プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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21話『これが最後の全力バトルになるといいなあ、と思っています。by真常シンイチ』

 

 

 さて、今日も今日とてバディマート(コンビニバイト)……に向かう前、知らない番号から電話がかかってきた。

 

 基本的に俺は知らない番号には出ないようにしている。マシロちゃんに連絡先を教えたあとにかかってきた電話は彼女からのものだとわかったから出たけど、それからマシロちゃんの電話番号は登録してあるから、この電話番号は本当に知らない番号だ。

 

 ……なにか忘れてるような気がするけど、忘れてることを思い出そうと頑張っても遅刻するだけだ。あとでふと思い出せればそれでいいや。

 

 

 

「今バディチキ増量中なんですか?」

 

 今日も今日とて塾帰り小学生三人組はやってきた。そしてユキちゃんがそう聞いてくる。

 

「そうだね、他にもいくつか増量中の商品があるよ」

 

 それを聞くと目を輝かせる緑の髪のユキちゃん。そしてそれに目を光らせるのは緑の蛇のユグちゃんだ。

 

「ユカさんが夕飯を作って家で待っていますよ」

「わ、わかってます!今買うわけじゃないですから!」

 

 ちなみにタツキくんはリューちゃんとバディチキを食べてます。

 

「そういえばさっき、変な人を見かけました」

「え?」

 

 唐突に怖いことを言い出したレイタくん。え、なにこわい。

 

「夜なのにサングラスと帽子をしてたんですよ。帽子はまだいいかもしれませんが、夜にサングラスは変ですよね」

「変だね……他の特徴とかは?」

「そうですね……帽子を浅めに被ってたのでちらっと見えたんですが、金髪に赤いメッシュが入ってるように見えました。もしかしたら返り血かも……」

「あ、全然大丈夫だよレイタくん。間違いなく不審者だけどただの無害な不審者だから」

 

 なにやってんだあの不審者は。

 ……あ、これは俺が悪いかも。

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 三人が帰ってすぐ、案の定不審者はやってきた。

 

「ちょっと、連絡先くれたのに電話を無視するってなんなんだい……」

「ごめん、すっかり忘れてて迷惑電話かと思った」

 

 謝るから半泣きで抗議しにこないで。

 

「それにしてもなんで不審者スタイルで来たのさ」

「不審者とは失礼だね。僕、これでも一応プロなんだ。成績は君やアカネさんほど安定してないけど、人気(にんき)はそこそこあってね」

「つまり変装ってことね」

「そういうことさ」

 

 それならしておくに越したことは……いや、夜にサングラスと帽子のセットは不審者だよ。せめてマスクと伊達メガネくらいにしてよ。まあいいや。

 

「それで、なんの話だったの?」

「ああ。今週末に君が約束してくれた通り、バトルしてもらおうと思ってね」

「調整はもうできたの?」

「もちろんさ。今週末ならいつでもいいけど、どうする?」

 

 それなら適当に……いやまてよ、いくらなんでも自称人気(にんき)のあるプロと人目につく場所でバトルするのは目立つな。

 このバトルで最後にしたいんだ、少しでも邪魔になりそうなものは減らしたい。しかし街にあるプレスピができるような施設はかえって目立つから論外だ、むしろ伏見さんを知ってる人が多いだろうし。

 どうするか……うーん、やむを得ん。こういう時は人に頼ろう。

 

 

 

「えっと……本日はお日柄もよく……」

「なにを始めるつもりなのさ」

「ごめん、緊張して……」

 

 休日の人気(ひとけ)のない公園、そこで俺と伏見さんは向かい合って立っていた。

 それはそれとして、緊張して無駄に改まった挨拶を始めるのはやめてほしい。なんてことを思っていると伏見さんは深呼吸をして、落ち着いてから仕切り直した。

 

「先に言っておきたい」

「なに?」

「『雷霆教(らいていきょう)』の件では助けられた。本当にありがとう」

「いいよ、巻き込まれただけだし」

「それでもさ。僕は感謝しているし、今だから言えるけど、君は僕の憧れなんだ。大会で負けた時も、『雷霆教』から助けてくれた時も、ずっと君は僕の憧れで、ずっと前から君といい勝負をして、君に認めてほしいと思っていた」

 

 ある意味開き直ったのか、素直に心情を明かしてくる伏見さん。その気持ちであんな変なストーカーになれるんだから人というものはわからないものだ。

 

「だから、こんな機会を用意してくれてありがとう。このバトルで、僕の全力を尽くすことを誓うよ」

 

 まあそのためにマシロちゃんにお願いして週末の授業時間を削ってテュールに人払いまでしてもらってるからね。お礼はそこのベンチで不満気な顔しながら温かいほうじ茶を飲んでるマシロちゃんに言ってね。

 

 さて、これが最後の本気のバトルになるといいなあ。

 

「バトル!」

「バトル」

 

 

先攻(メイカ)1ターン目】

「僕のターン!ドロー!マナゾーンにカードを1枚置いて《焼畑》を発動!」

 

 うわでた。

 

「『燃焼』3……つまりデッキの上からカードを3枚墓地に置いて、カードを3枚引く!墓地に置かれた《焚き木》の『起爆』が発動!『燃焼』で墓地に置かれたなら《焚き木》はマナゾーンに置かれる!」

 

 うわあ……もはやグロい。

 1ターン目に6枚圧縮、3枚ドロー、マナ加速って……赤色のカードっていつもそうですよね、デメリットのことなんだと思ってるんですか?

 

「ターンエンド!」

 

 

後攻(シンイチ)1ターン目】

「ドロー、マナを増やす」

 

 さて、俺がした約束は『あと一回だけバトルをする』ということだけだ。だから本気でやらなくても一応約束を破ったことにはならないんだけど、伏見さんにとってこのバトルが不完全燃焼になってしまったらまた変なことをしでかすかもしれない。『燃焼』だけに。

 ……今『凍結』を使った人は誰ですか?レイタくんでも来てるのかな。できれば俺を氷漬けにして介錯してほしい。

 

 話がそれちゃったけど、要するにちゃんと伏見さんには満足してもらう必要がある。だから俺もグロいと言われようが容赦のない戦いをする。しばらく使ってなかったカードも使う。

 とはいえ『浄化』が怖いから1ターン目はまだ動けないかな。

 

「ターンエンド」

 

 

先攻(メイカ)2ターン目】

「ドロー!マナを増やして《狐火(きつねび)》を召喚!」

 

 《狐火》か、これまた白のくせに『燃焼』を持つカードだ。伏見さんは、どうやらコンディションやメンタルだけじゃなくてデッキの調整もしてきたらしい。あるいは今まで引けてなかったのかもしれないけど。

 

「《狐火》の効果!『燃焼』1で自身を手札に戻す!」

 

 マナを増やされてるから、これは結構進んじゃうかな。

 

「もう一度《狐火》を召喚して『燃焼』1で手札に戻し、さらにもう一度召喚して『燃焼』1で手札に戻す!」

 

 なんかこういうバウンス(場のカードを戻す効果)連打ってどのカードゲームでも一回は見るよね。大抵やられてる側は面白くないけど、やってる側は楽しい。

 あ、『燃焼』で2枚目の《狐火》がデッキから落ちた。

 

「デッキの《狐火》が『燃焼』で墓地に置かれたから『起爆』が発動!自分のマナゾーンに白色を持つカードがあるならライフを1回復!」

 

 このゲームのライフ上限は20だから意味はない効果なんだけど、効果を発動させるだけならできる。それにしてもどうしよう。

 

 

後攻(シンイチ)2ターン目】

「ドロー、マナを増やして《悪魔商人》を召喚。『召喚時』効果でカードを1枚引いて手札を1枚墓地に置く。ターンエンド」

 

 まあ今は布石を打つしかないかな。

 

 

先攻(メイカ)3ターン目】

「ドロー!マナを増やして《イカロス》を召喚!《狐火》を召喚して『燃焼』1で手札に戻してターンエンド!」

 

 また白で『燃焼』を持つカードだ。赤色の固有能力って話はどうしたんだ。いやまあコストに赤と黒を要求する《不死鳥》とかと同じでコストに白と赤を要求してるから半分赤色みたいなものだけどね。

 ちなみに、基本的にという前置きがつくけど複数の色を同時に持つカードはない。そういうのを許したらマナゾーンに置いた時に複数の色として扱えてしまう。そうなると多色にして各色の固有能力と強みをガンガン使っていくデッキが強すぎて単色で戦えるのが黒くらいしかなくなるんじゃないかな。

 

 そうそう、多色が強すぎたら単色で戦えるのが黒しかないと言ったけど、俺が黒を使ってる理由は単色で使うなら黒が一番強いと思ってるからだ。加えて言うなら安定感もそこそこ出せる。

 俺は精霊カードを持たないから、例えば黒崎さんみたいにほぼ確定で2ターン目に《猫又・ルナ》でマナ加速とかできないし、レイタくんみたいに終盤で《ニヴルヘイムの女王》が来てくれるとかもない。

 そして多色特有の手札事故も問題になってくる。要求されるマナの数が足りても、色の指定が満たせないならカードは使えないのだ。

 

 だから単色の中で一番パワーと安定感があると思った黒色のデッキを本気で戦う時は使っている。

 

 それと黒色の精霊には怪しいのが多いから、精霊を避ける理由としても妥当だ。

 

 

後攻(シンイチ)3ターン目】

「ドロー、マナを増やして《地獄に咲いた蓮》を召喚」

 

 なんか既視感のある黒い蓮。なんとなくだけどこのカードを売ったら高級車が買えそうな気がしてくる。なんでだろうね。

 

「スペル《人身御供(ひとみごくう)》を発動。自分の場のアニマ1体を『埋葬』して、このカードをマナゾーンに置く」

 

 『浄化』を怖がって後回しにしたけど、これでこっちもマナを増やせる。

 赤色に『燃焼』で墓地へ置かれた時に効果を発揮する『起爆』があるように、黒にも『埋葬』によって墓地に置かれた時の効果を持つカードはある。まあ名前のついた固有能力ってわけじゃないけど。

 

「《地獄に咲いた蓮》が場から『埋葬』されたなら、このカードを墓地からマナゾーンに置く。ターンエンド」

 

 そう、手札は減るけど一気に2枚もマナゾーンのカードを増やせるコンボだ。

 今回は運がよかったけど《人身御供》以外にも自分のアニマを『埋葬』できるカードはたくさんある。だから《地獄に咲いた蓮》が初手に引けているだけでも全然嬉しい。

 

 これで《焼畑》《焚き木》コンボのグロさに張り合えたぞ。グロさに張り合うってなんなの。

 

 

先攻(メイカ)4ターン目】

「ドロー!マナを増やす!《飛翔する天使》を召喚!」

 

 安定の《飛翔する天使》。戦闘力4で『飛翔』を持ってるだけだけど、結局シンプルでそこそこ強いからよく見かける。なによりこういうのは案外代用がきかなかったり、『飛翔』持ちが代用できても4枚目以降の『飛翔』持ちとして入ったりするものだ。

 『飛翔』なんてついてればついてるだけいいですからね。

 

「《イカロス》の効果発動!『燃焼』3でターン終了時まで『飛翔』を持つ!《イカロス》でプレイヤーを攻撃!」

 

 そう、《イカロス》も『飛翔』持ちだ。少し特殊だけどね。

 どうやら伏見さんは今までよりも攻め方を確実なものにしようとしているらしい。そんなに怖かったのか、《地獄の門番》が。

 

 ……というか先日言ってたけど『成績はそこまで安定してない』って、今まで使ってたのが速攻(アグロ)寄りのデッキだったからなんじゃないかな?

 

 アグロは簡単と思われがちだけど、実際にはアグロで勝ち切るには緻密な計算や立ち回りが必要だ。このゲームは阻止があるのも相まって余計にやりづらい。極端な話、相手が攻めを捨てて阻止にだけ専念したらそれだけで息切れ(リソース枯渇)しかねない。

 

 その上で序盤でしっかり有利を取れるかには運も絡みやすいもんですからね、それはちょっと世間は許(勝率は安定)してくれやせんよ。

 

 

先攻(メイカ)4ターン目終了時の状況】

・伏見メイカ

ライフ20/手札6/マナ5

場:《イカロス》(インアクティブ)

《飛翔する天使》

 

・真常シンイチ

ライフ17/手札3/マナ5

場:《悪魔商人》

備考:備考:後攻のマナ追加の権利未使用

 

 

後攻(シンイチ)4ターン目】

「ドロー、マナを増やす」

 

 さて、容赦しないと決めたからには俗に『切り札』と呼ばれるようなカードも出し惜しみはしない。

 まあ『フィニッシャー』ならともかく『切り札』という呼び方はそのカードに精神的に依存しているように感じられてあまり好きじゃないんだけど、そんなのは俺の感想でしかない。切り札は切り札だし、昔は大抵の人にこれが真常シンイチの切り札だと言われていた。

 

 『飛翔』で天を翔けるのが馬鹿馬鹿しくなるほどの地の果てを、『燃焼』の光をかき消すほどの闇を、それを示した上で、きみを地獄に落とそう。

 

「スペル《地獄からの召喚》発動。自分の墓地のアニマ1体を『蘇生』し、黒色を持たないなら弱体化させる。まあ出すのは黒のアニマだけど」

「これは……」

「二年ぶりだね、お互いに」

 

 道服(どうぶく)のような着物を身にまとい、冠にも帽子にも見えるものを被り、手には(しゃく)……細長い板を持った、荘厳(そうごん)で恐ろしい印象を与える者。

 

「《十王(じゅうおう)()閻魔王(えんまおう)》」

 

 地獄の王のお出ましだ。

 

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