プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
ついに現れた地獄の王。その凄まじい威圧感は精霊カードじゃないのに出ただけで相手に冷や汗をかかせてきた。
でも、伏見さんと俺の反応は意外にも同じだった。
「懐かしいね……」
「懐かしいよね」
そう、お互いに《閻魔王》が出るのを最後に見たのは二年前、もはや懐かしさが勝ってしまって怖くないのである。いや使い手の俺はわかるけど伏見さんも?
心なしか《閻魔王》も『お、懐かしい顔じゃん。久しぶりー』みたいな表情をしている。ちょっと、
「《閻魔王》の『召喚時』効果発動。効果がみっつあるからひとつずつ処理させてもらうね」
「相変わらずなんでみっつも『召喚時』効果があるのさ、というかいつの間に墓地に置いていたんだい?」
「2ターン目に《悪魔商人》の効果で」
「あの時かぁ……」
だから布石を打つしかないと言ったんだよね。
「《閻魔王》の『召喚時』効果ひとつめ、相手の場のアニマ1体を選択して『埋葬』する。《飛翔する天使》を『埋葬』」
《飛翔する天使》は地面にあいた真っ暗な穴に吸い込まれていった。
「ふたつめ、デッキか墓地から《
《閻魔王》の側近みたいな人が俺に《浄玻璃鏡》のカードを手渡してくる。ありがとね。
「みっつめ、このターンか前のターンに相手がアニマを墓地に置いているなら、相手に5ダメージ」
「いや、僕はアニマを墓地に置いてなんて……!」
「裁判長」
俺がそう言うと《閻魔王》は《浄玻璃鏡》に
それは伏見さんが前のターンに《イカロス》の『燃焼』効果でデッキから《
「……」
「……」
沈黙が流れる。
「裁判長」
俺が再びそう言うと《閻魔王》が人差し指でバッテンを作る、そしてなぜかその指が交差した点からビームが飛んでいった。
「そこから!?」
伏見さんがツッコミを入れた瞬間にビームが着弾し、無駄に爆発した。痛そ。
「いったぁ……」
「ターンエンド」
【
「ドロー!マナを増やして《イカロス》の効果発動!『燃焼』3でターン終了まで『飛翔』を持つ!」
まあまずは『燃焼』で落ちるカードを見てからってところか。
お、伏見さんのデッキから《狐火》が落ちた。しかももう1枚使えそうなのがいたな。
「《狐火》の『起爆』と《断罪の天使》の効果発動!《狐火》の効果は1回復、《断罪の天使》は『起爆』ではないが、墓地に置かれたなら相手の場のアニマ1体を選択して『浄化』する!」
《断罪の天使》。こいつは《清浄の天使》と違って召喚しただけでは『浄化』してくれない。その代わりにどこから墓地にいっても『浄化』ができるさりげなくずるいカードだ。
まあその代わり白のマナをコストとして後払いしなきゃいけないから、例えば黒崎さんの赤黒デッキに入れたって意味はないんだけどね。《不死鳥》と同じで、この効果もコストが払えないならそもそも発動できないから。
「1コストの『緊急詠唱』《
死後に受ける裁判では嘘をつくことができないと聞いたことがある。
厳密には嘘をつくこと自体は可能だが、嘘をついてもこの《浄玻璃鏡》が生前の行為を映すから見破られるそうだ。
まあ、現世では『死人に口なし』とも言うよね。そんなわけで悪いけど相手の墓地のカードには黙っててもらいます。
「やっぱりそうなるか……でも効果の発動だけはできるからさせてもらうよ」
「『やっぱりそうなるか』はこっちのセリフだよ、今ので《狐火》の効果は6回発動してる」
「まあ知っているよね。《狐火》を召喚して『燃焼』1で手札に戻す。それをもう1回、これで8回目。そしてもう1回《狐火》を召喚。《狐火》の9回目の効果を発動。《狐火》の効果が9回目の発動を迎える時、その効果は変化する」
虚空に九個の火が
「9回目の《狐火》の効果。『燃焼』1で自身を墓地に置いて、デッキか墓地からあるアニマを召喚する。今回は墓地から召喚」
その火はやがてひとつにまとまり、火が消えるとそこには
「《
《玉藻前》。これまためんどくさいのが出てきたなあ。そもそも1ターン目から全力で《狐火》を使えば4ターン目には《玉藻前》が着地できるし、デッキをたくさん『燃焼』で墓地に置ける。
《狐火》も《玉藻前》も『燃焼』を持ってるだけで白のアニマだから赤単色との相性は悪いけど、そのぶんこうやって使える時は強い。
あ、でも《狐火》の色指定は赤か白の1コストだから《狐火》から《玉藻前》を出すためだけに使おうと思えばできなくもないのか。
「《玉藻前》の『召喚時』効果を発動。相手の場のアニマ1体を選択して戦闘力を1にする、ただし戦闘力が4以下なら代わりに破壊する。戦闘力2の《悪魔商人》を選択して破壊。そして墓地の《狐火》を全てデッキの上に戻す」
やっぱり強いんだよなあこういうカード。戦闘力がどれだけ高くても1にするし、大型じゃないならそのまま破壊してしまうから阻止のための壁にもできない。
なにより『起爆』で1回復を持つ《狐火》をデッキの上に戻してくるし、さらに自身も『燃焼』を持ってるのが嫌なところだ。まあこのターンは《
「そしてもうひとつの効果を発動。『燃焼』9で相手の場のアニマ1体を選択して自分の場に移動させ、場を離れるまで自分のアニマとして扱う」
《玉藻前》の『燃焼』の効果、それは大抵の場合ぶっ壊れと言われるコントロール奪取だ。まあ1ターンに1度しか使えない上に『燃焼』9はいくらなんでも重い、他のカードとの兼ね合いを考えると使えるのは多くて2回くらいが目安だろう。
その効果の対象になった《閻魔王》は『えぇ……まあルールだから仕方ないか……』とでも言いたげに、不満そうな顔で伏見さんの場に行った。どうも《閻魔王》には魅了も妖術も効いてないのか、本当に渋々相手の場に行くんだよね。逆に可哀想に思ってしまう。
「本来は『燃焼』によって墓地に置かれたことで《狐火》3枚の『起爆』が発動してライフを3回復するところなんだけど……《
あってよかった《浄玻璃鏡》。
「さあ、君の場はガラ空きだ。《イカロス》と《閻魔王》でプレイヤーを攻撃!」
《閻魔王》がまたなぜか指先からビームを出し、着弾と同時に爆発した。なんでまたビームなの。
「いって……」
「まだマナが余ってるからスペル《焚き木》を発動。このカードをマナゾーンに置いてターンエンド!」
【
・伏見メイカ
ライフ15/手札4/マナ7
場:《イカロス》(インアクティブ)
《玉藻前》
《十王の五・閻魔王》(インアクティブ)
備考:シンイチのターン終了時まで伏見メイカの墓地で発動するカードの効果は全て無効
・真常シンイチ
ライフ9/手札2/マナ6
場:なし
備考:後攻のマナ追加の権利未使用
【
「ドロー、マナを増やす」
さて、なんかめちゃくちゃ追い詰められてるけど引きは上々、パワーカードにはパワーカードでお返ししよう。
「《
その姿は
「《大嶽丸》の『召喚時』効果。相手の場のアニマ全ての戦闘力をマイナス3する」
「なっ……それははじめて見たな……」
それもそうか。《閻魔王》もそうだけど、こういうのは黒単色のデッキでしか十全に使えないし、精霊に怪しいのが多いせいで黒単色の使い手は少ない。それにレアカードだし。
「戦闘力が0になった《イカロス》は破壊される。ターンエンド」
【
「ドロー!マナを増やす!スペル《天罰》を発動!相手の場のアニマ1体を選択し、『浄化』して破壊する!《
あ、本当に《大嶽丸》知らない人だ。
「《大嶽丸》の効果発動」
「なにぃ!?」
「このアニマが攻撃かカードの効果を受けるなら、それを受ける前に自身をデッキに戻す。そしてこの効果を使用したターンの終了時に《大嶽丸》をデッキから召喚できる」
《大嶽丸》は周囲を
「待って、雲でなにも見えない。いやでも、これで君の場はまたガラ空きに……あ、視界戻ってきた……え?」
伏見さんの困惑ももっともだ。俺の場にはまだ黒雲が残っている。
「それと《黒雲トークン》を2体召喚できる」
「えぇ……」
自分を安全圏に逃がしておいて壁を残していく、しかも阻止できる回数はなんなら増えてる。地味に理不尽な点は《黒雲トークン》の戦闘力が0だから、戦闘力を下げても破壊されないところだ。
本来アニマは戦闘力が0になったら破壊されるけど、元々戦闘力が0のアニマだけは破壊されない。
無力かのように見せておいてその実デバフが効かない壁を置いていくし、そもそも自分の『召喚時』効果で戦闘力の低いアニマは根絶やしにしているから残った質の高いアニマの阻止に《黒雲トークン》を使えるようにしてるあたり本当に悪知恵が働く。
使ってる側からしたら最高に頼りになる鬼神だ。
「仕方ない……《玉藻前》と《閻魔王》でプレイヤーを攻撃」
「2体の《黒雲トークン》で両方阻止する」
「だよねぇ…………せめて残りのマナでスペル《祈願》を発動。カードを2枚引いて自分のライフを3回復。ターンエンド」
《大嶽丸》の理不尽な性能にちょっとテンションが下がってる伏見さん。悪いけど、もうちっとだけ続くんじゃ。
「ターン終了時にデッキから《大嶽丸》を
「……え?」
「さっきさらっと流したかもしれないけど、《コールドスリープ》みたいに『ターン終了時まで消失』とかじゃないんだ。こいつは『ターン終了時に召喚』なんだ。だから『召喚時』効果も発動するよ」
「な、なんだってー!?」
理不尽すぎて逆にテンションが上がった伏見さん。なお理不尽はもうひとつ。
「《閻魔王》の元々の戦闘力は5、2回の《大嶽丸》のデバフを受けて戦闘力が0になって破壊されたわけだけど……《閻魔王》の効果発動」
「なにぃ!?」
「このアニマが場から墓地に置かれたなら、相手の場のアニマ1体を『埋葬』する。さらにこのターンか前のターンに相手がスペルを使用しているなら相手に5ダメージ」
「……そ、そんな!《閻魔王》を倒したのは君の《大嶽丸》じゃないか!」
「裁判長」
《閻魔王》が《
そこには《
テキストには
つまり……
「……」
「……」
「……断罪!」
くらえ断罪ビーム!
「いったぁ……!」
「じゃあ俺のターンね」
「人の心とかないのか君は!?」
ごめんて、涙目にならんといて。
ちなみに残ってた《玉藻前》はこのやりとりの間にもう『埋葬』されました。
【
「ドロー、マナは増やさなくていいや。ちなみに人の心要素として、《大嶽丸》がバトル中に複数回使えるのは『召喚時』の効果だけだよ」
「それでも全然強い……あと人の心要素は?」
「そこになければないかな」
「ひどい……」
うーん、ひとまずはドローを見るか。
「《脱獄ゾンビ》を召喚して《魂の抽出》を発動。自分の場のアニマ1体を『埋葬』してカードを2枚引く。《脱獄ゾンビ》を『埋葬』」
「血も涙もない……」
「そんなもんだよ」
このターン中に倒すのは無理かぁ。仕方ない。
「《大嶽丸》でプレイヤーを攻撃」
「……あ!」
理不尽が立て続けに起きたせいで忘れてたみたいだね。
「《大嶽丸》が召喚されたのは
「ゥ…アァ……」
さあくらうがよい。といっても倒しきれないんだけどね。
《大嶽丸》も《玉藻前》も戦闘力は9だ。《玉藻前》は《狐火》1枚から最速4ターンで出せてデバフとコントロール奪取持ってる割に高すぎるから反省してね。
「…………ッ」
伏見さんは無言で涙をこらえていた。今日は変な声は出してても泣いてはいない。全力だなあ。
「ターンエンド。ターン終了時に《脱獄ゾンビ》の効果発動。このアニマが場から『埋葬』されたなら自分のターン終了時に自身を『蘇生』する」
【
・伏見メイカ
ライフ4/手札4/マナ8
場:なし
・真常シンイチ
ライフ9/手札2/マナ7(3マナがアクティブ)
場:《大嶽丸》(インアクティブ)
《脱獄ゾンビ》
備考:後攻のマナ追加の権利未使用
【
「ドロー!マナを増やす!」
さて、結構追い詰めたけど伏見さんの目は全く光を失っていない、多分だけど、最後の切り札みたいなものが出てくるだろう。
「バトル中に悪いけど……シンイチくん、僕は今、心の底から喜びを感じている」
「というと?」
「《閻魔王》に《大嶽丸》……なによりそれらを惜しまずに使った上で本気で戦う憧れの君。その全てと向き合って戦えて、今こうしてここに立っていられることが、本当に嬉しいんだ」
そう言った伏見さんの顔は本当に嬉しそうで、この前までいつも俺のことをストーキングして挑んでは上手くいかずに泣いていた人と同一人物とはとても思えなかった。
「《送り犬・ポチ》を召喚」
「……!」
思わず目を見張る。
カード名が変わってる。黒崎さんの《猫又・ルナ》と同じだ。
「バトル中に他の女の子のことを考えるなんて感心しないね」
え?なんでわかったの?こわ……
「まあいいよ、それなら今だけは僕のことしか見えないようにしてあげるさ!このアニマを召喚!」
それは、もうひとつの死後の世界。もうひとりの王。
神聖なる始祖、死者が進む道の先駆者。
「────《天界の王・ヤマ》!!!」
死者の国、楽園の王が舞い降りた。
「《天界の王・ヤマ》の『召喚時』効果を発動!」
「っ……!場にアニマが出たのを条件に2コスト『緊急詠唱』《死神の手招き》発動。自分の場のアニマ1体を『埋葬』したなら相手の場のアニマ1体も選択して『埋葬』する。《脱獄ゾンビ》を『埋葬』して《天界の王・ヤマ》を選択……!」
「《送り犬・ポチ》の効果発動。自分のアニマが攻撃かカードの効果の対象になった時、その対象をこのアニマに移し替えることができる」
「なっ……!」
これだから精霊カードは……!
《送り犬》に本来そんな効果はない。《送り犬》が場を離れたなら次のターンの終わりまで自分のアニマ1体を攻撃とカード効果の対象にならないようにする効果だったはずだ。
「もちろん本来の《送り犬》の能力も残っているさ、つまり今墓地に置かれた《送り犬・ポチ》の効果発動!次のターンの終了時まで、《天界の王・ヤマ》は攻撃とカードの効果の対象にならない!」
「なんでそっちも残ってるんだ……!」
「ふふっ……君がそんなに焦ったような顔を見るのははじめてだよ。少しいじわるだけど、なんだか嬉しくなってしまうね」
これは結構まずいな。《ヤマ》の能力は……
「さて、改めて《天界の王・ヤマ》の『召喚時』効果!」
虚空にアニマの輪郭が見える。《一番槍》《飛翔する天使》《玉藻前》の輪郭だ。
「自分の墓地のアニマを3体まで選択し、その効果を得る!」
つまり、今の《ヤマ》は……
「今の《ヤマ》は『突撃』『飛翔』を持ち、《玉藻前》の効果を持つ!そして『召喚時』効果があるなら発動可能!《玉藻前》の『召喚時』効果で相手の場のアニマを1体選択し、その戦闘力を1にする!《大嶽丸》を選択!」
《大嶽丸》の『召喚時』以外の効果はバトル中に1回しか使うことができない。つまり……この弱体化から逃げることは、もうできない。
「《玉藻前》の『召喚時』効果の続き!その後、墓地の《狐火》を全てデッキの1番上に戻すことができる!」
「……まあ、そんな初歩的なミスはしないよね」
「ああ、僕のデッキはターン開始時のドローでちょうど0枚だったからね。なにか予想外の効果で防がれた時にデッキ切れで負けるようなヘマはしないさ」
これで俺が《ヤマ》の攻撃を凌いでも
「《ヤマ》の戦闘力は5。だが1ターンに1度だけ、インアクティブになったならアクティブに戻すことができる!さらに《一番槍》の『突撃』を持ったから場に出たターンでも攻撃できるし、《飛翔する天使》の『飛翔』を持ったから阻止されない!プレイヤーを2回攻撃!」
……………………。
神々しい光が、俺を包み込んだ。
「…………流石だね、シンイチくん」
「俺の強さじゃないよ。本当にこれだけはやりたくなかった。でも、
俺のライフは9だったから、《ヤマ》の二回目の攻撃で敗北するはずだった。
でも、俺のライフは1残っている。
1枚だけなら入れるだけ得だし、いらない時はマナゾーンに置けばいい。いつか役に立ったらラッキー程度に思って入れっぱなしだったこのカード。
こんなところでそれに助けられることになるなんてね……ただ、あるものは使わなきゃ、かえって失礼だろう。
「1コスト『緊急詠唱』《蜘蛛の糸》。自分のライフが0になるなら、その前に手札から使用可能。このターン、自分のライフは1を下回らない」
結局のところ、負けるほど追い詰められた試合なんて1ターン延命しても逆転できるかどうかはわからない。それが
例えば黒崎さんはテンポよく計算高くゲームを進めるタイプだし、《燃焼》でデッキを燃やしまくるからわざわざ入れてない。黒崎さんのデッキとプレイスタイルだと負け試合はこのカードで覆せないし、勝ち試合には貢献しないとわかっているからだ。
「そして自分の墓地のアニマ1体を選択し、自分の手札と場、それと選択したアニマ以外の墓地のカード全てを消失させ、選択したアニマ1体を『蘇生』する。そのアニマが場を離れたなら、そのターン終了時に自分は敗北する」
でも、俺みたいな戦い方をするなら、こういうギリギリの試合になるなら、この糸は勝利を手繰り寄せる救いの糸になりうる。
「『蘇生』するのは────」
もうひとつの死後の世界、もうひとりの王。
荘厳なる始祖、死者が行く道を決める審判者。
「────《十王の五・閻魔王》」
死者の世界、地獄の王が舞い戻った。
「勝ったと思ったんだけど……本当にすごいや」
「負けたと思ったよ、《ヤマ》が出た時は《蜘蛛の糸》を握ってることをつい忘れるくらいに」
【
・伏見メイカ
ライフ4/手札2/マナ9(アクティブなし)
場:《天界の王・ヤマ》(インアクティブ)
備考:《送り犬・ポチ》の効果で《天界の王・ヤマ》はシンイチのターン終了時まで攻撃とカードの効果の対象にならない。
・真常シンイチ
ライフ1/手札0/マナ7
場:《十王の五・閻魔王》
備考:後攻のマナ追加の権利未使用
《十王の五・閻魔王》が場を離れたなら《蜘蛛の糸》の効果でターン終了時に敗北する。
【
「ドロー。《閻魔王》でプレイヤーを攻撃」
《閻魔王》の最後の一撃が届く寸前、伏見さんが満足そうにつぶやいた。
「あぁ……それでこそ、僕の憧れだ……」
バトルが終わって座り込む伏見さん。
負けたはずの彼女は、とても晴れやかな顔をして言った。
「やっぱり強いね、君は」
……まあでも、二年前に大会で当たった時と比べて、
「伏見さん」
「なに?」
「強くなったね」
俺がそう言うと、伏見さんは一瞬色んな感情が混ざって嬉しそうにも悲しそうにも見える顔をして、すぐに顔を手で覆った。
「泣かないって、決めてたのに……」
泣いちゃったんだね。
「ごめん……君にそう、言われるのが……うれしくて……」
いいよ別に。嬉し涙くらい。
テュールが人払いしてくれてるし。
俺がベンチに座るマシロちゃんと彼女のそばに立つテュールのもとに歩いていくと、マシロちゃんは興奮冷めやらぬといった顔をして、控えめな音で拍手をして俺を迎え入れてくれた。
無駄に大きな音を出さない人は好感が持てる。後ろで伏見さんが嬉し泣きしてるからなおさら。
「すごかったです、シンイチさん……!」
「貴官は《蜘蛛の糸》で逆転勝利をおさめたことに不服かと見受けられるが、その逆転には貴官の構築や戦術、判断が必要不可欠。よって貴官の実力による勝利であると本機は判断」
「ありがとね、二人とも。あとごめんね、テュールに関係ないところで霊力を使わせて、マシロちゃんとの時間も削っちゃった」
二人に謝辞を述べると、マシロちゃんはまた少し不機嫌そうな顔に戻ってしまった。
「じゃあ、代わりにお願いがあります」
「俺にできることなら」
さすがに申し訳ないと思ってるからね、可能な限り要求は飲むよ。
「……撫でてください」
「え?」
「人払いが切れるまで、私を撫でてください」
そうなるのかぁ……
でもまあ、マシロちゃんがストレスで髪の色が落ちるほどいじめられてるのに解決してないということは親御さんも相当ダメなんだろうし、それも考えるとまだ誰かに甘えたいのだろう。
仕方ない、ここは覚悟を決めて愛犬を撫で回すかのごとくわしゃわしゃしてあげよう。
「よしよし、マシロちゃんはいい子だね」
「えへへ……」
撫で回されて満面の笑みを浮かべるマシロちゃん。こんなに素直に喜んでもらえるとなんか俺まで嬉しくなってきちゃうな。よーしよしよし。いい子いい子。
そうしてマシロちゃんを撫でていると、どうやら伏見さんが泣き止んだようでこちらにやってきた。
「き、君……もしかしてロリコ──」
「それ以上いけない。違う。断じて違う」
愛犬みたいなものだから。いや、強いて言うなら
思わず撫でる手を止めてしまったからか、マシロちゃんが抱きついてきたのでまた撫でてあげる。
「よーしよしよし」
「えへへ……ふふっ……気持ちぃ」
視界の隅でまた涙目になった伏見さんが『ぐぬぬ……』とか