プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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49話『約束は一方的なものでも一応忘れないようにはしておこう』

 

 

「《アーサー王》の『召喚時』効果!デッキから透明で6コスト以下のアニマを効果を無効にして好きな数召喚する!《トリスタン》と《ランスロット》を召喚!」

 

 偉大なる円卓の騎士、《アーサー王》に続くように二人の騎士が駆けつける。

 ちなみに、この効果で1種類のアニマを複数体召喚することはできない。

 

「ターン終了時に2体の《ガウェイン》の『凍結』は解除される!ターンエンドだ!」

 

 

先攻(トオル)5ターン目終了時の状況】

柄本(つかもと)トオル

ライフ18/手札1/マナ7

場:《ガウェイン》×2(戦闘力が2に低下)

《アーサー王》

《トリスタン》(効果無効)

《ランスロット》(効果無効)

 

青枝(あおえだ)レイタ

ライフ8/手札5/マナ6

場:《せっかちな葬儀屋》

備考:後攻のマナ追加の権利未使用

 

 

後攻(レイタ)5ターン目】

「ドロー!マナを増やす!」

 

 《ニクス》は処理され、《アーサー王》で盤面も展開されており、さらに残りライフは8。そんなピンチのはずのレイタが笑みを浮かべたので、トオルは警戒心を隠すことなく問いかけた。

 

「……何故、この状況で笑っている?」

「ようやく、やりたいことができるからな」

 

 5ターン分のマナに《砂浜の亀》と《コールド・ブレス・ユー》による追加でレイタのマナも7。これでようやく、シンイチから渡されたデッキのやりたいことができる。

 

 大きな何かをかけた重要なバトルであることはわかっているつもりだが、シンイチから与えられた新しいデッキ、その戦い方にレイタは興奮を抑えきれていないのも事実だった。

 

「《ヘルヘイムの女神・ヘル》を召喚!」

 

 地の底から現れたのは、半身が腐敗した者。

 死者の国を支配する女神がレイタのもとに顕現(けんげん)した。

 

「《ヘル》の『召喚時』効果!相手の場のアニマ全ての戦闘力をマイナス4する!」

「は?」

 

 《ヘル》が手をかざすと、《トリスタン》と2体の《ガウェイン》は倒れ、《アーサー王》と《ランスロット》の武装が朽ち、2人して膝をついた。

 出ただけで《アーサー王》が作った盤面を『凍結』によるその場しのぎでもなく普通に返してくるような、レイタが入れているはずのないカードにトオルは動揺しつつ抵抗する。

 

「だが、戦闘力が0になって破壊された《トリスタン》の効果!《ヘル》を破壊だ!」

 

 レイタは再び笑みを浮かべる。それを見たトオルがしまったと思った頃にはもう手遅れであった。

 

「《ヘル》の効果!このアニマが場から墓地に置かれたなら、自分の墓地から赤・白・黒色を持たない8コスト以下のアニマ1体を『蘇生』する!」

「へ?」

「《ニクス》を『蘇生』!さらに『召喚時』効果で《アーサー王》と《ランスロット》を『凍結』!」

「今度こそ本領発揮よ、ひれ伏しなさい」

 

 若干不機嫌そうに戻って来たニクスが満身創痍の騎士2人を容赦なく凍らせる。見た目的には十分致命傷になっていそうだが、これはカードゲームのため騎士2人はまだ楽になれなかった。

 

「《せっかちな葬儀屋》でプレイヤーを攻撃してターンエンド!」

 

【柄本トオルのライフ:18→16】

 

 

先攻(トオル)6ターン目】

「ドロー!マナを増やす!……《アーサー王》が場に残ってくれて助かったよ」

 

 《アーサー王》の戦闘力は5。《ヘル》による弱体化を受けてもまだ戦闘力1で場に留まっている。

 そんな《アーサー王》が凍りつきながらも槍を手に持っていた。

 

「マナゾーンの《ロンゴミニアド》の効果発動!自分の場に《アーサー王》がいるなら、このカードを墓地に置き、相手の場のアニマ1体を破壊する!《ニクス》を破壊!」

「またマナゾーンのカードの効果……!」

 

 しかも除去効果であることにレイタは何度目かも忘れた驚愕をする。マナゾーンから《ロンゴミニアド》を墓地に置くためデメリットもあるが、それでも破格の効果だ。

 

「ターン終了時に《アーサー王》と《ランスロット》の『凍結』は解除される……ターンエンドだ」

 

 幸いにもトオルが動かなかったので、レイタは胸を撫で下ろす。

 

 

後攻(レイタ)6ターン目】

「ドロー!マナを増やして《恐怖の幻影》を召喚!」

 

 レイタはシンイチの入れ知恵を思い出す。

 

 《恐怖の幻影》は戦闘力1だが、墓地に置かれると自分のアニマを『蘇生』し、それが5コスト以上なら自分のターン終了時に墓地に置く。

 これで《ヘル》を『蘇生』して弱体化を()き、《ヘル》が墓地に置かれると今度は《ヘル》の効果によって《ニクス》が制約なしで『蘇生』できる。

 

 他にも《地獄からの召喚》は黒以外のアニマを『蘇生』すると弱体化させるが、《ヘル》を経由すれば逆に相手の場に弱体化を撒きながら最終的には《ニクス》をフルパワーで『蘇生』できる。

 シンイチがレイタに渡したデッキ。それは青黒で《ヘル》と《ニクス》を使い回して相手を押し潰すことだけを目的としたシンプルなデッキだった。

 

「《せっかちな葬儀屋》でプレイヤーを攻撃!」

「《アーサー王》でその攻撃を阻止する!」

 

 《ランスロット》の戦闘力は《ヘル》による弱体化で2になっている。《せっかちな葬儀屋》と相打ちにしても良かったはずだが、戦闘力が1になっている《アーサー王》でわざわざ阻止しにきた。

 

「ターンエンド!」

 

 レイタは目的を測りかねていたが、トオルの手札には《マーリンの予言》から持ってきたカードがずっと温存されていた。

 

 

先攻(トオル)7ターン目】

「ドロー!マナを増やす!《湖の乙女・ヴィヴィアン》を召喚!」

 

 《ランスロット》だけが残る場に現れた湖。そこから乙女が出てきて、聖剣を持って湖に戻って行った。

 

「《ヴィヴィアン》の『召喚時』効果!自分のマナゾーンに《エクスカリバー》があるなら1枚を墓地に置き、自分の墓地の《アーサー王》1枚を手札に戻してそのコストを0にする!」

「0コストに…!また来るか……!」

 

 これも説明の必要がないためトオルは言っていないことだが、この効果は場から《アーサー王》が墓地に置かれていないなら使用できず、マナゾーンに《エクスカリバー》がないなら別の効果になる。

 

「0コストの《アーサー王》を召喚!『召喚時』効果でデッキから《ガウェイン》と《トリスタン》を効果を無効にして召喚する!」

 

 再び立ち上がった王。そしてその背を追って現れた騎士。レイタはその中でも《ガウェイン》を見て驚いた。

 

「戦闘力が……!」

「《アーサー王》は効果を無効にして召喚する。つまり、《ガウェイン》の弱体化も無効になる!」

 

 《アーサー王》の効果は《乙姫》に近い。だが『効果が無効にされる』という欠点と『《乙姫》より強いアニマを出せる』という利点があった。

 そして、『効果が無効にされる』ということは必ずしも欠点ではない。

 

 《ガウェイン》の効果は強化ではなく元々過剰に高かった戦闘力の弱体化だ。それを《アーサー王》は無効化するため戦闘力6で運用できる。さらに序盤でレイタを驚愕させた貫通効果はマナゾーンの《ガラティーン》が発揮する効果のため、5ターン目以降でも最大出力で《ガウェイン》を使える。

 

 しかも、『浄化』と違って墓地で発動する効果は無効にしないため《トリスタン》の効果は発動できるという噛み合いの良さだ。

 

「ターンエンドだ!」

 

 トオルは《恐怖の幻影》から出てくるであろう《ヘル》を警戒して唯一動ける《ランスロット》で攻撃せずターンを終了する。

 最初から《恐怖の幻影》を攻撃して先に《ヘル》を『蘇生』させておけばまだマシだったのかもしれないが、お互いのカードをあまり把握できていないためそれが最適解になるとは限らない。そういう点では付け焼き刃のデッキでプレイが甘いのはお互い様と言えるだろう。

 

 

後攻(レイタ)7ターン目】

「ドロー!マナを増やしてスペル《魂の抽出》を発動!《恐怖の幻影》を『埋葬』してカードを2枚引く!」

 

 再び地の底から現れるは死の女神。

 

「《恐怖の幻影》の効果で墓地の《ヘル》を『蘇生』!ただし、5コスト以上だからターン終了時に墓地に置かれる!そして《ヘル》の『召喚時』効果で相手の場のアニマ全ての戦闘力をマイナス4する!」

「……破壊された《トリスタン》の効果で《せっかちな葬儀屋》を破壊だ」

 

 《ヘル》を破壊しなくてもどうせ《恐怖の幻影》の効果で墓地に置かれる。それならずっと場に残り続けている《せっかちな葬儀屋》を破壊しておくというのは悪い考えではないが、その宣言を聞いたレイタは再び笑みを浮かべた。

 

「スペル《黄金(おうごん)林檎(りんご)》を《ヘル》に発動!」

 

 《ヘル》が黄金に輝く林檎を(かじ)る。

 

「場のアニマ1体を選択し、そのアニマは戦闘力が下がらなくなり、墓地へ置かれたなら1度だけ『蘇生』する!」

「……ヒッ」

 

 効果を聞いて何が起こるか察したトオルが思わず軽い悲鳴をあげ、対照的にレイタはやりたいことが上手くいっていることに喜んだ。

 

「ターン終了時に《恐怖の幻影》の効果で《ヘル》が墓地に置かれ、《ヘル》の効果で《ニクス》を『蘇生』!さらに《黄金の林檎》の効果で《ヘル》を『蘇生』!そして《ヘル》の『召喚時』効果も発動!」

 

 いよいよ《ニクス》と《ヘル》が同時に現れ、《ヘル》がもう一度『召喚時』効果を発動させてトオルの場のアニマを弱体化で根絶やしにする。

 

 自分の『凍結』効果が活躍しないからか、別の理由があるのか、ニクスはまだ機嫌が悪そうだった。

 

 

先攻(トオル)8ターン目】

「……ドロー!マナは増やさない。1コストスペル《山で眠る王》を発動!自分の墓地の《エクスカリバー》をマナゾーンにアクティブで置き、《アーサー王》を手札に戻す!」

 

 《ヴィヴィアン》や《ロンゴミニアド》でマナゾーンのカードは減っているが、それでもこれでマナの総数は8で、アクティブのマナは7。《アーサー王》を召喚できる値だ。

 

「《アーサー王》を召喚!『召喚時』効果で《ガラハッド》《パーシヴァル》《ボールス》を効果を無効にして召喚!ターンエンドだ!」

 

 

先攻(トオル)8ターン目終了時の状況】

柄本(つかもと)トオル

ライフ16/手札0/マナ8

場:《アーサー王》

《ガラハッド》(効果無効)

《パーシヴァル》(効果無効)

《ボールス》(効果無効)

 

青枝(あおえだ)レイタ

ライフ8/手札3/マナ9

場:《ニヴルヘイムの女王・ニクス》

《ヘルヘイムの女神・ヘル》

備考:後攻のマナ追加の権利未使用

 

 

後攻(レイタ)8ターン目】

「ドロー!マナを増やす!…………」

 

 さっきまではやりたいことができて多少浮き足立っていたレイタだが、今はむしろ嫌な予感がしていた。この状況に既視感があったからだ。

 

 そして、その嫌な予感は当たっていた。

 

 トオルが『今なら引ける』と確信しているカード、《モルドレッド》。それは自分の場に《アーサー王》がいるなら破壊し、戦闘力9になって『突撃』を持つアニマだった。

 

 そしてマナゾーンに眠るモルドレッドの剣《クラレント》は『このカードがマナゾーンにあり、《モルドレッド》の攻撃が阻止されたなら、その《モルドレッド》の戦闘力分のダメージを相手に与える』という効果を持つ。

 

 霊力を身に宿しているのもあるのかもしれないが、《アーサー王》を筆頭にデッキを圧縮した上でデッキに3枚残っていること、そしてそれ以上に今ここに、はっきり言って自分のトラウマである女王(ニクス)の前に自分が再び立っていることこそ『今なら引ける』と確信させる大きな自信になっていた。

 

 トオルは手に汗を握り『絶対に引ける!引いてやる!その精霊(ニクス)の効果もちゃんと考慮してわざわざ場をあけたんだ!俺は成長している!』と前のターンを振り返る。

 

 

 そして、レイタは過去の大敗を思い出す。

 

 相手が場をあけてフィニッシャーを置く余地を残していた状況、瞬間的に飛ばせる大ダメージで敗北したかつてのバトル……

 

 だがこのターンで決着をつけることはできない、どうするかと悩むレイタと、今か今かとターンが回ってくるのを待つトオルの膠着(こうちゃく)に、割って入る声がした。

 

「ところで、約束したわよね?」

 

 唐突に約束などと言い出したニクスに2人は疑問符を浮かべ、バトルの途中にも関わらず何か約束にあたることをしただろうかと思い返す。

 

「……あ」

 

 トオルはここから《モルドレッド》を引くだけで考える余裕があったことと、なし崩し的にこの状況になったために今まで忘れていたが『自分にとって大きな意味があること』だったのでいち早く記憶の片隅から約束にあたる情報を引っ張り出し、声をあげた。

 

「私、言ったわよね。『次私たちに近づいたら凍らせた上で粉々にする』って」

 

 そう、レイタとトオルが最初にバトルをした時、ニクスは『レイタが勝ったら二度と私たちに近づかないこと。約束を破れば今度は凍らせた上で粉々にしてあげる』と言っていたのだ。

 それを思い出したトオルは顔を青ざめる。レイタもここにきて暴力で解決する気かとニクスを見た。しかし……

 

()()()()()()()。最近負け続きだし、たまには私からいいところを見せてあげるわ」

 

 ニクスはあくまでプレスピの範囲内で解決する気らしい。どこか茶目っ気のある語調で宣言し、霊力をみなぎらせた。

 レイタは頷き、この場はニクスに全てを託すことを決意する。

 

「《ニクス》の効果発動!2コスト払い、《アーサー王》を『凍結』させる!」

 

 ニクスが手をかざすと、王が凍りつく。

 

「もう一度2コスト払い、《ガラハッド》を『凍結』!」

 

 騎士のひとりも凍りつく。

 

「さらに2コスト払い《パーシヴァル》を、もう2コスト払って《ボールス》を『凍結』させる!」

 

 これで4人の騎士は全員氷像と化した。

 

 あの時のバトルを思い出して身震いするトオルだが、攻撃を全て受けてもライフは残る。そして《アーサー王》が残り、場があいている以上《モルドレッド》を引けば勝ちだと気を強く持つ。

 

「《ニクス》と《ヘル》でプレイヤーを攻撃!」

「ぐおおおっっ……」

 

【柄本トオルのライフ:16→3】

 

「ターンエンド。ニクス、これでいいんだな?」

「上出来ね、後で撫でてあげるわ」

「それは遠慮する」

 

 大ダメージこそ受けたが、ライフが残ったことに安堵(あんど)するトオル。その安堵にヒビが入るかのように、氷像と化した4人の騎士にヒビが入りだした。

 

 何事かと騎士たちを見るトオルにニクスが告げる。

 

「私の効果。レイタのターン終了時に場の『凍結』しているアニマ全てを破壊し、破壊したアニマの数だけ相手プレイヤーにダメージを与えるわ」

「……は?」

「お前、そんな効果いつの間に……」

「今作ったわ。この効果で4体のアニマを破壊して4ダメージを与える」

 

 トオルのライフは残り3。手札もない。

 

 これで終わりだった。トオルは死を覚悟し、目を瞑った。

 

 内心は『なんだそのインチキ……!!!』と不満だらけだったが、ニクスは宣言通り己を氷漬けにして粉々にするだろう。だからこそ最期くらい(いさぎよ)く散るべく、表には出さなかった。

 

【柄本トオルのライフ:3→0】

 

 

 

 4人の騎士が()()()()()()()()()()()()()、それと同時にダメージが入ってバトルは終了した。

 

「ほら、宣言通り凍らせた上で粉々にしてあげたわよ?」

 

 ニクスは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。得意げにレイタにウインクをするニクスの茶目っ気を、2人ともに理解しきれていなかったのだった。

 

「……柄本さん、気絶してるぞ」

「あら」

 

 死を覚悟しても怖いものは怖かったので、トオルは気を失ったまま敗北していた。

 

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