プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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36話『子供のバイタリティは大人の想像を軽々と上回る』

 

 

 日曜日の昼、ある駅に四人の人物が集まった。

 

「お、全員揃ったな!」

「お前で四人目なんだよ、なんで待ってた側みたいな言い方なんだ」

「まあまあ、遅れたといっても10分くらいですから」

「こ、こんにちはタツキさん……」

 

 ちょっと寝坊して来たのに素で間違えて先に待ってたかのような言い方をした赤城(あかぎ)タツキ、そんな天然ボケにツッコむ青枝(あおえだ)レイタ、そんなレイタをなだめる緑毛(みどりげ)ユキ、そしてまだ少し緊張が抜けない黒川(くろかわ)マシロの四人。

 

 つまりいつもの小学生三人組にマシロを加えた小学生四人組だ。

 

「この前と同じ場所?」

「ああ、せっかくだからマシロも加えて改めてカードを見に行こうと思ってな」

 

 以前はレイタがひとりで行く予定だったところにタツキとユキがついていった形だが、今回はレイタからの提案でマシロも交えてカードショップに行くことになった。

 

 ユキは同性ということもあり積極的に話しかけてマシロと仲良くなることができているが、レイタは全員でプレスピを介して仲良くなるつもりらしい。

 

 レイタはマシロと会った時の記憶を消されている。

 

 しかし、マシロに対してどこか既視感を覚えたことや、シンイチがわざわざマシロの転校に言及して『仲良くしてあげて』と言ってきたのに血縁関係については一切触れなかったことからなにか事情があることを察し、こうして休日に遊びに行くことを決めたのである。

 

 もちろんマシロがプレスピをやっていることも事前に確認している。

 

 

 なお、タツキは特になにも考えていない。

 

 

 

「いま僕のデッキって青黒なんだけど、なにかいいカードとかないか?」

 

 レイタがマシロに話題を振る。

 

 カードショップに来たならカードの話をするのは当然であり、自然に話ができるのはレイタの明確な狙いであった。

 また、タツキとユキにこういう話は過度に期待していないため、身近にプレスピの細かい話ができる人、あるいはライバルのような知人がほしいというのはレイタ自身の願いでもあった。

 

「そうですね……この中だと……ありました、やっぱりこれですかね」

 

 そう言ってマシロはあるカードを指さす。

 

 

《蜘蛛の糸》

黒/1コスト(色指定:黒1)/スペル

効果:このターンの終了時まで自分のライフは1を下回らない。

自分の墓地の黒色を持つアニマ1体を選択する。

自分の手札・場・選択したアニマ以外の墓地のカード全てを消失させ、選択したアニマを『蘇生』する。

そのアニマが場を離れたなら、そのターン終了時に自分は敗北する。

 

『緊急詠唱』:自分のライフが0になるなら、その直前に手札から使用可能。

 

 

────因果を超えて登って見せろ。救いを信じ、全てを捨ててでも地獄から抜け出したいのなら。

 

 

 そのカードが《蜘蛛の糸》だったので、レイタは苦笑したのだった。

 

 マシロが《蜘蛛の糸》で勝利を逃したのは二つ目の人格が覚醒する前で、その時は『飛翔』によって毎ターン確実なダメージを出して堅実に勝利する、カードゲームで俗にクロックといわれる考え方を重視したデッキを使ったバトルだった。

 そういった理由もあり、しっかり計算をして戦い、はじめてシンイチに勝ったと思ったら《蜘蛛の糸》にその計算を狂わされて逆転負けを喫したのは強く印象に残っていたのだ。

 

「あー、僕のデッキは青を軸にして黒で補助する感じだからちょっと難しいな……」

「あ、そういえばそうでしたね……」

「あれ、僕のデッキの詳細ってもうマシロに話したっけ?」

「あ、いえ……シ、シンイチさんから聞きました」

 

 うっかりレイタがマシロとバトルしたことを覚えていないのを忘れて発言してしまったマシロだが、とっさに機転をきかせて誤魔化した。

 

「ちなみに、フレーバーテキストについてはどう思う?」

「そうですね……書いてあることと同感で、もっと言うと地獄から抜け出したいなら、諦めるのも欲をかくのもダメなんだと思います。フレーバーテキストの通り、救いがあることを信じて、全てを捨てる覚悟で戦わないといけないんだと……」

 

 その言葉には、言い知れぬ重みがあった。

 

 レイタはマシロになにか事情があるのだろうと推察していたが、それを確信すると同時に過去にどんな経験をしたら小学生でそんな重みが乗るのかと怖くなった。

 当然、レイタに事情を聞くつもりはない。マシロが言いたくなった時に言ってくれればいいと考えていた。

 

 

 それからもしばらく四人はカードを見て話をして、何度かバトルもした。

 

 そしてマシロがとても小学生とは思えない実力を持つことが判明し、三人に褒めちぎられていた。

 

「マシロすげえな!一回も勝てなかった!」

「マシロちゃん、すごいです!かっこいいです!」

「いままでどういう練習してきたんだ……?僕も一回も勝てなかったぞ……?」

「えへへ……」

 

 マシロはほとんどシンイチとしかバトルをしていないため、実質的にはプレスピで二回しか勝ったことがない。ニクスによってレイタが修行に乱入した時と、いじめっ子に呼び出された時だ。

 

 厳密にはシンイチが色の特徴や複数の色を組み合わせた時の工夫などを教えるために使ったデッキや、基礎的なやり取りを鍛えるために使ったシンプルなデッキでの練習試合では勝ったことがある。

 しかしシンイチの黒単色のデッキには勝ったことがないため、自分が強いという実感をあまり持っていなかったマシロにとって今日は成長を実感して満足感を得るにはじゅうぶんな機会だった。

 

「っと、そろそろおやつにはいい時間だな。地下のたい焼き屋にみんなで行かないか?」

 

 以前シンイチから聞いて行った地下のたい焼き屋、そこをすっかり気に入ったレイタはマシロにも提案する。

 

「いいね!行こうぜ!」

「あそこすっごい美味しいんですよ!マシロちゃんも行きましょう!」

 

 タツキとユキもかなりその店を気に入っていたため、レイタの提案を聞いて嬉しそうに返事をした。

 

「…はい!」

 

 そしてマシロもその提案を嬉しそうに承諾した。

 

 ちなみに、精霊たちは出てくるとマシロが馴染みづらいだろうと空気を読んで全員デッキケースの中で四人の様子を眺めていた。

 ニクスに至っては事情を知っている上に少し負い目があるため、レイタになにも言われていないのにも関わらず自主的に大人しくしている。しかしながら、デッキケースから四人を見つめるその顔は少し優しげだった。

 

 

 

 このビルの地下は食品売り場やフードコートがあり、たい焼きに限らず様々な飲食物を買うことができる。

 四人はひとまず散らばって各自好きな飲み物を買い、たい焼き屋の近くで集合した。

 

 タツキはサイダー、レイタは甘いカフェラテ、ユキは緑茶、マシロはホットのほうじ茶を買っている。

 前ふたりはいまからたい焼きを食べることを考慮していないのかもしれないが、考え直すと全員好きな飲み物がそれだったのでだれも考慮していなかった。

 

 そして、そんな様子をデッキケースから見守る赤青緑の精霊たちは苦笑していた。

 

 なお、テュールには苦笑するための表情筋にあたる部分が一切ないため、ずっと優しげに見守っている。

 仮に物理的に苦笑できても、マシロがほうじ茶を好む理由を考えると浮かべるとしても優しい微笑み程度になると思われる。

 

 

 フードコートの席についてたい焼きに舌鼓(したつづみ)を打つ四人だが、話題はやはりすぐにプレスピのことに戻った。

 

「《ニクス》で勝つのって《乙姫》を通してしっかりライフを削らないと厳しいのかな?マシロはどう思う?」

「ライフを削らないと厳しいのは私も同意見ですが、《ニクス》さんって5体もアニマを『凍結』させて動きを封じられますよね?《乙姫》は《砂浜の亀》を効果破壊で処理されて《浦島太郎》が出せなくなると純粋な盤面勝負になっちゃうので、結局ダメージを出せなかったり、相手のアニマが盤面の取り合いで減って《ニクス》さんの価値が落ちちゃうと思うんですよね」

「なるほど……」

 

 《乙姫》は条件に合うアニマを好きなだけ召喚するわかりやすく強いカードだ。それで《竜宮城の兵士》を3体出し、そのうちの1体を自身の『連鎖』によって《砂浜の亀》にする。

 そして《砂浜の亀》を阻止で戦闘破壊させて、その効果でより強力な《浦島太郎》を出すというのが浦島太郎セットの理想的な動きだ。

 

 しかし、《砂浜の亀》が効果破壊や『浄化』による無効化などで処理されると途端に価値が落ちてしまう。そうなるとあとはただの盤面の取り合いとなり、《ニクス》におあつらえ向きの状況に持っていくことは難しいのではないかとマシロは指摘した。

 

 それはどうにも『連鎖』を上手く決められず、《ニクス》の前を《乙姫》に頼りがちだったレイタにとって目から鱗の指摘だった。

 

「だとしたらどうしたらいいんだ……?黒のカードで『連鎖』持ちを守るにしても《ニクス》の着地が遅れるし……」

「レイタさん」

 

 マシロはシンイチから指導を受けている。だがレイタは様子がおかしかったシンイチの精神を考慮し、バトルの結果としてその日の記憶ごと指導を受ける権利を失っているのだ。

 ニクスがシンイチやマシロに少し負い目を感じているように、マシロもレイタに負い目を感じていた。

 

 ゆえに……

 

「《ニクス》さんは単体でも9点を通しやすいというだけで、本質的には1枚で完結していません。勝負を決める手段というよりは、相手の盤面を弱くすることで自分の有利をより磐石にするダメ押しのような感じだと思います。特に《ニクス》さんで逆転勝ちというのは強い人が相手の時ほど望めません」

 

 ゆえに、少しでもシンイチの代わりにレイタのためになりそうな情報を提供する。それがマシロなりのお詫びでもあり、共にシンイチを心配してくれたことへの感謝でもあった。

 

「着地を急いで半端な置き方をするくらいなら我慢して温存した方がいいです」

「……じゃあ、『連鎖』をもっとメインに押し出した方がいいのか?」

「極端な考えはよくないです。『連鎖』でも《乙姫》でも戦って、有利が取れたところを《ニクス》さんで磐石にする。なにで絶対勝つとかじゃなくて、そういうゲームプランをある程度状況に応じて組み立てた方がいいと思います」

 

 実際、シンイチは《大嶽丸(おおたけまる)》《閻魔王》《空亡(そらなき)》を使いわけつつもその全てを用いてマシロの二つ目の人格を倒した。

 現役時代には《閻魔王》が切り札と言われていたのにも関わらず最初に《せっかちな葬儀屋》で墓地に落としたのは《大嶽丸》だ。

 

 そのマシロの二つ目の人格も『変形』を活用し、《軍神・テュール》が通じないなら《司法神・テュール》へ、それもダメなら《魔法の紐・グレイプニル》から盤面を取るプランにシフトしている。

 

 それらに比べるとレイタの戦い方は少々堅物(かたぶつ)じみていると言わざるを得ない。

 常に切り札の《ニクス》で勝負を決めることが前提で、その直前はほとんど《乙姫》で補おうとしている。そして『凍結』で有利を取ることに囚われている節もある。

 

「私なら《ニクス》さんを出す前のターンに《コールドスリープ》で自分の『連鎖』持ちのアニマ2体を逃がして、1ターン相手の攻撃を全部ライフで受けます」

「……!!!」

 

 《コールドスリープ》は場のアニマを2体まで選択し、選択したのが相手のアニマなら『凍結』させ、自分のアニマなら相手ターンの終了時まで消失させることで手出しできなくするスペルだ。

 以前黒崎アカネとバトルした時にレイタは『凍結』を選んだが、結局《不死鳥》の自爆効果で『連鎖』持ちを処理されていた。

 

 当然、マシロの発言はレイタにとって衝撃的なものだったが、それと同時にシンイチが現役時代に青を使った時に似たようなことをしていたのを思い出した。

 

 1ターン相手のアニマに好きに攻撃されることを受け入れる代わりに次のターンの動き次第ではそれ以上の有利を取れる。そこに《ニクス》が絡めばどうなるかなどは考えるまでもなかった。

 

「そっか……僕は少し、いや、結構視野が狭くなっていたみたいだ。ありがとう」

「いえ……」

 

 むしろこれくらいしか返せなくて申し訳ないとマシロは思っていた。

 

 もしシンイチが自分でなく、レイタの指導をしていたのならこんな話とは比にならないくらい強くなれただろうと考えている。事実として今振り返るといじめっ子が大して強くなかったと思うくらいに、今日のバトルで全勝するくらいに強くなっているのだから。

 

 しかし、マシロも自分の事情が事情だからシンイチが手を差し伸べてくれたことを理解している。ゆえに自分がいなかったとしてもレイタが指導してもらえることはないだろうから、申し訳なく思うよりむしろこうして自分が指導する側になれたらいいなと気持ちを切り替えた。

 

 と、ここで美味しいからとふたつもたい焼きを食べていたタツキとユキがたい焼き屋の方を向いて同時に声をあげた。

 

「シンイチお兄さん!」

「シンイチさん!」

 

 レイタとマシロがその言葉に驚いて同じ方を向くと、そこには購入したたい焼きを持って固まったシンイチの姿があった。

 

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