プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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29話『お願いだから変なことしないで。普通にバトルさせてもらえないかな?』

 

 

先攻(マシロ)1ターン目】

「私のターン!ドロー!マナゾーンにカードを1枚置いてターンエンドです!」

 

 

後攻(シンイチ)1ターン目】

「ドロー」

 

『貴官に警告』

 

 バトルがはじまった直後、テュールが脳内に直接語りかけてきたから長考するふりをして話を聞く。

 

『貴官に救援要請を行う前、暴走を止めるべく本機がマスターの体内に強引に侵入した影響で、今のマスターは本機の霊力を無意識的に一部強奪して使用している状態にあります』

 

 なるほど、色々察した。というかきみ本当になんでもできるね。つまり……

 

『貴官の想像通り、霊力を用いて周囲の人間への怒りで膂力(りょりょく)を上げ、貴官への憧憬(しょうけい)で髪を黒に戻し、さらにデッキのカードを書き換えたことを確認』

 

 うわぁ……やりたい放題じゃん。というかテュール、きみ霊力強すぎじゃない?きみの霊力の一部を使ってるマシロちゃんに数秒抱きしめられただけなのにまじで骨折れるかと思ったよ。小学生の女の子だよあの子。

 

『……膂力はマスターの二つ目の人格の凶暴性に由来、本機の霊力の影響は……軽微』

 

 言い逃れするならせめて言い(よど)むのやめなって。やっぱりポンコツ機械天使か?

 

『マスターの二つ目の人格はいわゆる火事場の馬鹿力を常に発揮しており脳のリミッターがかかっていないため現在は平時のおよそ10倍近い重量を持ち上げる筋力を持ちそれに本機の霊力が影響した形で……』

 

 わかった、わかったから早口の言い訳を脳内に直接するのはやめてほしい。

 

 つまり本来出ちゃいけないパワーを常に出してて、それがきみの霊力でさらに強化されて、しかも凶暴。

 だからこれ以上周りの人とマシロちゃん自身の身体を破壊する前にバトルで今出てる人格を引っ込めさせればいいんでしょ。

 

『肯定』

 

 ……まあ、なんでもできるテュールでもさすがに自我が強すぎて弾かれた上に霊力を強奪されて利用されるのは予想外だったんだね。

 

 俺も予想外だよ。そんな人間いるんだ……

 

『極度のストレスにより乖離した、負の感情の大部分を引き受けた人格であることが自我の強さの原因と予測』

 

 そういう感じね……普段のマシロちゃんが底抜けにいい子なのって無意識に今出てる人格に耐えきれない悪感情を押し付けてたからか……

 

『しかし、貴官の影響により二つ目の人格も軟化。この状況さえおさめれば仮に今後出てきても貴官がいれば制御可能』

 

 まあそれならよかった……よかったのか?俺がいない時に出たらどうなるかわからないし、その俺も運が悪かったらマシロちゃんが抱きついてきただけで死にそうなんだけど。

 

『……』

 

 ……

 

『貴官は責任を重んじる人物であると──』

 

 ──この話はやめよう。とりあえずここからはバトルに集中するね。

 

『貴官に勝利を』

 

 ありがとう。

 

「……マナゾーンにカードを1枚置いてターンエンド」

 

 

先攻(マシロ)2ターン目】

「ドロー!マナを増やして2コストスペル《天啓》を発動!このカードをマナゾーンに置きます!」

 

 えぇ……なんか有名DCGの初期からずっと使われてるランプカード使われた気分。

 

 まあ、《焚き木》とかいう落ちただけでマナ加速するぶっ壊れがあるからまだいいけど、こっちはこっちで白のマナだけで発動したら1枚ドローする壊れスペルだ。

 なんでドローしてないのかというと、マシロちゃんのマナゾーンの2枚のカードが片方黒だからなんだけどね。

 

後攻(シンイチ)2ターン目】

「ドロー、マナを増やして《せっかちな葬儀屋》を召喚。『召喚時』効果でデッキから《大嶽丸(おおたけまる)》を『埋葬』する」

 

 そしてどうせ『蘇生』にマナを使うからってこういう大胆なカードを普通に作っちゃうのがこのゲーム(プレスピ)だ。

 標準ステータスに確定墓地落としって、他のTCGなら高額で取引されてそうだよね。まあプレスピは精霊の依代としての影響もあってフィニッシャーの方が貴重で高い傾向なんだけど。

 

 あとこれも今考えることじゃないけど、『燃焼』もどうせ考えなしに使ってたらデッキ切れで負けるからいいでしょってノリで作ったんだろうなあと俺は思っている。

 

 

先攻(マシロ)3ターン目】

「ドロー!マナを増やして3コストスペル《光臨》を発動!」

 

 《光臨》か、ちょっとまずい。

 

「手札から白色を持つアニマを1体召喚し、そのアニマが4コスト以上ならターン終了時に手札に戻します!」

 

 冷静に考えてほしいんだけど、これで自身をデッキに戻して次のターンに好きな白のアニマを召喚できる《神告(しんこく)の天使》を出したらデメリットもコストも踏み倒して好きな白のアニマを出せてしまう。上振れもいいところだ。

 

 まあ、だから伏見さんが使ってた《天界の王・ヤマ》みたいに白で強いアニマをフルパワーで使うには下準備が必要だったりするものが多い。ただ出ただけで強い《飛翔する天使》がありがたがられる理由だ。

 

 とりあえず、《神告の天使》から次のターンに出てくる《飛翔する天使》に一回は攻撃されるけど、まあ処理できるからなんとかなるか……

 

「《テュール》を召喚!」

「え?」

 

 神々しく舞い降りた機械天使に思わず声をあげてしまった。畏怖でもなんでもない、困惑の声だ。

 

『マスターのカードのため、救援を要請しておきながら敵対することを心より謝罪』

 

 テュールが再び脳内に直接話しかけてきたけど、それは別にいいんだ。でもきみ、今出てきてどうするの?

 

(ただ)ちに判明。要警戒』

 

 ……これもしかしてやばいやつ?

 

「1コストスペル《勝利のルーン》発動!『混沌』によって効果を使用します!」

 

 多分カード名からしてルーン文字だろう。上向きの矢印みたいな文字が刻まれた剣が出てきた。

 

 ……え?まってまって、お願いだからまって。

 

 『混沌』ってなに?知らないカードと知らない能力出てきたんだけど。

 

「能力に『混沌』を持つカードはデッキから白と黒のカードを1枚ずつ墓地に置くことでその効果を使用できます!これにより発動した《勝利のルーン》の効果!」

 

 は?え?まってよ、じゃあ白黒なら狙ったカードを墓地に落としながら効果を使えるってこと?しかも2枚しか落とさないからデッキ切れの心配も10回以上は使わないとないってことだよね?『燃焼』が裸足で逃げ出すレベルじゃない?

 

 俺がさっきあたかもプレスピならではの強カードみたいに紹介した《せっかちな葬儀屋》の面目丸つぶれなんだけど?

 

『本機の霊力により書き換えられたマスターだけの固有能力であることを確認……』

 

 了解。テュール、あとで怒るね。

 

 それで、《勝利のルーン》の効果は?1コストスペルだから優しくしてね。

 

「自分の場の《テュール》を《軍神・テュール》に『変形』させます!」

 

 『変形』とは?いや、これはおそらくカードそのものが変わるのか。これもマシロちゃんの固有能力だよね?

 

『これは本機が人間界に来る際に制作した固有能力であり、しかしそれに『混沌』をつけたのは……』

 

 OK、きみはあとでお説教する。きみひとりのために固有能力を作るなとね。

 

 

 ……っていうかやっぱりきみ神じゃんか!!!

 

「『変形』!《軍神・テュール》!!」

 

 テュールはいつもより分厚い装甲をまとい、左手に大きな剣を持つ形態に変化した。

 

「《軍神・テュール》は『突撃』を持っています!プレイヤーに攻撃!」

「戦闘力6なのに3ターン目に出てきて『突撃』持ちか……《せっかちな葬儀屋》で阻止」

「《軍神・テュール》は戦闘力に関わらずアニマとの戦闘に勝利します!そして1ターンに1度、インアクティブになったならアクティブに戻ります!改めてプレイヤーを攻撃!!」

 

 やばい、もうなんでもありだ。下手したら3ターン目に12点飛ばされるし、どれだけ強いアニマを並べても2体までなら潰される。

 

 

 【真常シンイチのライフ:20→14】

 

 

「ターン終了時に《軍神・テュール》は《テュール》に戻ります!《テュール》を手札に戻してターンエンドです!」

 

 あ、でも《光臨》の効果で手札に戻って行った。なるほど、『変形』は姿を変えただけで場を一度も離れてないから《光臨》で出たという情報は消えないのか。よかった……

 

 

後攻(シンイチ)3ターン目】

「ドロー、マナを増やして1コスト《地獄に咲いた蓮》を召喚。1コストスペル《魂の抽出》で《地獄に咲いた蓮》を『埋葬』してカードを2枚引き、《蓮》の効果で自身を墓地からマナゾーンに置く」

 

 これで俺もマナゾーンのカードは4枚、うーん……手札にもう1枚《蓮》があるし、《人身御供(ひとみごくう)》も今引けたから温存したいんだけど、もしもう一回《軍神・テュール》が出てきたら今後があまりにもきつい。仕方ないか……

 

「2枚目の《地獄に咲いた蓮》を召喚してターンエンド」

 

 

先攻(マシロ)4ターン目】

「ドロー!マナを増やして《神告の天使》を召喚!『召喚時』効果で自身をデッキに戻し、次のターンに白色を持つアニマをコストを払わずにデッキから召喚します!」

 

 ああこれ絶対《テュール》出てくる。どうせ知らない間に3枚に増えてるんでしょ?もう既存の常識でこのバトルを考えてあげないからね。

 

 でもこれで《蓮》が残った。ならこっちも少しくらい理不尽をしてやろう。

 

 

後攻(シンイチ)4ターン目】

「ドロー、マナを増やして《人身御供》発動。《地獄に咲いた蓮》を『埋葬』してこのカードをマナゾーンに置き、《蓮》も自身の効果でマナゾーンに置かれる」

 

 これでもうマナゾーンにカードが7枚、こっちもあたたまってきた。といってもこのターンは2マナを《人身御供》に使ったから5マナしか使えないけど。

 

「スペル《地獄からの召喚》を発動。自分の墓地のアニマ1体を『蘇生』し、黒色を持たないなら弱体化させる」

 

 さあいでよ理不尽の権化。

 

「《大嶽丸(おおたけまる)》を『蘇生』。ターンエンド」

 

 周囲を黒雲と雷鳴で彩り、鬼神(きじん)が現れた。

 

 

先攻(マシロ)5ターン目】

「ドロー!マナを増やして、前のターンに使用した《神告の天使》の効果でデッキから《テュール》を召喚します!」

 

 言わんこっちゃない。

 

「《祈願》を発動!カードを2枚引きます!」

 

 《祈願》には3回復もついてるけど、おまけというには強すぎるそれはマシロちゃんのライフが20だから意味はない。しかしそろそろ手札がなくなりそうだったのになあ。

 

 いや、手札がなくなってもこの手のプレイヤーは上からほしいカードを引きがちだから全然油断できないんだけどね。

 

「《闇の回収業者》を発動!墓地のカードを2枚手札に戻し、手札を1枚墓地に置きます!」

 

 あ、《勝利のルーン》戻された。あっぶな……

 

「《勝利のルーン》発動!『混沌』によりデッキから白と黒のカードを1枚ずつ墓地に置き、《テュール》を《軍神・テュール》に『変形』!プレイヤーを攻撃します!」

「《大嶽丸》で阻止」

 

 さあ、理不尽を見よ。

 

「《大嶽丸》の効果発動」

「なっ!?《大嶽丸》の効果の発動条件は攻撃かカードの効果の対象になった時ではないのですか!?」

「マシロちゃんマシロちゃん、カードのテキストと仕様はちゃんと読もうって前言ったよ」

 

 カードの効果を記号化して簡潔に覚えるのはたしかに大事なことだ。でもそれで細かいことを見落として、それが大きなミスを引き起こすことはある。

 

 …………例えば、『時』と『場合』、『する』と『できる』とかね。

 

「《大嶽丸》が()()()()()()()()()()()()()()()、それを受ける前に自身をデッキに戻すことができる。そしてこの効果を使用したターンの終了時に《大嶽丸》をデッキから召喚できる」

()()()()()()()()……?まさか!?」

「やっぱり察しはいいんだね。そういうところ好きだよ」

「好きだなんて……嬉しいです!!!」

 

 改めてこのゲーム(プレスピ)の仕様を振り返ると、阻止はこう書いてある。

 

 『相手のアニマの攻撃を自分の(攻撃対象になっていない)アニマに代わりに受けてもらう』

 

「まあ要するに、《大嶽丸》で相手の攻撃を阻止すると、効果の発動条件である『攻撃を受けること』に該当するんだ。というわけで、《大嶽丸》をデッキに戻して《黒雲トークン》を2体召喚」

「では、《軍神・テュール》でプレイヤーを2回攻撃します!」

「そしてそれを2体の《黒雲トークン》で阻止」

 

 これで《大嶽丸》を守れた。戦闘力9なのに相手の攻撃から守る必要があるあたり《軍神・テュール》がどうかしてる。

 

「ターン終了時に《軍神・テュール》は《テュール》に戻ります!ターンエンドです!」

「ターン終了時に《大嶽丸》を自身の効果で召喚。『召喚時』効果で相手のアニマ全ての戦闘力をマイナス3する」

 

 これもそんなに意味はないかなあ。

 

 

後攻(シンイチ)5ターン目】

「ドロー、マナは増やさない。2コストスペル《死神の手招き》発動。自分の場かデッキからアニマを1体『埋葬』し、場から『埋葬』したなら相手の場のアニマも1体選択して『埋葬』する」

 

 《死神の手招き》、単体では役に立たない代わりに墓地落としにも除去にもなる便利カードだ。まあ前回はポチにしてやられたけど。

 

「《十王(じゅうおう)()閻魔王(えんまおう)》をデッキから『埋葬』。そしてスペル《墓荒らしの罰》を発動」

 

 自分の墓地の黒のアニマを『蘇生』するカードだ。

 

 《地獄からの召喚》は黒以外も『蘇生』できる代わりに黒以外なら弱体化するという制約があるけど、こっちはそもそも黒しか『蘇生』できない。

 

 その代わり相手がこっちの墓地のカードを消そうとしたら1コストで『緊急詠唱』できて強化まで入る黒単色デッキの頼れるスペルだ。

 《墓荒らしの罰》のおかげで黒単色は墓地メタカードのリスクリターンの天秤を破壊して今日まで生きることができた。と、言ってもいいと思う。

 

 存在しているだけで相手に警戒させられるんだから、その影響力は計り知れない。そういうカードは古今東西どのカードゲームでも出てくるものだよね。

 それが当たり前になりすぎた某有名TCGでは大量展開を咎めるべく隕石が落ちるようになったんだけど、隕石を落とされてもなんとかなる展開ルートやデッキが作られるようになっちゃったし、隕石の採用率が落ちても『かもしれない展開』で未だに警戒され続けている。

 

「《十王の五・閻魔王》を『蘇生』。そして『召喚時』効果を発動」

 

 《閻魔王》がさも威厳ありそうに出てくると、俺を見て意外そうな顔をした。やぁ、久しぶり。

 

 まあ驚くよね、二年間使われなかったのに急にこんな頻度で呼び出されたら。

 

 でも少なくともこれを含めて三回は呼び出してるんだし、もう驚かなくてよくない?そんなに俺がきみを呼ぶのって珍しいことなのかな……いや、そうかも。

 

「まず相手の場のアニマ1体を選択して『埋葬』する。対象は《テュール》」

 

 できればもう出てこないでね。

 

「次にデッキか墓地から《浄玻璃鏡(じょうはりのかがみ)》を手札に加える。デッキから手札に」

 

 ありがとう側近の人。地味に言い切るまで待ってくれるんだよね。

 

「そして相手がこのターンか前のターンにアニマを墓地に置いているなら5ダメージ」

「……私、置きましたっけ?」

 

 なんでみんな覚えてないのさ。どうせやったでしょきみ。俺知ってるよ。

 

「裁判長」

 

 俺がそう言うと《閻魔王》は『えぇ?また?しょうがないなぁ……』みたいな顔をしながら《浄玻璃鏡》に映像を映す。あーほら、これやってるね。やっちゃってるよきみ。

 

 そこには《闇の回収業者》の効果で墓地の《光臨》と《勝利のルーン》を手札に戻し、代わりに手札から《テュール(アニマ)》を墓地に置いたマシロちゃんの姿が映っていた。

 

 どうせ後で《テュール》か《神告の天使》を引けるからって捨てちゃったんだね。《光臨》の方が使い道あるもんね。

 

「というわけで、有罪だね」

「不覚でした……」

 

 【黒川マシロのライフ:20→15】

 

「次からは《テュール》を手札に残して、《光臨》をあとから引きます」

 

 いや怖いこと言わないでよ。引ける前提なの怖いって。『今度は見つからないようにするよ』みたいなノリ怖いって。国民的ご長寿アニメのクセが強すぎてサイコパスって呼ばれてるキャラみたいになってるって。

 

「そ、そう……《大嶽丸(おおたけまる)》でプレイヤーを攻撃してターンエンド」

 

 【黒川マシロのライフ:15→6】

 

 そういえば『サイコパス』の発音って『メンチカツ』と同じなんだっけ?『サンタさん』みたいな発音をする人が多いからだんだんわからなくなってきている自分がいる。そもそもどっちでもいいのかな。

 

 

後攻(シンイチ)5ターン目終了時の状況】

・真常シンイチ

ライフ14/手札2/マナ7

場:《大嶽丸》(インアクティブ)

《十王の五・閻魔王》

備考:後攻のマナ追加の権利未使用

 

・黒川マシロ

ライフ6/手札2/マナ6

場:なし

 

 

先攻(マシロ)6ターン目】

 ターン開始の前、マシロちゃんは笑みを浮かべながら言った。

 

「さすがですね、シンイチ様。ここまでやってなお私が追い詰められています」

 

 まあ振り返ると結構な上振れムーブをされてるからね。2ターン目にマナを増やして、3ターン目に《軍神・テュール》で6点二回攻撃、4ターン目にまた《テュール》を出す準備をして、5ターン目にもう一度《軍神・テュール》で二回攻撃しつつ手札も整えてる。

 

 でも俺知ってるよ、こういうことを言う時はだいたいなんかすごいことをしてくる前兆だ。怖いなあ……

 

「私もシンイチ様の本気にお応えすべく、さらに進化いたします!!ドロー!マナは増やしません!黒のスペル《地獄からの召喚》を発動!墓地の《テュール》を『蘇生』!」

 

 《テュール》は白のアニマだ、弱体化が入るけど、間違いなくそんなことはどうでもいいのだろう。今引いたカードでなんかするんだろうなあ……

 

「1コストスペル《古き信仰》を発動!『混沌』によって《テュール》を『変形』させます!」

 

 デッキから白と黒のカードを1枚ずつ墓地に置いて、テュールが別の形になる。

 

「《司法神・テュール》!!」

 

 また一段と神々しさが増した。なるほど、黒の『蘇生』や回収で《テュール》を使い回して『変形』させていくのか。

 

「《司法神・テュール》に『変形』したなら、四つの効果が発動します!」

 

 いまなんて?よっつ?

 

「ライフを5回復!カードを4枚引く!相手のアニマを3体まで選択して『浄化』する!相手のアニマを2体まで選択して破壊する!」

 

 えぇ……

 

 これでマシロちゃんのライフは11、手札は5枚、俺の《閻魔王》と《大嶽丸》は墓地効果も使えなくなった上で破壊された。

 

 しかもあの4枚ドロー、ご都合主義的なドローを加味しなくても『混沌』で不要なカードをデッキから落としてるから質が高そうだなあ……このターンはもう使えるマナがないのが救いか……

 

「《司法神・テュール》も『突撃』を持っています!プレイヤーを攻撃!」

 

 多分ターン終了時に普通の《テュール》に戻るから絶対『突撃』は持ってるんだろうな。

 

 でも《地獄からの召喚》の弱体化効果が残ってるから、今の《司法神・テュール》の戦闘力は4だ。

 

 【真常シンイチのライフ:14→10】

 

「ターン終了時に《司法神》から普通の《テュール》に戻ります!ターンエンドです!」

 

 

後攻(シンイチ)6ターン目】

「ドロー、マナは増やさない」

 

 お、詰んだかと思ったけどなんとかなりそう。手札が2枚で1枚が《浄玻璃鏡》だから実質的には持ってた《恐怖の幻影》しか手札がなくて、『浄化』で詰むかと思ってたんだけど……これなら逆に理不尽な目にあわせてやれる。

 

「《恐怖の幻影》を召喚して、スペル《猿の手》を発動」

 

 なにかモチーフがあるのかややこしい効果なんだけど、よく考えると強い。

 

《猿の手》

2コスト(色指定:黒2)/スペル

自分の場のアニマ1体を選択する。そのアニマを破壊し、カードを2枚引く。その後、選択したアニマと同名のアニマ1体を自分の墓地から『蘇生』し、ターン終了時にそれを『埋葬』する。

 

 この状況でいうなら《恐怖の幻影》を破壊してカードを2枚引いて、そのあと《恐怖の幻影》をなぜか復活させてターン終了時に墓地に戻すわけだ。

 

 そうするとどうなる?こうなる。

 

「《恐怖の幻影》を破壊してカードを2枚引く。そして『蘇生』。一瞬とはいえ《恐怖の幻影》が墓地に置かれたから効果で《閻魔王》を『蘇生』」

 

 まずカードを2枚引いて《恐怖の幻影》の効果で《閻魔王》を出した上でなぜか《恐怖の幻影》がまだ場にいます。

 

「《閻魔王》の『召喚時』効果で《テュール》を『埋葬』して相手に5ダメージ」

 

 そして《閻魔王》の効果も発動します。『浄玻璃鏡』は1枚しか入れてないから持ってこないよ。

 

「ターン終了時に《猿の手》の効果で《恐怖の幻影》が『埋葬』される。《恐怖の幻影》の効果で墓地の《大嶽丸》を『蘇生』」

 

 さらにもう一度《恐怖の幻影》が墓地に置かれるから効果が発動して『蘇生』。でも5コスト以上のアニマを『蘇生』したなら自分のターン終了時に墓地に置かれる。しかし、しかしです。

 

「《恐怖の幻影》で5コスト以上のアニマを『蘇生』したなら自分のターン終了時に墓地に置かれる。《閻魔王》と《大嶽丸》が墓地に置かれて、《大嶽丸》の効果発動」

 

 これでさらに墓地効果が発動する理不尽連鎖である。これで黒単色の使い手少ないのってやっぱり精霊のせい?それともフィニッシャーの入手難易度が高いのかなあ。

 

 ただ、《閻魔王》の効果は1ターンに1度しか使えない。既に『召喚時』効果を使ってるからこの墓地効果は不発だ。

 

「《大嶽丸》が場から墓地に置かれたなら自身を『蘇生』する」

 

 《大嶽丸》の『召喚時』効果ももちろん発動するけど、これもマシロちゃんの場にアニマがいないから意味はない。

 

 そうそう、前に『大嶽丸がバトル中に複数回使えるのは召喚時の効果だけ』って言ったけど、この自己復活も一回しか使えない効果だ。

 

 でも、前に出た時はデッキに逃げる効果と『召喚時』効果のふたつしかないなんて言ってないから嘘はついてない。

 伏見さんは多分まだ知らないから、もしまたバトルするようなことがあったらその時は腹いせにこの効果で泣かせよう。『浄化』されてなければ。

 

 

後攻(シンイチ)6ターン目終了時の状況】

・真常シンイチ

ライフ10/手札3/マナ7

場:《大嶽丸》

備考:後攻のマナ追加の権利未使用

 

・黒川マシロ

ライフ6/手札5/マナ6

場:なし

 

 

先攻(マシロ)7ターン目】

「ああ、なんと素晴らしいのでしょう……!」

 

 急に褒めないで、怖い。

 

「《司法神》の形態を使ってもまだ届かない……!今まで私と戦っていた時は本気ではなかったことがよくわかります!!不肖(ふしょう)黒川マシロ、そんな貴方様(あなたさま)に応えるべく《テュール》だけでないことをお見せしましょう!!!」

 

 いや、上からたまたま《猿の手》引けただけだから。

 

「ドロー!マナを増やします!3コストスペル《光臨》を発動!手札から《テュール》を召喚します!」

 

 やっぱり《テュール》引いてくるよね。知ってたよ。

 

「1コストのオブジェクト《魔法の紐・グレイプニル》を発動!」

 

 また知らないカードだ……

 

「自分の場に《テュール》がいるなら、《隻腕の神・テュール》に『変形』させて《災いの魔狼・フェンリル》を『蘇生』します!」

 

 なるほど、さっきから知らないカードを墓地に置いてると思ったら……

 

 

 巨大な狼が現れて紐に足を縛られると同時、テュールの右腕を噛みちぎる。

 

 狼はそのまま場に置かれ、テュールも右腕をなくした状態で場に戻った。それ大丈夫?あとで腕戻るよね?

 

「さらにスペル《鉄の森・ヤルンヴィド》を発動!」

 

 知ってるカードが1枚もこない中、場面は森に移り変わった。

 

「《ヤルンヴィド》の効果で《フェンリル》が場にいるなら《(あざけ)る魔狼・スコル》と《憎しみの魔狼・ハティ》を墓地から手札に加え、そのコストを0にします!そのまま2体を召喚!」

 

 こいつらも『混沌』で落としていたカードだ。さっきまで《テュール》を黒のカードで使い回すデッキかと思っていたけど、こういう派生もしたのか……

 

 新しく出てくる二匹の狼、こいつらはなにをしてくるのかと思っていたら、狼の片方が《大嶽丸》を飲み込んでしまった。

 

 ……え?

 

「《憎しみの魔狼・ハティ》の『召喚時』効果!相手の黒のアニマ1体を選択して消失させます!」

 

 ……いやいやいや、場から直接消失はダメだって!

 

 《閻魔王》が消失させられてたら勝ち筋がなくなってた、《恐怖の幻影》の効果で墓地に置かれてて逆に助かった……

 

「ターン終了時に《光臨》の効果で《隻腕の神・テュール》は手札に戻り、《フェンリル》は戦闘力が2上がります!ターンエンドです!」

 

 あ、《隻腕の神》は普通の《テュール》に戻らないんだ……でもこれ、あれだな……

 

 

後攻(シンイチ)6ターン目終了時の状況】

・真常シンイチ

ライフ10/手札3/マナ7

場:なし

備考:後攻のマナ追加の権利未使用

 

・黒川マシロ

ライフ6/手札1/マナ7

場:《魔法の紐・グレイプニル》

《災いの魔狼・フェンリル》

《嘲る魔狼・スコル》

《憎しみの魔狼・ハティ》

 

 

後攻(シンイチ)7ターン目】

「ドロー、マナを増やす」

 

 序盤に《せっかちな葬儀屋》の面目丸つぶれって言ったけど、これで名誉挽回できるね。

 

「《せっかちな葬儀屋》を召喚。『召喚時』効果で《空亡(そらなき)》をデッキから墓地に置く。そして《地獄からの召喚》で『蘇生』」

 

 《閻魔王》の5ダメージでは足りず、『浄化』や2枚目の《ハティ》があれば詰んでた。かといって《死神の手招き》では頭数(あたまかず)が足りない。

 

 《せっかちな葬儀屋》じゃなかったらここで負けてたかもしれないね。

 

「《空亡(そらなき)》の『召喚時』効果発動。お互いの場のカードを全て破壊し、破壊したカードと同じ数のダメージを相手に与える」

 

 禍々しい太陽が昇る。

 

 俺の場には《せっかちな葬儀屋》と《空亡》の2枚が、マシロちゃんの場には《グレイプニル》《フェンリル》《スコル》《ハティ》の4枚があるから、これでカードは6枚。

 

 マシロちゃんは最後まで恍惚とした笑みを浮かべて、その結果を受け入れた。

 

「ああ……それでこそ、シンイチ様です……」

 

 禍々しい太陽が、全てを踏み潰した。

 

 【黒川マシロのライフ:6→0】

 

 

 

「……テュール、大丈夫?」

「あれはカードの効果による演出のため、今回は問題なし」

 

 見るとテュールはしっかり五体満足、《フェンリル》に食いちぎられたはずの右腕も戻っていた。

 

「それで、マシロちゃんは……」

 

 マシロちゃんの髪の色が少しずつ白くなっていく。どうやら戻っているらしい。

 

「……テュール、この状況どうしよっか?」

 

 バトルに集中してたけど、よく考えたら大人と子供が三人ずついる。もうこれテュールにまた無茶振りして記憶消しといてもらった方がいいんじゃないか?と思ったけど、そんなことしてもまた逆戻りしないかという懸念もある。

 

 そんなことを考えてたらマシロちゃんが涙を流しながら抱きついてきた。

 

「シンイチさん…私……私っ……!!」

「だいじょ、っぶ……」

 

 まって、まだ力強い。

 

 どうやら電気をつけたり消したりするようなイメージと違って、人格の変化ですぐに身体の状態が切り替わるわけではないらしい。

 まだ髪が半分以上黒のままだし、なにより力がすごくて身体が痛い、まってマシロちゃん、一回離して、やばい痛い本当にこれ以上はまずっ……あっ。

 

 身体から鳴ったらいけなさそうな音が聞こえると同時、俺は意識を手放した。

 

 

 

 結局、マシロちゃんに抱きつかれた俺は痛みで意識を失っていたらしい。しかも無駄に頑張った結果立ったまま気絶したようで、マシロちゃんが気づいたのはある程度落ち着いてからのことだったとか。

 

 テュール、肋骨がめちゃくちゃ痛いんだけど、多分折れてると思うんだ。霊力でなんとか入院せずになおせないかな?学校抜け出して女子小学生に抱きつかれて骨折して気絶ってどこにも説明できない。

 

「……順を追って対処を検討」

 

 ……ほんと頼んだよ、テュール。

 

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