プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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41話『悪役が動き出したならそれを止める役も動き出すのは当然の流れである』

 

 

「ぁ、あ、し、しろがねさ……」

「落ち着いてください」

 

 白銀(しろがね)マリナは血まみれの生傷(なまきず)だらけでありながら、取り乱す寸前の金髪の女性に殺気の乗った言葉をかける。

 それを正面から受けた金髪の女性……マリナに『長官』と呼ばれている女性ははじめこそ恐怖を覚えたが、すぐに持ち直すと一度深呼吸をして冷静さを取り戻した。

 

 それを見たマリナは話を続ける。

 

「時間がありません、私が意識を(たも)っているうちに報告を聞いてください」

「…はい」

「まず、アースガルズ社の上は無関係でした。社内のごく一部の人間のみが裏で画策(かくさく)して『神降ろし』を目論(もくろ)んでいます」

 

 アースガルズ社。かねてより長官が目を光らせていた会社だが、中々しっぽを掴ませない所だった。

 

 だが、上が無関係なら話は変わってくる。

 

 こういう時は大抵悪巧(わるだく)みをしているのは高い地位の人間だと思いがちだが、そもそも関与していない上は掴ませるしっぽが最初からなかったのだ。

 

 つまり、調べる必要があるのは社内全体の人間の動向となる。

 

 アースガルズ社はプレイスピリット関連の技術を支える非常に大きな会社だ。

 

 マリナとて上だけ調べて終わらせるようなことはしていない。だが、さすがに全員となるとひとりで動くマリナの調査にも限界が出てくるし、逆に大人数で会社ひとつの調査をしては諸々(もろもろ)のリスクも増える。

 

 潜入捜査に()けた人材はそう多くはないのだ。少なくともこの組織では。それらを考慮するとここまで隠し通すことも不可能ではなかったのだろう。

 

「しかし、それだけでは貴女が血まみれでやってくることへの説明がつきません。何があったのですか?」

 

 長官はマリナの戦闘能力の高さ(リアルファイトの強さ)を知っている。

 

 それゆえに仮に見つかった程度でこれだけの傷を負って帰ってくることには納得がいかなかった。

 

「簡潔に述べますと、精霊の霊力を吸収する技術を開発していました。即座に処理しようとしたのですが、霊力を利用して強化された人間との交戦となり、隙を見て撤退しました」

 

 だが、この返答でいま起きている精霊の不調の正体ごと理解せざるを得なくなった。

 

 敵はアースガルズ社の技術力にあやかり、この街の精霊の霊力を吸収して余計な邪魔が入らないようにしていたのだ。

 

「貴女が撤退するほどの強さになるとは……これでは人員を増やしたところで……いや、相手の狙いは『神降ろし』…なら……」

「はい。プレイスピリットでの戦闘であれば応じるものと思われます」

 

 マリナはそう言うと血がついた紙を手渡した。

 

 急いで書いたのだろう、読める程度に崩した文字で書かれたその内容は『この状況下でも戦力になりそうなプレイヤー・精霊のリストとその大まかな所在地』であった。

 

 それはつまり、マリナがこの街にいる強者(きょうしゃ)を既に把握して頭に入れていたことの証左である。加えて言うと、一々状況に合った戦力を調べなおす時間を省くためにこれを書き殴りながら長官のもとに向かっていた。

 

「私は少し休みます。長官はその間にこの紙に書いてある人物全員を招集してください。この件を大事(おおごと)にするわけにはいかないので、彼らが集まり次第、少数精鋭で連中の隠れ家に突入します」

「それはわかりましたが……その傷、少し休む程度でなんとかなるのですか?」

 

 その言葉を聞いたマリナは、わずかに微笑(ほほえ)みを浮かべて返した。

 

「なんとかなるか、ではありません。なんとかします。それと、言うまでもないと思いますが伏見メイカも呼び出して保護をお願いします。彼女は『神降ろし』に使われた過去がありますから、巻き込まれないとも限りません」

「そうですね、わかりました。迷惑かけてすみません……」

「仕事ですからそれは構いませんが、予想外のことですぐに混乱するのとこういう時の判断が遅いのは欠点ですね。私がいる間はなんとかしますが、長官より待遇のいい雇い主が現れる前になおすべきかと」

「ぐっ……」

「まあ、私も面倒な手続きを丸投げしているので役立たずとまでは言いませんが。では、私は応急処置をして着替えてくるので、あとはお願いしますね。ポンコツ長官」

「はい……」

 

 長官はしょんぼりしながら携帯端末を取り出し、部下に指示を出しはじめた。

 

 

 

 

 学校が終わってすぐに知らない車が迎えに来て、運転手が『神降ろしの阻止に協力してほしい』って言うからホイホイ乗ってしまった。そして案内された部屋に入ると見知った三人組が……

 

 いや、なんで小学生組の三人も大人しく車に乗せられてきたの?もう少し警戒心とかさ……

 

「最初は僕も疑ったんですが、クラスでも精霊の具合が悪そうって話になってたんですよ」

 

 レイタくんが答えてくれた。それでついていったのか……いい子すぎるでしょ。

 

 いや、だからこそ主人公組なんだろうな。

 

「困ってる(精霊)がいたら助けるのは当たり前だろ?」

「うむ、どうにも戦えそうなのはわしらだけのようだしな」

 

 迷わずそう言うタツキくんとリューちゃん。まだ小学生なのにそこまで迷いなくこんな大きな事件になりそうなことに首を突っ込む勇気には感服せざるをえない。

 

「私はユグちゃんが心配で……」

「……具合悪いの?」

「私は少なくとも消滅の危機ではないですが、バトルは少し難しいかもしれません……」

 

 そっかあ。まあそれなら安全であろうこのビルにユキちゃんとユグちゃんがいてくれるのはむしろありがたい。

 

 ちなみにマシロちゃんと伏見さんもいるよ。マシロちゃんをひとりにするわけにはいかないし、『神降ろし』に使われたことのある伏見さんはなるべく安全な場所に置いておきたいから、ふたりに連絡して一緒に車に乗ってもらった。

 どうやら運転手さんは最初からふたりとも拾っていくつもりだったらしく、俺から連絡したことで説得の手間が省けて楽に集合できた。

 

「すみません、遅れました。全員揃っていますか?」

 

 みんながいる部屋に入ってきたふたり。そのうちの長い金髪の女の人が話をはじめる。どうやらこの人がここのお偉いさんらしい。

 

 ……待って。この前会った銀髪のメイドさんもいるんだけど。どういう関係性なのそれ。しかもなんか包帯とか巻いてるし、なんなら所々にちょっと血が(にじ)んでる。

 

 まあ、いまは話を……

 

「お姉ちゃん……?」

 

 ……伏見さんが金髪の女の人を見てそう言った。と、いうことはこの人は伏見さんのお姉さんなんだね。

 

「久しぶりですね、メイカちゃん。話したいことはたくさんありますが、それはまた後日」

 

 伏見さんのお姉さんはそう言うと一呼吸置いて、この場にいる全員に向けて話をはじめた。

 

「まずは突然の招集に関わらず集まってくださり、ありがとうございます。ここはいわゆる公安のような組織で、秩序を守るべく精霊絡みの事件などを秘密裏に処理しています。私はこの組織の長官をしている伏見マイカといいます」

 

 マイカさんがいかにもキリッとした感じでそう言うと、隣にいた銀髪のメイドさんが口を開いた。

 

「公安のような組織とは言いますが、京都の名家のひとつ、伏見家のポンコツお嬢様が父の跡を継いでやっている政府非公認組織ですので、多少の人員の用意こそできますが警察とも連携が取れない名ばかりの公安なのです」

「マリナさん!?」

 

 そして一気にキリッとした雰囲気は消え去った。

 

 その隙にメイドさんが自己紹介をする。なぜか俺の目の前に来て、俺の右手を両手で包み込むように握りながら。

 

「私は白銀(しろがね)マリナと申します。こうしてシンイチ様と改めてお会いできて光栄です。以後お見知りおきを」

「……どうも」

 

 なんか目がこわいなあ、瞳孔(どうこう)(ひら)いてない?

 

「さて……長官、皆様に集まっていただいた理由とこれからどうするのか説明をお願いします」

「……はい」

 

 白銀さんにペースを崩されたからか、ちょっと不服そうな顔をしつつもマイカさんは説明をはじめた。

 

 

 

 

 

 ……まあ内容は要するに『神降ろし』を阻止するために協力してくださいって話なんだけど、そもそも他の人は『神降ろし』について知らないからその説明もしなきゃいけないわけで、そのあいだ俺は白銀さんがいれてくれた紅茶をいただきつつ話を聞き流すターンに入った。

 

 お、この紅茶おいしいね。

 

 ……ほかの人は真剣な雰囲気のせいか、ひとりも口をつけてないみたいだけど。なんなら精霊さんたちは霊力の節約のためかカードに引っ込んでいる。

 

「精霊の依代(よりしろ)になるものはカードだけとは限りません。神が人間界に来る時は依代が人間である方が好ましいのです」

 

 まあ、プレスピの技術を支えるアースガルズ社の人間がそんなことを画策してたこととか、技術を悪用して街ひとつくらいの範囲で精霊の霊力を吸収するなにかを開発してることとかは驚いたけどね。

 

 朝の違和感は『神降ろし』によって降りようとしている精霊さんの霊力と、謎技術によって吸収されてる霊力が同じ場所に固まってたからだったんだね。

 

「神が人間界に来ると霊力の消費が激しく、本来の力は振るえません。ですから、動かせる実体を伴い、自らエネルギーを生成できる生物は依代として都合がいいのです。私がいた場所でも狐が神の遣いとして一時的に依代になることがありました」

 

 で、『神降ろし』とかのくだりについても昔『雷霆教』の人にだいたい聞いたから、俺にとってはただのおさらいみたいなものだ。

 

「人間……特に適性のある者を依代とし、祈りを捧げることでその身に神を宿す。それが『神降ろし』です。皆さんにはそれの阻止に協力していただきたいのです」

「そんなこと、僕たちだけでなんとかなるんですか……?」

「レイタくん、こうなったら仕方ない。なんとかなるかどうかじゃなくてなんとかすることを考えよう」

 

 俺がレイタくんにそう言うと白銀さんが笑みを浮かべた。なんで?まあいいや。

 

「幸いリューちゃんとニクスとテュールは戦えるみたいだし、相手はプレスピでのバトルには間違いなく応じる。それにアースガルズ社の人間がこんなことをしたと世間に知れたら大混乱が起きる。だから俺たちだけでなんとかしよう」

「さすがはシンイチ様ですね。理解が早く、覚悟が決まってらっしゃる。うちのポンコツ長官と取り替えてほしいくらいです」

 

 あ、マイカさん泣いちゃった。

 

 まあいいや、ティーカップを置いて話を切り出す。

 

「タツキくん、レイタくん、マシロちゃん。善意とか正義感とかは一回捨てて考えてほしい、この件に命をかける覚悟はある?」

 

 これだけは聞いておかなきゃいけないことだ。だから──

 

「あるぜ!」

「あります」

「はい」

 

 ──全員即答って……

 

「……理由を聞いてもいい?」

 

 重ねて聞くとタツキくんとレイタくんが顔を見合わせて、同時に答えた。

 

「「ここで逃げたら後悔するから」」

 

 ……さすが主人公とライバル枠。

 

 完全に同じ回答をしたことで嬉しそうに笑みを浮かべるタツキくんと苦笑したレイタくんをよそに、残るひとりに問いかける。

 

「マシロちゃんは?」

「シンイチさんが行くつもりだからです。命がかかってても私だけ安全な場所で待つなんてできません」

「そっかぁ……」

 

 まあ、テュールもいるしひとまずは大丈夫か……

 

 そもそも本調子じゃないとはいえ強い精霊さんがそれぞれについている、だから命をかけるなんて半分は脅しみたいなものだ。

 まあ、ここで不特定多数のだれかのためみたいな理由をつけたら迷わず置いていったけど。

 

「……シンイチくん、僕には聞かないの?」

「え、聞くわけないじゃん」

 

 変なことを言うね伏見さん。

 

「伏見さんとユキちゃんはここで待機だよ」

「え?」

「え?」

 

 なんで驚いてるのさ、流れ的にそうだったじゃん。

 

「まずユグちゃんとポチが弱ってて戦えなさそうだからね。精霊なしでも戦えるなんてことは言わせないよ」

「で、でも……」

「それと、伏見さんは『神降ろし』の依代に使われたことあるよね」

 

 俺がそこまで言うと伏見さんはなにも言えなくなったらしい。まあわざわざここから先を言う必要はないけど、あえて言わせてもらおう。

 

「相手の目的は『神降ろし』なんだ。戦力としても不安なのに万が一捕まった時に依代にされかねない人を連れていくほど余裕はないよ」

 

 そしてそれはユキちゃんもそうだ。タツキくんにはリューちゃんがいるからまだしも、俺がユキちゃんに(いだ)く違和感が依代としての適性だったら伏見さんと同じく捕まって利用される恐れがある。

 あと単純に人質にされても困るし、少なくとも精霊が戦える状態の三人しか連れて行く気はない。

 

「それでも、僕は……」

 

 なにか言いたげなユキちゃんとまだ食い下がる伏見さんに、白銀さんが声をかける。

 

「ここで駄々をこねて私に亀甲(きっこう)縛りにされて待つか、大人しく普通に待つか、どちらにしますか?」

 

 その一言で伏見さんは完全に沈黙した。ユキちゃんは亀甲縛りを知らないからか頭に疑問符を浮かべていたけど、とりあえず縛られるのは伝わったっぽい。

 

「みんな……気をつけてください」

 

 ありがとうユキちゃん。気をつけるよ。

 

 あ、そうだ。

 

「白銀さん。伏見さんは縛っといてくれる?」

「かしこまりました」

「なんで!?」

「だってストーカーじゃん……ここでも勝手についてきたら困る」

「ストーカー……????え?あっ、報告書の『もはや趣味でストーキングする手遅れの金髪』って……え?メイカちゃん、え?…………?????」

 

 あ、マイカさんが処理落ちした。

 

「ち、違うんだお姉ちゃん!」

 

 報告書っていうのは知らないけど、いまの文言(もんごん)と違う点は特になにもなかったと思うよ。

 

「さて、愛しの妹が手遅れのストーカーだったことをようやく知ってフリーズした長官(ポンコツ)は置いといて、準備を進めましょう」

 

 そう言いながら白銀さんが縄を持ってきた。

 

「ま、待って!大人しく待つからせめて縛るのは……」

「どうなさいますか?シンイチ様」

「うーん……別にいっか。大人しくしててくれるなら。あと白銀さん、マイカさんを再起動してもらってもいい?」

「お任せください」

 

 白銀さんがマイカさんの目の前に立つと、顔の前で右手をかざして、親指で中指をおさえて力を込め……

 

「いっっったぁ!?!?!?」

 

 めちゃくちゃ痛そうなデコピンで無理やり起こしてくれた。

 

 ありがとね白銀さん。まだ話すことがあるからマイカさんには起きてもらう必要があったんだ。

 

「マイカさん。いまのうちに精霊を呼ぶための『祈り』っていうのが具体的になんなのかもみんなに説明したほうがいいんじゃない?」

 

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