プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
大変お待たせしています。正直書き溜めもゆとりもないのですが、これ以上なにかと理由をつけて遅延して私と作品の距離が開く前にどうにか書く流れを作りたいと思い、再びの見切り発車です。
要するに、背水の陣です。私ひとりで。
56話『仮に一ヶ月に一回という基準の場合、月イチなら遠慮なくしていいということではないし、月イチで達成すれば休んでいいわけでもない』
拝啓。肌寒く、永遠に布団に
既に俺のことなんて忘れて久しいでしょうが、俺はいま────
「まずは耳かきからしていくね?」
「助けて」
────初対面の人に膝枕をされています。
待って。誤解だ、説明させて。あれはつい数分前のこと……
◆
「紹介しますね!私のお姉ちゃんです!」
育ちの良さそうなお淑やかな雰囲気と年相応の子供っぽさが同居した緑髪の女の子、
「初めまして、緑毛ユカです。あなたが噂のシンイチくんね?」
緑色の長い髪に、神社でもないのになぜか巫女服を着ている
「俺って噂になってるの?」
「ユキちゃんだけじゃなくて、タツキくんもレイタくんもよくあなたの話をしてるのよ。立ち話もなんだし、
「いや、遠慮して──」
「いいからいいから」
押しが強いなこの人。そう思いながら手を引かれて家に上がると、俺を和室まで引っ張ったユカさんが一言。
「ユグちゃん」
……え、ユグちゃんを呼んでどうする気なの。待ってユカさんなんかもう雰囲気違くない?初対面だけど、最初はすごい
「……すみません、シンイチさん」
ユカさんに呼ばれた緑色の蛇のカードの精霊、ユグちゃんは一言謝ると、近づいて……
「待って、なにする気なの?」
俺は近づいてきたユグちゃんから距離を取る。しかし、ふすまのほうにはユカさんが立っている。そのせいで部屋の隅しか逃げ場がなく、追い込まれてしまう。
まずい、ユグちゃんが近づいて、ユグちゃんが部屋の
ユグちゃんが……っ……噛んだァァァ!!!
「すみません、一時的に動けなくなる即効性の毒を入れました……」
毒はほんの数秒で効いてきて、倒れ込む俺をユカさんが優しく抱える。お願いだから行動じゃなくて目的を説明してほしい。そう思っていると、ユキちゃんがやってきて無邪気に話をする。
「私も最近知ったんですけど、お姉ちゃんは『この人を癒さなきゃ』って思ったら止まらないんですよ!レイタくんが寝不足気味だった時もこうやって逃げられなくしてからたっぷり癒してあげたんです!」
ああ、レイタくん。そういうことだったのか……
今更になって、俺はとんでもない人の
◆
……で、膝枕をされてるってわけ。
「やめて、俺に乱暴するつもりでしょ。レイタくんにしたみたいに」
「乱暴なんてしないわ。とっても心地良くて、ぐっすり眠っちゃうのよ?レイタくんみたいに」
哀れレイタくん。と思ったが、いままずいのは俺のほうだ。早くなんとかしないと……
よし、デメリットを適当に並べ立ててお茶を濁すか。
「実は耳かきってしなくても問題なくて……汚れは自動的に外側に運ばれる仕組みになってるんだよね」
「耳かきで迷走神経を適度に刺激すると気持ちいいし、リラックスできるのよ?」
「耳の中が傷ついてむしろ悪化することもあって……」
「大丈夫。優しくしてあげるから、ね?」
全然
「実は先日突発性難聴になって、耳鼻科の先生からも耳かきはしないように言われてるんだ」
「完全に禁止されたの?」
「完全に禁止された」
嘘である。本当は『月イチが限度だからね』と言われてるけど、いままでのやりとりから『じゃあ一ヶ月に一回までならいいよね?』と言われるだろうと確信できる。
「うーん……1ヶ月に1回くらいならいいと思うんだけどなぁ」
あっぶな。言わなくてよかった。あと先生の言い方からして、それは限度であって月イチなら遠慮なくしていいってわけじゃないと思う。
さて、そろそろじゅうぶんお茶を濁せたかな。
「えっ……」
俺がごろごろと身体を回転させてユカさんの膝の上から脱出して見せると、ユグちゃんは驚きの声をあげた。十中八九、俺がこの短時間で動けるほどに持ち直したのが予想外だったのだろう。
残念だったね。いやユグちゃんにとって残念かは知らないけれど。俺の魂は超常現象を拒絶しているらしいから、霊力でなにかしようとしても効きが悪い。本物の毒ならダメだけど、霊力由来のしばらく麻痺する程度の毒ならこの通りだ。
「あっ……」
そしてユカさんは驚き半分、名残惜しさ半分みたいな声をあげた。こわいよ、初対面だよ?
それにしても、危なかった……すぐ喋れるようになったのを活かして弁論で時間を稼いでいなかったら、既に耳かきが始まっていただろう。そうなったらそもそも物理的に脱出できなくなってしまうところだった。耳を犠牲にしない限りはね。
「それにしても、シンイチさんが同じマンションにお引越ししてきたなんて嬉しいです!大学のための一人暮らしとかですか?」
「あぁ、まあね……」
俺はまだ高校生だけど、ユキちゃんたちには俺の具体的な年齢とかは明かしてないから適当に誤魔化しておく。なんせ、俺がここに引っ越してきた理由なんて話せたもんじゃないからね……
「ユキちゃん。
「えっ……」
ユキちゃんに向けた言葉にユカさんが反応する。ショックを受けましたって声と顔だ。あー、やらかしたか。
ユカさんは強引な手段とはいえ、俺を癒そうとしていた。最初から強引な手段に出たのも、大抵こういう人は素直に膝の上に頭を乗せてくれないからだろう。一度引き込まれればもう逃げられないのであろうことはレイタくんという尊い犠牲によって察しがつく。ぐっすり眠ったって言われてたからね。
そして、やらかしたというのは傷つけてしまったかもという意味ではない。今後も治療対象として目をつけられる恐れがあるという意味だ。
だが、吐いた唾は飲めない。
それに、転生者である俺の魂は前世ではありえないもの……超常現象を拒絶しているけれど、それは便利な耐性というわけではない。その拒絶は違和感や不調として俺の身体に負荷をかけて、牙を剥く。その違和感を逆手にとって霊力を感知したりとかはある程度できるけれど、本質はアレルギー反応みたいなものだ。
実際ユグちゃんの毒に抵抗したせいで、疲れたというか具合が悪くなってきた。もう動けるから、ユカさんがショックを受けて硬直している隙にそそくさと退散する。
「お邪魔しました」
「また来てくださいねー!」
ユキちゃんの元気な挨拶を背に受けて、俺は自分の部屋に戻って寝た。