プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
拝啓、やたら肌寒くなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。俺は今……
「ライフが1残っていればいいって考え方はあんまり好きじゃないなあ」
毎週およそ四時間、マシロちゃんにプレスピを教えながら過ごしています。
「ピンチになるまではライフ管理をあんまり意識してない人が多いけど、防ぐべき攻撃と通していい攻撃は見極める必要がある。さっきの試合もマシロちゃんが俺の序盤の攻撃を見過ごして、そのぶんライフを削ることを優先した結果として最後の攻撃を受けきれなくなったよね」
「はい……」
「ライフは1残っていればいいんじゃなくて、最後に1でも残ってくれればいい、より厳密に言うと『0にならなければいい』んだ」
某有名TCGのライフ半分払ってだいたいなんでも無効にするカード、あれ使ったせいで負けたことある人は結構いると思うんだよね。
あとは逆に場のモンスターを1体手札に戻す万能バウンスカード、あれをライフを削られたくないから相手の攻撃に使って、あとで本当に使うべきところで使えずに負けたパターンとか。
……うーん、例えが古いかな?まあいいや。
要するに前者は『ライフを軽視しすぎたパターン』、後者は『ライフを重視しすぎたパターン』だ。
ライフもリソースなんだ、つまりね……
「例えばさっきの試合の途中で使った《清浄の天使》と《改宗》、あれは使わなくても負けにはならなかったよね、あの時は他のアニマでの阻止かライフで攻撃を受けて最後に《閻魔王》に使ってればマシロちゃんが勝ってたよ」
つまりね、状況によってカードとライフ、どっちの方が価値が高いか、なにを大事にするべきかは変わるんだ。ここメモしといてねマシロちゃん。
……でも、伏見さんに続いてまた使わされたなあ、《蜘蛛の糸》。
成長著しいものだね……でもまあ『1残っていればいい』という考えで最後に守りを捨てて攻撃をしたマシロちゃんに対してライフを絶対に1残すカードである《蜘蛛の糸》を俺が握ってたらそりゃこっちが勝つに決まってる。最後に《蜘蛛の糸》の効果で出てきた《閻魔王》を《清浄の天使》と《改宗》を温存して処理していればマシロちゃんが勝ってたけど。
「今日はかなりいい感じだったから成果はじゅうぶんかなあ。テュール、あとどのくらい時間ある?」
「解散予定時刻まであと47分です」
一週間につき四時間、人払いに加えてこの前の無茶振りでできるようになった暖房機能を稼働させた上で霊力の回復を間に合わせているハイスペック機械天使、テュールに残り時間を聞くと思ったより余っていた。
「まだ少し時間あるね……どうする、今日は早めに上がる?」
いくら親がだめそうとはいえ、マシロちゃんも休日に少しくらいゆっくりしたいだろう。そう思って提案するとマシロちゃんはもじもじしながら言った。
「えっと……少しやりたいことがあるんですけど、いいですか?」
そう言うとマシロちゃんはパーカーのポケットから小さなボールを取り出した。
「ナイスキャッチ」
「えいっ!」
「おっと」
マシロちゃんのやりたいこと、それはどうやら『普通に遊ぶこと』らしい。
今は危ない時はテュールが動いてくれるということでキャッチボールをしている。
よく考えたら休みたいのは俺の方であって、マシロちゃんは遊びたいざかりなんだろうな。まあ当然ではあるか。
そして平日は学校とバイト、休日は親がいたら外に出て時間を潰してって具合に日々を過ごしている俺が休みたいと思っているのも当然だった。危ない危ない、俺の願望を勝手に人の願望にしてしまうところだった。
来週も少しはこういう時間を作ってあげようかな。
「……あら?」
そしてまた学校ははじまる。めんどくさいけど、家にいるよりはマシってことにしておくしかない。
「今日は読むだけになりそうですね。ひとまず最後まで読んで、時間が余ったら最初の方だけやります」
『河童』かあ、聞いたことはあるけど読むのははじめてだな。
それにしても、まだ序盤だけど
生まれるかどうかを選べるのは非常に羨ましいことだ。俺は生まれる世界を間違えたのかもしれない。いや間違えるもなにも選べてないから。選べないならせめてなにか生活が楽になるチート能力をください。
……しかし読み物として面白いな。そのせいでというのはなんだけど、作者が伝えたかったこととか考えずに普通に読んでしまう。いや、最初はそんなものでいいのか。そういうのは読み終わったあととか、読み返した時に考えるのでも全然遅くないだろう。
授業で義務として読ませるから
……ああ、そういえばこの先生はあまりにも簡潔に作品を消化するからハイペースで次の作品に移っていくけど、そのぶんただ読むだけの時間が多くなるのはいい点なのかもしれない。テスト範囲がバカみたいな広さになるけど、どうせ教える内容はスカスカだし。
そして週末が来て、恒例のマシロちゃんと会う時間になった。
「今回は先に少し遊ぼうか」
「……いいんですか?」
「正直もうマシロちゃんは結構強くなったし、せっかくだからね」
そもそもテュールがいるからその気になればいじめっ子なんてパワーで捻り潰せると思うけど……まあ穏便にプレスピだけで解決できるならその方がいいのはたしかだ。そしてマシロちゃんが内心まだ人と遊んだり大人に甘えたい気持ちがあるのもたしかだろう。
ひとまず、もうその辺のプレイヤーよりは全然強いと思うから今はマシロちゃん個人と向き合う時間を少しくらい増やしてあげよう。人と向き合わないことで有名な今の俺がそんなことを思うなんて、そんなに同情してるのかな。
まあでも、河童みたいに知った上で生まれるか選べたらいいなと思って、その弾みで俺たちは選べなかったんだからせめて少しでもこういう子に優しくしようという気持ちになったのは否定しない。
「わぁ……目線が高いです!」
今はマシロちゃんを肩車して公園を歩いている。もちろん危ない時はテュールが動いてくれるから、無駄に心配することはない。
と、いってもさすがに肩車なんてそんなに長くすることはない。しばらくしたら切り上げて今度はブランコを押してあげてる。
マシロちゃんにしてあげるにしては子どもすぎるかなと思ったんだけど、満足気だからいいか。
ブランコも切り上げる時、マシロちゃんが幸せそうにしてるものだからつい気になって聞いてみた。
「こういうのってあんまりやったことなかったの?」
聞かれたマシロちゃんは少し考える
「両親は私が危ないことをしない限りあんまり関わらないので……多分学校でちゃんと遊んでると思ってるんじゃないかと……」
「そっかぁ……」
ことなかれ主義みたいな親御さんなのかな……
それにしても、いじめられてることを自分から言い出せないのはよくわかる。でも構ってもらえない時って悪いことをして気を引こうとしがちだと思うんだけど、今までのマシロちゃんを見ているとそんなことをしているようにはとても見えない。
きっと親御さんからしたら手のかからない都合のいい子なんだろう。
ブランコに座るマシロちゃんを撫でると、マシロちゃんは気持ちよさそうに目を細めながらも聞いてきた。
「どうしたんですか?」
「マシロちゃんはいい子だなあと思って」
それからしばらくマシロちゃんを撫でて、ようやくプレスピに戻った。
「相手を倒しきる計算って難しいかもしれないけど、白には『飛翔』があるから結構やりやすい方だよ」
よくクロックって言われる概念、特にその計算がしやすいのは白だと思う。
「例えば、戦闘力4の《飛翔する天使》が攻撃で相手を倒すのに必要なターンは?」
「相手の妨害がなければ5です」
「そう、でも相手は妨害も攻撃もしてくる。ただ、『飛翔』があれば阻止による妨害はされないよね?」
「でも、相手も攻撃してくるなら結局だめじゃないですか……?攻撃ばかりしていたら守りが薄くなっちゃいます」
「そうだね、でもそれは相手の攻撃の方が高いダメージを出す時や攻撃を防ぐ手段がない時の話だ。例えば他のアニマを阻止のためだけに使って、『飛翔』持ちだけで相手を攻撃したらどうかな?」
「それは……!」
「そう、結局こっちの方がダメージを出してるから勝ってることが多い。極端な話《飛翔する天使》なら泥仕合に持ち込んで5ターン稼げば削りきれるからね。攻めるだけでも守るだけでもなくて、ダメージレース……お互いのライフの削り合いを制することが大事なんだ」
さて、せっかく白を軸にしたデッキを使ってるんだし、今回はそういうのができたらいいなと思ってバトルをはじめる直前、人払いが効いてるはずの公園に足を踏み入れる者がふたり。
「ほら、面白いでしょう?」
ひとりは《ニヴルヘイムの女王》の精霊さん……いや、この前レイタくんが名前をつけたと言ってたから今はニクスか。そして……
「…………なぜシンイチさんが、人にプレスピを教えているんですか?」
目にハイライトがなくなったレイタくんだった。