プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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46話『型に囚われすぎては良くないが、型破りは基本となる型がなければ型なしでしかないからまずは改まって真正面から向き合おう』

 

 

 マシロがバトルをしていた頃、タツキ・レイタ・マリナの三人は何事も無く階段から最上階にたどり着こうとしていた。

 

「最上階の一番奥にある部屋に霊力を吸収している装置と思われるものがありました。敵を無力化したら私が破壊しますので、お二人は()()()()()()バトルで敵を倒し、霊力を削いでください」

「わかった!」

「わかりました」

 

 階段をのぼりきると、目の前の廊下で待ち構えていた男が声をあげる。

 

「よく来たな、ここから先は……ヒェッ」

 

 それは明らかに怯えたような声だった。

 

「あっ」

 

 その姿をレイタは覚えている。思わず声をあげると同時に後ろを振り返り、手をかざして(たたず)むニクスを見た。

 

 その瞬間、銃声が響いたので思わず耳をふさいで前を向きなおすと、そこにはいつの間にか回転式拳銃(リボルバー)を構えていたマリナが男に発砲して()けられている光景が広がっていた。

 

「あっぶね!いきなり撃つなよもう!」

 

 今度はレイタの背後から巨大な氷柱(つらら)がいくつも男に襲いかかり、またしてもレイタは後ろを振り向く。そこにはやはり手をかざして(たたず)むニクスがいた。

 

「ウオアァァ!だが今の俺は強い!」

 

 レイタがまた前を向き直すと、待ち構えていた男……黒づくめの男はローブのような真っ黒な服の内側に隠していた剣を素早く取り出し、氷柱(つらら)を打ち落として(はじ)いて見せた。

 

 レイタはそれに驚く……と見せかけて後ろを振り向き、もう次の攻撃の準備をしているニクスをわずかに驚かせた。

 

「あら、バレちゃった」

「だるまさんがころんだやってるんじゃないんだよ。話進まないから1回止まれ」

 

 ニクスの方を向いているうちにまた発砲音が響く。どういう示し合わせか、ただの偶然なのか、ニクスとマリナはレイタが目を逸らした隙に黒づくめの男に攻撃をしかけているのでレイタは内心困り果てたのだった。

 

「おや、誰かと思えば柄本(つかもと)でしたか。生きていたんですね」

「こっちのセリフだ白銀(しろがね)マリナ……!お前なんでビルの最上階から落ちたのに生きてるんだよ!!」

「受け身をとって衝撃を受け流せば死にはしません。結構な怪我はしましたが」

「やっぱお前おかしいって!!!霊力で強化した三人で囲んでも捕まえられなかったし、今もそんな怪我で俺と戦えてるし!!!」

 

 いつの間にかマリナは得物(えもの)をナイフに持ち替え、黒づくめの男……たったいま柄本(つかもと)と呼ばれた男と近接戦闘をしていた。

 

 発言から察するに、マリナひとりで戦った時は霊力で強化された三人に囲まれたため黒づくめの男の正体を明かすことなく撤退したらしい。

 

「まだそんなことを言っているのですか?万全な状態で戦えることが前提なのは競技でしか戦わない者の思考です。本当の争いはそんな余裕を人に与えない。私にとって重要なのは、言わば『どれだけ無理をできるか』です」

 

 剣の間合いの内側に入り込み、柄本(つかもと)にとって動きにくい状況を維持しながらマリナはナイフを絡めた体術で仕掛ける。

 

 柄本は足を引っ掛けられないように警戒しながら少しづつ後退して剣を振りやすい間合いまで離れようとするが、それに合わせて間合いを詰められているために苦戦を強いられていた。

 

 ナイフは()けるか剣でなんとか受け止め、拳は霊力による強化で耐え、重心を崩されないように足も常に警戒するが解決にはならない。

 

「それと、まともな人間が裏で生きていけるはずがないでしょう。だから貴方(あなた)のように、強化されてなお剣を両手で持ち続けるような者はどこかで野垂れ死んでいると思ったのですが、生きていたとは意外でした」

「ボスに拾われたからな!それに、生憎(あいにく)俺はこの戦い方しか知らん!」

 

 剣を振ることを第一に考える柄本に対し、ナイフをあくまで手段のひとつとして捉え、手足を活用した柔軟な動きで追い詰めるマリナは間合いを詰めた以上いくらでもやりようがあり、なおかつその自由度を警戒しなければならない柄本の苦戦は必然だった。

 

 途中で思い切って後ろに飛んで無理やり間合いを作り、勢い良く剣を振り下ろすもマリナはそれを避け、剣を構えなおす隙に再び距離を詰めているために柄本にとっては壁と背中が近づいていくだけだった。

 

 霊力による強化でなんとか防戦一方で済んではいるものの、ふたりの間には既に覆せない差が開いている。柄本が廊下の突き当たりまで後退し、これ以上後ろに下がることができなくなった時が命運尽きる瞬間となるだろう。

 

「その型なしでもなく、型破りにもなれない生真面目(きまじめ)さが半端者(はんぱもの)の証拠です。()()()()()ことしかできない者はすぐに行き詰まる」

 

 現在は『物事に正面から向き合わずに皮肉めいた態度をとる』というような意味で使われがちな『斜に構える』という言葉だが、元は両手で刀を持ち、斜めに突き出して構える、いわゆる『中段の構え』を由来とすることから『改まった態度をとる・身構える』といったほぼ反対の意味の言葉だった。

 

 だがそのどちらでも、つまり型なしだろうが型にはまろうが、その先は行き止まりだとマリナは考える。

 

「すげー!アクション映画みたいだなレイタ!」

「言ってる場合じゃないだろ、僕たちの役割は敵をプレスピで倒して霊力を削ぐことだ」

「放っておいてもあのメイドが倒しそうよ?なんなら私が少し援護してやればすぐに終わるんじゃない?」

「やめてやれ、今度こそあの人……柄本さん?が死にかねない。僕がバトルするから、タツキは一番奥の部屋に行ってくれ」

「おう!」

 

 レイタはなんとか収拾がつくように取り計らうと、ため息をひとつ()き、柄本の近くまで歩いて宣言する。

 

「柄本さん!貴方にバトルを挑む!」

「うおっ!壁が!」

「その必要はなかったのですが……宣言してしまったものは仕方ないですね。ここはあのお利口(りこう)さんに任せて奥まで行きましょう、ついてきてください」

「わかった!レイタ、がんばれよ!」

 

 レイタが霊力で強化されている柄本に挑戦を宣言したことにより、強制的にバトル用の壁が展開される。それを見たマリナはすぐに切り替えてタツキを案内することにした。タツキはレイタに激励の言葉を送ってマリナについていく。

 

 レイタはそんなふたりを後目(しりめ)に柄本に話しかけた。

 

「あー……あの後大丈夫……でしたか?」

「敬語使わなくていいよ……敵同士なんだし……」

「わ、わかった……」

 

 レイタと柄本のふたりのやり取りはどこかぎこちない。二回も氷漬けにしてしまった負い目があるレイタに、敵として二度も立ち塞がったのに仲間を呼んでまで氷を溶かしてもらった柄本、どちらも心情は『敵ではあるけどそれはそれとしてなんか申し訳ないな』というものだった。

 

「あの後、ボスが(いた)わって湯治(とうじ)に行かせてくれたんだよ……今はまあ、大丈夫だ……」

「そ、そうか……」

 

 話題に事欠き、少しのあいだ気まずい沈黙が流れる。ふたりともバトルを始めるタイミングを見失っているのだ。

 

 やがて、柄本が決意を固めたように語り出した。

 

「…………あれから他の仲間は全員この仕事から降りて、今いるのは俺を含めて三人だ。なんかよくわからんが物騒(ぶっそう)なことしようとしてるっぽいし、俺も降りようかと思った」

 

 持ちっぱなしだった剣をしまい、話を続ける。

 

「だが、ボスはお世辞にも優秀とは言えない俺を拾ってくれて、任務に失敗して帰ってきたのに(ねぎら)ってくれた。ボスとはなんか気が合うし、今更裏切ろうとは思えない」

 

 そして、剣の代わりにデッキを取り出した。

 

 柄本は自身を優秀とは言えないと評したが、裏社会で生き延びてマリナが顔を知っており、さらに霊力の恩恵を受けた状態とはいえマリナと戦って無事で済んでいるのは並大抵のことではない。

 

 要するに柄本は自己評価が低いタイプだった。しかし、上には上がいることを理解している彼は『見誤ったら死ぬのは自分だから思い上がるよりはいい』と考えている。

 

「それで、湯治(とうじ)に行った時、どうせなら山奥の秘湯(ひとう)に行ってみようと思って遠出したんだが、そこで偶然にも眠っていたカードを手に入れた。俺は、お前を倒し、そこの精霊に打ち勝って、悪運だけで生き延びてきた過去を超える!」

 

 柄本はレイタとニクスを見据え、()()()()()

 

「柄本トオル、推して参る!」

「なら私はレイタを推すわ」

「そういう推すじゃないだろ」

 

 レイタは今日も平常運転のニクスにいつも通りツッコミを入れ、シンイチに今回だけ使うようにと渡されたデッキを取り出した。

 

「「バトル!」」

 

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