プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
長い間お待たせしてしまったにも関わらずたくさんのアクセス・感想・お気に入り登録・ここすきをいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます。もちろん、更新していなかった時期にいただいたものやアクセスも感謝しています。
この度、新しい試みをふたつ行ったのでそのお知らせをさせてください。(興味のない方は飛ばして本編をお楽しみください)
まず、非ログインの方の感想の書き込みを解禁しました。とても優しい方が多いので踏み切ることができました。しばらく解禁して様子を見て、問題なさそうなら解禁したままにするつもりです。
次に、活動報告にカードのちょっとした設計意図を投稿しました。いわゆる裏話というやつです。
作者自らこんなことを解説しちゃっていいのか、読者に委ねるべきことじゃないのかと自分でも思うことではあるのですが、既にTwitterにて赤色と青色のカードの初期段階での制作理念や一部のカードのフレーバーテキストについての意図をお話したことがあり、それを試験的に手直ししてこちらにも投稿した形になります。もし知りたい・聞きたいという方がいらっしゃいましたら私の名前から活動報告に飛んでご覧いただければと思います。
引っ越しをすることになった数日前のこと。かかってきた電話の発信者名を見て、通話を始めると同時に言い放つ。
「もしもしポリスメン?」
『以前もそう言っていましたが、私は警察ではありませんよ……?』
ごめん、なんか言いたくなったから。
「それで、なんの用?マイカさん」
『はい。保護していたシンイチさんのご両親が目を覚ましたのですが、その……』
言い
「あー……聞かなくてもわかったというか、聞こえたからわかったというか。とりあえずそっち行くよ」
『は、はい……では、迎えを出します』
少しして、
「お待たせいたしました」
「とりあえず、移動しながら詳しい話を聞ける?」
「はい。シンイチ様の両親ですが、薬によって意識を失った状態で捕らわれていたようでしたのでこちらで保護していました」
ああ、たしかマシロちゃんとテュールが回収しておいてくれたんだったね。
「先ほど長官が様子を見に来た際に目を覚ましたようなのですが、シンイチ様に連絡をしたあたりで発狂しました。捕まってからシンイチ様の前に人質として連れてこられるまでの時間経過によって薬が薄れ、わずかに意識があったようです」
「それで発狂するってことは、俺が『両親を殺していい』って言ったのが聞かれてたってことだね」
「そのようです。現在は再び意識を落とした上で安静にさせています」
マイカさんとの通話中に聞こえた両親の怒声。全部は聞こえなかったけれど、内容的には『俺を責め立てる声』と『俺にどういう教育をしたんだと相手を責める声』だった。両親ともに自分に非があるとは思ってないのが滑稽だね。
とにかく、こうなった以上は元通りには……精霊の力を使えばなるかもしれないけれど、俺の力では元通りにはならない。マイカさんと合流しても意味があるかわからないけど、まあとりあえず今後の相談くらいはしておかないとね。
「やあ」
「こんにちは、シンイチさん。早速で恐縮ですが……」
「俺の扱いと両親をどうするか、でしょ?」
「はい……」
俺が念の為で入院していた病院の一室、そこで長くまっすぐな金髪と黒いスーツ姿のマイカさんと合流した。両親もここの別室に入院させていたらしい。
ところで……
「その前に、この俺の顔をじろじろ見てくる精霊さんは?」
入室してからすぐに存在には気づいていたけど、俺に顔を近づけて興味深そうに観察してくる精霊さんについて先に聞くことにした。
長くまっすぐな金髪と和服姿、そして狐の耳と尻尾を生やした女性の姿をした精霊さんの素性そのものはすぐにわかった。見た目が少し違う気がするが、
彼女は俺の品定めを終えたのか、観察をやめると一言。
「お
ロキもそんなこと言ってたからもういいって。と思いつつマイカさんの説明を受ける。
「彼女のことは
「《玉藻前》じゃないの?」
「《玉藻前》は
なるほど、《玉藻前》だけじゃなくて狐そのものの精霊ってことか。
「お主も
「それで、なんで御狐様がここにいるの?」
「……まあよいじゃろう。妾はお主の親を寝かしつけてやっただけじゃ。マイカに頼まれてな」
要するに、マイカさんが御狐様を呼んで気絶させるように頼んだってことなんだろうけど……
「別に
「すみません、その、あまりにも見苦しかったので……」
「……なんかごめん」
そう言ったマイカさんの顔を見て、言葉通り見苦しいものを見せたのだろうということと、そんな状態で俺と両親を会わせたくなくて別室で合流したのだろうということを察する。なんか申し訳ないな。
「それで、今後のことですが……」
「あー、とりあえず前に言ってた通り生活費とかは出してくれるんでしょ?」
「はい。ですが、ご両親については……」
「それについてだけど、ひとついいことを思いついたんだ」
そう言って御狐様のほうを見る。
「
「うん。御狐様って暗示とか催眠みたいなことってできる?」
「できるが、それで何をさせるつもりじゃ?」
「両親に────」
「……妾はよいが、お主はそれでよいのか?」
「大丈夫、生活さえできるなら問題ない」
それから数分もしないうちに、両親の元に向かった御狐様は戻ってきた。
「やってきてやったぞ。
「すごい、さすが」
「……敬意を態度に出すのが苦手なようじゃの。まあよい、マイカよ」
「どうぞ」
御狐様は俺の座ったままのやる気のない賛辞と拍手をジト目で見ていたが、そこまで気を悪くした様子もなく席につくと、マイカさんにいなり寿司を献上させて食べ始めた。俺が言うのもなんだけど、そんなんでいいの?
「敬意とは態度だけのものではない。
なるほど、物わかりのいい精霊さんだね。俺に敬意が全くないということを除けば。
「嘘をつくでない。
「……それに?」
「人の子の作るいなりが一番美味い!」
そう言って上機嫌にいなり寿司を頬張る御狐様。もしかしてそのいなり寿司って呼び出すために必要な供物とかじゃなくて、力を貸すお礼として成立してるってこと?
「……シンイチさん。ひとまず私の方で新居の手配をしますので、ご両親が入院しているうちに荷物をまとめておいてください。事後処理に関してもこちらでしておきます」
「わかった」
「それよりシンイチよ。お主、もうカードの精霊はおるのか?」
マイカさんと今後の話を始めようとしたところで、唐突に御狐様が耳元に顔を近づけて質問してきた。
甘い匂いがする。いなり寿司の。
「御狐様なら聞かなくてもわかるとは思うけど、いないよ」
「なに、ただの念押しじゃ。それでだ、まだ精霊がおらぬなら妾と組まぬか?
そう言って御狐様が俺に
実際、御狐様は
「だが断る」
「ほう……」
でもやっぱり精霊と組む気はない。だから断ったけど、御狐様は残念がる
「よいよい。気が変わったらいつでも声をかけてよいぞ?」
上機嫌に俺の拒否を許す御狐様。なんか逆に目をつけられてしまったかもしれない。でも、もしさっき本人が言ってた通り嘘が通じないとしたら、素直に頷いたって興味を失ってくれるとかしなさそうだしなぁ……
「ところでシンイチさん、私の
「マイカさんの?」
今度はマイカさんから勧誘された。なんなの。
「今回のロキ降臨の件で察しているかもしれませんが、恥ずかしながら私たちにはプレイスピリットで神を追い返すような戦力はありません」
まあ戦力として俺に加えてタツキくんとレイタくんまで連れてきたもんね。子供に頼らないといけないくらいプレイヤーとして戦力になる人がいないということだ。
今回の戦力不足には霊力吸収装置の影響もあったと思うけど、それはむしろ精霊に一切依存しない俺の価値や評価を相対的に高めてしまう要因でしかない。話題にするのはやめておこう。
「普段は普通に過ごしていただいて構いません。有事の際に力を貸していただけるだけで相応の報酬を約束します。どうでしょうか?」
「今回は被害者になったけど、少なくとも俺と同じくらい強くてプロの黒崎さんとか、身内でプロの
「アカネさんについては
一度、そこで言葉を区切る。自分の気持ちや考えをまとめているのだろう。十秒もしないうちに、マイカさんは話を再開した。
「メイカちゃんは強いですが、個人的な感情として巻き込みたくありません」
「そう……理由は聞くまでもないこと?」
「だと、思います。単純にメイカちゃんを危険な目に
「一応聞くけど、
「はい。メイカちゃんが負けないとは限りませんから。私は伏見家の中でおそらく最もプレスピの才能がないので詳しくはわかりませんが……」
「なら断る」
「え?」
元々超常現象アレルギーがしんどいから乗り気じゃなかったけど、報酬次第では我慢して乗ってもいいかと思ってた。でも、たったいま嫌になった。
「……理由を聞いても?」
「個人的な感情としてやりたくなくなったからかな。可愛い子には旅をさせよって言うから、
妹への愛ゆえに失敗する機会を奪うのも、それはそれでよくないことだ。カードゲーマーは……というか、人間は、失敗を繰り返して強くなるものだ。だから、過度な心配は怠慢というものだ。
挑戦しなければ敗北しない。だから挑戦せず、その結果成長することもない。それを自分でわかっててやるならまだいいけど、他者が勝手に決めるなんてことはあってはならない。
「
「かしこまりました。すぐに向かいますので、先に駐車場で待機していただけますか?」
「わかった」
マイカさんの性格と立場からして杞憂だろうけど、もしこれで不興を買って生活費を出してもらえなくなっても、
ずっと紅茶を
◆
マイカの勧誘を
「長官、ありがとうございます」
「な、何がですか?」
「またしても
「そ、そうですか……」
「やはり面白い男よ……それにマイカよ、心配することはない。どの道あやつは巻き込まれるか見過ごせぬかで精霊絡みの事件に介入することになろう。最初から協力は得られているようなものじゃ」
マリナと御狐様が普通に喜ぶなり面白がるなりしていたためである。
「それにしても、まさかあんな頼みをするとはの」
そう言って、御狐様は先程のシンイチからの頼みを振り返る。
「両親に────」
シンイチが思いついて、御狐様に頼んだこと。
「────『
それは、両親にとって大事な息子であるシンイチの存在を認識から抹消するものだった。人の心に大なり小なりあると思っていた両親への情というものをシンイチが一切合切持ち合わせていないことを察し、御狐様は興味をより強くしていた。
御狐様がもうひとつ興味深いことを思い出そうとした時、それについてちょうどマイカが言及する。
「それにしても、御狐様の魅了も効かないのですね……少なくとも若い男性なら確実に落ちるものだと思っていたのですが」
「御狐様が本気でなかったこともありますが、シンイチ様は精神的な衰弱から性欲もほとんど減退していますので」
「……そうですか」
ふと口をついて出た疑問に答えたマリナに、マイカはそれ以上の言及をしなかった。
◆
拝啓 肌寒く、永遠に布団に
既に俺のことなんて忘れて久しいでしょうが。俺はあなたたちのことを忘れないでしょう。悪い意味で。
敬具