プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜   作:匿名S

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4件目の10点評価、本当にありがとうございます。勢い任せですが頑張ったので土日の0時にも投稿します。久しぶりの連日投稿です。



51話(閑話)『黒崎アキラの焦燥』

 

 

 僕の人生は妹が生まれてから狂い始めた。いや、1つしか離れてないのにそこまで言うのは過言かもしれないが、歯車が狂ったきっかけが何かと問われれば間違いなく妹の誕生だと答えるだろう。

 

 

 それは小学校高学年には感じていたことだった。

 

 常にテストで100点を取るアカネに両親はご満悦で、95点とか98点を取る僕には『もう少しで100点だから頑張ってね』と言った。前まではすごいと素直に褒めてくれたのに。

 

 中学校に上がってもその差は埋まることはなかった。

 

 テストの点数もアカネはずっと100点だったし、噂によると体育の授業で行うスポーツも大活躍らしい。最初こそ部活動でやっている人達に負けるものの、すぐにやり方を理解して誰よりも上手くなるそうだ。

 それに対して僕は部活動でやってる人達と張り合うのがやっとだし、テストも100点は取れない。どれだけ頑張っても、どんな分野でも、アカネを超えることはできなかった。

 

 これくらいの年頃になるとアカネは明確に周りの人の憧れの対象になるわけで、時々『紹介してほしい』だとか『代わりに手紙を渡してほしい』といった目的で僕が話しかけられることもあった。

 当たり障りのないようにやんわりと断ったり、手紙は渡すだけ渡しておいたりしたけど、『あんな妹がいるなんていいよな』と言われた時は流石に冷静さを失いそうになった。

 

 この頃にはすっかり両親はアカネの優秀さに慣れてしまったようで、相変わらず90点台後半を必死に維持していた僕には『もう少し頑張れば100点でしょ。兄なんだからしっかりしなさい』と言うようになった。

 そして僕はアカネ目当てで話しかけて来る人達と友人になったフリをして昼休みや放課後にスポーツの練習に付き合ってもらったり、夜は寝る間も惜しんで勉強して生きていた。

 

 時々、アカネが小さい頃に拾ってきた飼い猫のルナを撫でて気を紛らわせていたのが唯一の安らぎだったが、その時に感じ取れるルナの気の毒そうな雰囲気を未だに覚えている。

 

 

 高校に入ると少し状況は変わった。といっても僕のことではないけど。

 

 人の気持ちは段々と憧れから嫉妬になるのか、今まで()(はや)されていたアカネが孤立したんだ。

 

 周囲の声に聞き耳を立てて話を要約すると、周りの人たちにとってアカネは『すごい、天才だ』から『天才だからすごくて当然』という認識に変わっていったらしい。『どうせ才能ありき』『才能があるやつはいいよな』という愚痴みたいな陰口も聞こえてきた。

 当の本人(アカネ)は気にしてない素振(そぶ)りだが、実際どうなのかはわからなかった。思い返せば昔からアカネに友達といえる友達はいなかったから今更気にしてないのかもしれないし、ずっと気にしているのかもしれない。

 でも、少なくとも『友達だなんて恐れ多い』だとか『優秀すぎて怖い』だとか、そんなことを思うような人と気心の知れた仲になるのは難しいだろうし、もっと言うと本気になれるような相手がいない孤独は感じていると思う。

 

 もしかしたらプレイスピリット(カードゲーム)なんて実力の出にくいゲームに打ち込んだのも、何でもいいから本気でやりたかったのかもしれない。

 

 それについては全然納得がいかなかった。

 

 アカネは『燃焼』でデッキ切れを起こして負けることだけは一度もなかったのに、度々デッキ枚数の管理を怠って負けるようなプレイヤーに倒されることだってある。アカネが弱いんじゃなくて、そういうことがあるのがこのゲームだ。そんなに簡単にアカネに勝てるなら今までの僕の人生は何だったのか、いや、別にプレスピでだけ勝っても解決にはならないけど、とにかく納得いかない。

 アカネに簡単に負けられると、今まで勝てなかった自分がもっと惨めになる。だからせめてもっと実力が出るゲームにしてほしいと思ったが、それこそ僕にどうにかできる問題ではない。

 

 

 段々と自分が何のために何をしているのかもわからなくなってきて、親に未だにテストで100点を取れないことを責められ、時々自室に心配そうに顔を出しに来るルナを撫でて過ごしているうちに進路を決める時期になった。

 

 最初はできるだけ良い大学に行こうかと思ったが、きっと早く『学生』という肩書きを捨てた方がマシだと思い至った。

 僕が高卒で就職するつもりだと話すと、親はあっさりと容認した。言葉にこそしなかったが『お前みたいな落ちこぼれはどうでもいい』とでも言いたげな顔はしていた。

 中学時代に言われたことだが、曰く『アキラってほんと鋭い所あるよな』というのは伊達じゃないらしい。機微(きび)(さと)くてもこうなるのだから良い事なんてないが、あえて前向きな言い方をすると決心はついたと捉えることもできた。

 

 

 それからアースガルズ社に入社して、家を出て一人暮らしを始めて、特に何をするでもなくただ仕事をして、どう場所を知ってどうやって来ているのかわからないが時々家にやって来るルナを撫でて過ごしていた。家族は一応僕の住所を知っているが、ルナに教えても仕方ないからと話していなかったはずなのに、本当にどうやっているんだろう。まあ、嬉しいけど。

 

 そんな生活の中、一つ知ったことがある。

 

 それが『プレイスピリットというゲームの真実』だ。

 

 会社でチームのリーダーをつとめることになった時、上司に『知っておくべき機密情報』として伝えられた。

 詳細は省くが、このゲームは抑止力であり、精霊を呼ぶための祈りであり、精霊を人から剥がす手段でもあるとのことだ。

 

 そして、それを利用すれば世界に大きな被害を与える、あるいは世界を終わらせうる神をも呼ぶことすらできる。話を聞きながら、その思いつきだけがずっと僕の心を掴んでいた気がする。

 

 

 

 ある日、久しぶりにアカネから連絡が来た。

 

 アカネは、涙声でルナが亡くなったということを僕に告げた。

 

 

 多分、きっかけはそれだった。

 

 自分では想像もつかないほどルナが大きなものだったんだと思う。今までずっとおさえつけていた感情が爆発して、自宅で泥酔しながら言葉にならない声をあげた。

 

 どれだけ頑張ってもアカネに追いつけない自分も、本気で努力する気もないのに才能だけ羨んで憧れや(ひが)みを口にする周りの有象無象も、そして、そんな才能を持ってるのにプレスピなんてゲームに打ち込んで有象無象に付け入る隙を与えるアカネも、全部全部嫌いだ。いっそ滅びてしまえばいい。そんな風なことを、呂律(ろれつ)の回らない口で叫んだ気がする。

 

 いつの間にか眠って目を覚まして、職場に行って作業をしている時、いやに冷静さを取り戻したように思い至った。

 

 

 本当にこの世界を滅ぼしてしまおう、と。

 

 

 一度そう思うと、まるで取り憑かれたようにそれが最善の選択に感じられて、いつの間にかただの思いつきは使命に変化した。

 

 

 それからは仕事をこなしつつ協力者を探して、挨拶に来た別の会社の人をスカウトした。一目見てこの世界と自分に絶望しているのがわかったから、真っ先に『一緒にこの世界を壊さないか?』と言って。

 目的は『神降ろし』で世界を滅ぼしうる神を呼ぶことだが、達成前に武力行使で止められることも想定して2人で『精霊の霊力を吸収する装置』の開発を進めることにした。精霊カードを投入すれば霊力を吸い取って人に付与できる設計で、これで自分達を物理的に強化して武力行使に対抗する算段だ。

 

 そのために精霊カードを集める必要があるし、元手となる戦力もほしいから裏社会にも足を踏み入れて口の堅そうな傭兵を集めた。流石に世界を滅ぼすなんて明かせないからそこは隠したけど、『神降ろし』を目論む人は時々いるらしいから傭兵も慣れているらしく、多少の人員はすぐに集められた。

 特に柄本(つかもと)さんという人とは気があったから、よく話をした。柄本さんは自己評価が低いのが玉に(きず)だが、裏社会の事情に疎い僕にも親身になって色々教えてくれて頼りになった。

 傭兵達の噂によると白銀(しろがね)さんという人を雇えたらほぼ勝ちらしいが、柄本さんによると今は逆に治安を守る側の人達に雇われているらしく、引き抜きはリスクが高いそうだから断念した。それと、その白銀さんに見つかる前に神降ろしか霊力による強化を成功させないとまずいかもしれないということも聞いていっそう力を入れた。

 

 そうしてしばらくは水面下で動く日々だったが、精霊カードの回収を依頼していた傭兵達は次々と降りていった。竜に焼かれたとか、何かに噛まれた気がしたらいつの間にか倒れてたとかで怖くなってきたらしい。計画の口外だけはしないと約束してくれたし、無理させると逆にバラすかもしれないから容認していたらいつの間にかたった3人になっていた。

 

 傭兵の中で唯一最後まで着いてきてくれている柄本さんは2回も氷漬けにされたらしいから湯治(とうじ)に行かせてあげた。何より、アースガルズ社の凄まじい技術を流用して作った装置の開発は想像以上に上手くいって、このまま完成すれば『街中(まちじゅう)の精霊の霊力を吸収する装置』になる見通しが立ったからだ。

 

 

 そして、その見通しが立ったあたりでアカネに連絡をとった。アースガルズ社の人間として。

 

 本社とは違う隠れ家にしているビルにアカネを呼び出し、テストプレイという建前でアカネに何度もバトルをさせる。上に怪しまれないかが心配だったが、幸いにも新しい機材のテストとして誤魔化せた。

 アカネがプロのプレイヤーになっていたのも都合が良かった。事務所に話を通すことができれば、その肩書きはテストプレイの人材として起用することに大きな信ぴょう性を付与することになるからだ。

 

 神の依代にするとしたら優れた人間の方が良いと考え、アカネを騙して何度も祈りを捧げさせる(プレスピをさせる)ことに罪悪感を全く覚えなかったわけではないが、自分の感情が思ったより希薄になっていることに気がついた。もう僕は世界を滅ぼすために計画を進める機械のようなものだ。

 

 だから、精霊になってこの世に戻ってきていたルナを見ても、計画をやめることはしなかった。

 ルナが心配するように鳴いても、やめるわけにはいかない。

 悲しそうな表情で見られても、もう、引き返すことはできない。

 

 

 そうして、装置は完成して、いよいよ計画も大詰めだ。

 

 いつも通り長時間のテストプレイで疲弊させつつ祈りを捧げ(プレスピを)させたアカネに仮眠を取らせ、眠ったことを確認して地下に連れて行く。

 プレイスピリットの秘密の一つ。それは『所持・使用しているカードによって降臨しやすい精霊が変わる傾向にある』ことだ。つまり、動物の精霊を呼びたいなら動物のカードを使う方が降臨しやすくなるし、神のカードを持っていれば神が降臨しやすくなる。

 

 アカネは《十二天神(じゅうにてんじん)焔摩天(えんまてん)》を持っているから神は降臨しやすいが、守護者でもある《焔摩天》を呼んでも意味はないだろう。だが、キツネを呼ぼうとしてタヌキが降臨するように、《焔摩天》を持っていても別の神が降臨することは大いにありうる。

 それに、眠らせたアカネのデッキを見てみると、いつの間にかアカネが持っているカードが1枚変わっていた。そのカードを見て計画の成功を確信する。

 

 それからいつの間にか侵入して装置を破壊しに来た白銀さんを3人がかりでどうにか追い返して、準備がかろうじて間に合ったことに本気で安堵した。

 

 白銀さんが初手で僕達の暗殺じゃなくて装置の破壊を最優先にしたこと、装置の外殻を可能な限り頑丈にしていたこと、そしてこの時偶然3人で固まっていたことが幸いして彼女と勝負の土台に立つことができた。

 この3つの幸運のどれか1つでも欠けていただけで僕達は全滅していたと思う。それくらい強かった。こっちは霊力で強化した3人がかりなのに、あのまま戦い続けていれば勝てたとしても無事では済まなかったという確信がある。

 今も白銀さんが僕にあえて銃弾を()けさせてヒビを入れておいた窓を割って飛び降りた時の衝撃は忘れられない。どう考えても人が落ちて生きていられる高さじゃないのに、地上に姿がないことを見るにそのまま撤退されてしまった。

 

 …………あれは天才とかじゃなくて異常だな。実力もそうだし、何より覚悟が違う。

 

 

 気を取り直して、裏社会から得た情報で『雷霆教』を1人で壊滅させた要注意人物である真常(しんじょう)シンイチという人の両親を予め(さら)っておいたからアイアンメイデンを模した機械に拘束させて、それぞれ所定の配置で待ち構えて神が降りるまでの時間を稼ぐ。

 真常シンイチ本人をどうにかできたら良かったんだけど、攫いに行った傭兵が誰も帰ってこなかったから、恐らくは白銀さんみたいに化け物じみた人なんだろう。だがまあ人質も用意したし、最悪の場合は時間だけ稼いで『神降ろし』が成功していることを祈ろう。

 

 

 さあ、終わりの始まりだ。

 

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