プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
普段通りに外で暇を潰していた休日、そろそろ帰るかと思って帰路に着く俺の前に立ち塞がる影がひとつ。
「そのカードを寄越せ、さもなくば──」
「なにやってるの伏見さん」
また殺し屋かと思ったら伏見さんだった。
「……前と違う格好とセリフにしたのに、なんでわかったの?」
「違和感」
さすがに目の前にいたら違和感で伏見さんだとわかる。
あと、そもそも夜道の黒づくめに違いもなにもないから。だいたい同じだから。
「で、なにやってるのさ」
「……いや、君って全然プレスピをやらないじゃない?だからどこかでやってるのか気になってしまったんだけど、マシロちゃんに聞いても彼女との修行以外でやってるのを見たことがないと言うんだ」
うんうん、それで?
「それで今日は休みだから、君をこっそり探し出して観察しても本当に一度もやってないんだ」
まず初動からストーカーだね。本当になにやってんの?
「で、それがどうして過ちを繰り返すことに繋がったの?」
「その、僕が殺し屋だと思われてたころはたくさんバトルできてたなって思って……」
「……それでまたバトルしたくなって前回と違う殺し屋のふりをしてやってきた、と」
「……はい」
「前回俺が精霊さんの霊力にも言及したから、わざわざポチをマシロちゃんに預けて」
「……はい」
俺は携帯端末を取り出した。
「いや無言で通報しようとしないで!?というか謝るからやめて!?」
「はあ……二度としないでね、次は本当に通報するから」
マシロちゃんを預ける人、やっぱり間違えたかなぁ……?
別の日。
「伏見さん、俺言ったよね?『次は本当に通報する』って」
「まって、せめて話を聞いて……」
「……きみ、人間でよかったね。精霊だったら念入りに破いてたよ」
「ひっ……」
「それで、簡潔に理由を説明してね」
「…………」
なんか説明をためらってるな、まあ不審者やってる理由なんてそりゃ言いづらいに決まってるか。別にいいよ、説明しないなら……
「ああ説明するから!するから通報はやめて!」
「……説明が終わるまでに5秒続けて沈黙した瞬間に通報するね。俺は疑問点やツッコまざるを得ない点がない限り黙って説明を聞くから。というわけでどうぞ」
「……前に『君は僕の憧れだ』って言ったよね?それで、久しぶりに
5…4…
「その……気づいてしまったんだ」
リセットされたか、もう少しで通報できたのに。
「上手く説明できないけど、僕が憧れたのは君のバトルだけじゃない、君自身なんだ。だから隠れて君のことを見てるのって……その…なんかちょっと……楽しくて……」
……これ5秒とか待たずに即通報案件じゃない?もうストーカー
「そんなに多忙じゃないとはいえ大学もプロとしての仕事もあるから、たまにこうして君を眺めるのってなんかいいなあって……」
いや、そもそもあの写真を見た時点でもう手遅れだと気づくべきだった。こういうところ以外は基本的にまともだから判断に困るんだよなあ……
まあいまはマシロちゃんを預かってもらってるし、少しくらいは譲歩してもいいか……
「せめて家で眺めるくらいにしてよ。もう寒いし、マシロちゃんも俺に会いたがってるみたいだからそれも含めて行く頻度少し上げるよ」
あとテュールに肋骨の治療を進めてほしい。まだ痛い。
「それも最高だね、マシロちゃんも可愛くて癒されるんだ」
「それはそれとして少しは反省してね不審者さん」
「伏見だよ!?」
また別の日。
「シンイチ……アナタの命、貰い──」
「せめて口調を変えようねこの地雷系もどき」
ねえそれ伏見さんに聞いたよね?よね?
この前言ってた『俺の高校受験について漏らしたやつ』は容疑者が多いし探す意味ないから諦めたけど、今回はきみの知り合いから考えると伏見さんからしか得られない情報だよね?
「アタシは殺し屋よ、命が惜しければバトルを……いや、無理にバトルさせるのも悪いわね」
そう言うと黒崎さんはローブを脱いで軽く折りたたみ、カバンにしまった。
「悪かったわね。メイカと飲みに行ってたんだけど、酔った勢いでどうやってアナタとバトルしたのか詳しく聞き出してついやっちゃったわ……冷静に考えたらアナタなんで殺し屋に狙われてたのよ」
「伏見さん生きてる?」
「二日酔いにはなってるかもね」
あーあ。どうやら宣言通り酔い潰されたらしい。
といっても、供述からして酔ってつい喋っちゃったんだろう。ということは酔ったあとでも受け答えができて、二日酔いにはなってるかもってくらいならそんなに酷くはなさそうだね。
殺し屋については狙ってる側に聞いて。まあ察しはつくけど。
「今更だけど、伏見さんってお酒飲むんだね」
「あの子私の一個下だし、飲んだことくらいはあるんじゃないかしら?お酒弱かったけど、まあ私もそれは人の事言えないわね」
いや、きみは強くて悪酔いすることで有名な缶チューハイをエナドリと一緒に勢いよく飲んでるせいだから。しかもロング缶。あれで倒れずに元気に活動してる時点でそこそこおかしいから。
あとこれ、伏見さんがすぐ酔ったおかげで逆に助かったやつだな。
伏見さん自身が早い段階でダウンして本当に危険な量のアルコールを摂取せずに済んだことが予測できるのもそうだし、その影響で黒崎さんが面倒な酔い方をする前に切り上げさせることができたんだろう。
この人が酔っ払ってる時に遭遇したことは二回あるわけだけど、二回ともなぜか後ろから抱きつかれて面倒なことになってるからね。今回はこれくらいで済んでよかった。
「それにしてもシンイチ……本当にバトルしなくなったのね」
あー……まあね。
「最近はメイカ以外の人とは一度もバトルしてないの?」
「マシロちゃんについてはどこまで聞いたの?」
「だれよそれ」
あっ、やべ。伏見さんが言ってるかと思った。またストーカーするくらいだからプライバシーという概念を知らないかと思ったんだけどそうでもないらしい。
あと宅飲みかと思ってた。どうやら人気らしいプロ二人で
「聞いてないならいいんだ、それじゃあもう遅いし寒いし俺はこれで」
そう言って背を向けた時には腕を掴まれていた。
……え?こわい……なんか圧がすごい。少し振り返った時に見えた目がやばい。思わず前を向き直してしまった。
「ねえ?マシロちゃんってだれ?アナタが『ちゃん』づけで呼ぶほど親しい女がいるの?ねえ答えてよ。さっきの質問から名前が出たってことはアナタとバトルをしてる親しい女がいるってことなのよね?メイカは理由があったからまだしもそんな女がいるなんて聞いてないんだけど?ならどうしてアタシとはバトルしてくれないの?アタシのこと嫌いなの?どうして?どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして」
やばい!!!黒崎さんが壊れた!!!
「答えてよシンイチ、アタシのなにが嫌なの?アタシ頑張るから、アナタが嫌だと思うところ全部変えるから、禁酒だってするし服装だって変えるから、アタシがプレスピ弱かったなら修行するから、だから捨てないでよ……」
腕めっちゃ強く掴まれてて痛いし逃げられないし、あと捨てるもなにも拾ってない。
あっ、やば……今度は背を向けたままの俺の胴に腕を回して抱きついてきた。またかよとか言ってる場合じゃない、あっ、まって、まだ肋骨が完治してないからそこはだめっ……んっ……
あいったぁ!!!いたたたたたた!!!いたいって!!!また折れる!!!
いつもより少ないとはいえお酒が入ってるせいかだんだん泣きそうな声になってる地雷系だけど、泣きたいのはこっちだよ。はやくなんとかしないと……
そうだ、俺の高校どこか教えてないのに自力で見つけてきたテュールに全力で念を送ったら来てくれないかな?
──テュール!!!!!たすけて!!!!!
念を送った瞬間、黒崎さんが肋骨に与えていた痛みがゆるまる。やがて俺を締め付けていた腕が離れて、黒崎さんが地面に倒れる音がした。
はぁ…はぁ…よかった……テュールが来てくれた……
飛んでくるテュールの霊力を感じる余裕すら与えないとは、おそるべし地雷系……
「本当にいつもありがとうテュール──」
そう言いながら振り返ったところにいたのはもはや見ただけで安心感を覚える機械天使ではなく、銀髪のミディアムヘアにメイド服を着たクールな印象の女の人だった。
……まって???だれ???
「お怪我は?」
「え、ああ、まあ大丈夫、ありがとう……」
「それでは、私はこれをその辺の茂みに捨ててきますので」
そういうと銀髪のメイド服の人は黒崎さんを肩に担いでどこかへ行ってしまった。
…………え?結局だれ?