プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
1話『自分語りと愚痴の併せ技では右に出るものなし、ただしみっともなし』
夜でも明るいコンビニの店内に入店音が響く。
大抵の人は疲労が見える平日の夜なのに楽しそうに入ってきた三人を見て、俺は接客モードを特定の人物用のものに切り替えて応対した。
「いらっしゃい、今日も塾帰り?」
「ああ!いつものパックひとつ!」
「了解」
元気に返事と注文をした赤い髪の少年はタツキくん。このくらいの時間になると塾帰りにここに寄っていく小学生たちのひとりだ。
「僕はブレンドコーヒーのSとパックをひとつ」
「…コーヒー、ブラックだけどいいの?」
背伸びしてブラックのブレンドコーヒーを注文した子はレイタくん。青い髪で右目が隠れた理知的なイケメンだ。
「そりゃもちろん……」
「レイタくん、無理はよくないですよ。レイタくんは甘いもの
そんなレイタくんを止めたのはユキちゃん。育ちの良さそうなおしとやかな雰囲気と年相応の子供っぽさが同居した緑髪の女の子だ。
「……カフェラテでお願いします」
やっぱり背伸びじゃないかレイタくん。いや、ここで意地を張る方が子供っぽいと考えたのかな?
まあでも……
「ごめん、いまミルク用のコーヒーマシンは清掃中でカフェラテ売れないんだ」
「なんなんですか!」
「いやあごめんね。キャンセルするかどうかを聞いたつもりだったんだけど」
レイタくん、小学生なのに大人びた雰囲気とツッコミ
ちなみにカフェラテのSは最初から売ってないよ。MかLだけ。
「ていうかコーヒーフレッシュとガムシロップあるでしょう!」
「たしかに」
普通に忘れてた、ツッコミ力も知性も高いねレイタくん。
「ダメそうならそれ入れるからブラックで大丈夫ですよ、お願いします」
「了解、ユキちゃんは?」
「私もパックをひとつお願いします」
「はーい」
三人とも塾帰りによくこのコンビニに来ていて、短い短い第二の放課後を味わってから家に帰る子たちだ。
楽しそうで見ていて飽きない。
ちなみにレイタくんは結局コーヒーにフレッシュとガムシロップをふたつずつ入れた。逆にそれ飲めないわ俺。
あとなんか全員自分の使う色と同じレアカードを当てて喜んでた、すごいな引き。
さーて仕事仕事、いつもの三人も帰ったから急いで終わらせちゃうぞー。っと、お客さんだ。
「いらっしゃいませー」
「……なんでアナタがこんなところで働いてるのかしら?」
「どういう意味でしょうか」
「とぼけないで。まさかアタシを忘れたわけないわよね?」
「まあ一応……」
気の強そうな赤い目、黒髪を肩より少し長いくらいのツインテールにしている地雷系な女の人、
いわゆるインナーカラーというやつだろうか、髪の毛の内側だけが赤くなっているのが特徴だ。
さて、なんとなく黒崎さんの言いたいことは察しているが、ここは一度すっとぼけておこう。
「
「はい」
「アナタねぇ……その才能を活かそうって気持ちを少しは──」
「あ、お客さん来てるんでご注文がなければ後にしてもらっていいですか?」
「あ、ごめんなさい」
過去はともかくいまはコンビニ店員をしているのだ。目の前のお客さんの方が当然優先度は高い。
それと、俺は才能という言葉が嫌いなのだ。納得できる解釈と用法でその言葉を使う人が、あまりにも少ないから。
「それで、アナタなんで急に大会出なくなったのよ」
「あー、受験のため……ですかね」
「志望校の偏差値20近く落として勉強放棄したって聞いたけど?」
「それ言いふらしたやつ教えてもらっていいですか?締め上げに行くので」
「締め上げに行くとか言われて教えるわけないじゃない……というかなんで急にそんなことしたのよ」
色々聞いてくるなこの人……俺仕事中なんだけどな。まあこの店そんなに人こないし、ちょうど他のお客さんもいないからいいか。
黒崎さんに背を向け、ホットスナック用のトレーと金網を洗いながら素直に受け答えする。隠す必要もないし、むしろ愚痴も兼ねて言ってしまったほうがマシってものだ。
……ていうかここから声届くよね?まあ少しだけ大きめに声出せばいいか。
「いやー、母が私立は学費高いから絶対公立行けとか滑り止め受けろとかうるさかったので……逆に公立一発合格したらかなり費用浮くから俺用のノートパソコン買ってって話を持ち込んだんですよ」
「それでそんなに偏差値落としたわけね……じゃあ今はパソコンにお
「いえ、俺の提案に対する母の返事が『考えとく』だったんで」
「えぇ……?」
「こっちには『公立全部落ちたら高校行かせない、中卒で働け』とか言ったりお気持ち表明の手紙とか書いてきたのに俺の折衷案は握りつぶしてくるの終わってますよねー。どんだけメンタル不安定なんすかね
そこまで赤裸々に語ってやると黒崎さんは困惑とわずかな同情を滲ませた顔で問うてきた。
「じゃあ受験期から今まではなにしてたの……?」
「あー……」
まあどうでもいいか。もうどうでも。
「受験期から高一まではやさぐれて
「そ、そう……」
黒崎さんはなにからツッコめばいいかわからないといった感じで言葉を選んでいるようだった。
ツッコミをする気なら遅いぞ、レイタくんを見習いたまえ。
「とにかく!アナタの才能を腐らせるのはもったいないわ!今すぐじゃなくてもいいから大会に戻ってきなさい!」
「『考えときます』」
「それ断るってことじゃない!」
お、ナイスツッコミ。さっきの話の文脈から繋がったボケをしっかり拾ってくれたね。
「それで、ご注文は?」
「え?あ、じゃあバディチキください」
「かしこまりました」
そう、ここはコンビニ。バディマートである。
「こちらバディチキになります」
「どうも。ねえ、アナタ本当に戻って来る気ないの?」
「別に全くないわけじゃないですよ、たださっきの誘い文句は響かなかったですかね」
「なによそれ、どういう誘い方なら良かったの?」
「それを本人に聞く時点で終わりな気がしますが……まあ、ひとつ重要なことを言うとしたら、俺『才能』って言葉嫌いなんですよね」
「……なんでよ?」
「細かく話すとあまりにも長いので少し抽象的な言い方になりますが、理由は割とハッキリしてる方ですかね」
俺はそう言うと、接客モードをオフにする。
そしてそれによって一瞬空いた間を逃さぬように、今日初めて黒崎さんと目を合わせて話した。
「納得できる解釈と用法でその言葉を使う人が、あまりにも少ないから」
彼女はよくわからないとでも言いたげな顔をしながら、しかしその足は俺から一歩遠ざかっていた。