プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
なんてこった……今日は暇を潰すついでに久しぶりにここのたい焼きを食べようと思って来たら小学生組と出くわしてしまった。
しかもなんか話してたっぽいレイタくんとマシロちゃんには気づかれずに帰れそうだったのに、たい焼きを食べてただけのタツキくんとユキちゃんに見つかってしまった。
……というか一気に二個は多くない?
「シンイチお兄さんもたい焼き食べに来たの?」
「うん、そうだね」
「そういえばレイタくんが『シンイチさんから聞いた』って言ってましたね。ここのたい焼き、とても美味しいですね!」
「そうだねー」
完全に予想外だったから返事が雑になってるなあ。しかしどうするか……
「ほら、シンイチお兄さんもこっちで一緒に食べようぜ!」
ああもう逃げ道なくなったわ、仕方ないか……
ここのたい焼きは薄皮でパリッとした食感がクセになるんだ。それでいて生地の風味はしっかり残っていて、中の
大きさもじゅうぶんあるし、値段も200円あれば買える。軽く良さげなものが食べたい時には完璧なお店だ。
……なんて現実逃避はやめよう。ひとまずここは当たり障りのない話題でも振るかあ。
「四人はなにしにここへ?」
「カードショップに行ってました。そこでカードを見てバトルもしてって感じです」
言いながらレイタくんが一瞬、
本当によくできた子だなあ。ありがとうレイタくん。
「マシロがすっげえ強かったんだぜ!俺1回も勝てなかった!」
「私もです!すごいですよね!」
「…僕も1回も勝てませんでした」
「へえ、マシロちゃんすごく強いんだね」
「あっ、それほどでも……」
ごめんね……マシロちゃんにプレスピを教えてたのは秘密だから俺はしらを切るしかないんだ……
「どんなデッキを使ってるの?」
「あ、はい。白に赤を混ぜたやつです」
「そうなんだ、難しそうなのにすごいね」
そして世間話でデッキを聞くふりをしてさりげなく確認。うっかり『混沌』や『変形』を解禁していないかという質問の裏の意図を汲んでしっかり答えてくれたね。ありがとう。
あの能力、外で暇を潰すついでに調べたんだけど本当に同じ能力のカードがなかった。だから不用意に使うと騒ぎになったり、最悪の場合悪い人に目をつけられるかもしれないんだよね。
テュールがいるとはいえ
「ところでレイタ、ここからなにする?」
「あー、そういえばここから先は決めてなかったな」
というか、マシロちゃんここでもほうじ茶飲んでる。最初に会った時にあげたのがそんなに気に入ったのかな?種類まで同じじゃん。
「そうだ!ここからシンイチさんについていこうぜ!」
「なに言ってんだお前」
え?タツキくん変なこと言い出さないでよ。ちょっとレイタくん、止めて止めて。
「お前なあ……シンイチさんに迷惑だろ」
よし、頑張って目配せしたのがレイタくんに通じた。
「ダメですか……?」
ユキちゃん?せめてどこに行くか知らない状態からそれ言うのやめた方がいいと思うよ。俺が行く場所がユキちゃんの行きたくない場所だったらやっぱり行かないって言いづらくなるよ。
「シンイチお兄さんはここからどこ行くの?」
うーん……どうしよう。たったいまたい焼きを食べたばかりだから飲食店は論外だ。
でもコンビニバイトの未成年のお兄さんの休日として変なことは言えない。ここは高校生らしさがありつつ絶妙についていくか微妙な選択肢……そうだ。
「駅の向かい側にあるゲームセンターでシューティングゲームをやるつもりかな」
「いいじゃん!楽しそう!」
「ゾンビ系のめっちゃグロテスクなやつ」
「えっ……」
とりあえずこれでたったいま驚いたユキちゃんは脱落したはずだ。タツキくんは……あんまり気にしてなさそうだけど。
「でも冷静に考えたらシンイチさんについていくだけで、ゲームセンターについたら私たちも自分のやりたいゲームで遊べますもんね」
あー詰んだな。これ以上の抵抗は無駄だ。損切り損切り。
「まあ、それでいいならついてきてもいいよ」
「よし!じゃあこれからゲームセンターに行こう!」
「はぁ……すいません、シンイチさん……」
「いいよ、別に俺がなにかしなきゃいけないわけじゃないし」
その発言を後悔することになるのは、ゲームセンターで見慣れた
「なんか収拾つかなそうな状況になってるわね。
「きみも含めてね」
「失礼ね……相変わらず」
まあいいや、もう知らないってことで宣言通りゾンビ系のグロテスクなガンシューティングゲームを探して……うわ、これしかないのか……このゲーム、個人的にあんまりやりたくないんだよなあ……というかよくまだ残ってたね。
仕方ない、諦めてボックスに入って100円玉を入れていく。
いつの間にかこういうゲームは小さなシアタールームみたいなボックスに入って座ってやるのが主流になってたし、200円からとかじゃないとはじめられなくなったよね……コンティニューは100円だけど。
あとたまにあるゲーセン用のデータを保存できるカードを使った方がお得だよってやつ、俺の場合はだけどガンシューだと結局めんどくさくて使わなかったりする。
なんて思ってたら黒崎さんが隣に座って来て、投入口に100円玉を入れはじめた。
「アタシもやるわ」
「……まあいいか、足引っ張らないでね」
「こっちのセリフよ」
基本的にガンシューの筐体は一台で協力ふたりプレイができる。ただ、俺の記憶が正しければこのゲームはふたりでやるとめんどくさい要素が出てくるタイプだったはずだ。
例えばふたりで同じ箇所を撃つとか、息があってないと中々難しい。上手くいくといいんだけど。
ちなみに、このゲームは持ち手から心拍数を測定してビビってるかどうかを勝手に検知してくる。
怖くなくても緊張してたら心拍数なんて勝手に上がると思うんだけど、このゲームは心拍数で決めてしまうからたまに不服な判定を下されることがある。まあ別にどうでもいいか……
あ、そうだ。小学生四人組はカーレースのゲームでわいわい遊んでるよ。仲がよくてなによりだね。
この階はクレーンゲームを筆頭に家族や友人で遊べる感じのフロアになってるから多少騒いでも問題ない。本当に集中したいゲームは別の階にまとめて置かれている。
さて、はじめるかあ……
結局、黒崎さんはひとりでゲーセンに来ていただけあって普通に上手かった。
まあこのゲーム、やたら敵が硬い上に攻撃してくるまでの時間も短いから何度もコンティニューしたけどね。正直、このゲームをあまりやりたくない理由の中でもっとも大きいものがこれだ。
ただ、それでも思ったよりスムーズにラスボス戦まで来ることができた。
さて、ここが鬼門だ。
嫌がらせみたいに湧いてくる小さい謎の飛行生物を丁寧に撃ち落としていく。ラスボス戦はここが一番大事なんだ、しくじるわけにはいかない。
あ、黒崎さん側の処理が追いついてない。とっさに黒崎さんの方に向かっていた謎生物を狙って撃つと、運がよかったのかそのまま命中して落とすことができた。
あっぶね……なんとか全部撃ち落とすことができた。
正直ここからはほぼ消化試合みたいなものだ。
「クリアしたわね……」
「うん」
生返事をしてエンディングを見ていると、視界の隅から控えめに握り拳が差し出された。黒崎さんの細い手だ。
わざわざなにか聞くようなことはない。俺も握り拳をつくって黒崎さんの拳に軽くぶつける。グータッチというやつだ。
なんだか嬉しそうな黒崎さんだけど、実際俺も達成感はある。
なぜかというとこのゲーム、ラスボス戦の途中でこっちに飛んできて攻撃しようとしてくる小さい謎の飛行生物を一匹でも倒し損ねるとヒロインが手傷を負う。
その後は普通にラスボス戦の続きになるんだけど、それをクリアして脱出する直前にその手傷によってヒロインがゾンビ化し、主人公が襲われるというバッドエンドになるのだ。
数が多く、飛行して来る上に小さいから全部撃ち落とせたのは運がよかったのもあるけど、黒崎さんに半分任せられたのも大きいと思う。
黒崎さんが画面の半分を担ってくれたから、俺もそのぶんもう半分の画面に集中できたということだ。
まあ黒崎さんが一匹撃ち漏らしたのを助けることができたのは本当に運がよかっただけだと思うけど。
それにしても、ずっと黒崎さんはビビってるという判定を受けてたな。全く怖がってるようには見えなかったんだけど、心拍数だけで測定されるとこういうこともあるよね。
「それじゃあ、僕たちは先に帰ります」
「またなー!」
「さようならー!」
「さ、さようなら……」
「またね」
ガンシューをクリアした時にはもう夕方だったから小学生組は帰って行った。結局一緒になにかゲームとかすることはなかったけど、終始楽しそうだったからOKです。
さて、ここからどうしようか。と、思ったら黒崎さんが話しかけてきた。
「ねえ、ラーメン食べに行かない?」
たしかにもう日も落ちるし肌寒い。ちょうどいいか。
「らっしゃい!」
近くのラーメン屋に入り、大して迷わずに食券を買う。そして席についてお冷をひと口飲み、気になったことをそのまま聞いた。
「今日は飲まないの?」
「今日はいいのよ、アナタがいるからね」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
へえ。
「そういえば、この前言ってた『マシロちゃん』って小学生だったのね」
あ、そうか。黒崎さんはマシロちゃんのこと知らないんだった。
名前を呼ばれてるところを見たんだろう。これで変な誤解は解け──
「アナタもしかしてロリコ──」
「違う」
──てないじゃん!むしろ誤解が深まってるじゃんか!
「冗談よ」
冗談ならちょっと安心したみたいな雰囲気出すのはやめようか。もっと冗談めかしてほしい。
「……事情は聞かないでおいてあげる」
「……ありがとう」
……相変わらずこの人鋭いんだよなあ。
俺が小学生のマシロちゃんとわざわざバトルなんてしていたことに色々と事情があることを察して追及しないでいてくれる。
ここ最近酔っ払ってやばい絡み方をしてきてる人とは思えない察しのよさと優しさだ。
「へいお待ち」
「「どうも」」
店主さんへの返事が完全に被った。
ちょっと、笑わないでよ店主さん。なにその微笑ましいものを見る顔は。
それはさておき、ラーメンの到着だ。
魚介の出汁がきいたあっさりめの優しい味、こういうシンプルな醤油ラーメンが結局一番好きだったりするんだよね。
そしてラーメンを食べている間はふたりとも無言だった。気まずいなんて思うつもりはない。雑談してたらのびちゃうし冷めちゃうからね。
「また明日からテストプレイなの」
ラーメン屋を出て帰るべく駅へ向かう途中、黒崎さんが唐突に言った。
「そうなんだ」
「さすがにそろそろ疲れてきたけど、もうすぐ終わるらしいから頑張るわ」
「頑張ってね」
「そういうアナタは頑張りすぎるんじゃないわよ?」
思わず少し顔が歪んでしまった。
ちょっと、笑わないでよ黒崎さん。なにその『お見通しなのよ』とでも言わんばかりに得意げな顔は。
……と、思っていたのもつかの間。黒崎さんは表情を曇らせて語りかけてきた。
「本当に、頑張りすぎるんじゃないわよ。シンイチ」
「……頑張らせてくる世界が悪いと思わない?」
「普段一時間かかる宿題を頑張って30分で終わらせたらママに『あと30分勉強しなさい』って言われたこととかないかしら?」
「わかったよ。要するに、無茶な要求に無理して応えてるとそれにつけこんでもっと無茶振りされるからやるにしても適度に力を抜けってことね」
「わかってるじゃない」
心当たりあるからね。テュールのことだけど。
……いや、テュールは新機能の追加が多いだけであんまり無理してないか。神だし。なんなら無理なことは無理って言うし。
「他人に優しくしたっていいけど、自分を一番大事にしなさいよ。シンイチ」
いつの間にか足もとに来ていた黒崎さんの精霊さん、ルナがそれに同意するようににゃあと鳴いた。
今日は家についたら風呂に入って早めに寝よう。