プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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31話『対戦環境に触れずに生活環境が変わる意☆味☆不☆明なカードゲーム世界はこちらです』

 

 

「さて、どうしたものか……」

 

 寒さも深まってきた時節、いかがお過ごしでしょうか。

 

 俺はいま、公園で意識を取り戻してすぐにテュールと一緒に事後処理をどうするか考えています。

 

 

 いままでにないくらい肋骨が痛いけど、ひとまずこの場をどうするか考えないと……

 

「とりあえず、現状を教えて……」

「貴官の判断を仰ぐべく、現場に居合わせた六名を気絶させ、人払いを実行中。六名の記憶は未消去」

「なるほど……」

 

 ここでこの六人……話を聞くにマシロちゃんの親御さんと先生、そしていじめっ子三人の記憶を消すだけなら簡単だ。でもそうしたらまた同じようなことを繰り返すだけなんじゃないかと思ってしまう。

 

 別にまたプレスピで倒して今度はちゃんと先生やいじめっ子側の親御さんに言えばいいんじゃないかというのは否定しないんだけど、それでまた二つ目の人格が出てくる恐れがあるようじゃ意味がないとも思う。

 

 いまはなんの弾みで出てくるかわからない……いや、条件はわかるけどラインが掴みきれない二つ目の人格がまた暴れないようにしたいという気持ちはある。もし次があったら結局その場に俺はいないだろうし、また間に合うかもわからない。

 

 それに、感覚的にほぼ確実に犠牲になったであろう俺の肋骨だって無限じゃないんだ、正直勘弁してほしい……というか、そもそもなんで俺が本来関係ないことでここまで悩まなきゃいけないんだ。まさに骨折り損のくたびれもうけってやつだ。物理的に。

 

 ……あ、学校どうしよう。いやもう後でいいや。

 

 とりあえずいま一番重要なのは……

 

「マシロちゃん、は……どう、したい……?」

 

 マシロちゃんの意思だよね。

 

「えっと……」

 

 まだ目に涙を浮かべているマシロちゃん。正直俺も泣きたいけど、ここは我慢して話を進める。

 

「ちなみに、テュールって……記憶の部分、消去って、できる?時間単位、じゃなくて、この件だけを……忘れるみたいな……」

「現状は不可。機能追加には本機の霊力が心もとないため、少なくとも六名の部分消去は困難」

 

 だよねぇ……

 

 それにそこまでするなら精神衛生的にマシロちゃんの記憶も消してあげた方がよくなる。そしたら対象が七人になるし、そもそも今のマシロちゃんにそういうのが効くのかもわからない。

 二つ目の人格がテュールを(はじ)いたんだから、最悪の場合二つ目の人格だけ記憶が残って暴れ出すなんてことも考慮しないといけない。

 

 理想を言うならマシロちゃんを含めた全員に二つ目の人格の凶行だけを忘れさせて、いじめについても一応先生に咎められた記憶を残した上で終わりにしたいんだけど……

 

 そんなことを考えていたら、テュールが俺の肋骨のあたりに両手を添えた。

 

「……せめてもの処置を」

 

 テュールがそう言うと、少し痛みが和らいで喋りやすくなった。

 

「ありがとう……」

 

 痛みで全然思考がまとまってなかった気がするから、改めて考えよう。

 

 まずいじめっ子のくだりについてはそもそもマシロちゃんは悪くないから最悪放っておいてもいい。あとで面倒なことにならないようにするなら先生の記憶だけ消すのもありだ。

 そうしたら学校の中だけで考えると、証言の信ぴょう性が落ちる小学生しかマシロちゃんの凶行を証言できる人がいなくなる。

 

 いやそもそも女子小学生に殴られて気絶なんてありえないことを先生が言い出したって通るわけがない。どこぞの二重人格の帝王の隠れ(みの)みたいに、いまのマシロちゃんは到底そんなことやりそうにもできそうにもない大人しい子だ。学校の方は最悪もう放置で構わない。

 

 要するに、そもそもマシロちゃんは被害者だったんだから学校の方は誤魔化しがきく。だから一番の問題は親御さんの方。

 

 豹変した自分の娘に首を絞められて半殺しにされたなんて状況から、果たして家族として共同生活を続けられるだろうか?

 親御さんの記憶を消して元通りなら話は早いが、そうなると親子の中で今回のことを唯一覚えているマシロちゃんは親に対して罪悪感も失望もあるだろう。マシロちゃんのメンタルも心配だから、できれば忘れさせてあげたい。

 

 いまできそうな範囲でことをおさめるなら、両親の記憶を消していじめっ子の記憶は残す、それによっていじめをなくした上で戻ること。先生の記憶は余裕があればでいい。と、思う。

 そしてできればマシロちゃんの記憶も消してあげた方がいい、なにかあったらまたテュールと俺でなんとかしよう。

 

「テュール、時間単位での記憶消去なら何人ぶんいける──」

「シンイチさん」

 

 マシロちゃんが話を遮った。そして俺はそれを遮る。

 

「マシロちゃん、きみは今なら二つ目の人格のことを忘れて、いじめがなくなった状態でもとに戻れるかもしれないんだ」

 

 顔を見たらわかる。いま俺が言ったことを、マシロちゃんは望んでないって。それでも、それでもだ。

 

「これは俺のエゴで、わがままだ。でも、きみはいまより大きな苦しみを味わうことなく引き返せる。だから背負わないでほしい、俺に『マシロちゃんに背負わせた』ということを背負わせないでほしいんだ」

 

 無粋(ぶすい)なことを言っている自覚はある。それでも、まだ幼いマシロちゃんには今回の件を忘れてほしい。罪の意識や親への大きな失望を背負ってほしくない。

 それを背負ってしまえば、今後の人生は俺と大差ないと思う。マシロちゃんには、俺みたいになってほしくないんだ。

 

「シンイチさん、私、覚えた上で生きます。もうひとりの私がいつまた出てきてなにをするかわからないですし、記憶消去ももうひとりの私にどう作用するかわからないので、この記憶を持ったまま生きて、制御できる状態にしたほうがいいと思います。もう過ちを繰り返さないためにも」

「その時はまた止める、テュールが呼んでくれればいつだって──」

「これは私のわがままです。でも、シンイチさんにこれ以上無理をさせたくないんです。それに、シンイチさんが本気でもうひとりの私を止めてくれたこと、忘れたくないですから」

 

 こうなったらやむを得ない、テュールに念を送ってテレパシーのように会話を試みることにした。そういえば意識してやるのははじめてだけど、よく考えたらさっきのバトル開始時とか普通に念話してたし全然できた。近くにいるからかな。

 

 …………テュール、残酷なことを頼むのは承知の上だ、なんとかマシロちゃんに俺の存在ごとこの件を忘れさせることってできない?

 

『……不可能。それだけの長期間の記憶消去はできず、仮に可能であったとしても影響が未知数のため実行は困難』

 

 そっかぁ…………

 

「大丈夫です、なんとかしますから」

 

 俺の沈黙を心配や悩みと受け取ったのか、マシロちゃんは微笑みながら続けた。

 

「それに、これは私のせいでもあります。もうひとりの私を作り出して、不満や悪い気持ちを押し付けていたのは私ですから。その責任から私だけ忘れて逃げるなんてできません」

「……はぁ……だれに似たんだか」

 

 そんなことは言うまでもない。マシロちゃんもわかっているのか苦笑しただけだ。

 

「なら折衷案(せっちゅうあん)だ、ここからの流れによっては人に頼ろう」

 

 

 

 

 

「やぁ、伏見さん。家広いね、一人預かってもらえない?」

「お、お邪魔します……」

「貴官に協力を要請」

「……せ、説明をして?????」

 

 

 あれからの流れはこうだ。

 

 俺の理想としてはマシロちゃん・親御さん・先生のその日の記憶を消していじめっ子だけの記憶を残し、いじめられなくした上でマシロちゃんに罪の意識や親への失望、二つ目の人格について忘れてもらって元の生活に戻ってもらうことだった。

 

 でもマシロちゃんがそれを拒否したから、プランを変更することにした。

 

 まずマシロちゃんの親御さんが起きるのを待って意思の確認。これでもしかしたらいままでの行いをかえりみて心を入れ替えたりしてくれないかなあと思っていたんだけど、すっかりマシロちゃんに怯えて話にならなくなってしまったので帰らせた。

 

 記憶は消さなかったよ。マシロちゃんと消してあげるか相談はしたけど、テュールの霊力も心もとないから無駄遣いは避けたかったし、なにより俺の私情だけどその方がいい気味だからね。この親御さんのせいで俺に余計な負荷がかかって肋骨も折れたんだから、これくらいは許してほしい。

 

 小学校については先生といじめっ子から変な噂が広まったみたいで、子供というのは信ぴょう性のないゲームの裏ワザを信じて得意げに話しまくる生き物でもあるからテュールに無茶振りをして父親に取り憑いてもらって転校の手続きをした。

 

 マシロちゃんを悪者にして責めるのは無理があるから大丈夫だと判断したんだけど、噂として広まるのは想定してなかった。だからこれはミスだと言える。まあ噂なんてそのうち風化するだろうけど、マシロちゃんがあの学校にいる限り完全にはなくならないだろうからね。

 

 で、そうなるともう親御さんとの共生は厳しいわけで、今後マシロちゃんをどうするかが問題になるわけだけど、一人暮らしをしていて連絡先を知っていて暇そうな人に心当たりがあったから頼ることにした。

 

「も、もしもし?」

「もしもし伏見さん?ちょっときみの(いえ)行っていい?」

「え…えっ!?い、いっいい家に!?」

「ほら、伏見さん前に大学デビューで一人暮らしはじめたって言ってたよね?だからちょうどいいかなって」

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?!?」

 

 電波悪いのかな?それとも向こうにだけとんでもない強風が吹いているのか、なんかノイズみたいなうるさい音聞こえたけど……まあいいや。

 

「いいかな?」

「……ど、どうぞ。あ、あの、ちょっと準備するから時間をくれないかな?」

「わかった、メッセージで時間と住所送っといて」

「……は、はい」

 

 

 

 ……と、いうわけで伏見さんの大学デビューで一人暮らしをはじめたにしては広いお(うち)にお邪魔しています。ほら使ってなさそうな部屋とかあるよね、そんなわけで女子小学生のお届けものです。

 

「あ、その部屋は……」

「その部屋は?」

「……」

「……」

「あのさ、伏見さん。もしかしてだけどさ……」

「い、いや待って!?あの、その……」

「……ごめん、俺の想像と違ったらテュールに記憶消してもらって忘れるから見させてもらうね」

「まってぇ!?!?」

 

 あまりにも挙動不審に目を泳がせた伏見さん、そしてそのかつての姿(黒ローブ仮面さん)に嫌な予感がしてしまった俺は、必死に止める伏見さんにそう言って勝手に扉を開けた。

 

 あー…………

 

「あー……」

「あっ……」

「……」

「ウゥ…ワ……」

 

 伏見さん、泣きたいのはこっちだよ。

 

 その部屋の壁の一面、そこにはどこで撮ったのか知らないけど想像はつく俺の写真が貼られていた。

 

 これには俺とマシロちゃんは察した声を出すだけで、テュールにいたってはなにも言わなくなってしまった。

 

 よく見たら俺の現役時代の写真も少し混ざってるけど、懐かしさに浸るような状況ではない。

 

 俺人選ミスったかな……

 

 

 

 ……そんなわけで、どうやら実家がいいところだから家が広かったらしい伏見さんにマシロちゃんを預かってもらえることになった。マシロちゃんは代わりに家事をやってあげるらしい。

 伏見さんの精霊さんのポチも喜んでいたし、これでひとまず大丈夫だろう。

 

 写真?あぁ、うん……なんというか、交換条件ってやつだよね……

 

 とかいいつつ、実際のところ伏見さんは『昔助けてもらったから』という理由で承諾してくれたんだけどね。写真関係なく。

 

 ただ写真はなんかもう……触れたくなかったから……

 

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