プレイスピリット〜精霊がいるカードゲーム世界で普通のバトルがしたかった男〜 作:匿名S
今日は仕事も学校もお休みの日、と言っても土日はシフト入れてないから毎週土日は基本的に一日中休みなんだけどね。
学校の後にバイトに行くのが面倒な学生とか、土日に出る代わりに平日に休みを作りたい人たちの枠のために土日はシフトを入れていないんだ。
俺は夕方から夜の仕事の方が好きだし、平日大変な代わりに休日はしっかり休めるからまだ大丈夫。だと思う。
せっかくだからお昼までゆっくり寝て、起きてからカップ麺を食べた。運がいいことに両親もいないし、軽くデッキの調整をしたらダラダラしちゃおっかな〜っと。
……ん?
このカード、そろそろ精霊宿りそうだな……なんか日に日に霊力がついてる。マーキングかな?後で新しいカードに変えておくかあ。
俺は他の人より霊力に敏感だ。そしてその理由は単純、精霊を避けるために鍛えたからだ。
でも霊力に敏感でもどうしようもない時は結構ある。そういう時は……
「我は《地獄の門番》……ちょ、待って?なにしようとしてるの?」
「なにって、破り捨てようとしてるだけだけど」
「待って!?やめて!?なんで!?」
「きみがどっか行ってくれるならやめる」
「待ってくれ!!せめて話だけでも!!」
「5…4…」
「わ、わかった!我帰るから!」
そういうと《地獄の門番》の精霊さんはカードから出ていく。
精霊は人間界と精霊界を行き来するのにも、依代に宿るのにも、なんなら存在を保つのにも霊力を消費する。そして霊力がなくなったら消滅してしまうらしい。
昔、何度もカードに宿ってしつこいから依代全部破いてあげたら命乞いをしてきた精霊さんに聞いた。
その精霊さんは情報料として横流しの刑で済ませてあげたから今頃どこかで誰かの精霊をやっているだろう。もしくは霊力の回復を待って精霊界に帰ったかもしれないけど。
《地獄の門番》の精霊さんから強い霊力は感じなかったから、依代を破り捨てるのを匂わせれば俺のカードに宿ろうだなんて二度と思わないはずだ。
「ひぃ……とんでもない人間もいたもんだ……」
そんなことを言いながらどこかへ行った精霊さん。
これでも優しい方の対応だよ。前にちょっと強い霊力を持ってて、依代をハサミで切れないくらい硬くしてきた精霊さんの時なんてカードを燃やしたんだから。他の人に見つからないように燃やすのは骨が折れたよ。
精霊の対処はただ出てきたら潰すだけじゃダメだ。精霊にとって住み心地が良くなることはしない、そして精霊が入り込めない環境を作るんだ。
とはいえ精霊は隙間
だから最も重要なのは『こいつのところに行ったらやべえぞ』と思わせることだ。初手で破り捨てを匂わせる、ダメならハサミで、それもダメなら燃やすか海に捨てるか、大抵はこれらを本気でやると思わせれば精霊は逃げてくれるし、そのまま精霊界に帰ってくれれば俺の悪評を広めて他の精霊が来ないようになる。はず。
しょせん脅しとタカをくくって居座る精霊のためにもたまには本当に実行して『こいつはマジでやるやつだ』という認識を植え付けておかなきゃいけない。
あとはそもそも出くわさないためにパックを買う時は霊力を感じるかどうかちゃんと見ることとか、そもそもパックを買わないでカードショップでシングル買いするとかも有効だ。
シングル買いならパックと違って不要なカードや依代適性が高くなりがちな想定外のレアカードをもらわなくて済むからリスクが減るし、購入前に状態を確認する権利があるからその時にしっかり霊力を見られるのでオススメだよ。
そんなことを考えながら《地獄の門番》のカードをデッキに戻した矢先。
がちゃり、ぎいぃ。と家の扉が開く音、それを聞いた瞬間、俺は動き出した。
「ただいま〜」
急いで靴下を履き、パジャマの下をジーンズに履き替え、ベルトをしめてデッキケースをポケットにしまう。
もしもの時に備えて、パジャマはジーンズさえ履けばそのまま外に出ても怪しくない程度のものを着ていたのがいつも通り役に立つ。
「コンコン」
ノックの音を声に出して言うな気色悪い。
俺の返事を待たず俺のいる部屋のドアを無遠慮に開ける音がする、母の帰宅だ。
「シンちゃんただいま〜」
シンちゃんって呼ぶな。もう高校生だぞ。
まあ仕方ない、直す気がないやつになにを言っても無駄だ。
デリカシーもプライバシーも知らないコイツは母。上機嫌で人当たりがよさそうに見えるが、いつどんな理由で爆発するかわからないタイプの爆弾だ。
中学一年だか二年だったかな、その頃なんて俺のテストの成績が期待より低かっただけで勝手に俺の布団に突っ伏して泣き散らしていた。
昔知り合いが言っていた「親との関わりは理不尽爆弾処理」という言葉を体現した存在と言ってもいいだろう。その言葉を聞いた時は思わず頷いたものだ。
「おかえり、それじゃあ俺は用事があるから」
「気をつけてね〜」
気をつけてね。と言われたので玄関の扉を閉めて、ある程度家を離れてから独りごちる。
「高校二年生ってそんなに信用ならないかな?」
さて、しばらく外をさまようとしますか。
……ん?
うわ、またやられた……
ポケットに入れたデッキケースから感じる霊力。
急いで原因のカードを取り出し、両手で掴んで力を込める。
まずいな、素手で破れない。どうやらちょっとだけ霊力が強い精霊さんみたいだ。仕方ない、その辺でハサミでも買うか……
そんなわけでバイト先とは違う、最寄りのコンビニにやってきて文房具のあたりを物色する。
参ったな……このコンビニ、ハサミ品切れだ。仕方ない、カッターナイフでいいか。
いや待て。購入したはいいものの、カッターナイフってどこで使えばいいんだ?ショッピングモールの机とかで使ったら警備員さんに捕まりそうだぞ。
机か椅子があってなるべく人が少なくて、かつなにかしててもあんまり怪しまれない場所……公園だな。公園に行こう。
そんなわけで公園にきて、ベンチで急いで精霊カード予備軍の処理をしようとしていたわけだが……
「おにーちゃん大会でみたことある!なにやってるのー?」
後からやってきたちびっ子がこっちを見るなり駆け寄ってきたのだ。どうにも俺を大会で見たことがあるらしい。それ覚えてるってすごくない?最後に大会に出たの二年くらい前だよ?
だれもいないからって公園でやるんじゃなかったなぁ。急ぎすぎた。いやまあ他に場所なかったんだけどさ。
いや、これむしろちょうどいいか?仕方ない、友達の姿が見えないということはもうすぐこの子に置いて行かれた親御さんが来るはずだ。多分。
急いでカッターナイフをビニール袋にしまい、精霊カード予備軍を差し出す。
「このカードあげるよ」
「ほんとー?やったー!」
「その代わり、俺のことはナイショだよ」
「うん!わかった!」
口止め料を兼ねてそのカードをちびっ子にあげて足早に立ち去ると、入れ替わるように赤子を抱いた女の人が早歩きで公園に向かっているのが見えた。なんとか間に合ったか……
で、結局のところ暗くなるまで外をさまようことには変わりないわけだが、このカッターナイフ邪魔だな……ビニール袋に入れてあるとはいえずっと持ち歩くのは怪しいし、開封しちゃったからポケットに突っ込むのも少し気が引ける。
刃の方を上にして入れてもなにかの間違いで服とか肌とか切らないか心配になる。
……いや、パッケージに戻せばいいのか。まだ捨ててないし。
「……あら?奇遇ね」
「げ」
思わず声が出てしまう。知り合いと会うのは仕事中だけにしてほしいなぁなんて思いつつ声がした方を振り返ると、そこにはやはりいつもの
「失礼な反応ね……ん?」
え、なに?なんか視線が手の方に……あ。
黒崎さんの視線の先にあったもの、それはビニール袋に入ったカッターナイフだった。ご丁寧に開封してパッケージから取り出してあるカッターナイフだ。
「アナタ……なんで開封済みのカッターなんて持ち歩いて……まさか」
やべ、通報とかされないよね?なんて思ってたら黒崎さんは俺の両肩に手を置き、焦り丸出しの顔で語りかけてきた。顔が近いからやめて。
「シンイチ、悩みがあるなら言いなさいよ?どんなことでもいいから。なんでも聞いてあげるからね?」
やばい、なんか想像と違う勘違いをされている。というかそれ黒崎さんの方が言われてそうなんだけど……
なんて思ってたら黒崎さんは肩から手を離し、今度は俺の服の袖を片方ずつ
「まだリスカはしてないわね。いい?本当になんでも話していいからね?アタシにできる事なら力になるから」
ごめんよ黒崎さん……誤解なんだ…………ッ!
「もし家出とかするんだったらアタシの家に来ていいからね?アタシ、プロになってもう自分で稼いで一人暮らししてるから。アタシの家族がいる気まずさとかないから大丈夫よ?」
黒崎さん優しい!すっげえ優しい!けど誤解!!めっっっっっちゃ誤解!!!
あとプロになってたら余計家に転がり込んだりできないからね!?特大のスキャンダル握られるからね!?!?
このあとめちゃくちゃ説明した。