プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
「それで、僕はどうなるのかな」
プレスピで敗北したことでルールによってその身に宿した霊力のほとんどを失い、さらに
「本来なら処分しているところですが、協力者のほとんどがそれを容認しない性格ですのでどうにもなりません。それと、プレイスピリット関連の技術を担うアースガルズ社の人間が事件を起こしたことが
マリナは無表情で淡々と処遇を告げる。
「私が一人で全て解決できていれば全員土の下に埋めていたのですが、感謝するなら私が弱かったことに感謝してください」
そう言われたアキラは納得がいっていなかった。
「……霊力で強化された三人と
マリナの発言の『私が弱かったこと』という部分に。
しかし、すぐにそんな話をしている場合ではないことを思い出す。
元々最上階で自分が待ち構えて、隠していた地下室で本来の目的を達成するつもりだったためこのまま時間を稼いでも良かったのだが、今それを隠すのは違うと思った。
「早く地下に行った方がいい。既に地下室のアカネは恐らく……」
「問題ありません。地下にはシンイチ様が向かっています」
「シンイチ……
マリナがその発言を鼻で笑った。
「シンイチ様のことを舐め腐っていますね」
伊達にシンイチのことを見てきていないのだ。マリナからしたらそんな浅い認識でシンイチのことを脅威とみなし、対策になっていない対策をして勝てるわけがないと思っているのは笑わざるを得なかった。
「シンイチ様なら『強いデッキがなぜ強いのか考えず、ろくに分析もしないで対策したって大抵上手くいかない』とでも言っている所でしょうね。まあ、出来のいい妹に憧れて同じデッキを使い、失敗するような者にはわからなくて当然ですが」
困惑するアキラに、確信しているとばかりにマリナは宣言した。
「シンイチ様なら問題ありません。必ずなんとかします」
◆
俺がバトルを宣言した時、いつの間にか現れたルナがよろよろと歩いてきて、ぐったりと俺の目の前に横たわる。その口には《猫又・ルナ》のカードがくわえられていた。
そのカードを受け取ってデッキケースにしまうと、ルナはカードに戻っていった。
「大丈夫だよ、なんとかするから」
まあきみは使わないけど。
【
「ドロー、手札を1枚マナゾーンに置いてターンエンド」
《猫又・ルナ》がデッキから抜けたはずだけど、バトルは問題なく始まってる。どうせ霊力でカード作ったんだろうなあ。
【
「ドロー、手札を1枚マナゾーンに置いて《焼畑》を発動」
これ絶対《焚き木》落とすよね。絶対やってくるよね。
「『燃焼』3でカードを3枚引く。この効果で墓地に置かれた《焚き木》の『起爆』が発動、このカードをマナゾーンに置く」
ほらやった、もうやったよ。ランダム要素は考慮して立ち回るものであって、操作するものではないよね?
本来は霊力とかいう不思議パワーだとか、カードとの絆やら信頼みたいなものでどうにかできていいものではないよね?
「それと《ドラウプニルのレプリカ》の『起爆』も発動。このカードを自分の場に置く」
そしてそれはなに?そのやたら光りながら出てきた
「ターンエンド」
【
「ドロー、マナを増やして《悪魔商人》を召喚。『召喚時』効果でカードを1枚引いて、手札を1枚墓地に置く」
黒崎さんのデッキ、確実に変わってるだろうから悩むけど……まあ、こういう時は基本に忠実に。先に《
「ターンエンド」
【
「ドロー、マナを増やして《闇の回収業者》発動。墓地のカード2枚を手札に戻し、手札を1枚墓地に置く。《焚き木》を発動。このカードをマナゾーンに置く。ターンエンド」
なんで赤色を使う人って《焚き木》を『起爆』させた上で手札にも持ってるんだろうね?初手6枚とターン開始時のドロー2枚、あとは《焼畑》の6枚で14か、デッキを14枚しか掘ってないのにもう《焚き木》が2枚出てる。
えーっと、大雑把に14枚引いて3積みのカードを2枚以上引く確率は……昔調べた記憶が間違ってなければ3割くらいだっけ?実際には『燃焼』から《焚き木》を当てた上で手札にも持ってるからもっと確率は低いんだろうけれど。
まあ、試合中に効果が増えたり変わったりする純度100パーセントのインチキと違って確率上はじゅうぶんにありうるわけだし、一々気にしてられないか……
【
「ドロー、マナを増やす」
《闇の回収業者》で《焼畑》を手札に戻されてるから結構加速されそうなんだけど、こっちは普通かなあ。《地獄に咲いた
《
「《悪魔商人》でプレイヤーを攻撃」
【黒崎アカネ?のライフ:20→18】
「《脱獄ゾンビ》を召喚してターンエンド」
【
「ドロー、マナを増やして《焼畑》発動。『燃焼』3でカードを3枚引く」
さっき《闇の回収業者》で手札に戻した《焼畑》だ。赤黒はこういうことができるから強い。ただ、赤黒をちゃんと使いこなして勝ちきれる人は黒崎さんしか見たことがない。悲しいことにね。
「今墓地に置かれた《ミョルニルのレプリカ》の『起爆』が発動。このカードを場に置く。ターンエンド」
ミョルニルかあ……嫌だなあ……
それにしても4マナも余らせたね。『緊急詠唱』のためなのか、あるいは使う必要がなかったのか。まあ後者だろうね。
【
「ドロー、マナを増やす」
そういえば、少し気になることがあるから聞いてみることにしよう。
「ねえ、きみっていまは
「……失礼ね、私のことを忘れたの?」
「ボロを出すのが早いね、一人称が違う。じゃあ精霊さんか。よかった」
「……良かった?」
え、だってよかったとしか言えないじゃん。
これは俺の見解だけど、
唯一デッキに
これが意味することは『自分のデッキ枚数を直接数えることができない』ということだ。
基本的に大会では持ち時間がある。一々デッキ以外の全てのカードを数えて確認するのは手間だ。だから黒崎さんは暗算で残りのデッキ枚数を常に把握してどれだけ『燃焼』を使えるかの
しかも黒崎さんはデッキの中になにが残っているかも全て覚えているし、大会の長丁場で毎試合そんなことをしてる。墓地24枚はほしい《焔摩天》がフィニッシャーだからというのもあるかもしれないけれど『燃焼』をただの墓地肥やしだとかデッキ圧縮として割り切らず、少しでも勝率を上げるために妥協しない。
だから《バックドラフト》の『自分のデッキ枚数が2枚以下なら回収したカードのコストをデッキ枚数と同じにする』という追加効果を毎試合のように使えている。
発想や考察よりも『実戦で強いものを強く使う』ことが得意だったせいか昔は違うデッキを使ってて伸び悩んでいたけれど、いまのデッキになって、さらに飼い猫のルナが死後に《猫又・ルナ》として帰ってきてから黒崎さんはもっと強くなった。
だから……
「相手が黒崎さんじゃなくて
それに強い精霊って
明らかに強すぎるカードを作るには霊力が足りないのか、プレスピに付与されたルールに違反するのかはわからないけれど、好き放題するにも限度があるのに。
まあつまりなにが言いたいかというと、
「《脱獄ゾンビ》でプレイヤーを攻撃」
【黒崎アカネ?のライフ:18→15】
「スペル《人身御供》を発動。《脱獄ゾンビ》を『埋葬』して、このカードをマナゾーンにアクティブで置く。《悪魔商人》でプレイヤーを攻撃」
【黒崎アカネ?のライフ:15→13】
やっぱり『緊急詠唱』狙いじゃないね。多分、場を埋めたくないからマナを使ってない。
逆にこっちは手札のことを考えると『緊急詠唱』はできるようにしておきたい。このまま3マナ残して終わりかな。
「ターン終了時に《脱獄ゾンビ》の効果発動。このアニマが場から『埋葬』されたなら、ターン終了時に自身を『蘇生』する。ターンエンド」
【
・真常シンイチ
ライフ20/手札3/マナ5
場:《悪魔商人》(インアクティブ)
《脱獄ゾンビ》
備考:3マナがアクティブ
・黒崎アカネ?
ライフ13/手札9/マナ5
場:《ドラウプニルのレプリカ》
《ミョルニルのレプリカ》
備考:後攻のマナ追加の権利未使用
【
「ドロー、マナを増やす」
黒崎さんを依代にしてる精霊さんはそれだけやると話をはじめた。
「もう取り繕う必要は無いな。今バトルしてるオレは神様だ」
うわぁ……さっきから強い精霊さん特有の強い違和感で具合悪かったのに、黒崎さんの身体でその口調は追撃でしかない。違和感の二度漬けだよもう。マナー違反でしょ。
「コイツは馬鹿みたいに自我が強くて乗っ取るのに苦労したが、一番
「どうやったの?」
「簡単なこった。『身体を渡せば真常シンイチとバトルできる』って言ってやっただけさ」
「えぇ……」
それで抵抗が弱まるの?そんなにバトルしたがってたの?この地雷系は。
「一度主導権を握れば後はこっちのもんだったんだがな?その時に色々流れ込んできて一瞬だけ気が狂いそうになったからな、ちょっとだけ仕返ししてやるよ」
え、なに、こわい。
「オレが昔他の神に色々言った時のことを思い出すな。まあいい。お前、自分が
「ないね」
「バッサリかよ、悲しいもんだな。コイツの心はオマエがいなきゃ寂しくて死にそうだって言ってんのにな」
そうだったんだ。あんまり期待しないでほしいんだけどなあ。自分でいうのもなんだけど、結構なろくでなしだよ俺。
「オマエは自己評価が低そうだからわからないかもしれないが、優秀すぎるってのも考えものだと思わねえか?」
「自己評価が低いのは否定しないけれど、それは思うかな。出る杭は打たれるし、なんならいいように使われるんだから、優秀でもいいことなんてない」
「なんだ、わかるクチか。そうだろ?現代で『IQに20以上の差があると会話が成立しない』なんて言われるのも頷けるぜ。とにかく、友としてライバルとしてオマエは必要だったってわけだ。なのに勝手に引退して姿消しやがってな、コイツの気持ちは考えたことないのか?」
黒崎さんの気持ちねぇ。それを言われると俺の気持ちも考えたことないのかって言いたくなるけれど、まあ考えたことはあるだろう。黒崎さんやたら鋭いし。
無駄な誤解はしてほしくない。だからここは
「あるかもしれないし、ないかもしれないね。俺が考えた気になって、的外れなことをしたかもしれない。それでもひとつだけ言えるのは、人と人は違うってことだ。
「ある一点?……あー、そういうことね」
それを聞いて精霊さんは黒崎さんの身体で
「オマエ、なんか面白い感じがすると思ったら……その魂、
「うん。テュールはそこまでハッキリわからなかったみたいだけど、きみはわかるんだね」
「あー、あのマジメ野郎は人の身体、依代にしてねえもんな。そもそも今のアイツは軍神だろ?得意分野でもねえやつがカードを依代にしてそこまでわかっただけ頑張ったんじゃねえの。それにしても……」
俺が
「そういうことならオマエの孤独こそ、この世の誰にも共感できねぇな。こいつは傑作だ」
「だから諦めたんだ。そもそもカードゲームの勝敗が世界の命運を左右するとか、霊力とか精霊との絆でインチキじみたことを試合中にするのとか、意味がわからないし全然納得できない」
それを聞くと精霊さんはこらえるのをやめて笑い出した。
引きのよさとか、1ターン目に《焼畑》を使ってる上に《焚き木》が落ちることとかは確率的にはありえるからまだ譲歩できる。でもカードの効果を変えたり増やしたりできるのは意味がわからない。試合中だぞ。
…………そういえば試合中だった。
「それじゃあオマエのこともわかったことだし、オレも自己紹介してやるか。オレは────」
精霊さんがアニマを場に出す。
めまいがする。
炎が荒れ狂う。
頭が痛い。
吐き気がする。
「────《火の神・ロキ》!!!」
久しぶりに、俺の目の前で神がその力を解放した。