プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

36 / 66
32話『カードゲーム世界の技術、だいたい1社で担いがち』

 

 

 あれからもテュールにはマシロちゃんの父親に定期的に取り憑いてもらって、必要な手続きやマシロちゃんの生活費の振込なんかをさせている。

 

 仕方ないよね、これは親御さんがマシロちゃんから逃げた結果なんだから。最初からちゃんと向き合ってあげていればこんなことにはならなかった。

 それにいくら伏見さんの実家が大きくて本人も大学生とプロを兼任して稼いでいるといっても、そういうのを負担させるわけにはいかないからね。

 

 マシロちゃんも罪の意識や責任から逃げないと決めたとはいえ、当の両親が完全に対話を拒否しちゃってるからむしろ関わらないほうが両親にとっていいと判断したらしい。

 

 

 さて、今日は休日。

 

 テュールの霊力の消費が最近激しいのもあるし、そもそも一応の目的は達したから俺が無理にプレスピをやる必要もないということでマシロちゃんとの修行はしばらくお休み、再開の見込みはないからお休みと言っていいのかはわからないけど。

 

 それでもたまには会いたいみたいだから修行のかわりに伏見さんの(いえ)にお邪魔して、いまは別室で上を脱いでテュールに肋骨の治療を進めてもらっている。ここに来たのはそれが目的でもあるし、まだ普通に痛いからリビングにいるらしいマシロちゃんに会うより先に治療をさせてもらうことにした。

 ……伏見さんの家だからか、隠しカメラとかないかちょっと気になってしまったんだけど、それはあまりに失礼というものだろう。

 

 ……いや、そうでもないか。

 

 とりあえずいまはテュールと話をしながら治療中だ。

 

「あれから貴官の学校の方は……」

「あー、テュールに飛んで戻ってもらったからギリギリ誤魔化せたよ。そのぶんめちゃくちゃ先生に心配されたけど」

 

 バトルして骨折して気絶して……と色々あっても、正直時間としては一時間経ったかどうかくらいだ。なんとか誤魔化せるギリギリのラインだったと思う。

 

 でも骨折した影響でめちゃくちゃ具合悪そうに見えたらしく、無事誤魔化すことには成功した。

 

 あの倫理の先生は普通にいい人だから普通に心配してくれて少し良心が痛んだけど、さすがに仕方ない。

 

 あの先生、寝てる人も『ほら、もう少し頑張ろう』くらいのノリで起こしてるからね。まあ寝てる生徒を起こさない先生も少なくないから生徒全体からの評判はともかく、俺はいい人だと思う。

 

 せっかく状況が落ち着いてきたんだし、この前の件についてテュールに色々聞いてみようかな。

 

「ところで、なんでこの前マシロちゃんを力づくで気絶させなかったの?」

「穏便に済ませるべく先に内部に介入した結果失敗。その影響により、力づくで止める場合はマスターに大きな外傷を与える必要が発生。また、力による解決は人格が戻る確証がなく……」

「そっか……」

 

 それはしょうがないや。

 

「あとテュールに俺の高校って教えてなかったと思うんだけど、なんでこの前わかったの?」

「貴官は他の人間と違うなにかを持っているため、本機がそれを全力で探知したことで位置情報を確認。それを頼りに救援要請に向かいました」

 

 へえ、俺が精霊や霊力みたいな『そうはならんやろ』って思ってたものを違和感として感じ取れるのと似たようなものか。でもいつもの公園から俺が通う高校までは徒歩で一時間はかかる、それだけ離れた場所にいる俺を探知するあたりはデタラメな範囲だ。

 

 というかこの前の言い方からしてマシロちゃんの人格の乖離や二つ目の人格が凶暴であることを感知してたわけで、そうなると範囲だけじゃなくて精度もとんでもないな。俺は範囲も精度もテュールほどじゃないからなあ。

 

 ……もしかして、テュールって最初からマシロちゃんの二つ目の人格をなんとかするために来たのかな?いやそんなわけないか?

 

 神であるテュールがわざわざマシロちゃんを止めるために来たんだとしたら、それこそマシロちゃんが進む道によっては世界が滅んでいた恐れすらあったってことだ。

 いくらなんでもそんなことは……でもテュールを(はじ)いて霊力の一部を奪ってるしなあ……下準備なしとはいえ、神を弾くなんてことが普通の人間にできるとは思えない。

 

「本日の治療は終了、これ以上は貴官への身体の負荷を考慮し自然治癒に任せ、日を改めての治療を予定」

「ありがとねテュール」

 

 これで今日のぶんの治療は終わりだけど、テュールが少し不思議そうにしていたから聞いてみた。

 

「どうかした?」

「貴官に怪我がなおりにくい体質などは?」

「え、ないと思うけど。強いて言うならストレスが多いからか不調がなおりにくいくらい」

「単純なストレスでは説明がつかない現象が発生。本機の霊力による治療が可能ではあるものの、その効力が計算より低いことを観測」

「そうなの?」

 

 なにそれしらない……こわ……って一瞬思ったけど、少し広い枠組みで考えたら『霊力で身体になにかしても思ったより効き目が薄い』ってことで、そう考えたら似たようなことあったかも。

 

「……理由をふたつ推測、ひとつは本機の介入を(はじ)いたマスターの二つ目の人格のように負の感情を多く持つこと。もうひとつは貴官の他の人間と違う部分にあると考察」

「うーん……多分そうなんじゃないかな、それ以外に説明がつかないし」

 

 なんなら心当たりもあるし、その心当たりの通りなら本当に大した理由じゃない。

 

 

 

「やぁ、マシロちゃん…なにその状況」

「シンイチさん!こんにちは!」

 

 まだ痛む肋骨を優先させてもらっていたわけだけど、処置が終わってからようやくリビングに入ったらマシロちゃんが伏見さんに撫で回されてポチにもじゃれつかれていた。

 

「ああ、ちょっとマシロちゃんを可愛がっててね」

 

 伏見さんはどうやらすっかりマシロちゃんのけなげさにやられたらしい。愛犬を撫でるかのごとくよしよししている。そして伏見さんの愛犬のはずの精霊さん、ポチもマシロちゃんに撫でられて嬉しそうにしている。

 

 マシロちゃんも嬉しそうだし、最初は人選ミスかと思ったけどやっぱりよかったらしい。

 

 

 マシロちゃんがいれてくれた温かいほうじ茶を飲みながら一息つく。よく考えたら休日は休日で家に頻繁にいる母を避けるために外で暇を潰してることが多いから、こうやってくつろいだのは結構久しぶりかもしれない。

 

 感覚的にも最近色々あったからかなり時間が経ったように感じてはいるし。なんかまとまった休みでもほしい気分だ。

 冬休みまではそう遠くないけど、結局バイトはあるから休みなんてものはそんなにないんだけどね。

 

 なんかそんなこと考えてたらゆっくりしたくなってきたし、ひとまず今日は日が落ちるまで伏見さんの家でくつろがせてもらおうかな……

 

 マシロちゃんも嬉しそうだし……と、思っていたら急に暗い顔になっておずおずと聞いてきた。

 

「あの…身体は大丈夫ですか……?」

 

 ああ、そういうことね。そういえばマシロちゃんに肋骨折られたんだった。今更だけど色々あったからなあ……俺が起きてからもすぐ事後処理の話をはじめちゃったからタイミングを逃したんだろうな。

 

 タイミングを逃す……?うっ、頭が……

 

「……大丈夫、見てのとおり問題ないよ」

「本当にごめんなさい……」

「気にしないで、事故みたいなものだから」

 

 いま間があいたのは急に関係ないことを思い出しただけだから。理屈はわかるけどタイミングを逃すって概念はなんなのさ本当に、なんでそういう仕様にしたんだろう。

 

 

 

 さすがにそろそろ帰るかということで伏見さんの家をあとにして夜道を歩いていたら、寒さに備えて少しあたたかそうな格好をした地雷系が歩いてきた。

 

「奇遇ね」

「やぁ、なにしてたのさこんな時間まで」

 

 なんの気なしに問いかけてみたら、黒崎さんは少し考えてから答えを返した。

 

「詳しくは機密らしいから言えないけど、テストプレイを依頼されてるのよ。……なんかこれ前言った気がするけど、気のせいかしら」

 

 言ってたっけ?少なくとも聞いた覚えはない。

 

「じゃあ多分気のせいね。それにしても、大会で長丁場に慣れてるとはいえ、ここ最近ずっとデバイスのテストプレイのためにバトルしっぱなしだからさすがに疲れちゃうわね」

 

 ああ、デバイスのテストプレイだったんだ。そりゃそうか。このゲーム(プレスピ)めったに新カード出ないし。

 

 黒崎さんは機密だからとぼかしたけど、そもそもプレスピのデバイスなんてアースガルズ社しか作ってない。デッキケースひとつでバトルの邪魔をされないように壁を作ったり、空中にカードを置いたりとなんでもありの謎技術を発揮している会社だ。

 

 ……それにしても壁があんなに硬いとは思わなかったけど、あれはそもそも普段展開されるものより大きかったし、多分マシロちゃんの二つ目の人格が霊力で強化してたんだろう。

 

「で、そういうアナタはまた外で暇をつぶしてたのかしら」

「そうだね」

「もう結構寒くなったからなるべく屋内で暇をつぶしなさいよ?言われるまでもないでしょうけど」

「大丈夫、今日は伏見さんの家にいたから」

「は?」

 

 え?なに?急にこわいんだけど。

 

「……なんでメイカの家なんて行ってたの?」

「色々やむにやまれぬ理由があってね」

 

 マシロちゃんについてわざわざ人に話す気はないから素直に『内容は言えないよ』という意味の答えを返すと、黒崎さんはジト目で睨みつけてきた。

 

「ふーん、そう……」

 

 なんか不満そうだけど、引き下がってくれるならいいや。と、思ってたら黒崎さんがぼそっとつぶやいた。

 

「今度酔い潰す……」

 

 あ、ごめん伏見さん。多分そのうち黒崎さんに飲みに連れて行かれると思うけど逃げていいからね。

 

「一気飲みと救急車案件はやめてね」

「あら、声に出てたのね。大丈夫よ、それくらいは弁えてるわ」

「気をつけてね本当に。じゃ、あんまり外で話し込んでも寒いから俺はこれで」

「ええ、ちなみにアタシの家に来てもいいからね?」

「やむにやまれぬ事情があればね」

 

 遠回しに見せかけてストレートに断り、再び帰路に着く。正直マシロちゃんとテュールがいないから行く理由ないし、なんならこのまえ連れ込まれて無駄に肝を冷やしたからもういいかな……

 

 

 それにしても、あの会社今度は某有名TCGのアニメみたいに腕につけるタイプのデバイスでも作る気なのかな?もし販売されても普通につけたくないんだけど……

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。