プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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45話『どれだけ頑張っても凡ミスをする時はある/楽な終わりか、苦しい続きか』

 

 

先攻(マシロ)1ターン目】

「私のターン、ドロー!手札を1枚マナゾーンに置いてターンエンドです!」

 

 

後攻()1ターン目】

「私のターン、ドロー!手札を1枚マナゾーンに置いて、スペル《白紙の契約書》を発動!お互いに手札を全て墓地に置き、その枚数分カードを引く!」

 

 1ターン目から手札の入れ替えを使ったのに対し、マシロはわずかに驚いた顔をした。

 

 それを見た敵の女性はマシロの墓地を確認すると、そこには2ターン目からマナを増やせる《天啓》があった。

 

「ふん。《天啓》を持っていたようだったが、残念だったな。ターンエンドだ!」

 

 

先攻(マシロ)2ターン目】

「ドロー!」

 

 マシロの手札には2コストのカードがない。

 

 《天啓》を《白紙の契約書》で落とされたのが痛手だが、ここで弱気になることは決してなかった。

 

「マナを増やしてターンエンドです!」

 

 

後攻()2ターン目】

「ドロー!マナを増やしてスペル《天啓》を発動!このカードをマナゾーンに置き、さらに白のカードのみをコストに発動したならカードを1枚引く!ターンエンド!」

 

 

先攻(マシロ)3ターン目】

「ドロー!マナを増やしてスペル《福音》を発動!カードを2枚引いて、手札を1枚マナゾーンに置きます!ターンエンドです!」

 

 敵も《天啓》を使い、白を使うデッキなのは確定した。

 

 だが白のマナ加速は《天啓》だけではない。マシロは《白紙の契約書》の手札入れ替えで引いた《福音》で巻き返しをはかる。が……

 

 

後攻()3ターン目】

「ドロー!マナを増やしてスペル《天啓》を発動!このカードをマナゾーンに置いてカードを1枚引き、さらにもう1枚《天啓》を発動!」

「えっ」

「このカードをマナゾーンに置いてカードを1枚引く!……ふっ、驚いているようだな。悪いが、使わせてもらっているぞ」

「……霊力ですか」

「ああ、街中(まちじゅう)の精霊から吸収した霊力。それを使って《白紙の契約書》から《天啓》を3枚引かせてもらった」

 

 敵は奪った霊力を使い、堂々と《天啓》を3枚引いたと宣言をした。

 

 もっとも、ルール上は霊力によるカードへの干渉は不正行為に指定されていないため宣言したところで特にデメリットはない。むしろ今後上振れを警戒させられるため考え方によってはメリットですらあるだろう。

 

 現にマシロの表情には焦りが見て取れる。

 

 霊力によるカードへの干渉が禁止されていないのは単純に好き放題やっていればそのうち霊力が尽きることに加えて、毒を以て毒を制すかのように、ただ何もかも禁止するよりも同じような力で対抗した方がいいことが多いからだと思われる。

 

「後攻の権利を使用し、手札を1枚マナゾーンに置く!」

 

 《天啓》はマナゾーンにアクティブで置かれる。そのため、これで相手のアクティブのマナは3になった。

 

「スペル《光臨》を発動!手札から白色を持つアニマ1体を召喚し、それが4コスト以上ならターン終了時に手札に戻す!この効果で《神告の天使》を召喚!」

 

 マシロの表情にさらに影がさす。

 

「《神告の天使》の『召喚時』効果発動!自身をデッキに戻し、次のターンに白色を持つアニマをデッキから召喚する!ターンエンド!ターン終了時に後攻の権利でマナゾーンに置いたカードは消失する!」

 

 

【後攻3ターン目終了時の状況】

・黒川マシロ

ライフ20/手札6/マナ4

場:なし

 

・敵の女性

ライフ20/手札2/マナ6

場:なし

備考:後攻のマナ追加の権利使用済み

次のターン開始時、《神告の天使》の効果によってデッキから白色を持つアニマ1体を召喚する。

 

 

先攻(マシロ)4ターン目】

「ドロー!マナを増やして……」

 

 マシロのマナは5、手札は6枚中5枚が《テュール》の『変形』に繋がるカードだ。

 

 具体的には《光臨》《テュール》《勝利のルーン》《古き信仰》《神告の天使》がある。マシロはここで相手がノーガードになってる間に一気にリードしたいと考えた。

 

 《光臨》で出した4コスト以上のアニマはターン終了時に手札に戻ってしまう。そのためマシロ自身もノーガードになってしまうがそれは後から《古き信仰》で巻き返せる。そう判断してここは《光臨》から《軍神・テュール》で削ることに決めた。

 

「《光臨》を発動!手札から《テュール》を召喚して、ターン終了時に手札に戻します!そして《勝利のルーン》を発動!このカードは『混沌』を持っています!」

「なにそのカード……こわ……」

「『混沌』を持つカードはデッキから白と黒のカードを1枚ずつ墓地に置くことでその効果を使用できます!《テュール》を《軍神・テュール》に『変形』させます!」

 

 『混沌』も『変形』も本来存在しないはずの効果のため敵の困惑ももっともだが、霊力で《天啓》を3枚引いている以上文句を言う権利はないだろう。

 

「《軍神・テュール》でプレイヤーを攻撃!《軍神・テュール》は1ターンに1度インアクティブになったならアクティブに戻ります!もう一度プレイヤーを攻撃!」

 

 分厚い装甲をまとい、左手に大きな剣を持ったテュールが敵を二回連続で斬りつける。

 

「ぐっ……!」

 

【敵のライフ:20→8】

 

「ターンエンドです!ターン終了時に《軍神・テュール》は《テュール》に戻り、《光臨》の効果で手札に戻ります!」

 

 

後攻()4ターン目】

「ドロー!マナを増やす!《神告の天使》の効果でデッキから《飛翔する天使》を召喚!さらにこの効果で召喚したアニマが5コスト以下なら『突撃』を付与する!」

 

 これで敵のマナは7。

 

 プレスピ(このゲーム)は7コストから明確にカードが強くなる。当然、敵の所持するカードもその例に漏れることはなかった。

 

「《神の腕・ゼルエル》を召喚!」

 

 がら空きの場。そこに現れたばかりの《飛翔する天使》に続くように、兵力を支配する天使が舞い降りた。

 

「《神の腕・ゼルエル》の『召喚時』効果を発動!デッキから6コスト以下で白色を持つアニマを2体まで召喚する!《追放する天使》と《飛翔する天使》を召喚!さらに《追放する天使》の『召喚時』効果で相手の墓地のカードを1枚消失させる!墓地の《テュール》を消失!」

 

 1ターン目、《白紙の契約書》の効果によりマシロは《テュール》を墓地に置いていた。

 

 『変形』によって《テュール》が軸の白黒のデッキを使っていることを理解した敵は《テュール》を『蘇生』されないように消失させたのだ。

 

「《神告の天使》によって『突撃』を持った《飛翔する天使》でプレイヤーを攻撃!《神の腕・ゼルエル》は自分の他のアニマの戦闘力をプラス1するから5ダメージだ!」

 

【黒川マシロのライフ:20→15】

 

「ターンエンド!」

 

 

後攻()4ターン目終了時の状況】

・黒川マシロ

ライフ15/手札4/マナ5

場:なし

 

・敵の女性

ライフ8/手札1/マナ7

場:《飛翔する天使》×2(戦闘力プラス1)(1体がインアクティブ)

《神の腕・ゼルエル》

《追放する天使》(戦闘力プラス1)

備考:後攻のマナ追加の権利使用済

 

 

先攻(マシロ)5ターン目】

「ドロー……っ!マナを増やして《神告の天使》を召喚、『召喚時』効果で自身をデッキに戻し、次の自分のターンにデッキから白のアニマを召喚します……」

 

 マシロはこの状況を打破しうるカードを引くことができなかった。

 

 霊力による干渉は違反にはならないものの限界はある。既に『変形』に必要なカードを引き続けていたマシロは現状思いつく中で唯一の打開策である3()()()()《光臨》を引くことができなかったのだ。

 

 1ターン目に《白紙の契約書》で手札の入れ替えをさせられた時に既に1枚目の《光臨》は墓地に落ちていた。ゆえにデッキに眠る《光臨》はあと1枚だけだった。

 

 そして、初手から今までのドローを含めるとテュールは霊力が吸い取られる不利な状況下でかなりのカードに意図的に干渉していることになる。

 

 神が人間界に来ると霊力の消費が激しく、本来の力は振るえない。自分(依代)以外のカードに直接干渉するだけでもひと苦労なのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のテュールが《光臨》をデッキの上に置けなかったことを責めるのは酷だろう。

 

 むしろ、人間であるために存在の維持に霊力を消費せず、さらに街中(まちじゅう)から吸い上げた霊力を惜しみなく使える敵の方がどうかしているのだ。

 

「ターンエンドです……」

 

 今引いたカードも現状の打破はできない。申し訳なさや不甲斐なさを抱え、事実上の投了のつもりでマシロはターンを終了した。

 

 

後攻()5ターン目】

「ドロー!マナを増やす!」

 

 《神の腕・ゼルエル》と2体の《飛翔する天使》は現在戦闘力5。この3体だけでマシロのライフは削り切れる。

 

「どうやら真常シンイチには親を人質にしても意味がなかったようだからな、今度は貴様を人質にして奴を無力化させてもらうとしよう!2体の《飛翔する天使》、そして《神の腕・ゼルエル》でプレイヤーを攻撃!」

 

 《ゼルエル》が作り出した光の柱が、マシロを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光がおさまると、そこには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()マシロが立っていた。

 

「『緊急詠唱』《蜘蛛の糸》発動。このカードは自分のライフが0になるなら『緊急詠唱』できる。このターン、自分のライフは1を下回らない。そして墓地の黒色を持つアニマ1体を選択し、手札・場・選択したアニマ以外の墓地の自分のカード全てを消失させ、選択したアニマを『蘇生』する。《災いの魔狼・フェンリル》を『蘇生』」

 

 《勝利のルーン》の『混沌』によって墓地に置かれていたカード。それは《フェンリル》だった。

 

 禍々しい巨大な狼がマシロの場に現れる。それを見た敵はだからどうしたと言わんばかりにまくし立てた。

 

「ふん!急に髪色が変わったのは驚いたが、《蜘蛛の糸》は知ってるぞ!その《フェンリル》とやらが場を離れたらターン終了時に貴様は敗北するんだろう?なら処理する手段は既にふたつもある!」

 

 しかし、マシロは全く動じなかった。

 

「ほう?《フェンリル》の効果を知った上で処理する手段がふたつもあるのか、それは興味深いな」

「……テキスト、確認してもいいか?」

「最初からしておけ」

 

 

《災いの魔狼・フェンリル》

黒/6コスト(色指定:黒6)/戦闘力3

効果:このアニマは阻止ができず、場にいる限りカードの効果で選択することができない。

このアニマが他のアニマと戦闘するなら、戦闘力に関わらず必ず勝利する。

自分のターン終了時に自身の戦闘力をプラス2し、自分の場に《魔法の紐・グレイプニル》がないなら自分に10ダメージを与える。この効果は必ず発動する。

 

────それは、神々に災いをもたらす者。或いは、神にすら止められぬ黒き怪物。

 

 

「……」

 

 敵は数秒の間言葉を失い、やがて叫んだ。

 

「なんだこのインチキ効果!!!」

「それで、この《フェンリル》を処理する手段がふたつもあると言っていたな。ほら見せてみろ、それが本当ならお前の勝ちだぞ?」

「できるわけないだろ!!!《天罰》でも選択できないし、まだ攻撃してない《追放する天使》で攻撃しても倒せないじゃないか!!!」

「手札に《天罰》があるのか」

「あっ……いや、この際どうでもいい!次のターン、《フェンリル》を無視して貴様のライフを削りきってやる!ターンエンドだ!」

 

 《天罰》は5コストと重いスペルだが『緊急詠唱』を持つ。このターン、1マナも使っていない敵は相手のアニマをこれで無力化して勝ち切る腹積もりだ。

 

「それにしても……」

 

 マシロはバトルの途中であることを意に介さず、心底失望したかのように語り出した。

 

「前のターンに《光臨》が引けなくて絶望したようだが、そもそもあの手札なら十分(じゅうぶん)勝てていた。焦って勝負を急いだな。あいつ(マシロ)はあの()に負けたのではない。自分自身に敗北したのだ」

 

 今は《蜘蛛の糸》によって消失してしまったが、4ターン目の手札には《光臨》《テュール》《勝利のルーン》《古き信仰》《神告の天使》があった。

 

 ここでマシロのひとつめの人格は《軍神・テュール》で削るために《光臨》を使っているが、前のターンに《福音》でマナを増やしていたためマナは5で、それは《神告の天使》を召喚できる値でもあった。

 

「どうせ1ターン場をあけるなら《光臨》は温存して先に《神告の天使》を使い、次のターンに《神告の天使》から出した《テュール》と温存した《光臨》で出した《テュール》から《軍神》と《司法神》を同時に出せば良かっただろう。あいつ、シンイチ様から何を学んだ?」

 

 実のところ、マシロ(ひとつめの人格)は実戦経験とこのデッキへの練度がまだ足りていなかった。

 

 シンイチとの練習試合と小学生組とのフリーバトルくらいしかしたことがないためにこういった修羅場を(くぐ)る経験が足りず、さらに『混沌』と『変形』の有事以外の使用を禁止したためにデッキの練度自体も普段使っている赤白デッキの方が高いのが実情だった。

 

 もっとも、それを知った上で許すようなマシロ(ふたつめの人格)ではないが。

 

「それと、お前もだ」

「え、私?」

 

 そして敵視点からすると、何やらひとりで急に他者視点から自分を責め始めたと思いきや突然矛先を向けてきたので、敵はつい素で返事をした。

 

「バトルに関してはこの際どうでもいい。お前、なぜこんなことに加担している?」

「……どういう意味だ?」

「普通の人間は精霊の補助によって引きをある程度安定させる。カードが変わる時も大抵は精霊側がすることだ。現に私のもうひとつの人格も私と違って霊力を活用することはほとんどできない。だが、精霊なしで直接霊力を扱えるような人間がなぜこんな下らん計画に加担しているのかと聞いている」

 

 それを聞いた敵の女性は顔をしかめる。しかしマシロは気にも()めずに話を続けた。

 

「優秀な人間は何をやっても本腰を入れればある程度は成果を出せる。駄目なやつは駄目なままだが、お前はまだ優秀な(ほう)だろう。わざわざ神など呼んで何がしたいんだ?」

「…………この世界ごと終わらせたいんだ。私の人生を」

 

 敵の女性は息を()き、語り始めた。

 

「なあ、この社会で重要なものは優秀さか?私はそうは思わない」

「……理由を聞いてやる」

「この世界の大多数の人間は優秀じゃないからだ。やっかみ、(ひが)み、(ねた)み、さらには無責任な重圧……ただ頑張ったから周りよりもちょっと優秀になれただけの私を勝手に万能扱いして、できて当然のレッテルを貼り、羨む(くせ)に努力もせず、困ったことがあればすぐに私に押し付ける。私にとっていまの社会は優秀な人間を食い潰して成り立ち、有象無象を中心に回る監獄だ」

 

 しかめた顔もやがて(かげ)り、静かに話を続ける。

 

「この社会で重要なものは、知らなくていいことを知らず、(みな)ができないことをできないままにする適度な無能さだ。有象無象に溶け込んで埋没し、人とわかり合えている気になって群れて暮らすのが人間という動物にとっての幸せだったんだ。それに気づくのが遅れた私は、馴染むことも溶け込むこともできずに生きてきた」

 

 外は冷たい風が吹いている。

 

 地下に届くはずのない寒風(かんぷう)が届いたような気がしたのは、敵の女性がわずかに身を震わせたからだろうか。

 

「偶然、会社の都合で挨拶に行ったアースガルズ社である人と会って、彼に開口一番言われたんだ。『一緒にこの世界を壊さないか?』と」

「なぜわざわざ世界を壊す?気に入らない者がいるならそいつらを壊せばいいだろう。私なら気に入らない者が100人いようがそうしている」

(きみ)も大概物騒ね!?」

「それが()か」

「あっ……」

 

 敵は思わずナチュラルに物騒な思考回路のマシロ(ふたつめの人格)にツッコんでしまい、今まで他人のことを『貴様』と言っていたのも悪役としてのキャラ付けのようなものだと露呈してしまった。

 

「まあ……バレたならもういいわ。それで、どうやら私を一目見てなにか察したらしいアキラさんに勧誘されてこの計画に加担したのよ。あの人、本当に鋭いなって思ったわ」

 

 そう言ってから質問にまだ答えていないことに気づき、彼女は話を続ける。

 

「わざわざ世界ごと壊す理由は説明が難しいんだけど……端的に言って、もう全部壊して終わらせたいのよ。こんな世界も、人間も、それに馴染めないこんな私も」

「アキラとやらも同じ理由なのか?」

「うーん……まあ似たような感じとだけ言っておくわ。あの人は自己評価が低いから全く同じではないと思うけど。とにかく、あの人は私を肯定して、全部終わらせるっていう()()の手を差し伸べてくれたのよ」

「……そうか」

「さあ、お話はここまで。君のターンよ」

 

 

後攻()5ターン目終了時の状況】

・黒川マシロ

ライフ1/手札0/マナ6

場:《災いの魔狼・フェンリル》

備考:《フェンリル》が場を離れたなら《蜘蛛の糸》の効果でターン終了時に敗北する。

次のターン開始時、《神告の天使》の効果によってデッキから白色を持つアニマ1体を召喚する。

 

・敵の女性

ライフ8/手札1/マナ8(8マナがアクティブ)

場:《飛翔する天使》×2(戦闘力プラス1)(2体ともインアクティブ)

《神の腕・ゼルエル》(インアクティブ)

《追放する天使》(戦闘力プラス1)

備考:後攻のマナ追加の権利使用済

 

 

先攻(マシロ)6ターン目】

「私がシンイチ様に出会わなかったら、あるいはアキラとやらと会っていたら、もしかすると世界を壊そうとしていたのは私だったのかもしれないな」

 

 マシロのふたつめの人格は言わば切り離された怒りと悪意の塊だ。本来は今以上に凶暴だったが、結果的にシンイチによってここまで柔らかい性格になった。壊すなら気に入らない者だけを壊そうと思う程度には柔らかい性格に。

 

「このターンでお前のライフを削り切れなければ《フェンリル》の効果で私は敗北する。しかし《天罰》がある以上《軍神》でも《司法神》でも削り切ることはできない。さらに言うとこのデッキには1枚カードを引いたところで逆転できるようなカードはない」

「降参する?人質にはさせてもらうけど、真常くんが投降するなら命は取らないわよ」

「するわけないだろう。私がわざわざこんなことを話しているのは、お前に本物を教えてやるためだ」

「……本物?」

 

 マシロは今までずっと、シンイチの教えを、行動を、言葉を見て聞いてきた。

 

 それこそ、はじめて出会った時の言葉でも。

 

 だからこそ、今の黒川マシロは敵の計画を、()()という言葉を否定する。

 

「……私が思うに、真に『人を救う』ということは、甘い破滅に導くことではない。(いばら)の道を自らの足で歩く覚悟を、その身に芽吹かせることだ」

 

 マシロのふたつめの人格は、表に出て髪の色を変えた時点で既にテュールから可能な限り霊力を借りている。

 

「終わらせる覚悟ではない、進み続ける覚悟を、その目に焼きつけろ────」

 

 残りの霊力全てを上手く使い、意志の強さでデッキの1番上のカードに干渉する。

 

「──ドロー!」

「……いいカードは引けた?」

「引けるかどうかではない、引くのだ。前のターンに使っていた《神告の天使》の効果でデッキから《テュール》を召喚。そしてスペルを発動」

 

 舞い降りたテュール。その目の前にルーン文字が刻まれた剣が現れる。

 

「《シグルドリーヴァの言葉》。『混沌』を2回行い、《テュール》を『変形』させる」

 

 その言葉は勝利をもたらすもの。この状況においては、その力が十全にふるわれることを意味した。

 

「────《天空神・テュール》!」

 

 剣と盾を持ち、近未来的な翼を広げた神々しい姿。最高神としてのテュールが、この場限りの復活を果たした。

 

「《天空神・テュール》は攻撃力8で『突撃』と『飛翔』を持つ。プレイヤーを攻撃」

「相手のアニマが攻撃したことを条件に『緊急詠唱』《天罰》発動!相手のアニマ1体を『浄化』して破壊する!」

 

 空を飛ぶテュールに雷が落ちる。だが、雷にうたれたテュールは焦げひとつつかず、何も無かったかのように剣を振りかぶる。

 

「《天空神・テュール》はカードの効果を受けない。これで終わりだ」

 

 剣を振り下ろす神々しいテュール。その理不尽な能力。好きなカードを引くどころか新しいカードを作って見せる意志(本物)。そしてそんなマシロが出会ったと言う真常シンイチ。

 

 なによそれ、と思いながら敵が最後にこぼした言葉。

 

「君は、本当にいい人に会えたのね……」

 

 それは、羨むようでも、認めるようでもあった。

 

【敵のライフ:8→0】

 

 

 

「さて、さすがにもう私は戦力にならないな……霊力もない。あいつ(ひとつめの人格)が起きる前に撤退するか」

 

 バトルに負けた敵が大人しくテュールの手刀に気絶させられてくれたのを見届けたマシロは冷静に状況を分析し、判断していく。

 

「テュール、動けるか?」

「基本的な動作には支障なし」

 

 マシロはアイアンメイデンに捕らえられたシンイチの両親を少しのあいだ見ていたが、やがて目を閉じ、わずかに腹立たしげにテュールに指示を出した。

 

「テュールはシンイチ様の両親を持て。私はこいつを持って撤退する」

「了解」

 

 マシロは心配以上に、シンイチのことを心から信頼している。霊力をほとんど使い切った足でまといが出しゃばるよりもこうした方が良いと判断し、敵の女性を抱えて出口に戻っていく。

 

「上に向かった子供、本当に使えるんだろうな?」

 

 シンイチを信頼しているゆえに、マシロのこの場での懸念事項は上階に向かったタツキとレイタの方であった。

 

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