プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

29 / 66
25話『あの子もこの子も、みんな蔑ろにはできないし、過去からは逃げられない』

 

 

 さかのぼること一週間。

 

「……あら?」

「どうかしたか?」

「……なんでもないわ」

 

 レイタが道ばたを歩いていると、いつの間にか出てきていた青い髪と白い肌の《ニヴルヘイムの女王》の精霊、ニクスが声をあげた。

 

 レイタはどうかしたのか聞くが、ニクスがなんでもないと言ったために怪訝(けげん)そうな顔をしたものの再び歩き始める。

 

 ニクスは少しのあいだ公園のある方角を見ていたが、やがてレイタのデッキケースに戻った。

 

 

 

 そして次の週、つまり今日のこと。

 

「面白いものを見せてあげるわ」

「面白いもの?」

 

 ニクスはそう言うと、レイタを連れて外を歩き出した。

 

 しばらく歩くと、レイタにとってなんだか無性に近づきたくない感じのする公園についた。ニクスはそこで虚空に手をかざし、見えない壁のようなものを霊力でこじ開けると中に入っていく。レイタも少しためらったが、ニクスを信じてついていった。

 そして、公園の中にはシンイチとマシロがいた。既に多少は声が聞こえる距離にいたため、シンイチがマシロにプレスピを教えているらしい内容の話と、これからバトルをはじめようとしているところもしっかり確認できた。

 

「ほら、面白いでしょう?」

 

 ニクスがそう言って振り返ると、そこには目にハイライトがなくなったレイタが見たことのない圧を放っていたのでさすがの女王(ニクス)も驚いたらしい。

 

 

 

 

「…………なぜシンイチさんが、人にプレスピを教えているんですか?」

 

 え?こわ……なにその圧と目……というかなんで?なんで公園に(はい)れたの?

 

 ……あ、ニクスか!

 

「どういうことですか?説明をしてください」

 

 いやまって、こわい。しかもやけ酒で酔っ払った地雷系(黒崎さん)に絡まれてた時と違って言い逃れができない。

 

「なるほど、そういうのもありね……」

 

 いや新しい扉開いてないでなんとかしてよニクス。きみの差し金でしょ。

 

 ……というか、普通に説明すればいいのか。マシロちゃんの事情が少し特殊だって。

 

「……マシロちゃん、事情を話しちゃってもいいかな?」

「はい……」

 

 あんまり知られたくないだろうに色々察して許可してくれるマシロちゃん。ほんとごめんね……

 

 というわけで、めちゃくちゃ説明した。

 

 

 

「すいませんでした……てっきりシンイチさんが僕のこと嫌いなのかと……」

「いいって、誤解だったんだし……」

 

 理知的なレイタくんは事情を理解してくれたようでなによりである。最悪の場合氷像になるかと思った。

 

「レイタ、ちょっとさっきの感じで私に詰め寄ってきてくれる?」

「絶対にやらない、事情を知らずに勘違いして既に恥ずかしいし、そもそも自分があんな感じになれるのはじめて知ったから二度とできないしやらない」

 

 このショタコンは本当に平常運転だな……というか、そもそもなんでニクスは人払いに気づいたの?テュールの言ってることが本当なら精霊すら無意識に寄りつかなくなるはずなんだけど。

 

「人払いの隠蔽(いんぺい)は自然だったけど、公園の中だけ不自然に温度が高かったのよ。私じゃなかったら気づかなかったでしょうね」

 

 えぇ……暖房機能でばれたのか……さすが氷の国の女王だね………………

 

「不覚……」

 

 あぁ、テュールが落ち込んじゃった。大丈夫だって、きみはよくやってくれてるよ。あのショタコンの温度感知能力がちょっと異常なだけだから。

 

 へこんでいるテュールを俺とマシロちゃんでなだめていると、レイタくんがまだどこか不満気に言ってきた。

 

「事情はわかりましたけど、それはそれとしてこう……納得しきれないというか……ずるいです。僕も参加させてください」

 

 レイタくんの気持ちももっともだ。俺がわざわざ無駄な自分語りをしてまで教えたくないという意思表示をしたのにマシロちゃんには事情があるからと教えているのは(こころよ)くはないだろう。

 

 例えるなら妹ばかり構って兄を放置する親のように、不良生徒の善行を褒めて優等生の努力を褒めない先生のように、立場が違うからって結果的にどちらかを優遇してしまうのはそれはそれでよくないことだ。

 そうやって放置された(がわ)の子がどんな思いを(いだ)いて、どんな風に人知れず擦り切れていってしまうのかなんて育児や教育に手一杯の親や先生にはわからないのかもしれない。でも、少なくとも俺は『()()()()()()()()()()()()()()(かか)えた子』を育ててしまうのは()けたいと思う。

 

 …………でもひとつだけ言わせてほしい、俺ただの高校生!親でも先生でもないただのコンビニのアルバイトオオオオオオ!!!

 

「マシロちゃん、どうしよっか……?」

「え、えっと……」

 

 ここで俺が諦めてレイタくんを混ぜてあげるだけなら俺が頑張れば済む話だ。なんとかなるのかって?なんとかなるのかじゃない、なんとかするんだよ。

 

 ただ、マシロちゃんはプレスピの勉強だけじゃなくて、この時間で俺と普通に遊んだりして、親がくれないぶんの愛情をもらっている(ふし)がある。自惚(うぬぼ)れじゃなければだけど。

 

 そして、そこに第三者を混ぜてしまうと今までどおりのことはできなくなるだろう。

 

 その意味を含めた問いかけであることは察してくれているようで、マシロちゃんはかなり悩んでいるようだ。レイタくんも無理を言ってるのはわかっているようで、こちらが考えているのを大人しく待ってくれている。

 

 ただ、感情を主体にして理屈を考えてもらちがあかない。感情なんて矛盾するものだし、それでも欲求(よっきゅう)だけを優先するなら簡単な方に人は流れる。そうならないのは理屈ではそれじゃ通らないことをわかっているからだ。

 

 マシロちゃんはきっと『気兼ねなくこの時間を過ごしたい気持ち』と『レイタくんの気持ちや自分だけプレスピを教えてもらっている申し訳なさ』みたいなものに挟まれて悩んでいるだろうし、レイタくんも『マシロちゃんと(シンイチ)の事情』と『それでも教えてほしい気持ちやマシロちゃんが教えてもらってるのにずるいという気持ち』があるからこちらが考えるのを待ってくれているのだろう。

 

 だから……俺にできることはきっと、選択肢をまとめて、感情と混ざってぼんやりしてしまっている考えに形をつけてあげることだろう。そうした上でどこまでなら譲れるか、あるいは自分が譲れないものはなんなのかを見つめなおすことができればそれでいい。

 

「選択肢はみっつだ。レイタくんを混ぜるか、参加を認めないか、途中まで、あるいは途中からの参加とか、二週間に一回とかのなんらかの条件つきで認めるか。このみっつしかないから、あとはなにを優先するかでしかない。どうしても決まらないならバトルで決めてもいい」

 

 マシロちゃんにそう言うと、彼女は少し考えてから俺に尋ねた。

 

「シンイチさんは、どうしたいですか……?」

 

 俺としては全部投げ出して今すぐ布団に入って寝たいんだけど、もちろんそんな答えを返すわけにはいかない。自分だけでも無責任な大人になるわけにはいかないし、今更逃げる気もない。

 

 責任は取らなきゃいけない、逃げるなんて……

 

 

 

 古傷が(うず)く。

 

 俺の中の嘘みたいな過去(きおく)(うそぶ)く。

 

『お前になにかを教えるなんてできない』

 

 うるさい。

 

『また傷つけるだけだ』

 

 黙れ。

 

『理解なんてされない』

 

 理解されなくてもいい。

 

『そんなことに意味なんてない』

 

 意味がなくてもいい。

 

『どうせろくな結果にならない』

 

 どんな結果になっても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 こんなことはやりたかったことじゃないと言われても、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いいから、過去(おまえ)は出てくるな!

 

 

 

「シンイチさん……?」

「……ごめん、少し考えてた」

「そうですか……?すごく汗をかいてますけど……息も乱れてますし……」

「……大丈夫だよ」

 

 大丈夫、なんとかするさ。

 

 もし教えるうちにレイタくんを傷つけてしまったのなら、その時はまたしっかり悪者になろう。ニクスに氷像にされたって構わない。

 

「俺はこうなった以上レイタくんにもプレスピを教えてもいいと思ってる。だから俺から拒否するつもりはないけど、そもそも今は土日のうち片方しか使ってないから、マシロちゃんが嫌だったらレイタくんには別の日にプレスピを教えようと思う」

 

 これが第四の選択肢。いや、マシロちゃんからは出てこない選択肢、というべきか。

 

 そう、なにも同じ日にプレスピを教える必要はない。俺が土日のあいてる方でレイタくんに教えると言えばそれで済む話だ。

 人払いはニクスに責任を取らせてやらせるつもりだけど、最悪できなくてもレイタくんは男の子だから通報まではされないだろう。

 

「でも、それだとシンイチさんが……」

「大丈夫、なんとかするさ。それで、マシロちゃんはどうする?」

 

 さっき心配させてしまったのか、ふたりとも不安そうな顔をしている。

 

「……決めました」

 

 やがてマシロちゃんが声をあげた。

 

「私とレイタさんでバトルします。私が負けたらレイタさんの全面参加を認めますが、勝ったらレイタさんには今日のことを忘れてもらいます」

「…………気をつかわせちゃったね」

「いいんです、シンイチさんにはもうたくさんもらいましたから……バトルで決められるなら文句はありません」

「ということなんだけど、レイタくんもそれでいいかな?」

「大丈夫です。というか、シンイチさんこそ大丈夫ですか……?」

 

 やっぱり心配させちゃったか……不甲斐ないな。

 

「大丈夫、ふたりの意思を尊重するよ」

「迷惑かけて本当にすいません……僕も、バトルで決まるなら納得できます」

 

 レイタくんも高学年とはいえ小学生だ、もっとわがままを言いたいだろうに気をつかってくれる。本当によくできた子だ。

 

「テュール、私が勝ったら霊力でレイタさんの一日ぶんの記憶の消去をお願いします」

「マスター?」

 

 マシロちゃん?

 

「お願いします」

「……」

 

 マ、マシロちゃん?

 

「お願いします」

「……了解、機能の追加を開始します」

 

 テュール!?

 

「マシロちゃん……忘れてもらうって物理的にってこと……?」

「はい。レイタさんも忘れた方が気持ち的にいいと思いますし、そうしたらシンイチさんが私に隠して別の日に教える理由もなくなりますよね?」

 

 たしかにそうだけど……そうだけど………というかレイタくんが負けてもマシロちゃんに内緒で教えてあげればいいやって思ってたのばれてるし……

 

「……わかりました」

 

 レイタくん?

 

「たしかに知ってしまった以上はどう転んでもモヤモヤすると思います。ここで負けたとしたら、諦めたのを覚えているよりはいっそ忘れた方がいい」

 

 レ、レイタくん?

 

「ニクス、僕が負けても記憶消去の邪魔をしないこと。それと、またこのことを教えたりするなよ」

「……わかったわ。面白半分で乱入してごめんなさい、あなた(シンイチ)の顔を見てたら申し訳なくなってきたわ」

 

 ニクス!?

 

 すっごいらしくないよ!?そんなに心配させちゃったの!?

 

「準備はいいですか?私はできてます」

「僕もいつでもいける……それじゃあ」

「「バトル!」」

 

 やばい、もうはじまった……気まずいのに俺だけ置いていかれてる……

 

 仕方ない、もうこのまま実況解説に徹しつつバトルを見届けよう……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。