プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
6件目・7件目の10点評価、並びに9点評価、本当にありがとうございます。立て続けに好評いただき、驚きとともに望外の喜びを感じています。嬉しいので頑張りました。
あれからマイカさんに連絡して、処理を任せて家に帰ろうと思ったんだけど、焼けた手が痛むから医療班を手配してもらった。念の為いまから数日入院だってさ。
どうやるのか学校も公欠にしてくれるらしいし、入院はいいんだけどさ……
「なんできみがここに?」
「ただの世話係です」
いま一番気になるのは、
「シンイチ様は現在両手に重度の
「それはありがたいんだけどさ、白銀さんってそういう役割の人じゃないよね?看護師さんとかは……」
「私は有能ですから、看護師としての役割も完璧にこなして見せます」
そういう話じゃないんだけどなあ……
まあ別にいいか。冷静に考えたら白銀さんなら一切の違和感を覚えなくて済むのだから、休むにはこれ以上ない適任だろう。
それに服装からしてメイドさんなわけだし、お世話という点でも最適なはずだ。そもそも病気で入院したわけじゃないし、看護師さんである必要もない。
俺が納得したのを察したのか、白銀さんは指示を仰ぐ。
「それで、いかがなさいますか?」
「もう疲れたし、せっかくの機会だからね、とりあえずゆっくり寝るよ。痛み止めとか──」
「シンイチお兄さん!」
「おいタツキ、せめてノックくらいしろって……」
おっと、まだ日が沈んでいないからか、寝るには早いらしい。タツキくんとレイタくんを先頭にお見舞いに来た三人組と精霊さんたちを見て身体を起こす。
「やぁ。みんな大丈夫だった?」
「おう!大丈夫だぜ!」
「僕は大丈夫ですけど、シンイチさんこそ大丈夫なんですか……?」
「私はそもそも戦っていないので……」
一声かけるとタツキくん・レイタくん・ユキちゃんからそれぞれ返事が返ってくるからどこに触れるか少し悩む。けどまあ、聞かれたことにそのまま答えればいいか。
「大丈夫だよ。降りてきた精霊さんは帰らせたし、ちょっと手を擦りむいただけだから」
「つくならせめて、もう少しマシな嘘をつきなさい」
ニクスが俺の発言に即座にそう返すと、布団を無理やり剥がしてきた。あぁちょっと……
「その包帯で手を擦りむいただけって言い張るつもりだった?」
見られた時点で隠しようはない。俺の両手全体と、腕の先のほうは包帯でぐるぐる巻きにされているのだから。
「シンイチさん……!」
「それ、本当に大丈夫なんですか……?」
レイタくんとユキちゃんが声をあげる。
「大丈夫だよ。それより、なんでわかったの?」
「舐められたものね。私が神の火の余熱に気づけないとでも思った?」
まじかぁ……既に物理的な熱なんて消えてるはずなのに、それでもバレるのか……
「神の火!?シンイチさん、神の火に焼かれたんですか!?」
「落ち着いて、大丈夫だから」
レイタくんをなだめつつ、ニクスに目線を送る。無駄に話を深刻にしないでくれないかな、という意図を込めて。その意図に気づいたのだろう、ニクスは不機嫌ながらも
「あなた、隠しすぎなのよ。心配させるっていうのは悪いことばかりじゃないの。現状を正しく伝えないことは、時に悪い結果を伝えることより人を不安にするものなのよ?」
わあ、なにも言い返せない。
「少し触るわよ」
そう言うとニクスは俺の両手に優しく触れて、なにかをしだした。
「……?」
いまニクスが不思議そうにした理由はわかる。なにか手当てをしてくれてるんだろうけど、思ったより効きが悪いから困惑してるんだろうね。
「……これくらいが限界ね」
そう言う頃には少し両手の痛みが和らいでいた。効きが悪いとはいえ、干渉できないわけではない。頑張ってくれたんだろう。
「私の力を応用して少し痛みを和らげてあげたけど、私は万能じゃないから傷そのものはなおせない。だから絶対に無理はしないようにしなさい」
「……ありがとう」
「無理をしないと誓いなさい」
「……」
これもバレた。なんか見透かされるなあ……
「わかったよ。
「……今はそれで許してあげる」
見逃してくれた。申し訳ないけど、ずっと無理をしないと誓うことはできないからね。
「シンイチさん、今度お姉ちゃんに会ってみませんか?」
「どうしたのユキちゃん」
本当にいきなりどうしたの?
「マシロちゃんが言ってた『無理をしてる人』ってシンイチさんのことですよね?」
「……ごめん。その話を知らないんだけど、マシロちゃんはなんて言ってたの?」
「何かあった時に『なんとかする』って言って仕方なく頑張ってる人の助けになりたい、みたいなことを言ってました。それってシンイチさんのことですよね?」
あー絶対俺のことだね。しらを切っても意味はないだろうから、根本的な部分について聞こう。
「それがどうして、ユキちゃんのお姉さんに会うことに繋がるの?」
「無理してる人を休ませるのが得意だからです!レイタくんも寝不足気味だった時にお姉ちゃんが──」
「あー待てユキ!余計なこと──」
「──膝枕でぐっすり寝かせてあげたんですよ!」
得意気に、そして意図せずにレイタくんに突然流れ弾を当てたユキちゃん。頭をおさえて悶絶するレイタくん。一気に不機嫌になるニクス。なにも考えてなさそうなタツキくん。完全に予想外な流れで場は混迷を極めた……なにこれ。
「というわけで、シンイチさんも退院したらお姉ちゃんに会いに行きましょう!」
「……考えとくよ」
「約束ですよ!」
「……行けたら行くね」
いくらなんでも……勘弁してください。
「そろそろ面会時間が終わります。もう遅いですから、家に帰った方が
どう収拾をつけようかと困っていたら、白銀さんの
「いっけねえ!もうこんな時間か!レイタ!ユキ!帰ろうぜ!シンイチお兄さん、お大事に!またな!」
「あ、まだ弁明が──」
「お姉ちゃんに話しておくので、退院したら教えてくださいね!」
「シンイチよ、無理するでないぞ」
「役に立てなかった身で申し訳ないですが、私もそう思います……」
「氷漬けにされたくなかったら、せめてしっかり
タツキくんによって解散の流れになったから、それぞれ最後に一言ずつ声をかけてぞろぞろと病室を出ていった。いままで口を挟めなかったリューちゃんとユグちゃんも含めて。
というかレイタくん、なにか弁明しようとしてたけどタツキくんに引っ張られていったな。多分膝枕で寝かしつけられたのは不本意だったんだろうなあ。
「申し訳ありません。騒がしくさせてしまい」
「いいよ、白銀さんのせいじゃないし。むしろありがとう」
「お詫びと言ってはなんですが、膝枕でもしましょうか」
「しなくていいよ。普通に寝かせて」
「では添い寝でも──」
「アイマスクと耳栓をもらってもいいかな」
「どうぞ」
この人も思ったより変な人だな。本気で言ってるのか冗談なのかわからないけど、アイマスクと耳栓を既に用意してるのはやっぱり優秀だね。
あ、俺が最近よく使ってるものと同じ種類だ。ちょっと高いものを使ってたんだけど、やっぱり高品質だから人気なのかな。
そんなことを思いながら耳栓をつけようとしたところで、ドアを叩く音がした。だれだろ?と思いつつ、布団の中に両腕を隠して扉の向こうに声をかける。
「どうぞ」
「し、失礼します……」
「シンイチくん、大丈夫かい……?」
マシロちゃんと伏見さんだ。まあそれはそうか、来る人に心当たりなんてそう多くはない。
ふたりとも不安そうでもあるけど、伏見さん共々なんかこう……すごくしょんぼりしてる感じだ。伏見さんは戦力外として待機させられてたからわかるけど、マシロちゃんはどうしたんだろう?
それより面会時間は大丈夫なの?
……という疑問を向けた目線だけで察したのか、白銀さんは俺が質問するより先にそっと耳打ちしてくれた。
「面会時間については問題ありません。予めこの部屋の時計を早めておいただけですから」
ああ、さっきは嘘をついて助けてくれたのね。ただ『門限は大丈夫なのか』とだけ聞くよりも確実だったからだろう。ありがとう白銀さん。
「さっきみんなと会わなかった?」
「あ、会いました。その時にニクスさんがシンイチさんの
あれ、初手で詰まされてる?
「……なんて言ってた?」
「『両手を神の火に焼かれて大火傷してるけど、もし会ったら誤魔化そうとするからその時は布団を剥ぎ取ってあげなさい』と……」
「俺が言うのもおかしな話だけど、それ全部言ってよかったの?」
「シンイチさんがそういう人なのは知ってますし、わざわざ引っかけることもないですから……」
そっか……なんかごめん。
「シンイチくん、両手の状態は……」
「あー、こんな感じ」
もうバレているなら誤魔化す必要もない。布団から包帯に巻かれた両手を出して見せる。
「これは……」
「……痛くないですか?」
「全然大丈夫だよ」
ただし、誤魔化さないのは火傷だけ。
他人の痛みなんてわかるはずがないのだから、俺が痛くないと言えばそれが事実だ。ニクスのおかげで和らいでいるし、いま痛みを誤魔化すのは
「拝借」
「テュール?」
いきなり出てきたテュールが俺の両手に優しく触れる。肋骨を折った時みたいに治療してくれるのかな。
「…………内部の損傷は軽微、後遺症は無し。同時に、痛覚に常に刺激があることを観測」
「それって……」
「ずっと痛い……ってこと、だよね……?」
テュール……そんなこともできるんだ……
「……さっきニクスがなにかしてくれてね、痛みは和らいでるよ」
「……本機による治療を開始」
「テュール、無理はしないでね」
「その言葉は貴官に返却」
うん、言い返せない。けどひとつ気になるのは、テュールがいつもの待機モードみたいな
「テュール、今回のバトルとかいままでのことで全体的に無理してたりしない?」
「一部肯定。今回の霊力が吸収される状況下における戦闘でのデッキへの干渉、並びに
「テュール……」
マシロちゃんが心配そうに声をあげる。
それはそうだ。マシロちゃんにプレスピを教えるための人払いに、なぜか追加された暖房機能、さらに人の記憶を消したりと、神の力を使ってかなりの無茶をしている。
ロキが言ってたけど、テュールは軍神らしい。とすると得意なのは戦闘やそれに関することであって、本来こんな万能なはずがない。それなのに必要に応じて機能を追加して俺たちを助けてくれている。
その上マシロちゃんのふたつめの人格に霊力を持っていかれたり、霊力による干渉の効きが悪い俺の肋骨の治療も複数回に渡ってしてくれている中で今回の霊力吸収状態でバトルをしたのだから、その消耗はかなりのものだろう。
「そのため、貴官の治療が完了した
「……なるほど」
「否定する部分として、本機は機能の追加・解放と立て続けの霊力の消費で消耗状態にあるのみで、その全てが困難や苦痛には該当しません」
無理をしていることはきっちり認めて、その原因が単純に立て続けに色々やったから疲れているだけでありひとつひとつの仕事は大変じゃないと説明、そしてしっかりこのあと休んで回復すると宣言。なんだかお手本を見せられているみたいだ。
「しかし、貴官は人間であり、危険や苦痛そのものと
「……」
「
「……」
テュールにここまで言われてしまうとさすがに返答に
「貴官の性格上、約束は守らなければならないという強迫観念があり、それ故に約束に
「……ありがとう」
要するに、無理しないでほしいと思ってることは伝えるけど、無理をしないと約束させられるのは嫌だろうから、ただ話を聞いて気にとめてくれればいいよってことだ。本当に気をつかわせちゃってるなあ……
テュールが言いたいことをだいたい言ってくれたからだろう、マシロちゃんと伏見さんは別の話をした。
「シンイチさん、私、バトルで負けそうになって、それで……」
「……どうなったの?」
さっきテュールが『最高出力の解放』って言ってたし、なによりマシロちゃんにはふたつめの人格がいる。どうなったのかはだいたいわかる。けど一応、本人から話を聞いて、気持ちを発散させてあげるべきだろう。
「もうダメだと思った時に、もう1人の私が出てきて、なんとかしてくれたみたいです……」
そういえばそうか、マシロちゃんがしょんぼりしてる理由がわかった。
マシロちゃんはバトルには勝ったけど、修行の成果は出なかったんだ。
「ごめんなさい……せっかく、シンイチさんに色々教えてもらったのに……」
「大丈夫、失敗なんてだれにでもあるよ」
「そうだよ、僕なんて戦力外でバトルすら出来なかったんだから……」
伏見さんはそれでしょんぼりしてるんだもんね。
雰囲気が暗くなっちゃったからか、白銀さんが『
よし今度こそ寝るかという矢先、ドアをノックされたのでそろそろ面倒になりつつも入室許可をすると黒崎さんがすごくしおらしく入ってきた。意識戻ったんだね。
「ごめんなさい……」
「いいよ、黒崎さんは悪くないし」
「私がお兄ちゃんの計画にもっと早く気づいていれば……」
「仕方ないって。身内を疑うのも難しいでしょ」
ちなみにうっすらと俺が依代のカードを破って両手が燃えたのは見えていたらしい。そのまま意識を失ったようだけど、覚えていたみたいで手については最初からバレている。
「お兄ちゃんがずっとアタシと比べられて辛いのはわかってたけど、そのアタシが下手に気をつかっても逆効果だと思ってルナにお願いしてたの。でも、ルナが一度死んじゃった時に多分……」
あの時はきみも相当へこんでたもんね、と思いはしたけど言葉にはしなかった。現在進行形で涙目でへこんでいるのだから、追いうちをするのは
「……こんなこと話してもただの言い訳よね。責任は取るわ」
「責任?」
俺が聞き返すと、黒崎さんは少しだけ口を閉じて、言葉にするのをためらっていたであろうことを言った。
「……プレスピを引退するわ」
「……理由を聞いても?」
「メイカのお姉さんから聞いたわ。
黒崎さんは言いながら俺の両手を見ていた。
俺がロキをより確実に追い払うために依代のカードを破いた時に焼かれた手。
ニクスとテュールのおかげで和らいではいるけど、火傷して包帯を巻いている手を、いまも痛む手を、黒崎さんは見ていた。
「だから引退するの?」
「ええ。アナタを傷つけるくらいなら、
「黒崎さん」
話をさえぎって問いかける。
「黒崎さんは
「そんなの、友達に決まって──」
「やめてよ」
俺がそう言うと、黒崎さんは驚いて固まる。
でも、そう言うしかない。
俺に黒崎さんを嫌いにさせないでほしい。
傷つけても構わない。
だから────
「ゲームより友達のほうが大切なんて言わないでよ。『ゲームなんて』って言わないでよ。そのゲームがあったから俺たちは知り合って、そのゲームを大切にしてきたからこそ、俺たちは本気でぶつかりあえたんだ。それはただの友達やるより真剣で、楽しかったはずだ。少なくとも俺はそう思ってるし、きみがプレスピのことを『たかがゲーム』なんて思ってたら、俺はきみのことを信頼してない」
────だから、引退なんてしないでよ。俺に気をつかったつもりで、俺を置いて、去ってしまわないでよ。
「シンイチ……」
「いまプレスピをやってないのは俺のほうだ。だからこれが俺のワガママなのはわかってる。でも、これだけは聞いてほしい」
それは、俺にとってとても大切なこと。
俺と人とを繋ぐことができたかもしれない、数少ない
「
一筋、頬に伝う雫の意味も俺には露知らず。
携帯端末を取り出して電話をかける。
「もしもしマイカさん?いますぐだれにも邪魔されずにバトルできる場所を手配して」
事後処理に追われてるからせめて白銀さんに?
「わかった。白銀さん」
「あまり大きくはありませんが、長官が所有している現在無人のスタジアムにご案内します。車も手配しますのでついてきてください」
白銀さんは既に仕事を終えてくれたらしい。用が済んだ携帯端末をしまっている。ほんと優秀だなこの人。
「ありがとう」
「いえ、むしろありがとうございます」
よくわからない返事をされたけど、ちょっと変わった人なのはさっきわかったから今更追求するまでもない。なにより、スタジアムを使えるのは大きい。
いまはテュールには頼れない。そしてそれはテュールが消耗しているからじゃない。いま俺が出せる全力でバトルするためには、霊力による人払いは邪魔だからだ。
マイカさんが所持している施設という点についてもビルやカードショップならまだしも、無人のスタジアムなら精霊どころか霊力の
「あんなにプレイスピリット関連で苦しんで一線を
車まで先導するために歩き出した白銀さんがなにか言ったみたいだけど、ぼそっとつぶやいた上に背を向けてるから聞き取れなかった。心なしかゾクゾクしているような気がするんだけど、さすがに気のせいかな。
「疲れて眠ろうとしていたのに地雷を踏まれて、その上で他人を元気づけるために火傷したままの手でバトルするだなんて……なんとお
まあ、万が一なにかあれば俺が違和感を覚えるだろうし、白銀さんは出会ってからいままでずっと一貫して一切の違和感がない。問題ないだろう。
そんなことより黒崎さんだ。未だに動けずにいる黒崎さんの手を引いて白銀さんについていくと、俺の手を心配して黒崎さんは自分で歩き出した。
悪いけど、いまは強引にバトルする流れにさせてもらうよ。
カードゲームを本気でやる楽しさを、忘れないでほしいから。