プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
ずっと、悪い夢を見ていたような気がします。
今よりもっと幼いころから両親にあまり構ってもらえなかった私は、人と接するのが苦手でかけ算よりも先にテレビで敬語を覚えました。
家でも父が持っていたプレスピのカードを眺めるか、テレビを見るかくらいしかやることもなく、あまりわがままを言っては親に迷惑だろうと大人しくするようにしていた私の気づかいは、むしろ親に都合のいい子だと思わせる原因だったのかもしれません。
そして、そんな私がいじめの対象になるのも、あたり前だったのかもしれません。
クラスの気の強い女の子を中心にした三人組に、私はいつの間にかいじめられていました。
先生に見つからないようにこっそりと、そのぶん見つからない時は激しく色んなことをされましたが、思い出すのも嫌なのでどんなことをされたのかは振り返りません。
気づけば私の真っ黒だった髪の色は落ちてきていて、だんだんと白くなっていきました。
そしてふたつだけ言えるのは、それでもカードだけはと自分のデッキはいじめっ子の手から守ったことと、両親が『私が問題を起こしているわけではないから』と私を放置したことでした。
私は、父から『誰か』と遊ぶ時に使うだろうともらったデッキの、綺麗な白のカードだけを心の支えにして生きていました。一緒に遊ぶ『誰か』なんていないのに、父は私が『誰か』と遊ぶ時のことを考えて、カードと違って綺麗じゃない白に染まる私の髪には触れませんでした。
そんなある日、ついに悪いことをしなきゃいけない時が来てしまいました。
いじめっ子にバトルで負けて、プレスピのパックを盗んでくるように命令されました。
私は拒否しきれず、いじめっ子に指示された通りに人が少ないコンビニの、さらに人が少ない夜に入りました。
それでも決心がつかず、お店の中で本当に言われた通りにするべきか迷っていました。
あとで振り返ると、本当は誰かに見つけて止めてほしかったんだと思います。
そこで私は、私の人生を大きく変える人と会いました。
コンビニで仕事をしていた店員のお兄さん、
シンイチさんは私を見つけて、私とテュールを会わせてくれました。
なにより、シンイチさんは『こうした方がいい』とか『大人に相談しよう』みたいなことを言いませんでした。
シンイチさんはただ『耐える苦痛より進む苦痛を選んでほしい』と言ってくれました。
それを聞いた瞬間、まるで今までが悪い夢の中で、そこから目が覚めたような思いでした。
悪い夢でも、いい夢でもない、現実に戻ってきたかのような心地でした。
私は心のどこかで『誰かに救われたい』『誰かに助けてほしい』と思っていたことに気がつきました。でもそれじゃダメで、それだと自分自身はただ助けられただけで、変わってないんだということにも気がつきました。
なにかを変えるためには、自分が変わらなきゃいけないんだって。
それからはシンイチさんと修行の日々でした。
修行がはじまったばかりのころ、シンイチさん自身が『もう使ってないからいいよ』と言ってはいるもののプレスピの本やカードをもらうのはやはり申し訳ないと遠慮する私に、シンイチさんは言いました。
「マシロちゃん、余計な遠慮はかえって俺を困らせるだけだし、そもそも頼られる側のひとがいいって言ってるのに遠慮するなら最初から頼るのが違うよね。だから……そう、マシロちゃんがするべきことは本来親にするべきことと同じだ。たくさん頼って、たくさん困らせて、たくさん成長するんだ」
私はまた泣きました。
「ああごめんて、泣かないで」
違うんです。怖いとか悲しいとか、そういう涙じゃないんです。
私はシンイチさんにはなるべく遠慮しないようにすると決めました。
テュールがこっそりいじめの被害を和らげてくれている間に、私はシンイチさんと修行して力をつけていきました。
修行だけじゃなくて、少しずつ遠慮しないことにも慣れてきて、シンイチさんと伏見さんがバトルするために私との時間を削った時にかわりに撫でてもらってからは一緒に遊んでもらったり、撫でてもらったりするようになりました。
そうしてたいへんでも幸せでもあった修行の日々を
「あんた最近調子乗ってるのよ!なんかやりづらいし!」
やりづらいのはテュールが対策のひとつでこっそり圧を出してくれているからだし、私自身もシンイチさんのおかげで楽しい時間ができてめげなくなったから当然です。
「また倒して調子乗れなくしてやるわ!バトル!」
結局、私が勝ちました。当然です。
「もう私に関わらないでください」
「何よ……!グズのマシロのくせに……!」
「自分が負けた時は言うことを聞かないんですか?」
私が隠れているテュールから霊力を少し借りて圧を強めに出して言うと、いじめっ子たちは腰を抜かして涙目で震えていました。
そしてその瞬間、たまたまジョギングをしていた学校の先生が通りかかりました。
「何をしているんだ!?」
この先生はたしか非常勤って聞いたので、多分今日は休みだったんだと思います。
先生は無駄に正義感が強く、事情を聞き出すと学校に連絡してみんなの両親に連絡しました。
最終的に家にいた私の母と、職場が近かった父がお昼休みの時間にやってきて、話に割り込みました。
◆
「たしかに人数差や学校で聞いたことのある目撃証言を考えると三人がいじめる側だったのはわかる」
先生が事情を聞くと、三人のいじめっ子を叱って私に謝らせてきました。
そしてこう言いました。
「ただ黒川ちゃん、これはやりすぎだろう。三人とも腰を抜かしていたじゃないか」
やりすぎ?相手の方が明らかにやりすぎじゃないですか。
私を見つけたのがシンイチさんじゃなかったら私は本当に捕まっていたかもしれないのに、なぜこいつらが
まだこいつらは悪行を咎められただけだ。それに私は謝られたところで許す気もないし、そもそもこいつらは罰のひとつも受けていない。なんなら大して反省もしていないだろう。
先生に続くように両親が言う。
「マシロ、許してあげなさい。三人も謝っているのよ」
許してやれ?
「マシロ、社会に出たらもっと辛いことに耐えなきゃいけなくなるんだ。それに
それがなんだというのだ?そんな仮定が今自分の首を絞める苦痛に耐える理由になるのか?
ことなかれ主義の両親らしい言い分だ。反吐が出る。
今ならわかる。いじめられる側に罪はなくても原因はある。
皮肉なものだ。私の弱さが、無駄な我慢が奴らを助長させたのだ。
そしてシンイチさんの言った通りだ。学校は『教育機関』を名乗っておきながら『いじめられない方法』を教えないし、『いじめられない人間になる教育』なんてしない。
ただ『いじめは悪いことだからする方が悪い』で済ませる。
それがまかり通るのは教員といういじめを咎められる存在が常にいるからだ。
父親が社会がどうこう言っていたが、私からしたらそういう場当たり的な対応しかしないから社会が歪んでいるように見える。
だから社会に出て、自分を上から咎める者が減ったら好き勝手に人を苛む人間が増えるんだろう。
それを棚に上げて『社会に出たらもっと辛いことに耐えなきゃいけない』などと笑わせる。
だが、もうそんなことはどうでもいい。
私は抗う意思と力を手に入れた。進む苦痛を選ぶ覚悟を決めた。
私が信じるのは精霊のテュールを除けば
優しさだけでなく、人としてプレイヤーとして、薄っぺらい優しさよりも大事なことを伝えるために厳しくもできる
そしてそれは
あの御方はそこまで見据えて、覚悟して指導をしてくださる。
そんなシンイチ様しか、私は信じない。
「クフッ……フフフ……アハハハハハハハハハハ!!!!!!」
『教師』を名乗る、優しさを勘違いした無能の
脆いものだ。最初からこうすればよかったのだ。
「マシロ!?なんてことを…がっ」
「急にどうしたの…ぐっ」
「なにか言ったか?」
『親』を名乗る、責任感が欠如した化け物の首をそれぞれ片手で締め上げて宙に浮かせる。
「非常事態につき、マスターに強引に干渉することを謝罪」
そう言うとテュールが身体に入り込み、主導権を乗っ取ろうとしてきた。私の
「邪魔をするな!!!」
「想定外……!」
テュールを身体から
いまの私ならなんでもできる。そうだ、髪の色を黒に戻そう。シンイチ様と同じ、私の本来の髪の色に。
前髪も長くて邪魔だが、切るならシンイチ様の好みの髪型をお聞きしてからにしたい。とりあえず霊力で目元のあたりだけ前髪に隙間を作るようにして固定しておく。これで視界もよくなった。
カードも赤のものを黒に変えてしまおう。シンイチ様の戦い方にならい、墓地落としと『蘇生』を混ぜつつより強いカードへ。
そうしていると
殺しはしない。さあ、苦しめ!私が苦しんだぶんだけ!!
「アハハハハハハハハ!!!!!」
◆
それから駆けつけたシンイチさんとのバトルで負けてもうひとりの私が引っ込んで、戻ってきた私が色んな気持ちでぐちゃぐちゃになったまま抱きついて泣いていたのですが、しばらくしてシンイチさんが動かなくなっていることに気がつきました。
「……シンイチさん?」
も、もしかして死……
「シンイチさん!!シンイチさん!!!」
「気絶しているだけであることを確認。
テュールが気絶しただけだと教えてくれました。よ、よかった……