プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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40話『疑わしきを罰さないのは仕方ないけれど、そうなる以上いつだって先に動くのは悪役である』

 

 

 今日も今日とて朝早く起きて、母が昨日炊飯器で雑に作ってた具が大きくて味の薄い肉じゃがの残り物を胃に詰め込んで学校に行く、わけだけど……

 

「ん?」

 

 外に出てなんとなく感じた違和感の方に集中すると、バイト先のコンビニ(バディマート)や大会のスタジアムがある方角に霊力が集まっているような感じがした。

 

 ……いや、なにあれ?

 

 感覚的には少し覚えがある部分と、特に心当たりのない部分がある。ふたつの異変が起きてるのかな?

 

 うーん……どうしたものか。いや、ああいうのは関わらない方がいいか。

 

 でもなあ…………まあいいや、もしもの時はこの世界の主人公がなんとかしてくれるでしょ。とりあえずいまできることだけしておこう。

 

「もしもし伏見さん?ごめんね朝早くに」

「どうしたのシンイチくん……」

 

 眠そうだな、まあ仕方ない。

 

「今日は外に出ない方がいいかも。マシロちゃんいる?」

「いまかわる……」

 

 少ししてマシロちゃんが出てきた。

 

「おはようございますシンイチさん。どうしたんですか?」

「さっき伏見さんにも言ったけど、今日は外に出ない方がいいかも。マシロちゃんもテュールに言ってお父さんに学校休む連絡入れさせといて」

「もしかして、なにかあるんですか……?」

「多分、としか言えないかな。念の為だよ」

 

 後ろの方で伏見さんの焦ったような声が聞こえてくる。なんだろう。

 

「どうかしたの?」

「えっと、今朝(けさ)からポチの具合がよくないみたいなんです。伏見さんは起きたばかりだから、いま気づいた感じです」

 

 ポチの具合がよくない……?なんかちょっとやばいことが起きてるのかもしれないなあ。

 

 ならなおさらか……『雷霆教(らいていきょう)』の件があるから伏見さんは外出させない方がいい。ポチの不調は……原因を探すしかないかあ。

 そもそも俺が知る限り、霊力がじゅうぶんあれば精霊に不調なんてものは起きない。ポチだけの問題じゃなくて、なにかが起きてると考えた方がいい。

 

「テュールは大丈夫なの?」

「さっき聞いたんですけど、誤差の範疇(はんちゅう)だそうです」

「ならよかった。悪いけど今日はテュールも含めてみんなで固まっておいて」

「シンイチさんはどうするんですか?」

「普通に学校行って帰るよ。なにかあるとしたら精霊絡みのことだろうから、俺は全く関係ないからね」

「……気をつけてくださいね?」

「無関係だから気をつけるもなにもないけど、まあ気をつけるよ。じゃあね」

 

 なんだか俺ひとりで調べに行くのかと疑われている気がするけれど、今回は本当に行かない。

 だって無関係……ポチが具合悪そうにしてるから無関係じゃないかもしれないけれど、とにかく俺が動かなきゃいけない理由はないんだ。

 伏見さんを家にいさせて、さらにテュールまでいれば仮に『雷霆教』みたいなのがまた出てきてもなんとかなるだろう。俺が動く必要はない。

 

 ……まあ、学校が終わったら少しくらい調べに行くかもしれないけれど。

 

 

 

 

「ユグちゃん?大丈夫ですか?」

 

 ある小学校、そこでも軽い騒ぎが起きていた。

 

 否、この小学校に関わらずこの街のいたるところで『精霊の具合が悪そう』という訴えが相次いでいるのだ。

 もっとも、そんなことを警察に言ってもどうしようもなく、病院に行っても精霊の治療や診察ができるような施設はないため、住民は精霊を心配しながらも出勤や登校を余儀なくされていた。

 

「私は精霊の中では強い方ですので、まだ大丈夫だと思います……」

 

 そして緑毛(みどりげ)ユキの精霊、緑の蛇の通称ユグちゃんも虚脱感に(さいな)まれていた。

 

「リューちゃんは大丈夫?」

「わしはまあ大丈夫じゃな……少しだるい感じがするくらいか」

「ニクスは大丈夫か?」

「あーちょっと(つら)いわねー。レイタ、辛いから保健室に連れて行ってくれるかしら?」

「大丈夫そうだな」

 

 赤城(あかぎ)タツキの精霊、《ムスペルヘイムの竜》……通称リューちゃんは多少だるそうではあるものの大丈夫そうにしていた。

 そして青枝(あおえだ)レイタの精霊、《ニヴルヘイムの女王・ニクス》はなに食わぬ顔と棒読みの演技でレイタと保健室に行こうとしたので一瞬で大丈夫という判断をくだされた。

 

 この三人の精霊は上澄みのためこの程度で済んでいるが、他の精霊はぐったりしてカードの中に引きこもってしまっている。これではバトルどころではなく、プレイヤーのほとんどが自身の精霊の心配をしていた。

 

「それにしても、マシロちゃんは大丈夫でしょうか……?」

「そういえば今日休みって先生が言ってたな」

「放課後にお見舞いに行こうぜ!」

「いや僕たちマシロの家知らないからな」

 

 

 

 

 そして時刻は午後。とあるビルの一室で、黒いスーツを着こなしたまっすぐな金のロングヘアーの女性が通話をしていた。

 

「なにかわかったことはありましたか?」

 

 金髪の女性も精霊の不調について調べていたが、調査に向かわせた人員から有力な情報が得られていないらしく、難航していた。

 

「そうですか……引き続き調査をお願いします。なにかわかったらすぐに連絡を」

 

 そう言って電話を切ったところで鳴った扉をあける音。金髪の女性は来客があること自体には驚愕しなかったが、その姿に驚愕した。

 

「緊急の報告があります」

 

 そこに立っていたのは、いつものメイド服ではなくスーツ姿に変装した、血まみれの白銀(しろがね)マリナだった。

 

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