プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
きっかけ自体は大したことじゃなかった。
内気で泣き虫だった性格を変えたくて、大学デビューとして一人暮らしを始めて、自分に合ったファッションと喋り方に変えた。
今までなんとなく女の子っぽい服を着ていたのを服屋の店員さんと相談してボーイッシュな装いに変えたし、口調も人と話す機会があまりなかったから常に敬語だったのをそれにあわせて変えてみた。
王子様系?みたいなのを意識してみたんだけど、そもそも話すことに慣れていないから未だにどこか安定感がない気がする。言われなくてもわかっていることだけど、コミュ障がいきなりこんなに背伸びしても無理がある。
それでも、これぐらいしないと自分は変われないと思ったんだ。
結果として大学デビューは成功して、友達もできたしそこそこ充実していた。調子に乗って赤い一本線のメッシュなんて入れてみちゃったりしたけど、これは失敗して控えめな雷みたいな形になってしまった。
自分としては恥ずかしかったけど、友達が似合ってると言ったからひとまずこのままでいくことにした。
しばらく充実した大学生活を送っていた僕だけど、それからは大きな出来事があった。
まずひとつは、プレスピの大会に出てみたこと。
今までなんとなくひとりでカードをいじっていたプレスピだけど、大学で友達ができたからバトルしてみたらかなり勝てた。だから大会に出てみようと思ったんだ。
そしてそこで『憧れ』と出会った。
その日は観戦に回って、シンイチくんの試合を全部見て、その全てを制して優勝して見せた彼に憧れたんだ。
それからは講義は必要な分だけ取って修行の日々だった。勉強をして、大会に出て、振り返りをして、成長する。その日々は人生で一番充実していたと思う。いつの間にか使い込んでいた《送り犬》のカードには精霊が宿っていて、ポチと名付けて可愛がった。
そしてもうひとつ、忘れもしない出来事が起きた。
武者修行の帰り、その夜道で何者かに背後から襲われて誘拐されたんだ。
目を覚ました時には教会みたいな場所で拘束された上で祭壇のようなところに寝かせられていて、同じような格好をした人たちが次々とバトルをしていた。そしてバトルが行われる度に自分の意識が遠のいて、自分じゃないなにかが自分の中に入っていく感覚がした。
自分の中に入ってくるそれがあまりに強大で、恐怖を感じても身体が動かなくて、そんな時に突然『憧れ』が現れた。
「うわなにこれ」
なぜかその場にやってきたシンイチくんが親玉らしき人をバトルで倒すと、僕の意識は完全に闇に沈んだ。
そして次に目を覚ました時に僕の目に映った光景は、両手が焼け焦げたシンイチくんが破けたカードをさらに細かく破いて捨てているところで、僕の中に入ってきていたなにかは完全にいなくなっていた。
それから僕は駆けつけた警察に保護されて、『
そして、大学に通いながらもプレスピを練習し続けて、ついにはプロにまでなった。僕の見た目や話し方に一定の人気があったのも後押しになったらしい。
だけど、彼は、僕の憧れはもう大会にいなかった。思えば最初の一回しか彼を大会で見たことがない、やめてしまったのなら『雷霆教』の件でバトルをしていたのはなんだったのか。
なにより、憧れた彼に僕の成長を見てもらえない。彼といい勝負がしたい、彼に勝ちたい、彼にお礼が言いたい、彼に褒めてもらいたい……そんな気持ちだけを持て余していたある日、コンビニで店員をしている彼を見つけた。
思わず叫んで泣き出しそうになったのを全力でこらえて、名札に『しんじょう』と書いてあるのを確認した。
ここに彼がいることがわかれば今はいい、あとで心の準備をして改めてお礼を……いや、バトルもしたいし……というか退勤はいつなんだろう?そもそも迷惑じゃないだろうか、僕のことを覚えてくれているのだろうか?
色んな気持ちや考えが頭の中をぐるぐるぐるぐると回り続けた結果、気がつけば僕はプロ活動を休止して、仮面と黒いローブで素性を隠した上であらかじめ調べておいた彼の帰り道で待ち伏せをしていた。
いや、僕なにしてるの???
こんな言い逃れの余地のない不審者になるつもりじゃなかったし、冷静に考えたらやってることストーカーじゃないか。どうしよう……とりあえず弁明を……くっ、取り繕ってもしょせん根っこはコミュ障の自分が憎い……!なんて思っていたら、彼は心底めんどくさそうに僕に言った。
「また殺し屋?めんどくさいけど仕事中に襲ってこなかっただけありがたいか……ほらやるならさっさと終わらせよう」
待って?
ん?これこのまま殺し屋というていで行けば彼とバトルできるんじゃないか?
「真常シンイチ……貴様の命、貰い受ける……」
気づけばそれっぽいセリフをアドリブで言って、殺し屋のふりをしてバトルすることにしていた。もちろん勝っても殺す気なんてない。勝った暁には素性を明かして、こんなに強くなったんだよって、あの時助けてくれてありがとうって伝えようと思っていた。
そして緊張と不審者であることを自覚した恥ずかしさで上手くバトルができなくてこれからなんども泣くことになった。泣き虫も卒業できてない自分はなんなんだろうか。仮面で泣き顔は見られていないけれど、やっぱり恥ずかしい。
それでもいつかは彼に勝って、その時に正体を明かすんだ!と意気込み、帰り道を毎回変えるようになった彼に会うためにコンビニの周囲の物陰に隠れていたところを彼に見つかった。
恥ずかしい…………