プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
もしよければカードゲーマーの方はサブタイトルの問の答えを考えてみてください。シンイチくんの答えに納得いくかどうかはわかりませんが、真剣に考えることに意味はあると思います。
今日は休日。
いつもより遅めに起きて、そしてすぐに連絡がきた。知人から『今日久しぶりにみんなでプレスピやるんだけど、来る?』だとさ。
俺の返事は決まっている。『ごめん、土日はバイトあるから基本行けない』だ。
嘘じゃないかって?うん、嘘だよ。でも生きていればこういう嘘も必要になる。人生で一度も嘘をついてなにかを断ったことがない人だけが俺に石を投げてください。ごめんやっぱ投げないで、痛いから。
それにしても、俺がまだ彼らとプレスピをやることを楽しめると思っているのなら凄まじいことだ。喉元過ぎればなんとやらだ。でも俺は全身が喉元でできているのか、時間が経っても熱さを忘れることはなかった。
昼食を摂って13時。俺は少し離れていて
「もしもし、ついたよ」
すると公園を覆っていた違和感は霧散して、俺が公園に足を踏み入れた瞬間にまた戻った。公園の中央にたどりつくと、白い髪に黒のメッシュ……ではない、黒い髪の色素がストレスによってほとんど落ちて白になった黒髪の女の子、
「こんにちは、シンイチさん。今日もよろしくお願いします」
レイタくんには悪いとは思う。でもこれは俺が責任を取るための指導なんだ。
「テュール、今日もありがとね」
「本機からも貴官に感謝を。貴官の教授によりマスターは着実に力をつけています」
俺は宣言通り、一週間に四時間までという制約でマシロちゃんにプレスピを教えている。その四時間という時間はマシロちゃんの後ろに立つ機械天使のような見た目とメカメカしい男声の精霊さん、テュールが霊力を使って人払いをしてくれることで確保できている。
前提として一緒に公園まで行くと通報されそうで怖いから現地集合。そしてマシロちゃんが俺のために早めに来てくれて、テュールに俺が来るまでの数分のあいだ人払いをしてもらって公園を守ってくれる。そして俺が来たら連絡をして一瞬だけ人払いを解いてもらうって寸法だ。
公園を私物化するようで悪いけど、他に使える場所がないんだよね。
本来ならレイタくんに言ったようにプレスピを教えるなんてしないんだけど、俺が『必要なら手伝う』って言ったんだ、筋は通さなきゃいけない。
手遅れになるまで見て見ぬふりをして、自分で助ける気がないからだれかに頼りなさいなんて言う無責任な考えも、頼っていいと言っておきながら解決にならない善意と説教くさい持論だけ押し付けて助けた気になる精神も持ちたくはない。
マシロちゃんにとって必要なことを必要なだけ叩き込んで、ゆくゆくはちゃんと自分で問題を解決できる能力と進み続ける気力を育むんだ。
マシロちゃんが望む限り、責任もってしっかり教え続けるからね。
「ちなみになんだけど、あれからだれかにパンダとか言われてないよね?」
「え、言われてないですけど……なんで毎回それ聞くんですか……?」
いや、別に。いたら潰すだけだよ。
「さて、それじゃあさっそく……と言いたいところだけど、この前新しく渡した本はもう読みきったんだっけ」
「はい。家にいてもやることが宿題くらいしかないので、3回読みました」
「えらいね……」
さりげなく悲しっ。でも読んできてくれたのなら話が早い。
テュールが人払いに使える霊力は一週間に四時間程度、だからわざわざ俺が言わなくてもいいことや基礎的なことはプレスピの攻略本を買ってあげて、マシロちゃんに読んでもらったんだ。普通に買ってあげると申し訳ないと思うだろうから、俺のお下がりだから、捨てるくらいならと嘘をついてね。
はい、いままでだれかのために嘘をつく機会があったにも関わらず嘘をついたことのない人だけが石を投げてください。そんな薄情者には俺が投げ返します。
「それじゃあ時間が限られてるから、悪いけどさっそく今回の命題を言うね」
「はい……!」
今回の命題、それは俺がカードゲームにおいて最も重要視していることだ。
「カードゲームで勝つために最も重要なことはなに?」
「……え?」
「上手くまとまらなかったら思いつく限り挙げてもいいよ」
俺の主観だけど、これを理解しているかどうかでプレイヤーの実力はかなり変わると思う。勝率に響くかと問われると正直そんなに響かないと思うけど、それでもこれだけは教えておかなきゃいけないと思う。
マシロちゃんはこのとても範囲の広い問いかけに答えるべく、一生懸命頭を回して思いつく限りの言葉を並べていった。
「えっと……まず重要なのはアドバンテージを取ること……他には強いコンボをきめること……あとはたくさんカードを引いたり、強いカードを使えるようにマナを増やしたり…………相手のカードを破壊したり……とかですか?」
ふむ。
「アドバンテージを取ったら絶対勝てる?」
「え?」
「決まったら勝ちみたいなコンボは例外として一旦置いておくけど、カードを引いてマナを増やして、相手のカードを破壊して、それでアドバンテージを取ったとして、それで絶対勝てるから『アドバンテージを取る』が回答、でいいのかな?」
「……はい」
マシロちゃん、覚悟を決めただけのことはある。中学時代の知人に同じようなことを言ったらめちゃくちゃ混乱させて傷つけちゃったよ。まるで全くわからない数学の授業で問題を解く役割に指名されて、解けるまで先生に待たれてる時の恥をかかされてると感じている学生みたいだった。
でもマシロちゃんは考えすぎて混乱したりせずに、ある程度自分の中で答えがまとまったらそこで割りきれている。俺も頑張らないと。
でもまあ、この問いの答えはすごくシンプルなものだ。
「半分正解ってところかな」
さあ聞くがいい、俺の答えはこれだ。
「カードゲームで勝つために最も重要なこと、それは『相手のライフを0にすること』だ」
「……?」
「どんなにカードがなくてもマナがなくても、相手のライフを0にしたら勝ちだよ」
ぽかんとした顔をしたマシロちゃん。それもそうだろう、言ってることは極論でしかない。でも俺にとってこの言葉には重要な意味がある。
「つまりね、目的を見失ったらダメだってこと」
「……!」
お、気づいたみたいだね。さすが、覚悟決めただけのことはある。ひとまず最後まで言いきろう。
「手札を増やすのも、マナを増やすのも、自分の場を強くするのも、相手のカードを破壊するのも、それは相手のライフを0にするためにやることだ。今となっては『アドバンテージ』という価値観が独り歩きしているように思えるけれど、それらは『勝利に近づくための手段』でしかない。カードゲームはアドバンテージを取ったら勝ちなんじゃなくて、相手のライフを0にしたら勝ちなんだ。アドバンテージを取ることが目的にすり変わってはならない」
インフレしすぎてコンボ決めたら勝ちみたいなカードゲームもあるにはあるけど、俺にとっては結局その本質自体は変わっていない。幸いにもプレスピはまだそういうゲームじゃないし。
さて、ここからもうひとつ重要なことを言ってあげなきゃ。
「質問の答えをより厳密に言い変えようか。相手のライフを0にするのは極論でありゴールだ。だからそのゴールから逆算するなら、勝つために最も重要なことは『相手のアニマが攻撃するチャンスを減らし、自分のアニマが攻撃するチャンスを増やすこと』だ」
マシロちゃんは話を一度ちゃんと聞いた上でメモをとっている。プレスピのバトル中にメモを見ることは基本的にマナー違反だけど、思い出せるようにメモをとっておくのは悪くない。
なにより一度話を聞いてからメモをとっているのがいい。授業とかで板書を写すことにかまけて授業内容を聞き流すと全然頭に入らないよね。昔、通わされてた個別指導の塾の先生も『書くだけで覚えようとするのはナンセンス』と言っていた。
だから基本的には話をしたあとはメモの時間。メモが終わるまでは俺は喋らないし、逆に話が一区切りつくまではマシロちゃんもメモをとらず話に集中する。俺なりのやり方だ。
そろそろよさそうだね。
「毎ターン攻撃をして継続的にアドバンテージを生み出すアニマを中心に
言いながらデッキを取り出す。
本来なら俺がカードゲームを教える時はあまりバトルをさせないのが流儀だ。なにいってるのかわからないかもしれないけど、要するに人は目の前のバトルという特定のケースの対処に思考を割かれて学ぶべきことを見落とすことがある。
だから基本的には座学と解説をメインにして、バトルは適当な試合動画を見て考察をしていくか、あるいは一回だけやって感想戦をするかといった程度に留めている。
過去にバトルしてから感想戦の形式でやったら、目の前のバトルに必死になりすぎて試合展開を全然覚えられてない人とかもいたから今はかなり座学寄りだ。
あの時は俺が一からお互いがどのターンになにをしたかをキッチリ説明した上で感想戦をしたから、じゃあ適当な試合動画を見て擬似感想戦をしたほうがよくない?自分が打った手を全く覚えてないなら自分でバトルする意味がほぼないじゃん、となったよ。
でも、マシロちゃんはすごく勉強熱心な上に要領がいい。だから重要なことを説明したらあとはバトルをして、そのバトルからまた学ぶという形式が一番合ってると判断した。
実戦経験が足りてないのもあるし、そもそも時間制限もあるからね。
ここからは試しに一度お互いにシンプルなデッキを使って戦う。コンボとかパワーカードを最大限なくした練習用のデッキだ。テュールも人払いに専念してくれてるから入ってない。
さて、今回はマシロちゃんはどんな学びを得られるかな。