プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
さて、タツキくんとレイタくんのデッキも調整完了してあとは突撃……の前に、少しくらいは使いかたを教えておかなきゃ。
「伏見さん、タツキくんのデッキのほう、使いかたわかるなら軽く教えてあげてもらってもいいかな?」
「そうだね……全部はわからないかもしれないけど、やってみるよ」
「ありがとう、こっちはレイタくんに説明しておくから」
「むしろ今回、これくらいしかできそうなことはないからね……望むところだよ」
しょぼくれながらそんなことを言う
プロなのにこんな時に戦力外だと言われて戦いに参加できないのが虚しいのだろう。
ストーカーであることがお姉さんであるマイカさんにバレて、ついでに小学生三人組にもバレたショックなんて関係ないはずだ。多分、きっと、おそらく。
「そういえば、マシロは見てもらわなくていいの?デッキ」
タツキくんが唯一この場で俺にデッキを見てもらっていないマシロちゃんに話を振った。
「あっ、えっと……」
ごめんよふたりとも……マシロちゃんはデッキどころじゃなくて色々もう見たんだ……
どう誤魔化すべきか困ってこっちを見てくるマシロちゃん。大丈夫大丈夫、本当のことを言わなければ嘘をつく必要はない。
「マシロちゃん、『アレ』使っていいからね」
「……わかりました」
あたかも既になにかありましたよとアピールするかのようにただならぬ雰囲気で言葉を交わす。こうすることでなんとなーく追及しづらい空気を作るのだ。
「シンイチお兄さん、『アレ』ってなに?」
あぁ全然通じなかったわ。さすがは天然系主人公。
だが誤魔化すことにかけては俺の右に出るものはいない。
「色々あったんだ。色々ね」
「ほう。なるほど、そういうことか……」
「ふっ、やはりリューちゃんにはバレてしまうか……」
リューちゃんが機転を利かせてノってくれた。
俺もさらにそこにノってなんかすごい秘密感を出していく。よもやこれで『元々プレスピ教えてました』なんて結論にはいかないだろう。
おそらくは『なにかすごいカードやデッキを隠し持っていて、それの使用を制限されていたんだろうな。バトルで見たことない
「なになに?どういうことなの?」
「タツキよ、お主が知るにはまだ早すぎる。今はこれからの戦いと目の前のデッキに全身全霊で向き合うぞ」
「それもそうだな!」
いやー、事情教えてないのに助けてくれてありがとねリューちゃん。タツキくん思ったより強敵だったから助かったよ。
さてやってきました、なんかすごい違和感のあるビル。まあもう言うまでもなく吸収した霊力と『神降ろし』で降りようとしてる精霊さんの霊力だ。
「ここが連中の隠れ家として使われているビルです。アースガルズ社の本社ではないため隠し事にはおあつらえ向きで、ここを拠点に裏で計画を進めていたものと思われます」
あ、自動ドアがロックされてる。裏口を探しても塞がれてたら結局意味ないし、これは無理やり壊して行くしかないかな?
ここはテュールに破壊してもらって……
「下がっていてください」
と、思ってたら
「えぇ……」
素人目にはなにをしてるのか全然わからなかった。とりあえず見えた限りのこととしては、白銀さんが自動ドアのガラスに拳を打ちつけて粉々にして、ドアを無理やり開通させたということだけだ。
……人って極めたら殴っただけで自動ドアのガラスを破壊できるようになるんだね。いや、なるのか?そもそも白銀さん、結構な怪我してる状態なんだよね?
ほら、怪我もあってただの案内役だとみんな思ってたからか、全員
「すげー!あれどうやるんだ!?」
ごめん。
「……精霊の力を借りたんですか?」
レイタくんの質問だ。まあ妥当な考えだけど、どうやらそれはなさそうだ。
「人の実力をすぐ
「うん、わかるからそんなに近くに来なくても大丈夫だよ。顔が近い」
そう、白銀さんからは
つまり、特殊ななにかを持っていない。
霊力もなければ依代の適性もない。当然人格も乖離してないし、なんなら精霊カードすら持っていないということだ。
それすなわち厄ネタをなにも抱えていないということで、俺にとっては結構安心材料になったりする。
あと、そもそも関わってる時に一々違和感を覚えなくていいから俺の負荷という意味でも楽だ。
ここは精霊がいて当たり前の世界だから、生きててずっと違和感を受け取りっぱなしなんだよね……
逆に霊力を感じ取れるように鍛えてからはある程度慣れて気にせず過ごせていたけれど、
「化け物だと思われるのも心外ですので一応
へえ、そうなんだ。
「では、上に向かいましょうか。エレベーターは攻撃された時に危険なため、階段から行きましょう。一応ガラス
何事もなかったかのように進む白銀さん。レイタくんとマシロちゃんはまださっきの光景の衝撃が抜けきっていないのか、まだ少し困惑したままだけど。
実は簡単に割れると知っても、見た目が衝撃的だったらしい。
ん?この感じは……
「白銀さん、タツキくんとレイタくんを連れて上まで行ってくれる?俺はこっちで探すことがあるから、マシロちゃんと残るよ」
「かしこまりました」
なんの反論も心配もなしに俺の行動を承知してくれるの、やりやすいなあ。
こっちにはテュールがいるから大丈夫というのもあるけど、それ以上になんというか……あれだ、無茶するのを受け入れてくれてる気がする。
まあ二回しか会ったことないし、俺の安全を心配されるような筋合いもあんまりないか。重要なのは『神降ろし』を止めて敵を倒すことだ。
さて……めっちゃ集中して周囲をうろつく。
……あった。これかな?
なんか特に妙な違和感があるあたりの床から隠し通路が出てきた。このビルのどこかで街中の霊力を吸収してるせいでここに来てからはずっと違和感だらけだったんだけど、一瞬感じた異質な違和感を見逃さなくてよかった。
というか今日一日ずっとぼんやり思ってたけど、やたら今日の俺が霊力とかに鋭かったのってこのビルに霊力が集約されてるから周囲にノイズが少なかったからなのかもしれない。
普段ならマイカさんがいたビルにあった回収されたカードの霊力の
「よし、行こうマシロちゃん」
「は、はい」
隠し通路といっても中は普通に明かりがついていて、特に危険もなくしばらく進むことができた。
まあ、だからといって何事もないわけがなく。
「貴様が
「そういうきみは?」
「動くな、コイツらがどうなってもいいのか」
見た目は普通の会社員みたいなスーツの女の人だけど、まあ考えるまでもなく敵のひとりだ。
女の人が指を鳴らすと、車輪のついたなにかがふたつ、その人のそばまで自らやってきた。相変わらず技術すご。
……あ、これアイアンメイデンだ。
あのカード、当時暴れ散らかした潜伏クトゥルフを止められる数少ないカードとして期待されてたよね。そもそも潜伏クトゥルフが出るまでの行動……というか対策の余地が少ない序盤が強すぎたのが一番の問題だったから、俺の勘違いでなければ実際はほとんど活躍できてないけど。
そういう意味ではピンポイントメタのいい例と言ってもいいのかもしれない。
対策カードが刺さったからといって勝てるわけではない。しっかり勝つ算段をつけてないと相手の一番わかりやすい部分を潰しただけで結局は勝てないということであって、『勝つための対策カード』であることを見失ってはいけないという教訓にはなるのかもしれない。
「……絶望のあまり言葉も出ないか?まあ仕方ないな。悪いが、ボスは『
……ああ、ふたつのアイアンメイデンにそれぞれ拘束されて気を失った両親が捕らえられてるから?ごめん、いま普通に某有名DCGのこと考えてた。
「貴様がデッキを差し出し、投降するなら貴様の両親を解放してやる」
仕方ないか……
携帯端末を取り出して、マイカさんに電話をかける。予め連絡先聞いといてよかった。
「もしもしポリスメン?」
「おい、通報をするな。間に合わないだろそれ」
「いま両親人質に取られてるんだけど、この戦い終わったら俺の生活って保障される?」
「おい、警察にタメ口で話すな。失礼だろ。というかなにを聞いているんだ貴様は」
ごめんごめん、警察ではないんだ。ノリで『もしもしポリスメン?』って言っちゃっただけで。
どうやらビルやカードショップを所持しているだけあって財力はあるらしい。この件の影響で治療費や生活費が必要になったらちゃんと負担してくれるってさ。やっぱり気前がいいね。
「了解」
「……話は済んだか?」
「うん、待っててくれてありがとう」
悪になりきれてないのか、通話が終わるまで律儀に待っててくれた敵さんはようやく話が進められると言わんばかりに脅し文句を投げつけてきた。
「いいから早くデッキを手放せ、両親を殺すぞ。それはそれは無惨に殺すぞ」
「うん、いいよ」
「…………ん??????」
「だから、殺してもいいよ」
やっぱり悪になりきれてないじゃないか。めちゃくちゃ混乱してるよこの人。
でもなあ……最悪の場合世界が滅ぶかもしれない『神降ろし』を阻止する手段を失うリスクと、特に好感や恩義を
しかも万が一の時はマイカさんが生活の保障はしてくれるっていう条件までついたらさすがにこうなるよ。
まあ、好感度が足りなかったね。これも教育に失敗した親の自己責任ってことで許せ両親よ。
「へ???いや、は?え、なに言ってんの??????」
「デッキは手放さないし投降もしません、代わりに俺の両親を殺すならどうぞ。って言ってる」
「人の心とかないのか??????????」
うーん……悪いけど、どんなに人道や道徳的観念に反していてもこれが俺であり、親の行動の結果だからなあ……
というかそもそもきみたちのせいだよね?旅行に行く母と仕事に行く父を捕まえて人質に取ったのそっちだよね?
「まあ、ないかもしれないね。じゃあ、俺は行くから」
「えっ、あっ、ま、待て!ここを通りたくば私を倒してからに──」
「テュール」
俺が呼んだ瞬間、テュールが素早く飛び出して手刀で敵さんの意識を刈り取ろうとした。でも案の定かな、この人も霊力で強化されてるみたいでなんとか腕でガードしてきた。
さすがに神なだけあって、剣とか使うと普通に殺しちゃうから気絶で済ませようとしているんだと思う。だってもう力比べ優勢だもん。
このままリアルファイトで沈めてもらうのもありだけど……
「シンイチさん、私がバトルします」
まあ、そうなるよね。マシロちゃんが前に出て宣言する。
「あなたにバトルを挑みます!」
『霊力を持つ者はバトルを挑まれたら応じなければならない』ってルール。わざわざ精霊じゃなくて『霊力を持つ者』なんて遠回しな言いかたにしたのは『霊力を借りて強化された人間』を範囲に入れるためなんだろうね。
こうなった以上、敵さんはバトルを断れない。というかもういつもの壁が同意なしに展開された。
「マシロちゃん、俺の両親をどうこうって言われても全部無視していいからね」
「わかりました。でも、シンイチさんのご両親を見捨てるつもりはないです」
意外、なんて思うのは失礼だろうね。
「正直に言うと、両親が私に怯えて逃げた時、すごく悲しかったです。寂しかったです。シンイチさんやメイカさんがいるから大丈夫ではありますけど、全然愛してもらえた実感がなくても、私の親は親なんだなって思いました」
わかってるよ。普通の人にとって親は唯一無二だし、多くの人にとってはなんやかんや情のひとつやふたつあるものだ。
「だから、シンイチさんのご両親も見捨てたりしません。特に、死んじゃったら二度と会えないですから」
「え、この子本当に小学生なの?」
敵さんも驚いている。
いい子だよね。そしてよくできた子だよね。
「任せるよ。俺は先に進むから」
「はい、気をつけてください」
「マシロちゃんもね。もしもの時は自分の命を最優先にして逃げてね」
それだけ言って俺は地下のくせに無駄に広い通路を進む。
上の三人はどうなってるかなあ。