プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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23話『人には人の日常パート、ただしシンイチおめーはバイトだ』

 

 

 朝、とあるビルの一室。そこでは黒いスーツを着こなした、まっすぐな金のロングヘアーの女性がいかにも高級そうな机で書類仕事をしていた。

 そして、そこにひとりの女性がやってきてなに食わぬ顔で話しかける。

 

 「長官、お久しぶりです。お茶と面倒事(報告書)をお持ちしました」

 

 メイド服がよく似合う銀のミディアムヘアの女性。彼女は机にティーカップとポット、そして書類が乗ったトレーを置いた。

 

「お久しぶりです、マリナさん。貴女(あなた)が急ぎで来なかったということは特に喫緊(きっきん)の問題はなさそうですね、安心しました」

 

 マリナと呼ばれた銀髪の女性はティーカップに紅茶をいれると、近くにあったパイプ椅子を机の近くに置いてそこに座る。そしてティーカップを手に取り、優雅に飲み始めた。

 

「……貴女が飲むんですね」

 

 長官と呼ばれた金髪の女性はそう言ったもののさほど気にした素振(そぶ)りを見せず、渡された報告書に目を通し始めた。

 

「ふむ……やはりこの組織は尻尾を見せないですね。上は関与していないのでしょうか?杞憂(きゆう)ならよいのですが……ん?」

 

 長官はそこで一度止まると、マリナに質問をした。

 

「『雷霆教(らいていきょう)』、壊滅したんですか?」

「はい」

「二年前に?」

「二年前に」

「?????」

 

 長官と呼ばれる女性は、マリナにいくつかの組織の調査を依頼していた。そしてその中には『雷霆教』についての調査も含まれていたのだが……

 

「貴女を疑うつもりではないのですが、この報告書の内容、本当ですか……?」

「本当です」

「本当に?」

「本当に」

「……一応、私の目がおかしくなっているかもしれないので、この報告書を読み上げてもらってもいいですか?概要だけでも構いません」

「はい。『雷霆教』が『神降ろし』を始めて30分後に教会を訪れた一般人の介入により、儀式は成功したものの降臨した精霊が強制的に帰還させられました。依代となるカードすら失った『雷霆教』の構成員は近くの公衆電話からの通報によって駆けつけた警察にほとんど逮捕され、誘拐されていた女性は保護。『雷霆教』は事実上の壊滅となりました」

 

 それを聞くと、長官は頭をおさえながらマリナに質問を続ける。そして……

 

「その一般人は?」

「警察には見つけられていないそうですね。公衆電話から通報したのも面倒事を嫌ってのことでしょう」

「誘拐されていた女性は?」

「命、体調ともに別状はありません。精神的な後遺症もなく復帰しました。こちらは保護されたため身元が確認できています。名前は『伏見メイカ』」

「メイカちゃん!?!?!?」

「声でか」

 

 雷霆教に誘拐されていた女性がメイカであることを聞いた瞬間大声を出した。

 

「メイカちゃん!?メイカちゃんなんで!?!?」

「適性があったからだと思われます」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうが!?メイカちゃんが攫われたならなんですぐに助いったぁ!?!?」

「落ち着いてください」

 

 メイカの名前が出た途端に取り乱した長官だが、マリナの強烈なデコピンによって強制終了させられた。

 

「なにするんですかぁ……!」

「失礼、虫唾(むしず)が…虫がとまっていたので」

「今『虫唾が走ったので』って言いかけましたよねぇ!?」

 

 両手で額をおさえる涙目の長官はさりげない毒舌に半泣きで抗議を続けたが、二度目のデコピンの構えを見て即座に押し黙った。この光景だけを見るととても長官と呼ばれる立場の人間には見えない。

 

「長官がするべきは過ぎたことで取り乱すことではありません」

「そうですね……すみません、お見苦しいところを」

 

 デコピンの脅威によって正気を取り戻した長官は、咳払いをして場を仕切り直すとマリナに告げる。

 

白銀(しろがね)マリナさん、貴女に新たな依頼をお願いします」

「内容は?」

「『雷霆教』を実質的に壊滅させた一般人の捜索、並びに調査です。なんの手がかりもない一般人となると──」

「承りました。明日(あす)にでも報告書を提出いたします」

「──むしろ調査は大変でしょう。ですからこちらでも人員を()き、貴女の報酬にもしっかりと色をつけて……なんて?」

 

 難しい依頼を出した自覚のある長官は、マリナが即答したことに気づくまでタイムラグがあり色々と説得するための言葉を出していたが、途中でようやく気づくと()で聞き返した。

 

明日(あす)にでも報告書の提出に伺います」

「なっ、えっ……明日(あした)!?なんの手がかりもないのに!?」

「手がかりもなにも、私は既に彼のことを知っていますので」

「な、なぜですか……?」

「私が彼の大ファンだからです」

「一般人の?」

「一般人の」

 

 困惑を隠せない長官だが、まあそれならそれで調査も簡単に済むからいいかと思いなおす。しかしマリナは長官の話を(のが)さず聞いていた。

 

「報酬、しっかりと色をつけてくださいね」

「アッ……」

「人員を割かずに済むぶん、多めにつけられますよね?」

「ウゥ……」

「泣いてしまわれました、ほら、紅茶あげますから泣き止んでください」

「それ貴女の飲みかけぇ……!私これでも長官ぅ!!」

「声でか」

 

 ちゃんと人の話を聞いておけばよかった。長官と呼ばれる女性は己の視野の狭さを呪った。

 

 ちなみにこのあと、もうひとつティーカップを隠し持っていたマリナが長官のぶんの紅茶をいれてくれた。

 

 正式な部下ではなく、必要な時だけ契約によって動いている白銀(しろがね)マリナは雇い主を選べる優秀な人材である。そのため長官をいじったりデコピンしたことで怒りを買って契約を破棄されても大した問題ではなく、しかしながら待遇がいいこの契約には頻繁に応じている。

 ちなみに彼女がメイド服を着ているのは趣味である。しかし、潜入先に自分を知る人間がいても普段からメイド服を着ていれば『白銀(しろがね)マリナ=メイド』という印象がついて変装をした時により気づかれにくくなるという狙いもあった。一割ほど。

 

 

 

「レイタ、俺カードショップってはじめて来たぜ!テンション上がってきたなぁ!」

「私もです、なんだか緊張しますね……ところで、今回はなにをしにきたんですか?」

「ああ、ちょっとカードを見ようと思ってな。カードショップだから当たり前ではあるけど」

 

 昼、電車で二駅、駅からさほど遠くない位置のカードショップにやってきたのは赤城(あかぎ)タツキ・緑毛(みどりげ)ユキ・青枝(あおえだ)レイタの小学生三人組である。

 

 本来はタツキからの遊びの誘いを断ってカードショップに行く予定だったレイタだが、それを聞いたタツキとユキがついてくると言い出したために三人で訪れることになっていた。

 レイタとしても自分の都合に付き合わせるのは悪いと思って内容を明かして断ろうとしただけであり、ついてくるならそれはそれで構わないと同行を受け入れている。

 

「なんか新しいデッキでも作るの?」

「新しいデッキというか調整かな……?いつもの青色デッキに黒を混ぜてみるのもいいかと思ってな」

「黒ですか?あまり想像がつかないですね……」

「シンイチさんが大会に出てる時の動画を見たんだけど、《乙姫》みたいにわかりやすく強いカードだけじゃなくて青の『連鎖』と黒の『蘇生』を組み合わせて上手く立ち回ってたんだ。今まで強いカードに頼りすぎてたから、そういう工夫した戦いもしてみたくてな」

 

 あれからもシンイチの現役時代の動画を中心に勉強を続けているレイタだが、やはりシンイチの工夫を凝らした青黒のデッキの真似をしてみたくなったらしい。黒のカードを中心に販売されているカードを見ている。

 

「お、このカードいいかも」

「どれ?」

「どれですか?」

「ほらこれ」

 

 レイタが指さしたカードは《蜘蛛の糸》。

 

 自分の手札・場・墓地のカードを全て失うが、一度だけ敗北を(まぬが)れた上でアニマを1体『蘇生』できる黒のスペルカードだ。

 

「これで《ニクス》が突破されても、もう一度出して次のターンに『凍結』で阻止を防いだ上で攻撃して9ダメージ。代償はでかいけど詰めにはかなりいいな」

「無理よ」

 

 レイタの考えに対して《ニヴルヘイムの女王》……先日レイタが名をつけたため今は《ニヴルヘイムの女王・ニクス》の精霊がレイタのデッキケースから現れて語りかけた。

 

「無理ってどういうことだ?」

「レイタ、最近疲れてるんじゃないかしら?テキストを読み直してみなさい」

「えーっと……?あ」

「どれどれ……?あ」

「なんですか……?あ」

 

 レイタ・タツキ・ユキの三人が改めてテキストを読み直すと、なぜニクスがそう言ったのかがわかった。

 

 

《蜘蛛の糸》

黒/1コスト(色指定:黒1)/スペル

効果:このターンの終了時まで自分のライフは1を下回らない。

自分の墓地の()()()()()アニマ1体を選択する。

自分の手札・場・選択したアニマ以外の墓地のカード全てを消失させ、選択したアニマを『蘇生』する。

そのアニマが場を離れたなら、そのターン終了時に自分は敗北する。

 

『緊急詠唱』:自分のライフが0になるなら、その直前に手札から使用可能。

 

 

────因果を超えて登って見せろ。救いを信じ、全てを捨ててでも地獄から抜け出したいのなら。

 

 

「黒色のアニマ限定ですか……じゃあニクスさんを出すことはできませんね」

「リューちゃんも出せないしなあ」

「そもそもお前(タツキ)の場合は『燃焼』に必要なデッキが残ってるかどうかの問題もあるだろ」

 

 テキストを読み直して勘違いに気づいた三人は残念そうにしたが、ふとタツキが疑問の声をあげた。

 

「このフレーバーテキスト、どういう意味だ?」

「『蜘蛛の糸』っていう小説があるんだよ、長い話じゃないから今度読んでみろ…………このカードを作った人は『利己主義に走るな』とか『欲をかくな』ってことだけじゃなくて『救われたいなら信じろ』って解釈もしたのかもしれないな」

 

 フレーバーテキストを読んで解釈をしたレイタにユキが質問する。

 

「つまり……カンダタは糸の強度を信じるべきだった、ということでしょうか?」

「『糸を信じろ』とは書いてないわ、もしかしたら信じるのはなんでもいいのかもしれないわね。それこそ自分とか」

 

 意外なことにニクスも話に乗ってきた。彼女は絶大な自信を持つ女王らしい解釈をした。

 

「そうかもしれないな、実際に現実で危機に直面した時に信じられるのは仲間か自分だ。切り札を信じ、自分を信じて逆転勝利を掴む。案外そういう効果のイメージで作ったのかも」

「原作とは少し違うかもしれませんけど、これはこれでプレスピらしい気がしますね」

 

 この間タツキはずっと頭にはてなマークを浮かべていた。レイタがそれに気づいたのか、ちょうどいい結論をユキが言ってくれたのにあわせて提案した。

 

「僕はまだ勉強疲れが抜けてないみたいだし、また出直すことにする。シンイチさんから聞いたんだけど、このビルの地下で手頃な値段で美味いたい焼き売ってるらしいから行かないか?」

「お!いいね!行こうぜ!」

「賛成です!たい焼き食べたいです!」

「わしも食べたい」

「私は食べないわ、熱いの苦手だし。代わりにレイタに食べさせてあげるわ。やけどしないように冷ましてあげる」

「いや僕は自分で食べるからな、口の中やけどしようとも絶対に」

「ユグちゃんも食べますか?」

「私は丸呑みしかできないので、さすがにたい焼きの大きさは……」

「じゃあ、小さくしてわけてあげますね」

「ありがとうございます」

 

 美味い食べ物と聞いてリューちゃんが出てきたのもあり、みんなでたい焼きを食べに行くのであった。

 

 

 

 

 先日、知人の連絡に『ごめん、土日はバイトあるから基本行けない』と言ったら急な欠員の代理で休日に出勤するはめになってしまった。これが身から出たサビ残……いや給料出るし残業でもないけど。

 

 まあ立地に加えて夜だからそんなに人もいないし、やることやってしまえばそこまでしんどくはない。そんな感じで大体終わらせて品出しと商品棚の整理をしていたら見覚えのある地雷系が近づいてきた。

 

「シンイチぃ……」

 

 近づいてきたってレベルじゃねえぞ。なんか棚の整理のためにしゃがんでる俺に覆いかぶさるかのように後ろから抱きついてきたんだけど。なにやってんのこの人。

 

「えへへぇ……シンイチぃ……会えてよかったぁ……」

 

 右手にエナドリ、左手に缶チューハイ。どう見ても酔っ払ってます本当にありがとうございました。

 

 本当になにやってんの?この人。エナドリと強い缶チューハイなんて一緒に飲むから……よく悪酔いするって聞くよ?それ……

 

 とりあえず店員モードをまだ切ってないからそのまま応対しよ……

 

「ご注文がお決まりでしたらレジでおうかがいいたします」

「ちゅうもんー?シンイチ、持ち帰りれぇ……」

「申し訳ありません、店員は非売品となっております」

 

 名札についてるバーコード、これ商品バーコードじゃないからね。

 

「シンイチ買えないのぉ……?」

「買えません」

「やら、もういなくならないれぇ……」

 

 わかったからどいてね、仕事進まない。あとしゃがんでる状態で抱きつかれると足が痛い。

 

「2年も会えなくてさみしかったのぉ…………」

 

 この人、少し前から素直な人ではあると思ってたけど……酔っ払うとさらに素直になるんだね。

 

「もうぷれすぴやらなくてもいいからいなくならないれよぉ……」

 

 黒崎さん……

 

 出禁になる前に帰ってね、お願いだから。

 

 ……というか、なんで今日こんなに酔ってるの?いや、いまは理由はどうでもいいか。

 

「しんいちぃ……」

 

 さてこの酔っ払いおんぶおばけをどうしようかと思っていたら、見逃しそうになるほど早い手刀が飛んできて黒崎さんの意識を刈り取った。

 

 あ、テュールだ。

 

「これ以上のアルコール並びにカフェインの摂取は翌日のコンディションに多大な支障をきたすと判断、シャットダウンを行いました。これより最寄りの公園のベンチに寝かせ、起床まで人払いを行います」

 

 テュールありがとう、めちゃくちゃ助かる。でもこの時期にそれは寒くない?

 

「……本機が霊力で適温を保ちます」

 

 テュールなんでもできすぎでしょ。大丈夫?でもありがとね。

 

 なんだか無茶振りに適応させられてるみたいで可哀想なテュールだけど、頼るしかない。とりあえず水とタオル、あとビニール袋をふたつ、それと二日酔いに効くタイプの飲み物も一緒にレジを通して、まとめて一枚のビニール袋に入れてテュールに手渡した。

 

「これ持っていってあげてね。タオルは枕の代わりに敷いてあげて」

「了解」

 

 ちなみにエナドリと缶チューハイは(から)だったからごみ箱にシュート。そんなペースで飲むから酔っ払うんだぞ。

 

 ……ん?そういえばテュールがいるってことはマシロちゃんもいるの?

 

「……シンイチさん、なんで黒崎さんに抱きつかれてたんですか?」

 

 あ、いた。なんかすごい圧を感じるマシロちゃんがいた。……え?なんでそんな圧を小学生が出せてるの?これテュールのじゃないよね?

 

「では、本機は出立(しゅったつ)します」

「あ、待ってテュール」

「では」

 

 テュールウウウゥゥゥゥゥ!?!?!?

 

「質問に答えてくださいシンイチさん、なぜ黒崎さんに抱きつかれていたんですか?」

 

 くそっ、テュールめ!最後の最後に逃げたというのか!?

 ……いや、冷静に考えたら俺は特になにも悪いことしてないな。正直に答えればいいじゃん。

 

「酔っ払いにダル絡みされたんだ。黒崎さんを知ってるみたいだったけど、マシロちゃんなにか理由とか知らない?」

 

 俺が素直に質問に答えつつマシロちゃんに心当たりを聞いてみると、まだ不満気ではあるけどさっきまでの圧はなんだったのかと思うほど元に戻ったマシロちゃんが答えてくれた。

 

「あぁ……私、今日大会の観戦に行ってて今もその帰りだったんですけど、ここ最近ずっと優勝続きだったらしい黒崎さんがプロ選手としての活動を再開した伏見さんに負けちゃったんですよ」

 

 あー……じゃあつまり……

 

「やけ酒…ってことか……」

「おそらくは……」

 

 はた迷惑な……地雷なら自分から動いて爆発させに行ったらダメでしょ……あの人が地雷系なの、見た目だけだけど。

 

「シンイチさんが絡まれてただけみたいでよかったです……もしシンイチさんが仕事中に女の人とイチャイチャしてるような人だったら私……」

「誤解させてごめんね……」

 

 『私……』のあとにどんな言葉が続いたのかは、とても聞けそうになかった。

 

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