるわけがないからだ。

 

「いやあごめんね」

「いいって別に!そういうこともあるよな!」

 

 助かったあ。

 

 

 

 それでもめんどくさいことはまだまだあるもので、人気(ひとけ)のない帰り道で俺にバトルをしかけてくる黒ローブ仮面さんを雑に倒してようやく俺の一日は終わりに向かうことができる。

 だがそれは安らぎではなく、家に帰って別のめんどくさいことを受け流す作業に入ることを意味することでもある。

 

「シンちゃんおかえり〜、今日はカレーだよ〜」

 

 カレーなら最低限米が食べられる料理だから今日はアタリかと思いつつ鍋を覗くと、そこにはブロッコリーと缶詰めのサバの水煮とエノキが入ったインド人も右で殴りそうな拡大解釈カレーがいたので思わず顔が歪んだ。

 母は健康マニアだ。そしてよく健康お手軽レシピや健康食品を紹介するテレビ番組に影響されてこういう変な創作料理をする。

 

「身体にいいものがたくさん入ったカレーだから食べてね〜」

 

 嫌だなあ……そもそも俺はシンプルなサバカレーですら生臭いのが気になって好きじゃないのに……

 そもそもなんで基礎ができてないのにアレンジをするの?普通のカレーですら横着して炊飯器で作ってデカすぎる具材や薄すぎるルーを持った『カレーの情報』ができあがるのに、鍋を使ったら使ったでこういうことをしてくるのは理解ができない。

 

 忙しくて手の込んだ料理が作れないなんて言い訳は通じないよ、手の込んだしんどい料理作ってるんだから。

 昔母がナスの味噌汁を作った時なんかも、水にさらしたりレンジで加熱したりみたいなナスの下処理の類を一切せずにそのまま切って入れたりしたことで最終的に灰色になった味噌汁が出てきた時はあまりにも嫌になって俺があとで作り直した。

 

 ちなみに母ばかりと会うけど、父は夕方だけ家に帰ってきて仏壇に線香とお経をあげて仕事の支度をしたら外に出て次の夕方まで家に帰ってこない。

 昔は朝に帰ってきてたんだけど酔い潰れて粗暴になって帰ってきた父に色々と迷惑をかけられたりしたし、素面(しらふ)の時は人の気持ちを考えずに綺麗事や一般論を言っちゃうタイプだからそれはそれでめんどくさくて関わりたくない。なんなら母が一回殴られて救急車に一緒に乗ったことがあるし。

 

 だから父が家にいる時間が最低限になってる今はまだマシな方だ、最低限夕方だけ外に出ていればいいし。母はいるけど。

 

 さて、過去を振り返って引き延ばしてもカレー(広義)は消えてくれない。頑張って流し込むか……

 

 

 

 めちゃくちゃしんどかったけどなんとか乗り切って、風呂にも入ってあとは寝るだけだ。そしてそんな時でもめんどくさいことはたまにやってくる。

 

「まずは静かにしようか。母に聞かれたくないから大きな音を出した瞬間依代(よりしろ)を破り捨てる」

 

 今日はもう寝たい気分だったんだけどなあ。とぼんやり思いながら小声でカードを掴む。

 

「きみが今すぐ帰ってくれるならなにもしない。帰らないならもちろん依代は無事じゃ済まない。選択肢はこのまま帰るか、依代を破られて帰るかだ。5秒待ってあげるから、前者がいいならそれまでに帰ってね」

 

 俺がそう言うと《恐怖の幻影》の精霊は震えながら無言で帰っていった。静かに済んでよかったよ。

 母は無駄に心配性だから聞きなれない音がしただけで大丈夫かと扉を開けてくるんだ。昔、お笑い番組を携帯端末で見て笑ってたら心配そうに部屋に入ってきた。それ以来、家では極力音を出さないようにしている。

 

 そんなことを思い出して無駄に萎えていたら携帯端末が震える。電話だ。さすがにこれは仕方ないから布団にくるまって少しでも音が外に聞こえないようにしつつ、声を抑えて応答した。

 

「もしもし、うん。前にあげた本はもう読んだ?ならよかった。次はいつにしようか、早い方がいいかな?……わかった、じゃあ今週末に前と同じ時間と場所で」

 

 明日はもう少しまともな日になるといいな。

 

「うん、おやすみ。マシロちゃん」

 

 

 

 さて結局のところ毎日に劇的な変化なんて起こることはなく、今日も無為に高校生活をやり過ごしたら夜までバディマート(コンビニバイト)である。ただ最近できた大きな悩みがひとつ。

 

 

「今日こそ貴様を倒すぞ、真常(しんじょう)シンイチ……」

 

「《墓荒らしの盗賊》を召喚!『召喚時』効果で貴様の墓地のカードを1枚選択して消失させる!」

「『緊急詠唱』《墓荒らしの罰》発動。自分の墓地のカードが相手によって墓地から離れるなら、手札からコストを下げて使用可能。墓地の黒色のアニマを強化して『蘇生』する」

「エアァァァァ!?」

 

 

「バトルだ真常シンイチィ……!」

 

「《輪廻転生》を発動。場のアニマ1体を選択して破壊し、そのアニマの持ち主のデッキから同名のアニマを召喚する。きみの《飛翔する天使》を破壊」

「なにぃ!?」

「同名カード、ないの?じゃあ公開されてる場所に《飛翔する天使》が3枚ないから証明のためにデッキと手札を公開してね」

「う、うん……どうぞ」

 

え、そんな恥ずかしそうにしないで?手札はこの前公開させたからともかく、デッキは見せるの恥ずかしいのかな。なんか気まずいけどルール上仕方ないからね。

 

「あ、手札に2枚あったんだ。じゃあ《怪人アンサー》を召喚。『召喚時』効果でカード名をひとつ宣言し、相手の手札にそのカードがあるならデッキに戻させて自分はカードを1枚引く。宣言するカードは《飛翔する天使》」

「うぅ……手札ないよぉ……」

「泣いちゃった」

 

 

「今回こそ勝つ!バトルだァ!」

 

「《死神の手招き》発動。自分のデッキか自分の場のアニマ1体を『埋葬』し、場のアニマを『埋葬』したなら相手の場のアニマも1体『埋葬』する」

「ワ……」

「あ、大丈夫大丈夫。デッキから『埋葬』するからきみのアニマは減らないよ」

「よかった……」

「《空亡(そらなき)》を『埋葬』」

「ヘアッ!?」

「……きみ、またアニマたくさん出したよね。今俺の場にいる《恐怖の幻影》が墓地に行ったら『蘇生』で詰みだよね?」

「と゛ほ゛し゛て゛……」

「泣いちゃった」

 

 

「さあ私と戦え真常シンイチィ!」

 

「《ディス・マン》は場を離れるなら相手の手札に加わる。そしてこの効果で手札に加わった《ディス・マン》はマナゾーンに置けない」

「なにその変な効果……ハッ!?」

「《亡霊の恨み節》発動。カード名をひとつ宣言して、そのカードが相手の手札にあるならそれを持ち主のデッキに戻して《亡霊トークン》1体を出し、自分はカードを1枚引く。《ディス・マン》を宣言」

「なにその自作自演……ほら、返すぞ《ディス・マン》」

「いやいや、きみが《ディス・マン》を1枚しか持ってないと証明できてないでしょ?ほら手札見せて」

「エェ!?」

「《怪人アンサー》を召喚。『召喚時』効果で《飛翔する天使》を宣言。デッキに戻してね」

「アイエエエエ!?」

「ちなみに《亡霊トークン》は『透過』を持ってるんだけど、きみライフあと1点だよね?ここから対処できる?」

「……む゛り゛」

「泣いちゃった」

 

 

「今日もバトルだ!」

 

「《送り犬》を召喚!」

「……あれ、その犬精霊さん?」

「ああ、ポチだ」

「そっか。俺のターン、ドロー。《賽の河原》発動。お互いに手札と場のカード全てをデッキに戻し、カードを6枚引く」

「ポチ帰っちゃった……」

 

 

「今日こそ──」

「バトル」

「最後まで聞けぇ!」

 

「『緊急詠唱』《天邪鬼の悪戯》発動。選択したアニマのアクティブ・インアクティブを全て反対にして、その後選択したぶんのコストを払う」

「……それコスト足りなくないか?」

「そうだね。コストを払えないから代償として自分のマナゾーンの黒色を持たないカードを全て消失させる」

「……ェ?」

「俺のマナゾーンのカードは全部黒だね」

「つまり……」

「実質0コスト。まあコストが後払いだったり、代償を払えとか言いながら払わないのは天邪鬼っぽいんじゃないかな。このカードを使ったターン俺は攻撃できないけど、相手のターンに使えば関係ないのもそれっぽいかも」

「……」

「ごめんて、無言で泣くのはやめて。でも詰みだね」

 

 

 最近の大きな悩み、それは日ごとに必ずバイトからの帰り道を変えているのに毎回毎回黒ローブ仮面さんがいることだ。

 

 途中から薄々思ってたけど、あの人やっぱり殺し屋じゃないんじゃないか?もし黒ローブ仮面さんが殺し屋なら俺が精霊という人智を超えた自衛手段を持ってないのは知っているはずだ。

 だったらわざわざプレスピで挑まなくてもナイフのひとつでもあれば俺を殺すことなんてじゅうぶん可能だろう。

 いや、この世界の殺し屋は大抵の場合なぜか一回プレスピで勝った上で殺そうとしてくるからその例に漏れず律儀に挑んでるだけなのかな?

 

 この際会うことはもういいけど、毎回バトルしなきゃいけないのは面倒だ。どこから付きまとって……いや、こういう時は灯台もと暗しってやつだな。黒ローブ仮面さんが精霊カードを持ってて助かった。

 

 俺は退勤してすぐ、違和感を頼りにしつつコンビニの周囲の隠れられそうな場所を探した。

 そしてまぬけはすぐに見つかった。なぜか見覚えのある顔だけどとりあえず知り合いではないからよかったとしておく。

 

「やぁ。黒ローブ仮面さん」

「黒ローブ仮面さん!?誰だそいつは!?」

「その控えめな霊力、お店の外で一緒に隠れてるきみの精霊さんのでしょ?」

「そんなことはない!」

「じゃあこんなところでなにしてたの?」

「……か、かくれんぼだ!」

「だれと?」

「…………こ、答える必要はない!」

「その後ろ手に隠したもの、ローブと仮面だよね?」

「…………」

「…………」

「あと、それが素じゃないならだけど、そもそも動揺して口調が黒ローブ仮面さんのモードになってるよ」

「あっ……」

 

 

 いやあ、まさか黒ローブ仮面さんが女の人だったとは。いや声が男の人にしては高めだったからもしかしたら頑張って女の人が低い声で話してるのではとは思ったけど、そもそも性別とかじゃなくて付きまとってくるのが問題だから気にしてなかった。

 

 金髪のショートヘアになぜか控えめに雷のような形に曲がった赤い一筋のメッシュ、ボーイッシュな格好をしたこの人が黒ローブ仮面さんの中身だった。

 もう素性を隠す必要もなくなったからか、いつもの取り繕った悪役っぽい喋り方と低めの声じゃなくて()の口調と声で話してくれている。

 声までボーイッシュで女の人にしては少し低めだから、ギリギリ黒ローブ仮面さんのモードでも取り繕っていられたんだね。

 

「じゃあやっぱり殺し屋じゃなかったんだ」

「うん……」

「でも否定してなかったけど」

「……最初は誤解を解くつもりだったんだけど、その前に気づいたんだ」

「なにに?」

「シンイチくんが僕のことを殺し屋だと勘違いしてくれているから、素直にバトルに応じてくれてることに」

 

 ……これはしまったな。プレスピで解決しようとしてくれるだけありがたいからって殺し屋の人たちとのバトルには素直に応じてたのが裏目に出た。

 

「で、なんで俺を狙ってたのさ。殺し屋じゃないのは安心だけど、逆に目的がわからなくなった」

「……覚えて、いないの?」

 

 なぜか見覚えはあるんだけど、きみに付きまとわれる理由に心当たりはないかな。

 

「僕は、かつてプレスピの大会で(きみ)と戦った。そして負けた」

「……」

「また君と戦いたかった。勝ちたかった……!でも君は、僕が鍛え直して大会に戻ってきた頃にはもう……出て、いなかった……」

 

 …………なるほど、どうりで見覚えのある顔だと思った。

 

 この人、俺が最後に出た大会で倒した人だ。

 相手のプレイに甘い点があったり、俺の引きもよかったりして普通に勝ったから正直印象に残ってなかった。

 

「それに、君に助けてもらったことだってある」

「……そんなことあった?」

「『雷霆教(らいていきょう)』の件を覚えてないの?」

 

 あー…………あのカルト宗教か。

 

「あれきみだったんだね」

「助けてもらっておいてなんだけど、君かなり人のこと見てないよね」

「自覚はある」

 

 基本的に人と目合わせないし。

 

「とりあえずきみのことは思い出したから供述を続けて」

「なんでそんな犯罪者相手みたいな言い回し?」

「だってストーカーじゃん……」

「……」

「……」

 

 それはさておき。

 

「それで、偶然このコンビニに来た時に店員をしている君を見つけた。最初は普通に声をかけて挑もうとしたんだけど……なんというか、その……」

「その?」

「…………恥ずかしくて」

「……それで素性を隠して夜道で待ち伏せしてたの?」

「……うん」

 

 え、その方が恥ずかしくない?完全に不審者兼ストーカーじゃん。見た目は快活なボーイッシュガールなのになんでそんな引っ込み思案なの?

 

「だってこれ大学デビューでイメチェンしただけだし……」

「その雷みたいなメッシュも?」

「イメチェンの一環なのは合ってるけど、やってみたら失敗してこうなった。でも大学の友達に似合ってるし個性的でいいじゃんって言われたからそういうメッシュってことにしてる」

「そう……ところでさ」

「なに?」

「きみの精霊さん、なんとかしてくれない?さっきからずっとじゃれてくるんだけど」

 

 ひとまず聞きたいことは聞けたから、とりあえず俺にじゃれついてくる《送り犬》の精霊さんをなんとかしてほしい。別に犬好きでもないからそろそろ疲れてきた。

 

「あぁポチ、ほらおいで」

 

 さすがに飼い主に抱きかかえられるとそこそこ大人しく引き剥がされてくれるね。助かった。

 

 とりあえず、これ以上付きまとわれるのは勘弁願いたい。でも引っ込み思案な癖にストーキングする行動力はある変な人にただ言うだけでやめてもらおうというのも納得感がないかもしれない。

 仕方ない、あと一回くらいは付き合うか。

 

「はぁ……これあげる」

「……これは?」

「俺の連絡先」

「なっ……!」

「ただでさえ帰りが夜なのに毎回待ち伏せされて挑まれるとさらに遅くなってめんどいんだ。そもそも付きまとわれてる時点でめんどくさいけど。だからあと一回だけ、お互いの都合のいい時にバトルしよう。それでひとまずこの話は終わりだ」

 

 自覚があるのか知らないけど、この人が素性を隠してキャラまで作っていた上にさらに緊張していたから全力で戦えてないのは察しがついた。なんなら俺に迷惑をかけてる罪悪感とかもあったのかもしれない。

 だからちゃんと全部出しきってもらおう。そのために俺も一度だけ全力で戦う。

 

 彼女はしばらくフリーズしていたけど、やがて再起動すると見た目通りの明るい笑顔を咲かせて俺の連絡先が書かれた紙を受け取った。

 

「ああ……わかった!」

 

 

 まあ、もう冬になるからね。そろそろ待ち伏せするには(つら)い時期だろう。

 

 

「あ、そうだ。僕の名前は『伏見(ふしみ)メイカ』だ。調整が済んだら連絡するから、改めてよろしく」

 

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