プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
「俺たち、精霊カードをゲットしたんだ!」
「……マジ?」
今日も今日とて
精霊カード。
この世界に唯一存在するカードゲーム『プレイスピリット』略してプレスピのカードに精霊が宿ったもの。
厳密に言うとプレスピのカードならなんでもいいわけではなく『
精霊は人智を超えた力を持つものからほぼペットみたいなものまで存在していて、その全てが大なり小なり霊力と呼ばれる不思議なパワーを持つ。
噂では強い精霊は歴史の裏で争いのもとになったり、気に入った人間に力を貸して暗躍したりしていたとか。実際に『依代』となるカードを祀る家や神社が存在しているのであながちただのおとぎ話でもないのだろう。
さっきも言ったけど、精霊カードは依代に精霊が宿ったものを指す。つまり、ただ精霊が宿りそうなカードを引いたんじゃない。既に精霊が宿ったカードを引いたか、依代を引いてそこに精霊が宿ったかしたわけだ。
まあもっとも精霊自体は結構いる。これもさっき言ったけどペットみたいなのもいる上に日本は八百万の神を信じる国だからね。他の国よりも精霊の出現率は高く、むしろある程度経験を積んだプレイヤーで精霊カードを持っていない人の方が珍しいくらいだ。
だけど……
「お主がタツキの言うシンイチか、タツキが世話になっとるようじゃな」
威厳のある渋い声がタツキくんの肩から聞こえる。
こいつは上澄みだ。
小さくデフォルメされて可愛らしくなった状態でもわかるくらいの霊力、炎を纏う竜。
「どーも」
さすがの俺も動揺して雑な挨拶を返さざるを得ない。そして動揺の理由はこいつだけじゃない。
「ふーん、まあそれなりに使えそうなプレイヤーね」
「おい、失礼なことを言うな。頭を撫でるな。頭を撫でながら喋るな」
炎を纏う竜と同等の霊力を持った、水色の髪に白い肌のお姉さん。
「……頭を撫でることに集中するな!」
と、そのお姉さんに頭を撫でられて顔を赤くしながらもツッコミ力を発揮し続けるレイタくん。
そして……
「あ、この子はユグちゃんです」
「初めまして、
これまた小さくデフォルメされてユキちゃんの首周りに緩めに巻き付いて肩に乗っているものの、理知的な顔つきと落ち着いた声をした緑色の蛇。
ここまできたら予定調和じみて強い霊力を持っている。
ワァ…ァ……
やばい……三人のもとに一気に上澄みレベルの精霊が来ちゃった……
……あ、昨日のパックか!
うわぁ……順番変えときゃ良かった……
一応言っとくけど欲しかったとかじゃないよ?ただこの三人の今後が不安で仕方ないんだ……下手に強い精霊とか持つもんじゃないし、そもそも俺は精霊を意図的に避けてるからね……
そんなこんなでいつもの三人組のもとに舞い降りた強い精霊さん、彼らとの顔合わせを済ませて一人になった俺はいつも通り仕事を進めていた。
「……ん?」
なんか違和感を感じる。具体的にはお菓子が陳列してある棚のあたりにいる子から。
あー……めんどくさいけどこれ絶対話しかけた方がいいやつだ。周りに他のお客さんもいないし、行くか……
「なにか探してるの?」
「えっ!あっ…えっと……」
話しかけるために近づいて気づいた。
この子、白っぽい髪にファッションで黒いメッシュかなにか入れてるのかと思ったんだけど、これ多分違うわ。
「……話、聞こうか?」
やべ、なんか怪しい言い方になっちゃった。いやこれはこのフレーズを悪用したやつが悪いじゃん?大目に見てくれ。
長い前髪で目元をあまり見せない女の子は、たどたどしく事の経緯を話してくれた。
途中お客さん来たらどうしようかと思ってたけど一人も来なくて助かった。
で、要約するにこの子は小学校でいじめられてて、バトルでも負けてパックを献上させられていたみたいだ。それでもうパックを買うお小遣いがなくなったと知ると今度は万引きを指示されたと。
いやあ、そんなこと本当にあるんだ。それで立地的に他の店より人が少ないこの店の更に人が少ない夜に行くように命令されてやってきたわけだ。
さっき髪の色について触れたけど、地毛が白黒どちらだとしても髪を染めたにしてはあまりにも雑というか、まあ控えめに言って綺麗な染め方に見えなかった。
それは当然だ、これそもそも染めてないやつだ。
人は強いストレスで髪の色素が抜け落ちることがある。たしか血行不良や栄養不足でもなるって聞いたことがあるけど、ここまで派手に髪が白くなったケースは初めて見たな。
「私…捕まっちゃいますか……?」
泣きそうな声でそう問うてくる子に、俺は平然と答えた。というか平然にならざるを得ない。
「いやまだなんもしてないよきみ、捕まるわけないじゃん」
店内でオドオドしてただけで捕まるなら世も末だよ。
しかし泣くことが悪いことだとは思わないけど、さすがに店内やお店の周囲で泣かれたら嫌だな……
とりあえず、ホットドリンクの棚から小さめのほうじ茶を一本取って自分でレジ打ちをして、カードケースに一緒に入れていたクレジットカードで支払いをすると、レジのそばにあるお店のテープを貼りつけてその子に差し出した。
「とりあえずこれ飲んで落ち着きな、お兄さんの奢り」
「えっ…そんな悪いです……」
「まあまあ気にしないで」
これで少しでも涙が引っ込んでくれればいいから。
そんな打算であげた温かいほうじ茶は彼女の口に合ったようで、少し安らいだ様子を見せていた。
「おいしい…なんかほっとする……」
「ほうじ茶、美味しいよね」
俺は冷たい前提なら僅差で緑茶の方が好きだけど、ほうじ茶も結構好きだったりする。特有の香ばしさや優しい口当たりはサッパリとした苦味を持つ緑茶には中々ないものだ。
うーん、しかしどうしたものか。
この子をこのまま帰しても何の解決にもならない。また生き地獄に逆戻りするだけだ。
でも赤の他人の俺が学校に行かないことを提案したって責任なんて取れないし……
親御さんや先生に相談するのは論外だ、大人の介入なんて許してもロクなことにならない。
この様子を見るにかなり放置されて味方がいないまま耐えてきたんだと思う。いままで見てこなかった癖に子供より強い立場と態度で加害者を叱るという対症療法だけして解決したことにする無責任な連中に丸投げするくらいなら俺が全ての責任を負う覚悟で介入した方がまだマシだ。
……いや待てよ、この世界はプレスピの勝敗で大抵のことは片付けられる。俺がそのいじめっ子にバトルをしかけてボコボコにすれば……いや、それはなんか違うな。
なんというかこう……そんなことをしてもやってることは大人側に近いし、なにより真の意味でこの子のためになるかと問われるとならない。
表面的な態度を見るに、この子は進級進学したらまたいじめられる要素を持った子だ。その度に俺が守り続けるなんてのは到底現実的じゃない。
この子自身に強くなって貰う必要がある。なにかを変えたいなら、自分が変わらなきゃいけないのだ。
「……ん?」
強い霊力を感じる。
今日四度目だぞ、もう勘弁してくれ。
って、これ店のパックから出てない?
……あった、このパックだ。これはもしかしたら、もしかするか?
また自分でレジ打ちをして、強い霊力を放つパックを購入する。もしバレたら怒られそうだけど、まあその時はその時だ。
「……これあげるよ」
「えっ、またそんな、申し訳ないです」
「大丈夫、レジ通してるから」
「えっと、そういうことじゃなくて……」
ええい優しい子め、こうなったら悪い言い方をくらえ!
「きっと、このパックに入ってるカードがきみを助けてくれるよ」
「カードが、わたしを……」
「うん、開けてごらん」
人というものは追い詰められている時はとても脆い。この子将来変な団体や悪い男に騙されたりしないか心配になるけど、いまはこんな風に言いくるめられてもらった方が多分いい。
だって、そのパックには……
「マスター登録承認、指紋並び生体情報の登録完了。マスターの名前を登録してください」
「えっと、
「マスター名『黒川マシロ』をマスター登録しました。これより精霊『テュール』は黒川マシロと共に行動します」
妙にメカメカしい
あとこの子黒川マシロっていう名前なのね。大丈夫?名前でいじられてない?パンダとか言われてない?言われてたら俺がそいつ潰しに行くから絶対教えてね。
「貴官の名前も聞かせてください」
「え、俺?真常シンイチだけど。なんで?」
「真常シンイチ、貴官に感謝を。貴官の助力により本機は外界に進出し、マスターの精霊として戦うことが可能となりました」
ああ、やっぱりこいつマシロちゃんを気に入って出てきたパターンだ。気に入って、というより守りたくなったのかもしれないけど、これでひとまずは安心だ。
最悪テュールがなんとかしてくれる、これだけ強い精霊ならプレスピで戦わなくても霊力でいじめっ子を蹴散らすくらいは造作もないだろう。
「貴官に協力要請」
「ん、なに?」
協力要請?ああ、自分に合うカードをくださいとかそういう話か。いいよ〜、カード割と余ってるからね〜たくさんあげちゃうよ〜
「マスターへの戦闘技術の教授を要請します」
……ゑ?
「えっ?」
ほら見ろマシロちゃんも驚いてるじゃんか、勝手に決めないでほしいな!
というかなんでしがないコンビニバイトの俺にそんな要請するのさ。
「貴官は曖昧な感覚ではなく、本機の発した霊力を明確に感じ取った上で本機が封入されたパックを手に取りました。加えて、観測しただけでわかる戦闘技術の高さや造詣の深さは経験の浅いマスターにとって大きな価値を持つものと判断、それらの教授を要請します」
やべ、なんか変な分析されてる……
うーん……教えるの好きじゃないし、なにより……
「でも男子高校生が女子小学生とプライベートで会ったらほぼ事案なんだよね……」
「あっ……」
「……」
俺がそう言うとマシロちゃんは察した時の声を出し、テュールも黙り込んでしまった。
数秒の沈黙の後、マシロちゃんがおずおずと声を発した。
「だ、大丈夫です。もうお兄さんは十分大切なものをくれました。だからこれ以上はもう大丈夫ですよ……」
本当にいい子だなぁこの子は……よしわかったかテュール、マスターがいいって言ったんだからもういいだろ。マシロちゃんはお前が守るんだよ!
「それに、私にプレスピの才能なんてないですし──」
「きみの思う才能っていうのはなにをもって才能なんだ?」
「えっ……」
気が変わった。
マシロちゃんには悪いけど、俺が納得できる答えを出せないなら指導を入れるのも辞さない。
「えっと……それは……」
「生まれ持った能力?」
「……はい、そう、です」
なるほどね……
「
「えっ?」
「たしかに生まれた時から特別な能力を持っている人は存在する。でもそれは遺伝的なものや限定的なもので、あらゆる物事にそれぞれ才能というステータスがあるとは俺は思わない。きみのいう
身を屈めて、マシロちゃんと初めて目を合わせて語りかける。怖がられるかもしれないが、その時はその時だ。
「それに、仮にプレスピの才能というものがあるとして、それはやらずに発揮されるものなの?」
マシロちゃんが目を見開いた。
「才能って言葉、人によって解釈が違うし大抵言い訳とか人の努力を否定するような使い方しかされないから俺は嫌いなんだ。もしマシロちゃんが現状に抗いたいならそんな言葉はいらない。ただマシロちゃんは一歩踏み出せばいい」
そこまで言うと、俺は静観していたテュールの方を一瞥し、再びマシロちゃんの目を見て続けた。
「もうマシロちゃんはひとりじゃないんだ。テュールがいる。必要なら俺も手伝う。だからそんな言葉で逃げないで。辛いかもしれないけど、後悔するかもしれないけれど、耐える苦痛より進む苦痛を選んでほしい」
気づけば、マシロちゃんの両目からは涙が流れていた。